第一話 「出張」
著/マコ
原作「Eternal Winds」/Ryuka

 

ある日の夕方、社長室にヒロキ、ライサー、イズキの三人のエースパイロットが集まっていた。

「社長、僕たち三人を呼んでどうしました?」

「日頃、君たちは我社のエースパイロットとして活躍している。おとといも仕事をこなし、この一週間ろくに休んでないだろうから、ここはひとつ…」

共和国軍元軍人のゴルザ=ラピレスは懐から封筒をヒロキに手渡した。

「これは?」

「あけてみれば分かる」

「失礼します」

ヒロキは指を震わせながら、封を解く。ライサー、イズキはヒロキの背後につめ寄る。中身はチケット数種類3組と、ホエールキング搭乗券が入っていた。

「これって、サランリゾートホテル、宿泊券よ」

「サランリゾートって?」

鼓舞するイズキにライサーが問う。

「訪れたい東方大陸ランキングベスト3に毎年ランクインするサランってリゾート地の、最高級ホテルよ」

「本当か!? そんなところに行けるのか?」

理解してなかったライサーも思わず声を上げる。ヒロキは未だチケットを見ていた。

「もちろん、君たちにはホエールキングで輸送してもらえるから“数日”とは言え、楽しんでもらいたい」

「社長、数日どころか、2泊3日じゃないんですか?」

「あー、それは…」

ゴルザが顔をかきながら語尾を汚す。

「それは片道しか搭乗券が取れなかったんですよね、社長?」

ヒロキの言葉に、社長は

「ああ、そうだ。よくわかったな、ヒロキ。そう、帰りはサランから帰ってきてほしい。それで、この封筒を明日から4日後にペグー村に到着して、村長に渡してほしい。1週間“自由に”するから」

ゴルザから黒い封筒が渡され、そちらも受け取るヒロキ。

「バカンスはあくまでこの配達業も兼ねているのですね」

「それを言うんじゃない、ライサー。それじゃ、三人で行ってきますね」

「出発は明日だ。今日は荷づくりでもしてくれ」

「「「了解」」」

ヒロキは後ろにいた二人に一組ずつチケットを渡す。チケットを渡されたライサーはホテル宿泊券を見つめた後、ヒロキ、イズキを見た。

「ヒロキとイズキ。先に帰ってくれ」

「んじゃ、先に帰るよ」

「ああ」

二人を見送って、ため息をついて、社長室に戻った。

「どうした、ライサー?」

ライサーは急にお腹を押さえた。

「いたたたた。急にお腹が・・・。これは困った。俺は旅行に行けないな〜、ユートシティで休暇は過ごすか〜」

 とその場にいる誰の耳にも届きそうなくらい声をあげた。

「ライサー君。そんなにお腹が痛いのかね? これを飲むといい」

ゴルザは上着の胸の内ポケットから小瓶を出した。「正●丸」と書かれた腹薬だった。

「いや〜、俺って薬ダメですからね〜」

「ライサー君、好き嫌いはいけないね。私が飲ませてあげよう」

ゴルザが立ち上がってライサーの前でしゃがむ。

「まさか、イズキとヒロキの二人きりにさせようと思ってないよねぇ?」

「アハハハハ、まさか、それはないでしょう。腹痛も治ったので」

ライサーが苦笑いをこぼす。

「それは良かった。もう少しで、君にこれもプレゼントするところだったよ」

胸ポケットから一枚の紙が見えた。“辞任届”という字が見え、彼の顔が真っ青になる。

「失礼します、社長」

ゴルザの胸ポケットからいろいろなものが出てくるから、「実はドラ●もんでは?」とつぶやきながら、外に出た。

 

翌日、

「楽しんで来いよ」

「「「はい」」」

彼ら三人はゴルザに送られ、それぞれの愛機をホエールキングに乗せる。

「悪かったな…。2泊しかとれなくて・・・。あと、“一週間自由にしろ”って意味わかっているだろうな…」

 

 

「ずいぶんやつれてるな、ライサー」

「ああ。ちょっと、あってね・・・」

ライサーはシートに身を深く委ねた。そして、目をつむる。

「何していたんだろーね」

「さあね」

ヒロキは手にしていた雑誌を前のシートのポケットに差した。雑誌の裏表紙にはローダが「一緒にフェンシング(剣術)やらないかい?」という謳い文句だった。彼はこういうモデルも請け負っているらしい。ヒロキの隣に座っていたイズキは写っている彼を見つけた。

