#1 少女との出逢い | 著/Ryuka |
傭兵の街の外れにある墓地で、俺は“彼女”の墓の前にいた。
「・・・あれからもう8年か」
“彼女”というのは、レオナ・リーフィスの事だ。俺にとっては親友とも言える存在だった。性格を例えるなら、イズキに近い感じの強気な女の子で、俺やクロノと同じくゾイド乗りであった。ゾイド乗りとしての腕は、当時の俺よりも断然上手く、特に接近戦での格闘戦は、当時の傭兵の街の傭兵達ですら寄せ付けない程圧倒的に強かった。このレオナの戦闘スタイルは、俺の戦闘スタイルのきっかけにもなっている。だが彼女はもう既にこの世にはいない、8年前の“あの悲劇”によって・・・
* * *
そもそも俺とレオナの出会いは、8年前の傭兵の街の中のある街角での事であった。
「クソぉ、またクロノに負けちまったぜ〜!」
友達のクロノに負けて悔しがる俺はローダ、ローダ・ガレスって言うんだ。歳は10歳で、ゾイド乗りだけど、まだまだ端くれさ。
「毎回そうだが、お前の戦い方にはまとまりが無いんだよ」
冷静に物事を言うのが俺の幼馴染みのクロノ、クロノ・フォルティス。俺と同い年の10歳で、同じゾイド乗りだが、俺よりもゾイドの扱いが上手い。さっき幼馴染みと言ったが、クロノの幼い頃は全く知らないので、友達の方が合っているのかもしれない。というより俺自身の幼い頃の記憶が全く無いからであるが・・・
「だってさ〜、まだ俺自分の得意な戦い方とか良く分かんないし」
ゾイド乗りとしての経験の薄い俺は、まだまだ自分なりの戦い方を確立はしていなかった。するとクロノは軽く溜息をついた後、俺に向かって、
「いいかローダ、自分の戦い方って言うのは自分自身で見つけるものだ、今はまだ分からんかもしれんが、いずれお前にも自分なりの戦い方ってのが身に付いてくる」
「要は色んな戦いを経験する事なのか?」
「まぁ、そういう事だろうし、人の戦い方を参考にしてみるのもありだな」
「へぇ〜」
確かにクロノの言っている事は正論だと思う、けど俺にはいまいち理解しづらい事であった。ただ分かった事と言えば、人の戦い方を参考にしてみる、これは俺の戦い方を見つけるのに良いかもしれない。ナイスだぜクロノ。
「じゃ、そろそろ暗くなってきたし、俺は帰るわ」
クロノはそう言って自分の家がある方へと歩いていった。
「あぁ、またなクロノ」
クロノと別れた俺は、ギルフォートじいさんの家へと向かう、両親のいない俺にとってギルフォートじいさんは親みたいなもんだからな。
「しかし、人の戦い方を参考にすると言っても誰の戦い方を参考にすべきだろうか・・・」
その事を考えながら歩いていて、街角に差し掛かった時、横から走ってきた人が俺とぶつかってしまった。2人共ぶつかった反動で尻もちをつく。
「いってぇ・・・」
「ゴメン、アンタ大丈夫?」
ぶつかったのは、俺と同い年位の女の子で、オレンジ色の髪の毛に、ポニーテールが特徴だった。
「あぁ、大丈夫」
「そう、それじゃあたし急いでるから」
その女の子はすぐに立ち上がって、この場から走り去っていった。
「あの子誰なんだろう、それにしてもあの子・・・可愛かったなぁ・・・」
さっきぶつかった女の子、この傭兵の街では見た事無い子だったけど、一体誰なんだろう。それに可愛くて、思わず俺の顔は赤くなっていた。
「さてと、あの子の事は気になるけど今はじいさんのとこに帰ろう。また何処かであの子と会えるといいな」
俺も立ち上がって、服に付いた汚れを払い、ギルフォートじいさんの家へと向かって歩き出した。
* * *
翌日、俺はいつもの様に、クロノとにいつもの場所でゾイド乗りとしての練習をする。そこは、俺達以外にも、ゾイド乗りや傭兵達が草バトルをしている様な場所であった。流れ弾等のトラブルを避ける為、分厚い鋼鉄の壁によって仕切られている。
