第二話 「角と角」
著/マコ
原作「Eternal Winds」/Ryuka

 

「あたしがこれ、着るの?」

「お前以外に着るやつがいないだろ」

ライサーがイズキの顔をのぞく。イズキが指さすものは赤いビキニ。

「僕たちは着るわけにいかないからね」

ヒロキがライサーの顔を見合わせる。

 

サランのホテルのレンタル水着で彼女は迷っていた。安めでイズキ好みのものは、この赤いビキニで、彼女の趣味に合うのだが、露出が大きく、彼女は躊躇していた。

「お前それでヒロキと二人きりで、海岸ではしゃいでこいよ」

「でも、恥ずかしいって」

「じゃあ、お前がかわいいこの水着着ないと、ヒロキが他の女に目が奪われるぞ」

「う、それは・・・」

ライサーの言葉にイズキが考える。確かに、ヒロキは隣にいるライサーよりは女好きでないにしろ、このリゾート地にいるきれいな女性に目が行くかもしれない。なにせ、彼の周りにいる女と言えば、新入りのアルトや、ローダと同行するユキエ、フェイラ。とイズキ自身と比べ女の子らしい子に囲まれている。今、ヒロキはいろんなタイプの女性と触れ合い、関心を持っている。すると、自然にここの土地にいる女性にも関心を持つのは当たり前。ならば、何としても他の女に関心持たれる前に、イズキ自身へ関心を向けるようにしなくちゃいけないのも当然だった。

 「わかったよ。きるよ」

イズキは赤いビキニを借りることにした。ライサーが指を鳴らした。

 

 

 「―なぁ、さっきお前が借りた水着は赤だったよな?」

 「うん―」

 「どうして、今青いの着ているんだ」

ライサーがイズキの姿を見てうなだれていた。今、彼女の着用している水着は先ほどの赤色よりも露出が控え目であった。

「私がイズキさんから借りたんです」

イズキの後ろから新入りのアルトが来た。しかも、その先ほどの赤い水着で。

「さっき、たまたまサランでの仕事帰りのアルトと更衣室で会ったんだよね。それで、アルトがどうしてもそれ着たいって言うから…」

「すみません、こういうの一度だけ着たかったんです」

アルトが肩をすくませる。

「すごいな、パーフェクトだ」

ライサーが声をあげた。それもそのはず。アルトとイズキは、顔は二人ともかわいい。だが、プロポーションを含めるとアルトは出るとこは出て、ひっこむべきところは引っ込んでいる。比べて、イズキはアルトほど、プロポーションが顕著でないため(女の子らしく見える)スカートをはかないという時もあるほどだった。

 

「まぁいいや。おれはアルトと遊ぶから、せいぜい楽しんで来い」

「あら?イズキちゃんはヒロキ君とデートですか?」

アルトはライサーに手を取られながらも、

「いや、デートじゃないし。とりあえず、ヒロキと遊んで来ます」

イズキは全力否定し、挙動不審に変な方向へ走って行った。

「恋って人を恐ろしくするんですね…」

「アルト、君もいつも以上に発言が変だぞ」

「それじゃ、せっかくですし、遊びに行きましょう。早速、あの飛び込み台に行きましょう」

アルトはライサーの腕を掴んで、走り始めた。

「痛いって。ちゃんと行くから」

ライサーも彼女についていく

 

 

太陽が丁度頭上に位置する昼下がり、午前中泳ぎ切った彼らは、浜辺の商店街にいた。

「ストロングス社のサラン地区工場にて、新型ゾイドの盗難…。スティラコサウルス型で、見かけられた方はすぐに電話をお願いします」

大型スクリーンに映し出されているニュース番組を見ながら、イズキとバーガーショップで昼を食べていた。

「近所の工場なの?」

「そうみたい。警戒はしておいた方が良いと思う」

彼女がテリヤキチキンライスバーガーを小さな口で食べているのにヒロキは疑問に思いながら、

「まったく、変わらないのね。どこに行っても治安は」

「そうね…って、」

ヒロキは目の前のイズキが急に笑い出した。

「何があったの?」

イズキがヒロキの口を指す。その意図を掴み、彼は口に手を当て、掌を見ると、真っ赤に染まっていた。どうやら、ケチャップだ。一口でハンバーガーを食べたことを後悔する。そして、イズキがどうして小さな口で食べていたかを悟る。自分の注意力のなさに赤面してしまう。対するイズキは未だ笑い続けており、周りからの視線を受け、さらにヒロキはケチャップを落としても、それ以上に顔が赤くなる。

 