「ねえ、ローダ写ってるじゃない。ホント色んな仕事するんだね」

「へえ、さすが師匠。良い写りだ」

ヒロキが雑誌をまじまじと見つめ、首を縦に振る。そんな彼を見て、(あたしはヒロキの方がよっぽど良い男だけど)と彼の耳には届かない程度につぶやいた。

「なあ、イズキ」

「どしたの?」

ヒロキの突然な言葉にイズキは驚く。「もしかして聞いていた?」と思った。イズキの顔が紅潮する。

「この雑誌もってっていいかな?」

「…。ご自由に。フリーペーパーってやつだし」

イズキは複雑な顔をし、大きく溜息をついた。

「よし、もらっちゃお」

はしゃいでいる彼を見るといつもどおりで先ほどの緊張がとけた。

イズキは窓のほうへ首を向けた。ロードゲイルタイプのゾイドが視界に入った。

どうやら、ホエールキングを護衛しているようだ。

「サモン=ストロングス社製だったかな?」

イズキが呟いた。巨大メーカーの一つで、一般のゾイドをさらに強化した形で販売している会社。

ハルド=サモン氏が一世一代で築きあげ、独特のコンセプトで作り上げられた機体がニーズに合っており、

新作機が出るたびにマスコミから注目されているとか。

 ストロングス社製のゾイドが反対側の窓にも映っていた。ドラゴン型の「ルナトーラ」。

その効果は上空や寒冷地だけと限定されるが最強の防御力を誇る飛行ゾイド。深海の水圧に耐えるシンカー、ハンマーヘッドよりも強固になっている。このふざけた発想が良いみたいだ。

 今、視界に入っているロードゲイルも結局はその会社の物。自分の企業のライバル社のひとつであるが、残念ながら規模が違う。

「うちも、ユートシティでは有名なんだけどな…」

イズキはため息をついた。「規模がどうしたのだ。大切なのはこれから先を見通すこと」と呟いて、イズキは顔をあげる。自分らしくなさに苦笑いした。

「えっ!?」

イズキの目の前にある小型スクリーンのチャンネルが急に変わった。

『さぁさぁ、みなさま、お待ちかねの時間になりましたー。当セア・エアーラインはストロングス社の提供を受けて航行しております。今からお客様にくじをひいていただきます。一等には豪華旅行チケット、ゾイドの提供も行っておりますので、ぜひ参加して下さい。ただし、まれに出る、大はずれの時は注意してくださいませ』

放送を聞いてまわりは騒ぎ出す。

 

「げ、何もなかったー」

「僕も・・・」

ライサー、ヒロキともに、はずれた。

「なに、この会社。どーせ、あたりなんかしないわよ」

イズキもタッチパネルに触れ、くじを引く。二人と違い、白ではなく、赤色だった。

「え、嘘。色が違うじゃん」

イズキが鼓舞したが、隣にいる、ヒロキ、ライサーは赤に対して蒼白な顔をしていた。

 

「噂の大はずれだよ」

「え・・・。そんな―」

 

『おっと、お客様にレッドカードを出した方がおられますね?では、今から別機のデュエルホエールにて生試合をして頂きたいと思います。チャンネルはこのままにて放送されます』

イズキの席に二人の添乗員がやってきた。

「お客様、ご同行をお願いします」

「・・・、いいわよ」

「イズキ、いいの?」

ヒロキの質問にイズキは

「大丈夫だって、余裕、余裕」

満面の笑みをみせ、ヒロキを安心させる。

「よろしければ、彼氏様も参加されますか?」

「か、彼氏じゃない!! 」

イズキが声を荒げて否定するが、周囲の視線を受け、顔を紅潮させたまま、俯く。

「うん、僕も行く。せっかく、師匠に特訓受けたんだから、今ならいける」

「それではどうぞ」

 

「あれは、ヒロキと、イズキ? もしそうなら、ここの対戦は特殊だと聞いている…。 無事に終われば良いが…」

一人のサングラスをした青年がイズキ、ヒロキの後ろ姿を見て呟いた。

 

 

 

デュエルホエールに乗り込んだふたりは息をのんだ。岩のような自然な障害物が何もない、ただのスタジアムだった。だが、カメラがいくつもあり、残骸が至る所に転がっていた。全部ブロックスのものだ。レオストライカーのものが多い。