「今だっ!」
俺が乗るコマンドウルフは、クロノの乗るハウンドソルジャーに向け爪を振り下ろすが、ハウンドソルジャーは素早くかわし、着地したコマンドウルフに体当たりをする。
「おわっ!」
コマンドウルフは吹き飛ぶ様にして横に倒れた。
「いってぇ〜・・・、そう簡単には喰らってくれないか〜」
「当たり前だろ、そう簡単に当てさせる訳無いだろ」
若干呆れ顔で言うクロノ、やっぱそういうもんだよな、言った俺が言うのもあれだけど。
「まだ終わった訳じゃ無いぞ、さっさと機体を起こせ」
「分かってるよ、今起こす」
俺は機体を起こして体勢を立ち直した時、
<うぉーっ!すげー!!>
何処からか、歓声が沸き起こっていた。
「何だ?今日はお祭りでもやってたか?」
「そんな訳無いだろ、だが何だろうなこの歓声・・・?」
冷静に突っ込むクロノ、確かにこんな場所でお祭りをやる人の気が知れないな。
「なぁ、見に行ってみないか?」
「お前がそう言うなら、俺は構わんがな」
「よし、決まりだ。行こうぜ」
俺とクロノはゾイドから降りて、歓声が沸き起こっている場所へと向かった。
俺達がゾイドの練習として使っている場所の中には、安全対策が施された上で、一般の人(専らゾイド乗りと傭兵ばかりだが)がゾイドバトルを見物出来る場所が何か所かあった。そして歓声が沸き起こってる場所へと着いた俺達が見たのは、白っぽいレブラプターと、それを囲む様にして対峙する5体のコマンドウルフLC。
「レブラプター1体にコマンドウルフLCが5体って、明らかに不利だろ」
普通に考えれば射撃武器を持たないレブラプターに、中型ゾイドのコマンドウルフLCを5体を相手にするなんて自殺行為に近い、俺はそう思った。
「それはどうかな、良く周りを見てみろローダ」
「これは・・・」
良くフィールドの見渡すと、何体かのコマンドウルフLCが横たわっているのが分かる。もしかしてあのレブラプター1体で倒したのだろうか・・・
すると、レブラプターがコマンドウルフLCに向かって走り出し始めた。レブラプターが向かった方のコマンドウルフLCは背中のロングレンジライフルを数発レブラプターに向かって撃つが、身軽な身のこなしで次々とかわし、背中のカウンターサイズでコマンドウルフLCの右前後脚を切り裂き、コマンドウルフLCはバランスを保てなくなり、倒れる。そして近くにいるコマンドウルフLCに接近し、爪でロングレンジライフルを弾き飛ばし、カウンターサイズで左前脚を切断する。その直後、レブラプターの背後からコマンドウルフLCがロングレンジライフルを撃つが、レブラプターは咄嗟にかわす。しかし、その先で前後にコマンドウルフLCに挟まれた。前後のコマンドウルフLCは同時にレブラプター目掛けロングレンジライフルを撃つ、だがレブラプターはライフル発射音と同時にジャンプする。レブラプターの様なゾイドはジャンプ力が高いので直ぐには降りてこない、従って撃ったライフルの弾は互いのコマンドウルフLCへと当たり、ゆっくりと崩れた。
ジャンプしたレブラプターはそのままの勢いで残り1体のコマンドウルフLCへと飛び掛かる。だがコマンドウルフLCは身を引いて攻撃をかわすが、すぐさまレブラプターはコマンドウルフLCにタックルをしつつ、爪で体部分を切り裂いた。コマンドウルフLCは吹っ飛ばされて横倒しになり、そのまま動かなくなった。
「ほらな、こういう事だってあるんだ」
「す、凄いな・・・」
さっき自殺行為に近いって言ったのは撤回する・・・しかない。そのあまりにも圧倒的な戦いぶりに、俺はあの白いレブラプターに乗るパイロットに憧れの様な感情を持っていた。
「ふぅ〜、10体近くで挑んできても大した事無いわね」
レブラプターのパイロットが退屈そうに息を吐き、相手の傭兵達にこう答えた。
「そりゃ君が強すぎんだよ、特に接近戦においてはな」
