#2 二人きりの街中散策 | 著/Ryuka |
「起きろーっ!ローダぁー!!」
「ぬあっ!」
翌日の朝、レオナの家中に響く様な大声に思わず飛び起きるローダ。
「アンタいつまで寝てるつもりなの!?」
「だからってそんな大声で起こすなよな・・・」
寝ぼけ眼で頭をポリポリと掻くローダ。彼は朝に弱い様だ。
「一体何時だと思ってるの!?もうすぐお昼になるじゃない!」
「ん〜・・・」
寝ぼけ眼で部屋に置いてある時計を見る。時計の針は10時である事を示していた。
「10時か・・・、確かにもうすぐ昼になるな・・・」
「アンタいつもどういう生活してるの!?朝早い時とかどうしてる訳!?」
ローダのあまりの寝坊ぶりに、思わずローダの生活パターンを聞くレオナ。
「性格云々じゃなくて俺は朝に弱いんだ。ただ朝早い時はクロノに起こして貰える様に頼んで貰ってる」
「何かクロノの苦労が分かる気がするよあたし・・・」
ローダの言葉に呆れる様子を見せるレオナ。
「しかし今日はクロノが用事でゾイドの練習は無い筈だが・・・」
「そういう理由でいつまでも寝てるんじゃないの!それに今あたしがいるじゃない!」
ローダの寝坊の理由に突っ込みを入れるレオナ。
「あーそうだったな。じゃあ今日はレオナが相手になってくれるのか?」
「いや、そういう訳じゃ無いんだけど・・・。第一あの練習場の使用許可貰ってるのクロノだっておじいさんから聞いたから」
「確かにあいつが使用許可貰う権限を持ってるからな。ゾイド乗りなりたての俺やこの街に来たばかりのお前だけでなく、じいさんも練習場の使用許可を貰う権限はないからな」
ローダとクロノがいつも使っている練習場は、クロノが練習場の使用許可を貰う権限を持っている為である。従ってローダやレオナは勿論の事、ゾイドは所有しているものの、練習場を使用していないギルフォートにも練習場を利用する事が出来ないのだ。
「そうなんだ」
「じゃあそういう事ならもう一眠りしようかな・・・と思ったけど、さっきのレオナの大声ですっかり目が覚めちまったから朝飯でも食うとするか・・・」
「まだ寝ようとしてたのアンタは・・・、それよりもさっさとベッドから離れなさい」
「へいへい」
ローダはベッドから離れ、レオナと共に部屋を後にした。
ローダとレオナが茶の間へとやってくると、そこにはギルフォートがいた。
「やっと起きたか寝ぼすけよ、少しはレオナを見習ったらどうだ?」
「それが朝顔合わした人間に言う言葉じゃないだろ」
ギルフォートの朝の第一声が挨拶で無い事に突っ込むローダ。しかし彼の起きた時間から考えるとギルフォートが言う事が当り前ではある。
「アンタ起きた時間を考えなさいよ・・・」
右手を頭に付けながら言うレオナ。
「まさか俺が寝てる間にレオナに変な事してないだろうな?」
疑いの眼差しでギルフォートを見るローダ。昨日のギルフォートの発言や表情からやりかねない要素は十分にあったからだ。
「そんな事する訳ないじゃろうが!レオナちゃんは実に良い子じゃ、わしと一緒に家の手伝いをしてくれたりしてくれるからの。どっかの寝ぼすけとは大違いじゃ」
「うっさい、それ俺の事だろ。しかし昨日じいさんを嫌がっていたお前がよくじいさんと一緒に家の手伝いが出来たもんだな」
若干小馬鹿にした様な目と口調でレオナに言うローダ。
「せ、折角この家にお世話になって貰ってるんだからし、仕方のない事でしょ!た、確かにおじいさんの事はあまり好きじゃないけどさ」
「ガーン!そうだったのか・・・、レオナちゃんはわしの事をそんな風に思っていたとは・・・」
レオナの最後の一言にショックを受け深くうなだれるギルフォート。ローダはギルフォートの方を見て「やっちまったな・・・」という表情をしていた。
「もしかして今のあたしの言った事マズかった?」
「あぁ、すっごくマズかったな、じいさんあの様子じゃ相当応えた様だな」