その頃、ライサーは追われていた…。モサスレッジの相手はディプロガンズ。それに乗るのはアルト。模擬試合用ゾイドで二人は戦っていたが、アルトの実力にライサーは苦戦していた。

接近戦を得意とする彼が選んだのはモサスレッジ。彼女が選んだのは、中〜長距離を得意とするディプロガンズ…正直、相性が悪かった。

「カノンダイバーで来ると思ったからなぁ…」

ライサーが愚痴るが、状況は変わらない。もともと、モサスレッジは水中では向こうよりも有利だが、相手の後ろをとれると思ったら、ディプロガンズが空中へ逃げる。空中戦は向こうの方が有利で、追うと逆に危ないことが分かっているから、思うように動けない。

「私の水着姿しかみてないからじゃないですか? 私が『機動力のことを考慮してる』 って思わなかったんですか?」

「う…確かに…」

ライサーはアルトの言葉に肯定せざるを得なかった。しかし、彼女の意見にも一部誤りがあった。「水着姿も見ていたが、胸の部分も…」と言おうと考えたが、状況が状況だから、発言を止める。

「いつまでも時間かけられないな」

追われるライサー機はさらに加速する。

「そうですね。私も本気で」

アルト機も加速する。

「仕掛けるぞ」

魚雷艦を後方に放つ小魚のような小さな魚雷がアルト機を狙う。

アルト機のヘッドが光だし、次の瞬間、ヘッドカッターが飛び出す。魚雷を切り刻んで爆発する。煙幕となり、アルト機は減速する。弾幕の中から突如大きな口が襲う。

「とどめだ」

バイトファングがアルト機を襲う。

 

「ウソだろ?」

ライサーは驚愕した。ディプロガンズの前足が口を押さえこんでいた。

「…ワニの口って閉じる力って案外ないのです。だから、引きちぎることでかたい物を食べます。」

「この近距離じゃ、レールガンも使えないだろ? どうするんだ?」

ライサー機がテイルソーでアルト機を狙う

「近距離戦闘は苦手ですが、遠距離格闘は得意ですよ? チェックメイト」

ライサー機に先ほど放ったディプロガンズのヘッドカッターが刺さった。そこにブザーがなり、戦闘終了が告げられる

 

「ライサーさんに勝つなら、意表つかないといけませんからね。カノンダイバーじゃ、無理でした。それにライサーさんなら、カノンダイバーを選ぶと思いましたから」

「堅い装甲を生かし、砲撃出来る機体。確かに、俺らしいな」

「あ、そうそう、負けたライサーさんがおごってくださいね」

会計の男がニヤニヤとライサーの方を見ている。

「わかったよ…」

「さ、次は水上バイクでレースしましょ!!」

「まだするの…」

財布の中身を再確認したライサーは深く息をつく。

「私とデート…、おわりなの?」

「いえ、そんなわけないです」

アルトの視線でライサーの顔は赤くなる

「じゃぁ、次行きましょう^^」

ライサーはアルトに引っ張られたが、彼女に勝れなかった。その後も水上バイクやクルージング、ハングライダー、バイキング、水上アスレチック…どれも彼女の方が優れていた。

 

夕日が海に反射していたころ、ブレイジングウルフSAが海岸線を走る。

「せっかく来たんだから、散歩もしないとね」

愛機は甲高く吠える。ヒロキはさらに加速させる。

「そう言って、本当は盗難ゾイド探し…でしょ?」

「イズキには敵わないな」

「…、何年一緒にいるのよ」

「それもそっか…」

ヒロキは茜色の空を仰ぐ。その上空に、茜色を反転した色のディメトロプテラが飛んでいた。

 

「お宝探しに今日も掘るで〜♪ ヘイ♪ ヘイ♪」

やや音程の外れた歌が響き渡る。

「ライモス、そのまま掘り続けて。ソナーに反応がある方向に」

ソナーを見つめながらライモスを運転するシグ。探索がメインの相方のサクノが現在、歌っていて現在、あの有様。結局真面目なシグが苦労する。削岩ドリルで掘り続け、ついに目の前の金塊に鼻先が到達する。

「よし、久々のお宝だよ」

シグがガッツポーズする

「シグ、そのままいってら〜」

「それは渡さない」

ライモスの下から巨大な角で割りながら、同サイズのゾイドが現れた。ヘビーライモスは穴から投げ出された。そのライモスへ追撃をするべく、穴から自ら地上へと飛び出すゾイド。