「だってあたしのゾイドは接近戦用の武器しか付けてないし、あたし自身接近戦の方が得意だしね」
得意気に言うパイロット、実際接近戦において圧倒的な戦いぶりは見せていた。
「確かに戦いぶりを見ればそうかもしれないな」
対戦相手の傭兵達も納得の様子であった。
「ん?あそこにいる男の子、昨日街でぶつかった子じゃない、折角だし、その子会って昨日の事ちゃんと謝らないとね」
レブラプターのパイロットは、レブラプターを駐機所に停め、機体から降りる。そのパイロットの姿は、10歳位の女の子で、オレンジ色の髪の毛で、ポニーテールが特徴であった。そう、彼女の正体は、昨日街角でローダとぶつかった女の子であったのだ。女の子はローダを探す為にこの場から離れた。
「さ、終わった事だし戻るぞ」
「あぁ、分かった」
さっきのバトルを見終わった俺とクロノは、俺達が練習していた場所へと戻る事にした。
「それにしてもあのレブラプターすげぇ強かったな〜」
「きっと余程腕の良いゾイド乗りなんだろう」
確かにクロノの言う通り、凄い実力のゾイド乗りかもしれない。
「おーい、そこのアンタ達ちょっと待って〜」
その時、後ろから俺達を呼ぶ声が聞こえた。
「ん?俺達何か呼ばれる様な事したっけ?」
「いや、してない筈だが」
俺達がそんなやり取りをしている間に俺達を呼んだ人は目の前に来ていた。どうやら女の子の様だ。
「確かアンタだよね、昨日あたしとぶつかったの」
「昨日ぶつかったって・・・」
目の前の女の子は、俺に面識がある様だ。あれ?俺この子の事知らな・・・、いや、ちょっと待て、良く見ると、俺と同い年位で、オレンジ色の髪でポニーテールが特徴の女の子ってもしかして・・・
「あー!あの時の女の子!」
「ローダ、知ってるのか?」
「あぁ、昨日帰りの途中で俺とぶつかったんだよ」
そうだ思い出した、昨日街角でぶつかった女の子だ。まさか本当にまた会えるとは思っていなかった。
「昨日はその・・・、あたしがぶつかってきといてちゃんと謝らなくてゴメンね」
その子は昨日のぶつかった事を謝っていた。だけどあの時確か・・・
「いや、良いって事よ。それに君急いでたから仕方が無いさ」
「そうだけどさ、でもこういうのってちゃんと謝っておくべきじゃない?」
笑顔でこう答える女の子。
「まぁ、確かにそうだけどな」
その通りかもしれない、俺にしてみれば随分律儀なんだなと思った位だけど。
「話の途中で悪いんだが、名前は?」
「それって、あたしの事?」
「あぁ」
そういえばまだこの子の名前聞いてなかったな、ナイスだぜクロノ。
「そういやまだ名乗って無かったね、あたしはレオナ・リーフィス、フルネームで呼ばれるのも面倒だからレオナって呼んでくれ」
「いや最後のは言わなくていいだろ・・・」
レオナに聞こえない程度の小声で突っ込むクロノ。気持ちは分かるけど、あえて突っ込まなくてもいい気が・・・
「俺はローダ、ローダ・ガレスって言うんだ、宜しくなレオナ」
「俺はクロノ・フォルティス」
「ローダとクロノか、二人とも宜しくな」
それぞれの自己紹介が終わった後、クロノが話を切り出した。
「ここらでは見ない顔だな、何処から来たんだ?」
「確かに俺も気になってたとこなんだ」
レオナは傭兵の街の人では見た事のない人だ、彼女は何処から来た人なんだろうか。
「何処からって、あたし色んなとこ転々としてたから、特に定まった場所からは来てないんだ。それにあたしの生まれ故郷が何処かってのも覚えてないしね」
「家族ぐるみで?」
「最初はそうだったけど、途中からはあたし一人でね」
レオナが言うには、色んなとこを転々としていたから、特に定住している所は無い様だ。それに自分の出身地すら覚えていないとか。
「そうか、一人でここに来たとなると、レオナもゾイド乗りか?」
クロノがレオナにこう質問する。