ローダの言う通り、レオナの最後の一言がよほど聞いたのか、ギルフォートはうなだれた様子でソファーに座っており、早々に立ち直りそうな気配は無い。
「どうしよう、今すぐ誤った方がいいかな・・・?」
「やめとけ、今のじいさんに謝ったところで耳には入らないだろう、しばらく一人にしといてそれから謝る事にしようぜ」
「あの様子だと、そうした方が良さそうね・・・」
とりあえずローダ達は、うなだれているギルフォートを気遣う様にそっと茶の間から離れていった。
「ところで、これからどうする?おじいさんもあんな調子だからここにいるのは何となく気まずいし・・・」
そんなレオナの様子を見てローダはこう提案した。
「なら俺達はどっか出かける事にしようぜ、レオナもこの街来たばっかだから、この街の色んなとこ見てみたいだろ」
「そうだね、あたしもこの街の色んな所も見てみたいし、折角街に来たんだから買い物とかも楽しみたいなって思ってたんだ」
嬉しそうな様子でローダの提案に賛成するレオナ。
「それに俺達が帰ってくる頃にはじいさんも立ち直ってるだろうし、その時に謝ればいいと思うぜ」
「ローダの言う通りかもね、今はあたし達で楽しんでおく必要もあるって事かな、あたしもいつまでこの街にいるか分からないし」
この街にいる内にこの街の事を知り、楽しんでおく必要があると思ったレオナ。だがしかし彼女はというと・・・
「あ、そういや今あたしお金あまり持ってなかったんだよな・・・」
「お金の面は心配しなくていい、俺がある程度なら出してやるからさ」
「ほ、ホントに・・・、ありがとうねローダ」
お金の無い自分を気遣ってくれるローダの優しさに素直に喜ぶレオナ。
「ただいつかちゃんと返してくれたりするんだよな?」
「んなっ!?そ、それは・・・」
しかし、直後のローダの言葉に驚きを見せるレオナ。
「な〜んて冗談だよ、別に返してもらう必要は無いぜ。じいさんの手伝いしてもらった礼もあるし」
「冗談ならそんな事言わないでよねっ!驚いたあたしがバカみたいじゃない!」
顔を紅潮させてローダに怒鳴るレオナ。
「ホントレオナって冗談通じないよな、でもそこが面白くて可愛らしかったりするんだけどな」
笑いながら言うローダ。
「ば、バカっ!そう言われると恥ずかしいじゃない」
今度は恥じらいを見せるレオナ。彼女はちょっとした事で感情が変わりやすい性格の様だ。
「それはともかく、それじゃそろそろ行こうか」
「待ってローダ、まさかそのカッコで行くつもり?」
「あ!」
ローダの今の格好を指摘するレオナ。それもその筈、ローダの今の格好は今家着であったからだ。
「せめて外に行くなら着替えなさいよね・・・」
「そうだったな、まずは着替えるとするか」
家着から着替える為一旦自分の部屋へと戻るローダ、その間レオナは若干呆れ顔だった。
* * *
ギルフォートの家から出掛けたローダとレオナは、街の商店街へとやって来ていた。
「ここがこの街の商店街なんだ〜、少し想像してたのとは違ったかな」
「まぁここの街並みは都会の様な近代的な造りではないからな」
ここ傭兵の街の町並みは、レオナが想像していた都会の様な近代的なものでは無く、一世代古い感じの町並みであった。
「それにじいさんが言うには、この街は様々な場所から移民してきた人達が集まって出来た街らしく、決まった風習や文化を持ってないそうだ」
「って事は、この街には色んな物を買う事が出来るって訳よね?」
レオナは妙に輝かせた目でローダを見つめる。
「そういう事、・・・ってもうその気なのかよ」
レオナの顔を見て、若干顔が引きつるローダ。
「もっちろんよ!あたしショッピングしたりするの好きなんだ!・・・今はあんまりお金持ってないけどね」
いたずらっぽく舌を少し出すレオナ。
「まぁその辺はある程度なら俺が何とかするから大丈夫だ、だからってあまり調子に乗らないでくれよ、俺だってまだ子供なんだしさ」
