Side Story 3 未来からの来訪者・B Part | 著/Ryuka |
そして、ようやく時空のゆがみがあると思われる洞窟へと辿り着いた6人、するとサクノ、シグ、アオイの3人は何かを思い出す感じでこう言った。
「あれ、ここって・・・?」
「ウチとシグがアオイと出会った洞窟やないかい」
「あたし、この洞窟で倒れていて、その後にサクノさんとシグさんに会いました」
どうやらこの洞窟は、アオイが倒れていた洞窟と同じ場所だったのだ。
「という事は・・・、この洞窟の何処かに時空のゆがみがある事は間違いなさそうだね」
ヒロキ達は洞窟の中を進んでいく内に、イズキが何かを発見する。
「ちょっとみんな、あれ見てよ、あの先から妙な光を発してない?」
イズキのバルトサイクスが向いてる方向の先に青白い光を放っている。洞窟の中にしてはあまりにも不自然な光であった。
「確かにそうだねぇ」
「もしかしてあの先にあるんじゃ・・・」
「ヒロキはん、どうするん?」
サクノはヒロキに光を放っている場所へと向かうのかを聞く。
「うん、もちろんあの先に行くよ。だって洞窟の中で光を放っているなんていかにも怪しい感じがするからね」
ニコリとした表情で答えるヒロキ。そんな様子を見てサクノは
「まぁ、ヒロキはんならそう言うと思っとったからなぁ、それじゃ決まりや!」
「アオイちゃんは行っても大丈夫?」
「はいっ!あの光の先で元の時代に帰れることの出来るのかもしれない、だからあたしも行きます!」
アオイも元の時代に帰れる手掛かりなのだと思い、行く気満々の様子だ。
「それじゃあ行くでぇーっ!あの光の先に!!」
「それ僕の役目なんだけどなぁ・・・」
何故かサクノが光が放つ方向に向けて指を指し、掛け声を上げる。それを見たヒロキは思わず苦笑いを浮かべていた。
それはともかく、ヒロキ達は光が放っている先へと向かって行った。
光が放つ場所へとやって来たヒロキ達が見たものは・・・
「何?あの渦みたいなの?」
「あの渦みたいのがDr.クロノスの言っていた時空のゆがみらしきものなのかな?」
「それ以外に考えられるものがないよな」
ヒロキとイズキは、恐らく目の前にある渦が時空のゆがみなのだろうと思った。
「という事は、あの渦の中に入れば元の時代に帰れるんですね!」
ヒロキとイズキの言葉を聞いて、元の時代に帰れると胸を躍らせるアオイ。
「とりあえずあの渦に近付いてみよう」
「そうだね」
そう言ってヒロキ達は渦の近くへと行こうとする。ただフェイラを除いて。
「何故だろう・・・、洞窟に入って来たのはボク達だけのはずなのに、ボク達以外に何かいる気配がする・・・」
フェイラはこの場所へと来るなり、ヒロキ達以外の何者かの気配を感じていた。と、その時フェイラが突然
「待って!みんな急いでこっちへ戻ってきてっ!」
と叫び始めた。
「え!?」
フェイラの突然の叫び声に、先へ進んでいたヒロキ達はフェイラの言う通りにその場から離れた。すると間も無くして光の束がヒロキ達の目の前を横切っていった。
「今のは、荷電粒子砲!?どうしてこんな場所で!?」
「あそこを見てよ、ボク達以外のゾイドがいる。攻撃してきたって事は、間違い無く敵のゾイドだよ」
フェイラの向いてる方向にヒロキ達も顔を向ける。するとフェイラが向いてる方向の奥にゾイドの姿が見える。実はフェイラは、誰よりも早くそのゾイドの存在に気付いていた。
「フェイラちゃんのお陰で助かったよ、フェイラちゃんが気付いて無かったら危うく荷電粒子砲の餌食になってたよ」
「サンキュー、フェイラ」
「フェイラさんのお陰で助かりました」
フェイラの機転によって命拾いしたヒロキ達、しかしフェイラは感謝されているのに関わらず険しい表情を変える事は無かった。
「それよりも、あのゾイドを何とかしないとね」