「へへ、まぁね。そういうアンタ達もゾイド乗りなの?」
得意気に鼻をすすりながら言うレオナ、妙にその仕草が可愛く見えた。
「あぁ、俺達はこの先の場所でゾイドの練習をしている」
クロノがそう言うが、正確には俺がゾイドの練習をしており、クロノはコーチみたいな立場である。
「そうなんだ、それじゃ今からゾイドに乗ってそっちに行くからまた後でね〜」
そう言ってレオナは俺達から走り去っていった。
「俺達も戻るぞ」
「そうだな」
俺達もまた、俺達のゾイドが停めてある練習場へと向かう事にした。
* * *
俺達は練習場へと戻り、それぞれのゾイドに乗った状態でレオナが来るのを待っていた。
「レオナはどんなゾイドに乗っているんだろうな〜」
「さぁな」
クロノは興味無さそうに聞き流していた。
「多分コマンドウルフとかヘルキャット辺りだと思うな」
俺は勝手な想像をしながら待っていた最中、レオナから通信が入ってきた。
「お待たせ〜、今着いたよ〜」
レオナが喋った直後に、俺達の前に姿を現したゾイドに俺達は仰天する。
「そ、そのゾイドってさっき見たあの・・・!」
「あのバトルに出てたゾイドじゃねぇか!もしかしてレオナ、お前・・・」
「ええ、あたしはさっきの10体位のコマンドウルフLCと戦ったわ」
レオナのゾイドは、さっきの5体のコマンドウルフLCをあっという間に倒した白っぽいレブラプターであった。て事はレオナがさっきの戦い方をした張本人って事になる。そんな凄い人が目の前にいる事に驚かない訳が無かった。
「だけど全然大した事無かった、逆に退屈な位」
「す、凄いな・・・」
レオナは10体近くを相手にしても、余裕そうにあんな事言えるなんて・・・、俺にあんな風に言える日が来るのだろうか・・・
「最近あたしに戦いを挑んでくる奴は多いけど、みんな口ばっかりで大した事無い奴ばかりだからつまんなくってさ、あ〜あ、いい加減手応えのある人と戦いたいなぁ・・・」
「それじゃ俺が相手になろうか?」
「クロノ!?」
クロノが自ら名乗り出てレオナに戦いを挑もうとしている。クロノが自ら名乗り出るなんて久々な事だ。
「え!?あたしは別に構わないけど、アンタもアイツ等と同じ様に口先だけじゃ無いよな?」
「フン・・・、俺は口先だけじゃ無い、ちゃんとした実力もあるさ」
クロノは表情こそ目立った変化は無いものの、いつもよりも闘志を燃やしていた。クロノはあまり熱くなる事が無いだけに、俺はいつもと違うクロノに驚いていた。
「その気迫、確かにアンタが言ってるのは嘘じゃ無いかも、久々にあたしが望んでいたバトルが出来そうだ!」
一方レオナは、ワクワクした表情でクロノとの戦いに臨んでいた。確かにクロノのゾイド乗りの腕は傭兵の街の中では結構良い方だから、きっと凄い戦いになるに違いない。
「場所はここでいいの?」
「あぁ、人様に見せるのはあまり好きじゃない、だがローダにはこのバトルは良い参考になるしな」
クロノとレオナはこの場所で戦闘準備をし、やがてお互いの機体は向き合う。
「それじゃ始めようか」
「そうだね、あたし負けないよ!」
俺が見る中、クロノとレオナの戦いが始まった。
まず最初に動いたのは、レオナのレブラプターであった。クロノのハウンドソルジャーに向かって走り出した。ハウンドソルジャーは胸部のブレストボンバーを数発撃つが、素早くかわし、ハウンドソルジャーの横に着き、背中のカウンターサイズを右前脚に食らわそうとする。
「もらった!」
「甘いな」
「な、何っ!?」
カウンターサイズが右前脚に届く前にハウンドソルジャーが振り向き、右側のクロスソーダーで防いだ。そしてハウンドソルジャーは首を右へ勢い良く振り、クロスソーダーで防いでいたレブラプターを吹き飛ばす。レブラプターは倒れる事無く地面へ着地する。