「分かってるって」
笑顔で言うレオナ。ローダはそんなレオナを見て、ホントに大丈夫なんだろうかと不安を感じていた。
「何か嫌な予感は感じてたりするんだよな〜」
「ねぇローダ、こっち来てよー!」
そんな不安を抱いているローダをよそに、レオナはというと、商店街のある店のショーケースにある物を指差しながらローダを呼んでいた。
「分かった、今行くよ」
渋々ながらではあるが、レオナの元へと行くローダ。
「このショーケースにある服見てよ、可愛いと思わない?」
レオナが指差していたのは、女の子ものの洋服であった。つまりこの店は洋服店である。
「う〜ん・・・、俺に言われてもなぁ・・・」
頭を掻きながら言うローダ、それもその筈、彼にとって女の子ものの衣装をまともに見るのは初めてであり、レオナに可愛いかと言われても正直分からないのであった。
「そういやアンタ、女の子といた事殆ど無かったんだよね」
バッサリと言うレオナに、ローダは若干心が傷付いた様だ。
「そうハッキリと言わないでくれよ・・・、まぁ俺が思うに、お前が可愛いなって思ったんなら、まず試着してみたらどうだ?そうすれば俺でも多少は分かるかもしれんし」
「そうよね・・・、口で言っただけじゃローダには全然分かんなさそうだし、一度試着した姿を見せて、それから決めてもらうって事にした方が良さそうね」
「つくづくお前は人の痛いとこを突くよな・・・、んじゃお前は店に入ってショーケースに入ってるのと同じ服試着してこいよ、俺はその間店の中で待ってるから」
「分かった、それじゃ試着が終わったら呼ぶからね」
何とも楽しそうな雰囲気で店内に入り、店員にショーケースにある服と同じものを試着したいと申し出るレオナ、店員はすぐさまショーケースにある服と同じものが置いてある場所へと彼女を案内していき、店員がレオナにその服を渡すと彼女は迷う事無く試着室の中へと入って行った。その間ローダはレオナの試着が終わるのを待っていた。
「お待たせー、着替え終わったからもう開けてもいいよ」
数分後、レオナの呼び声にローダはレオナが入っている更衣室の前へと来ていた。
「あぁ、それじゃ今開けるぜ」
ローダは恐る恐る更衣室のカーテンに手を掛け、開ける。
「どう、似合ってる?」
更衣室の中にいたのは、クリームホワイトに腕の部分がグレーで、さらに腕の部分にオレンジのラインが入ったのパーカーとオレンジのチェック柄のスカートを着たレオナであった。
「似合ってるも何も・・・、純粋に可愛いよ」
顔を赤くなりながら言うローダ、そんな様子を見たレオナは
「顔が赤くなるほどあたしのこの姿が可愛いって言ってくれるなんて凄く嬉しいよ!」
素直にローダの言ったことに喜んでいた。
「その服で決まりだな」
「えぇ、これもローダのお陰さ」
「よ、よせやい、照れるじゃねぇか!」
レオナの褒め言葉に思わず照れるローダ。その後ローダとレオナは、彼女が試着した服を購入し(お代はローダが支払った)、その店を後にした。
「まさか本当に買ってくれるとは思わなかったよ、ありがとローダ」
「まぁ今朝のお礼もあるし、何よりその服を着たレオナが可愛かったってのもあったし・・・」
「そうだ、折角だからこの買ってもらった服を着て一緒に街の中歩こうよ」
ふとレオナがローダにこんな提案をしてきた。
「俺は別にいいけどさ、この辺に着替えが出来る様な更衣室なんて・・・」
「ほら、すぐそこにあるじゃない」
「え!?」
レオナが指差した先には偶然にも着替えが出来る様な更衣室があったのだ。
「ホントにあったとはな・・・」
何か運命的なものではないのかと思ったローダであった。
そしてレオナが更衣室に入ってから数分後、更衣室から出てきたのは、先程試着室で見たのと同じ姿をしたレオナであった。
「やっぱ可愛いな・・・」
「そうでしょ、じゃあ一緒に行こう」
「そうだな」