敵のゾイドはその姿を露わにした。何とその正体はバーサークフューラーであった。
「バーサークフューラーが何でこんな所に!?」
「おい!いきなり理由も無しにあたし達を襲うんだよ!」
バーサークフューラーの方目掛け怒鳴るようにして言うイズキ、しかしバーサークフューラーの方からは何の反応もない。
「このやろぉ!あたしの呼び掛けに無視するなぁ!!」
「落ち着いてイズキちゃん、あのバーサークフューラーは無人、野良ゾイドかなんかだよ。だからいくら呼び掛けても無駄だよ」
バーサークフューラーには人が乗っていない、無人で動いていたのである。
「むぅ〜・・・」
「どうしたのイズキ?」
ふくれっ面をしてるイズキにヒロキが声を掛ける。するとイズキは
「・・・さっきのあたしの行動、何かバカみたいじゃん・・・」
「あらら・・・」
イズキの発言に思わず苦笑いを浮かべるヒロキ。
「みんな、悪いんやけど、ウチらはこの場から離れさせてもらうわ」
「え、どうしてですかサクノさん、シグさん」
サクノとシグが乗るヘビーライモスが戦線離脱することに疑問に思うアオイ。
「僕らは戦闘があまり得意な方じゃないから、いてもみんなの足手まといになるだけだしね」
「そんな事ありませんよ!」
「いいんだよアオイちゃん、あの子達の言う通りにさせてあげて」
「え!?」
必死に説得するアオイを止めに入ったフェイラ。それに合わせてシグとサクノが乗るヘビーライモスはこの場から離れていき、岩壁の奥に身を潜めた。
「フェイラさん!どうして止めるんですか!?ここはみんなで力を合わせて戦った方がいいと思うんです!」
納得のいかない様子のアオイはフェイラに嘆かける。
「みんなで力を合わせた方が良いって言うけど、ゾイド乗りの中には、サクノちゃんやシグくんのように戦闘な苦手な人だっているよね」
「確かにそうですけど・・・」
「だからって戦闘が苦手な人に無理矢理戦闘に参加させて大怪我とかしちゃったら、それこそボクらにとっても大変でしょ」
フェイラは、戦闘が苦手な人に無理矢理戦わせて被害を大きくしない為にも、戦闘が苦手な人には無理に戦わせようとはしない考えであった。
「それとアオイちゃん、戦う覚悟は出来てる?中途半端な気持ちだとボクは一緒に戦う事は薦めないよ」
「勿論分かってます。あたしはちゃんと覚悟出来ています!」
アオイはフェイラに戦う覚悟が出来ていると主張する。
「うん、それ位の覚悟がないとね。でも無理そうに見えたら戦闘から離脱してもらうから」
「はいっ!あたし頑張ります!」
アオイはこの戦いに向け意気込みを入れる。
そしてバーサークフューラーはヒロキ達の方へと向かってくる。
「来るよ、みんな!」
こうして4人のゾイドと1機のバーサークフューラーの戦いが始まった。
まず4人のゾイドはそれぞれ散開し、様々な角度から攻撃を仕掛けるが、バーサークフューラーは攻撃を受ける寸前にEシールドを展開し攻撃を防いだ。
「むぅ、Eシールドで攻撃が防がれた!」
「いや、Eシールドを解除した時が攻撃のチャンスだ」
イズキのバルトサイクスは、その瞬発力を活かし、Eシールドを解除した直後のバーサークフューラーの背後へと回り、そのまま接近して爪を振り下ろそうとする。
「もらったね!」
すると、バーサークフューラーは感ずいたのか、背後から攻撃を仕掛けるバルトサイクスにバスタークローで振り払う。バルトサイクスは振り払ったバスタークローに当たり、吹き飛ばされる。
「くらえっ!」
すかさずブレイジングウルフGDはバーサークフューラーに向け砲撃するが、もう片方のバスタークローを展開し、その際に展開したEシールドで砲撃をガードする。
「またガードされた、それよりも大丈夫イズキ!?」
ヒロキはイズキのバルトサイクスに向けて声を掛ける。
「いったぁ〜・・・、あたしなら大丈夫。無人ゾイドなのに背後からの攻撃が読まれてたなんて・・・」