「レオストライカーに乗るのね。相手は何かしら?」

「さぁ? 気をつけた方がいいよ。」

イズキは格闘重視のレオストライカーアルティメットモードで、ヒロキは火器重視のレオストライカーガンナーモードで出撃した。

 

向こう側のシャッターが開く。しかし、青い空しかその奥にはなかった。

「え、光学迷彩?」

「・・・・厄介だね…」

だが、イズキの予想は裏切られた。

 

『皆様、お待たせしましたー。当セア・エアーライン屈指のボディーガードを次々と打倒した、クルシア=エインの登場です』

会場に入ったのはブルーのマトリクスドラゴンだった。

「サイズから考えてきついでしょ・・・」

「うん・・・」

イズキとヒロキの意見が合致する。

 

「あら? レオストライカー二機なの? これでいくわ」

マトリクスドラゴンが一瞬、輝いた。そして、目の前にいたのは青色のレオブレイズとそれが抜けた残りのマトリクスドラゴンが立っていた。

「レオブレイズで十分よ。かかってきなさい」

クルシアの言葉にイズキは、

「ちょっと、いくらなんでも、手加減しすぎよ。 こうなったらコテンパンにするよ」

「うん・・・」

 

『それでは、準備が整ったようなので、試合開始』

ゴングが鳴った。

「エースパイロットをなめないでよね」

レオストライカーが駆けた。

「イズキ、何も考えないで行くのは…」

ヒロキの制止を無視してレオブレイズに駆け寄り、右前足をあげ、爪をたたきこむ

「ザンスマッシャー」

“さっきから動かないレオブレイズ”にめりこむ。

 

「嘘。レオブレイズがストライカーの攻撃を受け止めるなんて…」

こともなく、右前足のスネにレオブレイズの爪が突き刺さっていた。

「例え、出力がレオブレイズより上でも、フレームの構造上、力がかかりにくいところがある。そこに多少の力を加えれば、相手の攻撃を避けることもできるよ」

スクリーンには紫の髪の女性、クルシアの笑顔が映っていた。

「今、助けるよ」

ビームが向かってきたので、それをレオブレイズはかわす。

 

「…、クルシアか。あの潰し屋がどうして…。厄介にもほどがあるぞ…」

スクリーンに映されたクルシアの顔を見、ヒロキとイズキのレオストライカーをみて、不安を隠せていないサングラスの青年が呟いた。

 

後退するレオストライカーを追うレオブレイズ。

「イズキ、今離すから待ってて」

ヒロキ機からミサイルが複数放たれる。レオブレイズは立ち止まらず、イズキ機を追う。

「嘘。蛇行せずに直進しながらよけるって…」

フルバーストの反動を防ぐために低姿勢になっていたヒロキ機は反応が遅れ、

「まずはいただき」

レオブレイズに横から殴られ、火花が散る。

「隙は大きいけれど、落下速度も加えれば、重い一撃を与える。さっきのミサイルをよけたのも不思議がっているようだが。ブーストの加速&減速をすることでミサイルの着弾地点からずらしただけのこと」

 

「う、損傷率4割だけど、駆動系に異状あり…、狙われたか…」

ヒロキが計器をみて、二人でクルシアに勝つのは難しいと悟った。レオブレイズがヒロキ機に再び飛び込む、ヒロキ機は構え、イズキ機はヒロキ機へ向け走るが間に合わない。

「ヒロキ、よけて」

 

火花が散った。斬られたゾイドの足が床に突き刺さった。それがウネンラギア、モサスレッジ、ナイトワイズの真正面に刺さっていた。

ヒロキ機の前にいたのはレオブレイズ。一般カラーの赤色。

「俺もエースパイロットだ。ヒロキのピンチな時ぐらい、助けてやるよ」

「「ライサー」」

「遅くて悪かったな。係員と軽くもみ合って時間がかかった」

ライサーが軽く鼻を掻く。彼を見たとき、勝利が近付いた気がした。

 