ローダとレオナは仲良く一緒に再び街の中を歩きだした。その間二人は、色々な店を見て回ったり、昼食を取ったりして、二人きりの一時を満喫していた。
「ねぇローダ、このペンダント綺麗じゃない?」
とあるアクセサリー店で、レオナがローダに手に持ったペンダントを見せてきた。
「確かに綺麗だな」
ローダの言うとおり、レオナが手に持っていたいたペンダントは、球体で澄んだ透明の青色をしたのが付いた首にかけるものであった。
「あのさ・・・、お金の無いあたしが言うのもあれなんだけど、このペンダントをあたしとローダが出会った記念って事で買ってもらってもいいかな・・・?」
レオナは手に持っているペンダントを自分とローダが出会った事を記念する事を込めて買って欲しいとローダに頼んだ。
「もちろんいいぜ、断る理由なんてないしな」
レオナの頼みを快く引き受けたローダ。レオナは手に持っていたペンダントをローダに渡した。
「今からこれ買うから、ちょっとだけ外に待ってて」
「うん、分かった」
そう言うと、ローダはレオナから渡してもらったペンダントをレジへと持って行った。そしてレオナはローダの会計が済むまで店の外に待つ事にした。
「お待たせレオナ」
会計から済ませ、店から出てきたローダに、レオナはローダの方へ振り向く。
「ちょっと近づいてもらってもいいかな?」
「ん?どうしたの?」
突然のローダの呼び掛けに、不思議そうに近づくレオナ。するとローダはレオナの首にあるものをかけた。
「わっ、これってさっきのペンダント・・・」
「そう、これはさっきお前が言っていた俺とお前が出会った記念、言うなら俺からのプレゼントってとこかな」
笑顔で言うローダ、プレゼントと称してローダから付けてもらったペンダントを手にとって見たレオナは、うっすらと目に涙を浮かべていた。
「ど、どうしたんだレオナ!?」
そんなレオナを見て心配そうに声を掛けるローダ。するとレオナは首を横に振るなりこう言った。
「ううん、違うの。今までこういうのされた事無かったからつい嬉しくて・・・」
レオナの涙の正体は、ローダからのプレゼントを受けたといううれし涙であったのだ。
「確かに気持ちは分かるけど・・・、街中で泣くのは控えてくれないか?周りの視線が集まるだけでなく、俺にあらぬ疑いをかけられたりもするからさ」
「そ、そうね・・・、早めにこの場から離れようか」
レオナは涙を腕で拭い、ローダとレオナは周りの視線が集まらない内にその場から立ち去って行った。
その後ローダとレオナは、中心街から少し外れた所にある高台へと来ていた。空は既に夕日によってオレンジ色に染まっていた。
「ここなら人気も少ないな」
「でも・・・、近くに墓地があるんだけど・・・」
この高台は、傭兵の街のほぼ全体を見下ろす事の出来るが、すぐ近くに墓地がある為、眺めの良さとは裏腹にあまり人が寄りつく場所ではなかった。
「確かにここらは墓地があるからか、気味悪たがる人も多いしな。・・・もしかしてレオナ、お化けとか類が怖いのか?」
「そ、そんな訳ないじゃない!あ、あた、あたしがお、お化けとか怖い訳が・・・」
ローダの質問に、明らかに動揺を隠せていない様子のレオナ、そんな様子を見ていたローダは。
「そんな強がらなくたっていいよ、俺は別にレオナをからかったりしてる訳じゃなくて、純粋にお化けとか類が怖いのか聞いただけだ」
「ええ、そうよっ!あたしはお化けとかは怖くて苦手よ!お化け屋敷とか怪談話とかあたしにはとてもじゃないけど無理だね!」
目に涙を浮かべながらローダに訴える様にして答えるレオナ。ゾイド乗りとしてはローダよりも優れ、クロノと互角の実力を持つ彼女でも、実はホラー系(要はお化けとか)が大の苦手であった。
「まぁ、お化けは普通は見えるもんじゃないから怖いのも分からんでもないな。ただ俺がレオナを怖がらせる為にここに来た訳じゃないんだぜ」
「それじゃあ何だって言うのよ!?」