バルトサイクスはすぐに起き上がった。
「どうやらただの無人ゾイドじゃなさそうだね・・・って、アオイちゃんどうしたの!?」
フェイラがモニターから見えるアオイの異変に気付く。
「うぅ・・・、く、苦しい・・・」
何の前触れもなく突然苦しみだすアオイ。
「どうして急に・・・?ま、まさか・・・!」
フェイラは苦しんでいるアオイを見て、ある事に気が付く。
「アオイちゃんは未来のヒロキくんとイズキちゃんの子供だって言ってたはず、という事は・・・」
すかさずフェイラはヒロキとイズキにアオイの異変とその原因について話す。
「ヒロキくん、イズキちゃん、よく聞いて!さっきアオイちゃんが突然苦しみだしたの」
「苦しみだしたって?」
「アオイちゃんは未来のヒロキくんとイズキちゃんの子供なのは知ってるよね、そのことでなんだけど、ヒロキくんとイズキちゃん、どちらか片方、或いは両方死んでしまう事になったら、アオイちゃんは元の時代においても存在しないことになっちゃう、つまりアオイちゃんは元の時代に帰ること無く消滅することになるんだ!」
フェイラが言っている事、すなわちヒロキとイズキ、どちらか片方、または両方死んでしまったら、アオイは存在意義を失い消滅してしまう事となる。
「そうなると、あたし達もアオイの為に気を付けて戦わなきゃいけないってことになるね」
「そうみたいだね」
ヒロキとイズキもフェイラの話を聞いて納得したようだ。
「アオイちゃんは大丈夫かい?」
「はい、もう大丈夫です」
先程まで苦しんでいたアオイも、すっかり元気を取り戻していた。
「よし、それじゃボクのジェノザウラーの荷電粒子砲をあのバーサークフューラーに向けて発射するから、その間3人はバーサークフューラーの注意を引きつけてほしいの。ただし、さっき言ったように、出来るだけバーサークフューラーの攻撃をかわすようにして、二人はアオイちゃんの為に、アオイちゃんは自分自身の為に!」
「わかったよ、やってみる」
「スピードならあたしのバルトサイクスが負けないんだから!」
「あたしも、みんなの為、あたし自身のために頑張ります!」
「そしたらボクはバーサークフューラーに当てる荷電粒子砲をためるから、3人とも頼んだよ」
そう言うと、フェイラのジェノザウラーは荷電粒子砲発射形態を取り、ジェノザウラーの口内にある方向から光が集まりだした。
一方、ヒロキ、イズキ、アオイの3人は、フェイラのジェノザウラーから気をそらすため、3人の乗る3機のゾイドはバーサークフューラーの前をひたすら動き回り、時々一斉にバーサークフューラーを向け射撃による攻撃を行う、しかしバーサークフューラーのEシールドで防がれ、まともなダメージを与えられない。
「敵の守りが固いなぁ、あたし達の攻撃が全然通ってない!」
「でも僕達の役目は時間稼ぎだから、そう深く気にする事はないよ」
あくまでヒロキ達の役割は、フェイラが攻撃できるまでの時間稼ぎである。
「確かにそうだけどさ、本当ならあたしの得意な接近戦に持ち込みたいとこよ」
と、愚痴をこぼすイズキ。
「イズキさん、それは自殺行為と思います。バーサークフューラーは接近戦が得意なゾイドです。不用意に接近戦に持ち込むのは危険だとあたしは思います!」
「まさかアンタに言われるとはね・・・、アオイの言う通りかもしれない、下手に飛び込んで命投げ出すような真似したくないしね、それとアンタの為にもね」
「イズキさん・・・」
イズキはアオイの言葉に渋々ながらも納得する様子を見せる。
その間ヒロキはというと、バーサークフューラーのバスタークローの突き攻撃をかわしつつ、その間に砲撃を行い少しずつダメージを与えていた。
「くっ!どうやらバーサークフューラーは僕のブレイジングウルフGDが僕達3人のゾイドの中で一番強いと判断してるみたいだね。だから僕を集中的に攻撃して潰そうとしてるに違いない」