「これだ!これがあたしが望んでたバトル!やっぱバトルはこうでなくっちゃ!」
久々の手応えのあるバトルに胸が高鳴るレオナ。
「じゃあ今度はこっちからいくぜ」
ハウンドソルジャーは、ブレストボンバーをレブラプターを狙って数発撃ち出す。
「そう簡単には当てさせないわっ!」
レブラプターは攻撃をかわすが、すぐさまハウンドソルジャーは背中のハインドバスターを撃つ。
「まさか二段攻撃!?」
前の攻撃をかわした直後で、更なる回避行動が取れないレブラプターは、今のハウンドソルジャーの攻撃を受けてしまう。
「くぅっ!あたしとした事が・・・」
するとハウンドソルジャーは怯んだレブラプターに飛び掛かる。
「きゃあっ!」
ハウンドソルジャーがレブラプターの上に乗っかり、馬乗り状態になる。
「どうした、この程度か?」
「こ、このぉ!」
乗っかかったハウンドソルジャーを押しのけ、起き上がるレブラプター。
「んな訳無いでしょ、まだまだこれからよ!」
思わずムキになるレオナ、どうやらレオナは熱くなりやすい性格の様だ。
「フフ、そうこなくてはな」
一方のクロノは、常に冷静で、表情や感情の変化があまり無い。だが彼の闘志は、見えない所で燃えている事は確かであった。
「てあぁっ!」
ハウンドソルジャーの懐へ突き、爪を振りかざすレブラプター。攻撃は当たり、若干後退するハウンドソルジャー。レオナは熱くなりやすい性格だが、決して攻撃に焦りの色は無い。
「流石にコマンドウルフLC5体をあっという間に倒すだけの実力はあるな」
互いの実力は互角で、これ以後も互角の戦いを繰り広げていた。互いは攻撃をかわし、攻撃を防ぐ、ひたすらその繰り返しであった。ただ時間だけが過ぎ去っていき、やがて2機は一旦距離を取って向き合う形となった。
「はぁ・・・はぁ・・・、こんな激しい接戦、あたし久し振りだ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・、俺もだぜ・・・」
互角とも言える激しい接戦で、クロノとレオナの体力は消耗していた。
「し、しかし、このままではキリが無いな・・・、次の一撃で決着をつけようか」
「そ、そうね、次の一撃で決着をつけよう・・・、あたし達の体力も持たないし・・・」
二人はこれ以上戦い続けてもらちが明かないと悟り、次の一撃で決着をつける様だ。二機は向かい合い、そして互いの機体に向かって走り出した。
「これで決める!」
「やあぁぁぁっ!!」
ハウンドソルジャーは右側のクロスソーダーを、レブラプターはカウンターサイズを展開し、そのまま二機はぶつかり合う、いや正確には、カウンターサイズとクロスソーダーがぶつかり合った。ぶつかり合った場所から火花が激しく散り、そして二機が向いている方向へと離れた。その後、空から片側のカウンターサイズと一本のクロスソーダーが落ちてきて、地面に突き刺さった。
「・・・どうやら引き分けの様だな」
「その様みたいね・・・」
クロノとレオナはこれ以上戦うのを止めた。結果としてこのバトルは引き分けに終わった。
「は〜、すっごく楽しかった、久々にあたしが望んでいた様なバトルも出来たし」
笑顔で言うレオナ、先程までの熱くなっていた時とは思えない程の変わり様だった。彼女は熱くなりながらも、クロノとのバトルを楽しんでいた様だ。
「俺も久々に純粋にバトルを楽しんでいたな、またいずれ手合わせ願いたいな」
クロノもレオナとのバトルを楽しんでいた様だ。
「望むところよ、次こそあたしが勝つんだから!」
「それはどうかな、次は俺が勝たせてもらうぜ」
「言ったな〜、あたしが絶対に勝ってやるんだからな!」
「・・・お前もローダに似て負けず嫌いなとこあるんだな」
小声で呟く様にして言うクロノ。
「何か言った?」
やや不機嫌な顔でクロノを見るレオナ。
「何でもねーよ」