『おっと、ここで新たな挑戦者の登場です。クルシアはどうするでしょうか?』

実況までもが、彼の突然の登場が演出だと思い込んでいる

「やってくれるじゃない・・・」

クルシアには全くの不安を感じさせない笑みに、3人は驚いた。

クルシア機は、ライサー機に向かって走り出した。

「足が一本ないのにこの俺と勝負するのか? いい度胸だ」

ライサー機も駆ける。ヒロキ・イズキ機はともに砲撃して、牽制する。さすがに一本足がないことで、蛇行しながら、徐々にライサー機と間合いを詰める。

二機が飛びかかる。パワー、勢いが互いの力を殺し合い、その場で組み合った。両足あるライサー機は片方の足を振り下ろすがクルシア機に口で受け止められる。

「今こそ、隙あり」

そこに見計らってイズキ機は接近する。接近に気付いたクルシアはライサー機を力づくで投げ飛ばす、そして、残骸の山に自ら飛び込んだ。残骸の山の向こうは、未だ開きっぱなしのシャッターがあるだけ。

「いまのかみつきで、片足が半分ほどいかれたな」

ライサーが舌打ちした。

 

「あいつの本来のバトルスタイルでいくつもりか。 戦場を一人で血祭りにするスタイルで…」

サングラスの青年は呟いた。

 

「さっさと始末する」

イズキ機が残骸の山に飛び込む。山に着地した、次の瞬間にはレオブレイズの爪が急に出てきて、イズキ機をこすった。

「下がれ。そこにいると、勘付かれる」

イズキ機は離れた。

 

「ライサー、フルバーストで残骸をふっ飛ばすよ」

「いや、ヒロキ。それは逆に危ない。ふっ飛んでいる残骸に交じってレオブレイズが飛び込んでくるかもしれないから、それも良くない。地道に弱い火器で崩していこう」

ライサーの言葉でニ機のレオストライカーが少しずつ砲撃を始める。そして、残骸が少しずつ崩れていく。

突如、残骸が中から爆発し、崩れ、水色のレオブレイズが姿を現した。ライサー機に突撃するが、それを、かわし、尾のブレードでゾイドコアを貫いた。それで、レオブレイズは床にたたきつけられ、動かなくなった。

「楽勝だな」

ライサーがポーズを決めた。

 

『おっと、これにて終了―。あの、クルシアがついに負けたか!!

今回の内容はすぐにインターネット上にアップされますので有料ですが、ご購入をお願いします。以上で、本日のスペシャルバトルを終わります』

 

「やったね、ライサー」

「やるじゃん」

「俺のおかげで勝てたから、感謝しろよ」

ライサーが胸を張った。

 

(ただ、気になるな…。途中から3機のブロックスが急に消えたし、それに、残骸から出てきたレオブレイズもどこか動きが変だった気がするけど…)

イズキが2対の足がある水色のレオブレイズを見たが、解決しなかった。三機、三人はホエールキングの客室へと戻る。客室に戻った時、搭乗者から拍手喝采を受けたのは言うまでもない。

 

 

 

「やった、ついにサランに着いたのね」

「よっしゃ、さっき頑張った分、遊ぶぞ」

「うん、そうしよう」

三人は空港から、ホテルへと向かって走った。

 

 

 

誰もいないはずのデュエルホエールに一機のゾイドと、サングラスをかけた青年が立っていた。

「…。このレオブレイズはすでにクルシアが不在だったのだな。むしろ、残骸に交じったときに入れ替わったのか…。このレオブレイズに人が乗っていた形跡はなさそうだ…」

青年が溜息をついた。

「どちらにしても、俺がクルシアを探さないといけないな…。依頼をこなすぞ、相棒」

サングラスを外し、愛機の赤いキャノピーのコマンドウルフACを仰ぐ。

 

 

 

「せっかくの対戦中に“逃げろ”なんて、私のプライドに傷がつきますが」

マトリクスドラゴンがサランの工場に立っていた。そのコクピットにいるのは紫のストレートの女性。

「クルシア、悪かった。だが、新型が盗まれたんだ。今すぐ捜索を頼む」

「ストロングス社の依頼ですから破棄はしないですけど…。ところで、その新型は壊してもいいの?」

クルシアが一層強い笑みを浮かべた。

「―いいだろう。ただし原形を残さず、徹底的にやることだ」

「わかりました。明日までには終わらせます。―潰し屋の名に懸けて」

 

次回に続く

 

補足…潰し屋 賞金稼ぎと同様に依頼を引き受けることが多い職業。賞金稼ぎよりも非合法な値段を要求したり、犯罪組織と繋がりがあったり、過去に戦場で虐殺したり、依頼を完全無欠ではあるが手段を選ばずにこなすもの等、良い意味で使われていない。賞金稼ぎとは別口扱いされ、治安局に追われたり、お尋ね者になっているものもいる。