バーサークフューラーからの集中攻撃を受けているヒロキのブレイジングウルフGD。バーサークフューラーの猛攻にブレイジングウルフGDは多少傷付いていた。
「でも!僕はここで負ける訳にはいかないっ!」
そう言うと、ブレイジングウルフGDはバーサークフューラーの頭部に目掛け砲撃する。接近していた為か、見事バーサークフューラーの頭部に直撃し、その反動でバーサークフューラーが怯んだ隙に、ブレイジングウルフGDはバーサークフューラーから一旦距離を取る。
「大丈夫ヒロキ!?」
心配そうに声を掛けるイズキ。
「僕は平気だよ、それよりもアオイちゃんは大丈夫!?」
自分の心配をよそにアオイの心配をするヒロキ。
「は、はい・・・、少し苦しいですけど大丈夫です」
アオイは多少苦しそうだったが、特に大きな問題は無さそうだ。
バーサークフューラーは先程と同様にブレイジングウルフGDに攻撃を仕掛けようとするが、その前にある物に気付く。
「マズイ!気付かれたみたいだフェイラちゃん!」
バーサークフューラーが向いている方向には、荷電粒子砲をチャージ中のフェイラのジェノザウラーであった。
「あともうちょっとでチャージが完了するっていう時に・・・!全く、ボクは運が悪いなぁ!」
既にジェノザウラーの口内から光は漏れ出しているが、最大威力に達するまでには少しだけ時間が足りなかった。これに気付いたバーサークフューラーはジェノザウラーの方に向け荷電粒子砲発射形態に入る。フェイラのジェノザウラーよりも早く荷電粒子砲を撃ち出そうとしている。
「荷電粒子砲同士をぶつけて相殺させる気だよ!」
「そんな事させてたまるかっ!」
イズキのバルトサイクスはバーサークフューラーの方へと向かおうとする。
「イズキさん待ってください!」
アオイの言葉に動きを止めるバルトサイクス、するとアオイのコマンドウルフLCのロングレンジライフルから一発だけ砲撃をする。
何とその砲弾は、バーサークフューラーの口内の荷電粒子砲の発射口にヒットし、バーサークフューラーはもがき苦しみだす。
「アンタ、たった一発で正確に当てるとはね・・・」
アオイの正確な射撃能力に思わず感心するイズキ。
「これでバーサークフューラーの荷電粒子砲は使えなくなりました!」
「今だフェイラちゃん!」
「オッケイ!丁度タイミング良くチャージが完了したとこだよ!」
ジェノザウラーの荷電粒子砲のチャージが完了したようである。
「じゃあ、最大威力の荷電粒子砲を食らえーっ!」
ジェノザウラーの口内の発射口から最大威力の荷電粒子砲が放たれる。
「いっけぇー!!」
だがしかし、バーサークフューラーはEシールドを展開し荷電粒子砲を受け止める。
「全くしぶといやつだなぁ・・・、素直に食らってくれればいいのに!」
バーサークフューラーの抵抗に苛立つフェイラ。しかしフェイラはある事に気付く。
「あ、そっか〜、バーサークフューラーのバスタークローを跳ね飛ばしちゃえばいいのか!そうすれば守るものは無くなるはず!」
と、そこでフェイラはヒロキとイズキにこう呼びかける。
「ヒロキくん、フェイラちゃん。今すぐバーサークフューラーの背後に回り込んで、あいつのバスタークローを破壊して!」
「「分かったよ!」」
フェイラの言葉通り、ブレイジングウルフGDとバルトサイクスはバーサークフューラーの背後に回る。しかし、バーサークフューラーは背後に回った2機を察知し、少しずつその場からずれようとするが、アオイはそれを見逃していなかった。
「そうはさせませんよっ!」
アオイのコマンドウルフLCはバーサークフューラーに向けライフルを数発発射する。コマンドウルフLCの砲撃はEシールドに当たるが、その際にバーサークフューラーの注意がコマンドウルフLCへと向けられる。実はアオイはこれを狙っていたのだ。