先程の件もあってか、若干キレ気味のレオナ。
「この景色の事さ」
ローダは右腕を高台の向こうの景色の方に向けて言った。
「・・・綺麗」
先程までの怒りが嘘の様に沈み、高台の向こうの景色に見入るレオナ。その景色は、夕日によってオレンジ色に染まった空に、建物の明かりがちらほらと点き始めている傭兵の街の風景が、良い感じにマッチしていた。
「だろ、俺は気分転換したい時とかは時々ここに来て街の景色を見たりするんだ、そうしてると意外と気持ちが落ち着いたりするしな」
「アンタもそういうロマンチックな一面があったりするんだね」
ローダの言葉にロマンチックな一面があると言いつつも、感心している様子のレオナ。
「ロマンチックとか言われても良くわかんねぇけど、今の時間帯も綺麗に見えるけど、夜は夜でまた違った風に景色が見えるんだぜ」
「そうなんだ、夜は今の時間帯とは違った風に見えるのか〜、だけど・・・」
「だけど?」
レオナの最後の一言に疑問を抱くローダ。
「・・・近くに墓地さえなければ完璧なのにな〜」
「あぁ、そういうことか」
お化け嫌いである為故にこんな事を言うレオナに、それを聞いて納得の表情を見せるローダ。
「そういや一つ聞きたい事があったんだが、レオナはいつまでこの街に滞在する予定なんだ?」
「予定か・・・、特に決めてはいなかったんだ。だからいつこの街を出るかなんて考えてもいないよ」
彼女はいつまでこの傭兵の街に滞在するか決めてはいなかった。そもそも彼女はこの街に明確な理由があって来た訳ではなく、流れ着く様な形でこの街にやって来ていたのだ。
「そうか、じゃあその間じいさん家で生活しなよ、昨日の様にまたすぐにOK貰えるし」
「いけない!そろそろおじいさんの家に戻っておじいさんに今朝の事謝らないと」
「そういえばそうだったな、よし、じいさんの家に戻るとすっか」
ローダとレオナは高台を後にし、急ぎ足でギルフォートの家へと向かって行った。
* * *
「ただいま〜」
ローダとレオナがギルフォートの家に帰って来た頃には、夕日も沈んでおり、暗くなっていた。
「返事が無いね、ひょっとしていないのかしら?」
「まさか!あのじいさんが夜出かけるなんて早々に無いぜ、それに茶の間の電気は点いてるみたいだし」
茶の間の電気が点いていながらも、その茶の間から何の返事も返ってこない。ローダ曰くギルフォートが夜に出かける事は殆ど無いという。
そしてローダ達は、明かりの点いている茶の間へと足を踏み入れた。するとそこにいたのは、出かける前と同じ場所で未だにうなだれていた。
「ったく、あのじいさんは・・・」
ローダは呆れた様子で何かを取りに行った。
「レオナちゃんは・・・、わしの事が嫌いじゃったとは・・・」
うなだれながらネガティブな発言を繰り返すギルフォート。
「いたぁっ!!」
すると突然束ねた乾いた厚紙で叩いた様な音が辺り一面に鳴り響いた。
「いつまで引きずってるんだよ」
「ローダ、それって!?」
「見た通りのハリセンだ」
ローダが持っていたのは、芸人がたまに突っ込みの時に使うハリセンであった。しかも良く見ると、何度も使われているのかハリセン自体少しボロボロになっていた。
「そりゃあ分かるけどさ、何でアンタがそんな物持ってるの?」
ローダがハリセンを持っている事を問いかけるレオナ。
「主にじいさんの暴走を制止したりとかに使ってる位かな」
ローダ曰くハリセンを使う理由は、ギルフォートが何らかの理由で暴走するので、それを止める為に使用しているとのこと。
「まるで何かのコントみたいだね」
思わず本音をこぼすレオナ。
「ぬお〜!お前さんはまたわしをそのハリセンで叩きおったな!」
ハリセンに叩かれた事でうなだれていた表情からローダに対する怒りの表情に変っていた。
「レオナがじいさんに謝りたいって言ってるんだ、少し位立ち直っとけよ」
ギルフォートとは対照的に冷静に物事を言うローダ、しかしその表情は呆れた様子とも伺えるものであった。