さっき言った事をはぐらかすクロノ、その時のクロノの顔は笑っている様にも見えた。
「何か良く分かんないの・・・」
こうして二人はローダのいる場所へと向かった。
クロノとレオナがローダの元へ来た頃、ローダはただ呆然としていた。
「おい、ローダ。戦いは終わったぞ」
「お、そうか・・・」
ローダは、愛機のコマンドウルフから降りてクロノ達の元へ行く。
「それにしても二人共凄いぜ・・・いや、凄すぎるぜ!」
「何だよ急に」
気だるそうに言うクロノ。しかしローダのテンションが高いのには理由があった。
「あんな凄いバトル見たの俺初めてだからさ〜、最後まで見入っちまったよ」
ローダにとって、クロノとレオナ程の激闘を今まで見た事が無かっただけに、ローダは一言も喋る事無く、ただただクロノとレオナの激闘を見入っていた。
「もしかしてアンタ、ゾイド乗りになりたて?」
「あぁ、そうなんだ。だからここでクロノにゾイドを乗りこなす為の練習をしているんだ」
この頃のローダはまだまだ新米のゾイド乗り、まだ自分の愛機すら完璧にまで上手く乗りこなせていなかった。
「ふ〜ん・・・、そうだ!あたしもローダの練習に付き合うよ」
「おい、大丈夫なのか?」
レオナはクロノの話を聞こうともせず、そのままローダに話を続ける。
「ほら、あたしも一緒なら、より色んな戦術を身に付ける事が出来るだろ。それにあたし、アンタのゾイド乗りとしての成長ぶりも楽しみだしさ」
レオナが出した提案に、ローダは
「勿論OKだ、クロノとあんな戦いが出来る人の提案を断る訳にはいかないしな」
と即答した。ローダは嬉しそうな様子だった。
「じゃあ、今からでも・・・という訳にはいかないな、もうこんな時間だし」
「確かに俺達の年齢から考えて、これ以上練習に時間を使ってられないな。家の人達も心配するだろうし」
気がつくと空は暗くなり始めていた。いくらあれ程の激闘を繰り広げたクロノ達でも、まだ10歳の子供、あまり遅い時間まで練習に使って、家の人達を心配させる訳にはいかない為である。
「そっかぁ、アンタ達には帰るべき家があるもんね」
レオナだけは、ローダとクロノの様な帰るべき場所が無かった。
「それで、レオナはこれからどうするんだ?」
「あ、あたしはちゃんと泊まる場所を確保してるからっ」
何処か慌てた様子で話すレオナ。ローダはその様子が気になったが、その事を彼女に口出す事はしなかった。
「そうか、お前達のゾイドは、俺が整備場へと出しておくから、また明日この場所に来てくれ」
「あ、ありがとねクロノ、それじゃ!」
落ち着かない様子で走り去るレオナ。そんなレオナの様子を見てローダは
「一体何であんなに慌ててたんだろうなレオナ?」
「さぁな、俺はお前達のゾイドを整備場の方へ出しに行くから先に帰っててくれ」
「分かった、いつもサンキューなクロノ」
ローダの言葉に、クロノはローダに見えない様に口元で微笑んだ。そしてローダは練習場を後にした。
* * *
俺はいつもの様にギルフォートじいさんの家に帰ってる途中、
「あれ、あの子は・・・」
この先にいた女の子は、見覚えのある特徴からして、レオナであった。
「・・・とはローダ達に言ったものの、今は宿に泊まれるほどのお金持ってないし・・・、どうしようかな・・・」
実はこの時レオナはあまりお金を持っておらず、せいぜい昨日の一泊分がやっとであった。
「お、レオナじゃないか」
俺は一人で立っていたレオナに話し掛ける。
「あ、ローダ、何でこんな所に?」
レオナがこんな事を聞いてきた。そういやレオナは知らないんだよな。
「俺は帰りの途中で、いつもこの道を通っているんだ。ところで何でレオナはここにいるんだ?」
今度は俺がレオナに同じ事を問い掛けた。
「う、うるさいな、別にアンタには関係無い事よ!」
何か隠す感じで言うレオナ。だけど何の為にこんなとこにいるんだろう?