「ヒロキさん!イズキさん!今ですっ!」
「ありがとうアオイちゃん!」
「最後に隙を見せたな!」
ブレイジングウルフGDとバルトサイクスはXを描く感じで交互にバスタークローをバーサークフューラーから跳ね飛ばした。
すると、ジェノザウラーの荷電粒子砲を受け止めていたEシールドが消滅し、荷電粒子砲はそのままバーサークフューラーへと直撃する。そしてバーサークフューラーはゆっくりと崩れ落ちた。
「やったね!ボク達の勝利だ〜!」
こうしてバーサークフューラーとの戦いは、無事勝利を収めたのである。
* * *
「皆さんが力を合わせたから、倒す事が出来たんですよ」
「そうだね、僕達の連携が上手くいったからだね」
「それにしても今回はフェイラのお陰で勝てたようなもんだしね」
バーサークフューラーを倒すのに貢献したフェイラを褒める一同。
「そんなこと無いよ〜、ボクはボクの考えをみんなに伝えただけだよ〜」
照れ笑いしながら言うフェイラ。いつもの調子のフェイラである。
「ボクよりもアオイちゃんも凄いんじゃないかなぁ〜って、ボクは思うんだけど」
フェイラは、自分よりも活躍していたと思うアオイを褒め始める。
「え!?あ、そ、そんな事無いですよぉ!?」
フェイラの突然の振りに、激しく動揺するアオイ。
「確かにあたしから見てもアオイの射撃能力は凄いと思うよ」
「ちょ、イズキさんまで〜」
イズキもアオイの事を褒め、ますます動揺するアオイ。
「まぁまぁ、みんなが頑張って出来た事なんだから、アオイちゃんもそこまで動揺する必要はないよ」
「ヒロキさん、そ、そうですよね、誰かがとかじゃなくてみんなが頑張ったからですよね!」
ヒロキ達はバーサークフューラーを倒した事で喜び合っていた。するとそこに今まで岩陰に姿を隠していたサクノとシグのヘビーライモスが合流する。
「皆で喜び合うのは結構やけど、そろそろ本題の方に進まへんと」
「そうだったね、いつまでもこんな事してる場合じゃないね」
サクノの一言で、ヒロキ達は本来の目的へと行動を戻す。
ヒロキ達は次元のゆがみの前まで来ると、ヒロキ達はゾイドから降り出す。
「そろそろお別れだね、サクノちゃん」
「あたしにしてみれば、アオイに驚かさせる様な事がいっぱいあったけどね」
「出会ってから短い間だったけど、アオイちゃんと入れてボクは楽しかったよ」
「元の時代に帰っても、元気に過ごしてね」
「・・・ウチとシグがアオイと出会って無かったら、こんな事にはなって無かったかもしれへん。元の時代に帰ってもウチらのこと忘れたらあかんで」
5人はそれぞれアオイにお別れの言葉を告げる。
「皆さん、本当にありがとうございます。皆さんのこと、そしてこの事は決して忘れません!」
アオイは思わず目から涙がこぼれる。それを見たサクノが
「何泣いとるんや、人前で涙を見せるもんやないで」
「そう言うサクノさんも泣いてるじゃないですか」
アオイの言う通り、サクノの目からは涙が出ていた。
「ち、違うで!これはなぁ・・・、そう、心の汗や!」
泣いてる事を必死に否定しようとするサクノ。
「何言ってるんですか、マンガに出てきそうなセリフでごまかさないで下さいよ」
泣きながらも笑顔で言うアオイ。すると突然サクノがアオイに抱きついてきた。
「うわっ!どうしたんですかサクノさん!?」
「もう隠したってしゃあない、ホントの事言うたる!ウチ、アオイと出会って仲良くなれるかと思うた矢先に別れる事がどうしても受け入れられないや!アオイはこの時代の人間じゃないって分かっていても、ウチは今でもアオイともっと一緒におれたらよかったのにと思うてる。だからアオイと別れる事がウチにとってはとても辛いことなんや!」
「サクノちゃん・・・、そう思っていたなんて・・・」