スティルアーマー種のゾイドだが、明らかに見た目が違った。

「新型?」

シグが相手ゾイドを見やる。

「あれは盗難機? ルナサベイジじゃない?」

「どないしたん? シグにしたら珍しく弱気やな」

さっきまで歌っていたサクノのまともな意見にシグは横目にして、

「この新型が同じ系列である以上、新型の方が優位立てる。機体能力もベールに包まれている以上・・・」

「つまり、どうなん?」

「正直、勝てる相手じゃない―」

シグは不敵に笑いつつも、突撃した。

「ほな、どうして戦うの?」

「宝を前にして、敵前逃亡とか、トレジャーハンターとしてどうよ? それに―、勝てないだけで、負けるとは宣言していない―」

「シグって戦うの苦手なのに、よう頑張るねー」

「作戦があるからね。突撃するから、シートベルトしてね」

ライモスはドリルを更に回転させる。ルナサベイジが退がる。

「へー、新型にも対抗できるんや!!」

サクノが感嘆を上げる

Dr.クロノスに出力上げてもらったんだよ。それに、このままお宝の前で退がりたくないからね」

シグの言葉に珍しく力がこもってた。

「で、どないするんや?」

「サクノちゃん、お宝を取りに行ってね。時間稼ぐから…」

「へ?」

サクノが間抜けな声をあげる。ライモスの背中の装甲が開き。ビーグルが飛び出す。ルナサベイジがライモスに負けじと押し出す。

「馬力じゃ足りなかったかな…」

シグが呟き、ライモスがルナサベイジの足をひっかけ、バランスを乱す。その隙にサベイジの顔の下にドリルを突き立て、回転させる。ルナサベイジが叫んだ。

「どう? 傭兵の町にいるから、少しはできるでしょ?」

シグがやや調子に乗る。

 

「ほほう…。それが貴様の本気なのか? おれも、そろそろ本気を出すか…」

相手の通信の後、サベイジはライモスの顔をかじりつき、そのまま、シグ機を持ちあげた。

「嘘!?」

そして、地面にたたきつけた。突進を狙うが、長大な尾にシグ機は横倒しになる。

「さっさと返してもらおうか」

ルナサベイジがサクノのビーグルを睨みつける。いや、正確に言うと、ビーグルの電磁ネットの下にある金塊だろう。

「返さないと、こいつのコクピットを踏みつぶすぞ」

ルナサベイジの足元にはシグ機が、コクピットのある顔の部分だ。

「そげなこと言われても…。 わかったよ。渡すわ」

電磁ネットから金塊を落とす。

「落とさなくていいよ、サクノちゃん」

金塊をキャッチするブレイジングウルフSA

「ま、そゆこと」

ルナサベイジを突き飛ばす、クイックサイクス。

「ちっ、まぁいい。 これで楽しめそうだ」

ルナサベイジのパイロットが呟く

 

 

「…目標発見…。どうしようかしら? いっそのこと、全滅させるのもいいけど…」

崖からマトリクスドラゴンが戦いを俯瞰していた。

「見つけたぞ、クルシア…」

「その声は、ローダ!? 3年ぶりね。今の依頼が終わったら、私とデートでもどう?」

マトリクスドラゴンがコマンドウルフACの方に振り向く

「悪いが、性格が合わないだろ?」

「あら、年上のお姉さんのお誘いに乗ってくれないのね」

クルシアがため息をつく。

「…、無駄話はここまでにして、そろそろ3年前の話をしてもらおうか?」

「3年前? あなたが“最強の傭兵”と呼ばれ始めたきっかけの?」

「わかってるなら話は早い。さっさと教えてもらおうか?」

ローダがモニター越しに彼女を睨む。

「『断る』と言ったら?」

「…力づくだ。」

コマンドウルフACが飛びかかる。それを屈んでウルフの腹部にヘディングする。地面にたたきつけられ呻きをあげるローダ機。

「あなたらしくないわね。そこまで感情的になると…」

クルシアが分離ボタンを押す。レオブレイズ、ウネンラギア、モサスレッジ、ナイトワイズの4機に分離した。「ここまで感情的なローダは今まで見たことがない…。 これは『副作用』を作用させたら、当てはまるか…」

クルシアが呟きながら、ローダ機に飛びかかる。ウルフは簡単にかわし、ストライククローの反撃を行うがクルシア機はかわし、ローダ機を飛び越え、クルシア機に他の3機が寄り添い、マトリクスドラゴンにユニゾンし、

「また逢いましょう。アデュー」

そのまま飛び去る。

 

「気になるのは、あのディメトロプテラね。 今回は見逃してあげるけど…」

上空にいるディメトロプテラを無視し、ルナサベイジ、ブレイジングウルフ、クイックサイクスのいる方へ機首を向ける。