「だけどこんな暗い夜道に女の子が一人でいたら危ないだろ」
「だからっ!あたしは今お金が無くて、泊まる所が無くて困ってた訳じゃ・・・あ!」
慌てて口を押さえるレオナ。そういう事だったのか。
「つまりお金が無く、泊まれる場所が無くて困ってたってとこか」
「べ、別にあたしはそういう訳じゃ・・・」
「強がって隠そうとすんなよ、だったら俺が世話になってる所へ泊りに来ないか?」
俺は泊まる所が無くて困っているレオナに、ギルフォートじいさんの家に泊まらないかと勧めた。俺にはレオナを泊められる根拠はあった。
「え、いいの!?でもアンタが世話になってる人が困るんじゃないの?」
「心配ないさ、あのじいさんならレオナを泊めない訳無いから」
何故なら、レオナの様な可愛い女の子をギルフォートじいさんが泊めない訳無いからであった。だがレオナはまだ迷ってる様子だった。
「それに、レオナの様な可愛い女の子が野宿なんて可哀想な事させる訳にもいかないしな」
「可愛いって・・・、べ、別にあたしを褒めたからって何も出ないんだからなっ!」
顔を赤くして否定するレオナ、その姿が可愛らしく見えた。
「そういう訳じゃねーよ、ほら行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
行こうとする俺を止めるレオナ。
「その・・・、まだ会ったばかりのあたしなんかに優しくしてくれて・・・」
「何言ってんだよ、俺は困っている人を放っておけ無いんだ、それ位当たり前の事さ。それじゃ行こうか」
「うん、そうだな。・・・ありがと」
俺はレオナを連れてギルフォートじいさんの家へと帰った。
「じいさん、この子を泊めてくれないか?」
俺はギルフォートじいさんに早速レオナをここに泊める事を言った。
「どうしたんじゃローダって、これまた可愛いおなごじゃのう、おまえさんいつの間に・・・」
じいさん何勘違いしてんだよ、じいさんが変な事言うからレオナが顔赤くしてんじゃねーか。
「んな訳ねぇだろ、この子はレオナって言って、凄腕のゾイド乗りなんだけど、泊まるとこが無くて俺がここに連れて来たって訳だ」
「ほう、このおなごが凄腕のゾイド乗りとな、まぁ良かろう、こんな可愛いおなごを泊めん訳にもいかいしのぅ」
「せめて言っとくが、レオナに変なちょっかい掛けんでくれよ」
「分かっとるって」
いや、どう見てもじいさんは鼻の下が伸ばしてるが、あえて気にしないでおこう。
「な、言った通りだろ、とりあえず俺の部屋に行こうか」
「うん・・・」
俺はそう言ってレオナを自分の部屋へと招き入れた。
「ちょっと!変な事言わせないでよ!恥ずかしかったじゃない!」
怒鳴り付ける様にして俺に叫ぶレオナ、別に俺がじいさんに言わせた訳じゃ無いんだが・・・
「まぁ、あんな事言うのは元からだから気にしないでくれ」
あのじいさんのノリは昔からだ、ただレオナが怒るのも分かる気がするがな。
「気にするなってレベルじゃ無いでしょうが!あたし、ローダとはまだ会ったばっかりで、別に付き合ってる訳じゃ無いのに・・・」
「あ、何か言ったか?」
「な、何でも無いわよっ!」
レオナは何をそんなにムキになっているんだろう、俺には良く分からなかった。
「何にせよ泊まれる訳だし、難なら傭兵の街にいる間ここで寝泊まりしたらどうだ?」
「確かにあのおじいさんはちょっと抵抗はあるけど、今のあたしには他に泊まる所なんて無いから、そうさせて貰うわ」
「じゃあ決まりだな」
という事で、レオナは傭兵の街にいる間、ギルフォートじいさんの家に寝泊まりする事になった。
「そういや腹も減ったし、飯食うとするか」
「そうね、あたしもお腹ペコペコだよ・・・」
俺達は立ち上がって、部屋を後にした。
#1 完、#2へ続く