シグがサクノがアオイとの別れが辛いことを初めて知ることとなった。
「サクノさん・・・、あたしも本当ならみんなともう少し一緒にいたかった・・・、でもあたしはもう元の時代に帰らなくちゃいけない」
アオイはそのまま話を続ける。
「あたしがあの時空のゆがみに入って、未来へと帰ったらみなさんとは二度と会う事が出来なくなるのが、あたしも寂しいです」
「確かにそうなっちゃうよね・・・、そりゃ僕達も寂しいけど、元の時代へと帰ろうとしているアオイちゃんを引き止める訳にはいかないよ」
その時、時空のゆがみに異変が生じる。何と渦が少しずつ小さくなり始めたではないか。
「アオイ!時空のゆがみが小さくなりだしてる!急いで時空のゆがみの中に入らないと元の時代に帰れなくなるよ!」
とイズキがアオイに叫ぶ。
「サクノさん、もう帰らなくてはいけないので、離れますね」
アオイは抱きついていたサクノから離れた。
「待つんやアオイ!」
サクノがアオイを呼び止める。
「何ですかサクノさん?」
「アオイにこれ渡そうと思うてな、ウチとアオイの友情の印や!」
サクノがアオイに手渡したのは、スペードの形をした青いブローチだった。
「サクノちゃん、それサクノちゃんが大事にしてたはずじゃ・・・」
「いいんやシグ、アオイにならウチが大事にしてるブローチを大切にしてくれると信じてるから渡したんや」
サクノがアオイに渡した青いスペードのブローチは、サクノにとっては大事な物であった。
「サクノさんが大事にしていたものあたしにくれるなんて本当にありがとうございます。このブローチは大切にします」
アオイは喜んで言った。サクノもまた嬉しそうな表情をしていた。
「そんな堅苦しく言わんでええで、ウチのことサクノちゃんでええ、サクノさんって何かむず痒いし」
「そうですか・・・、じゃあ改めて、ありがとね、サクノちゃん」
「うん、そんな感じや、ほら早く行かんと帰れなくなるで」
「そうだね」
サクノは後ろへ振り向き、数歩歩いた後で泣き崩れた。シグは泣き崩れたサクノの元へ行き、そっと慰めてた。
アオイはサクノの姿を見て、サクノの元へ引き返そうとしたが、シグは首を横に振って「サクノちゃんは大丈夫だから、アオイちゃんはこっちへ来てはいけないよ」という合図を送る。アオイもシグの合図を理解して頷き、引き返すことをやめた。アオイは心を改めてヒロキ達に言った。
「みなさんとは本当にここでお別れですね、短い間だったけどとても楽しかったです。もう二度と会えなくなりますが、どうかあたしの事を忘れないで下さい、あたしもみなさんの事は決して忘れません」
そしてアオイは、最後にヒロキ達にこう言った。
「フェイラさん、シグさん、ヒロキさん、イズキさん、そしてサクノちゃん・・・、さようなら・・・」
そう言った後、アオイは次元のゆがみの方へと体を向け、ゆがみの中へと入って行った。やがてアオイの姿は見えなくなり、それに合わせるかの様に次元のゆがみが消滅した。
「アオイちゃんは無事元の時代に帰って行ったんだね、ヒロキくん」
「うん、もうアオイちゃんと会えなくなるのが少し残念だけどね」
次元のゆがみが無くなったの見て、少し寂しい思いを抱くヒロキとフェイラ。
「ところでシグ、サクノは大丈夫なの?」
サクノは大丈夫なのかとシグに聞くイズキ。
「サクノの事だもん、すぐに・・・」
シグが話し終わる前にサクノが割って入って来た。
「当たり前やろ!アオイはちゃんと元の時代へと帰って行ったんや、ウチもいつまでもくよくよしてたらアオイにも悪いしなぁ」
「・・・でしょ」
「あぁ、それだけ立ち直ってるなら、あたしが心配するまでも無かったね」
「当たり前や!ところで、アオイが乗ってたコマンドウルフLCはどないするん?」
サクノは何とか立ち直り、アオイがいなくなった後のコマンドウルフLCをどうするのか気になっていた。それにヒロキが答える。