「お、そうじゃったのか!?」
そう聞いてキョトンとするギルフォート。
「あの、今朝はおじいさんの気持ちを考えずに傷付く様な事を言ってごめんなさい・・・」
反省の意を込めてギルフォートに謝罪するレオナ、しかも彼女自身無意識の内に上目使いをしていた。
「い、いやそこまで謝らんくても良いんじゃよ、わしもわしでいつまでも言われた事を引きずっていた事も悪いしのぅ・・・」
レオナに上目使いで自分に謝られるのを見て、思わず動揺するギルフォート。
「じいさんも単純だな・・・」
やれやれといった感じで見ていたローダ。
「おや、その服、今朝見た時とは違うような気がするのう」
レオナの服装が今朝見た時と違う事に気付くギルフォート。
「はい、この服はローダがあたしの為に買ってもらったんです」
「おまっ、それは言うなよっ!」
レオナの言う事に慌てて突っ込むローダ。
「ほほう、お前さんも随分とやる様になったのう」
「そういう変な目で俺を見るな、俺はただレオナがあまりお金持ってなかったから、レオナが欲しいものを買う時に代わりにお金を出してあげたんだよ」
事実を言うローダであったが、ギルフォートはますますローダを変な目で見る。
「そこまでするって事は、ひょっとしてローダ、レオナちゃんにホの字なのかな?」
「ち、違うに決まってるだろ!なぁレオナ」
「え・・・」
必死に否定しようとしてレオナを見るローダだが、レオナの顔は赤面しておりまんざらでもなさそうだ。
「おい・・・?」
「い、いやそんなあたしがローダの事好きなんて事は・・・ないからねおじいさんっ!」
レオナもギルフォートの言う事には否定をするが、ローダとは違って無理に否定してる感じであった。
「確かにわしがお前さん達の事に首突っ込むのはおかしな事じゃな、わしもしつこく詮索する気も無いしのぅ」
今のギルフォートの言葉に一安心する様子の二人、そしてギルフォートが茶の間から離れる間際、二人にこう言った。
「まぁ、お前さん達はまだ若い、悔いが出んように十分に青春を謳歌するのじゃぞ、ほっほっほっ」
そう言って茶の間から去るギルフォート。残った二人はきょとんとした顔をしていた。
* * *
翌日、ローダはいつもの様にクロノとゾイド乗りの練習をしていた。ただ一つだけ異なる点があった。
「ほら、あたしはここだよ!」
「ぬぅ!やっぱレオナは強いな、全然攻撃が当たらねぇ」
練習相手としてクロノの他にレオナも加わっていた。
「た〜っ!今の俺の実力じゃレオナに全然歯が立たないぜ!」
「アンタはあたし以前にクロノにだってまだ勝ててないじゃん、でもアンタならきっとあたしやクロノと同じ位強くなれる筈だから頑張んなさいよね!」
励ましの意味を込めてローダに向かって言うレオナ。
「あぁ、いつか必ずお前やクロノに勝ってみせるぜ!」
「その意気よ、ローダ」
そんなやり取りを静かに見ていたクロノがローダとレオナの元に近づいていく。
「お前達、俺が見ない内にすっかり打ち解けているみたいだな。レオナに至っては出会った時と服装が違うな」
「いや、ほら何というか・・・」
「あ、え〜っとこれはね・・・」
クロノの鋭い指摘に思わず動揺し顔が赤面する二人。しかしクロノは表情を変える事なく。
「別にお前らの事を細かく聞くつもりは無い、二人が仲良くしているのならばそれで良い、お前らの仲をどうこうする権利は俺には無いからな」
特にローダとレオナの関係について聞き出そうとはせず、干渉する様子を見せる様子も無いクロノ。彼はローダとレオナの仲を静かに見守るだけだった。
「もしかしてあたし達に気を遣ったのかな・・・?」
「・・・全くクロノらしいぜ」
その後もローダは、クロノとレオナによるゾイド乗りとしての修行を受けていた。しかしこの先に待ち受ける悲劇には、まだ誰も知る由も無かった。
#2 完、#3(最終話)へ続く