「それに関しては大丈夫、Dr.クロノスがアオイちゃんが元の時代に帰ってくるのを予測し、無人になったら、自動でDr.クロノスの研究所に戻ってくるように設定されているから」
「そうなんや、Dr.クロノスも随分考えておるんやな〜」
Dr.クロノスの技術力に感心するサクノ。
「アオイも無事元の時代に帰れた事だし、あたし達も傭兵の街に戻るとしようか」
「そうだね、早いとこ傭兵の街へ戻ろう」
ヒロキ達はそれぞれのゾイドに乗り込み、この場所を後にする。
(さようなら、アオイ・・・)
この場所を出る際に、サクノは心の中でこう囁いていた。
* * *
「・・・・・・い・・・・・・おい・・・・・・アオイ・・・・・・アオイっ!」
「うえっ!?」
呼び掛けに驚き、飛び起きるアオイ。
「全く、いつまで寝てるのよアンタは!」
女性はアオイに怒っている様子だったが、アオイには女性が怒っている意味が理解出来なかった。
「あたし寝てたの!?でもあれ、ここは・・・?」
アオイは周りを見回す。部屋の中のようだが、アオイには見覚えがあった。そして目の前にいる女性にも見覚えがあった。
「何言ってるの、ここはアオイの部屋でしょ」
アオイがいたのは、何と自分の部屋の中だった。
「あたしの部屋?でもあたし、さっきまで洞窟の中にいましたよ」
アオイは先程までの出来ごとを女性に話すが、女性は何を言ってるのか分からない様子だった。
「洞窟にいた?アンタはずっとこの部屋で寝てたのに、何寝ぼけたこと言ってんだよ」
女性はアオイが寝ぼけているのと思い、全く信用していない。
「寝ぼけてなんていません!あ、そういやお母さんの名前ってイズキって名前ですよね?」
アオイは女性、アオイの母親に対してイズキという名前を尋ねた。母親はその名前に反応した。
「今更どうしたの?あたしは確かにイズキって名前だけど」
母親の正体は、未来のイズキであった。
「実はあたし、昔のお母さんに会ったんです。昔のお母さんは髪が短かったんですね」
アオイの言う事に驚きを隠せない未来のイズキ。
「どうしてアオイが昔のあたしの事知っているの!?確かに昔は髪は短かったけど、その後に髪を伸ばしたんだよな」
未来のイズキの髪は、今のイズキの髪に比べると髪が長かった。
「これでお母さんはあたしの言う事信じてもらえますよね?」
「う〜ん、確かにアオイが知らないはずの昔のあたしを知ってるのは気になるけど、多分夢を見てたんだよきっと」
「え〜、どうしてですか〜?」
ここまで言っても信じてくれない未来のイズキに、納得のいかない様子のアオイ。
「だって、時を渡るなんてそうそうにあり得る事じゃないでしょ」
「確かにそうですけど、でも本当なんですよ〜!」
アオイは必死に言うが、それも空しく未来のイズキは聞き流す様子で部屋から出ていく。
「あたしがこんなに説得してもお母さんはちゃんと聞いてくれない・・・、本当にあの出来事は夢だったのかなぁ・・・」
アオイは次第に先程までの出来事が夢だったのではないかと思い始めたその時、手に何か握っている感じがしたので、手の中を見てみる。
「これって・・・、サクノちゃんから貰った青いスペードのブローチ。やっぱり夢じゃなかったんだ」
手の中にあったのは、サクノから貰った青いスペードのブローチだった。アオイはこれを見て思わず喜んだ。
「あたしは本当に時を超えて、サクノちゃんや昔のお父さんやお母さんに会う事が出来た。二度と出来ない貴重な体験をね!」
何故アオイが時を超えることが出来たのか、それはアオイ自身にも分からない。ただもし言えるとしたら、アオイがヒロキ達と出会ったのは、運命がこういう風に引き付けたのかもしれない。
アオイにとっても、生涯二度と体験出来ない貴重な体験をしたことは間違いのない事実である。
〜 完 〜