#0 始まりの出逢い | 著/Ryuka |
「うわ〜・・・、大きなビルだなぁ・・・」
僕は今、Zi-worksCorporationっていう会社の前にいるんだ。えっと、僕の名前はヒロキ、ヒロキ=バラートって言うんだ。どうして僕がこんな場所にいるのかというと、こんな事があったからなんだ。
* * *
昨日、ユートシティの近くにある森の中で、僕は木々を見ていた。
「この辺りは初めて来たけど、色んな植物が生えてるな〜、中には見た事も無いような花とかも咲いてるしね」
僕は地面に咲いている花を眺めていた。その時、森の中から何か音が聞こえてくる、その音は機械が動く様な音で段々こっちに近づいて来てる気がした。
「何か来る・・・、ゾイドに乗った方が良さそうかも」
僕はゾイドが止めてある場所へと急いで戻っていった。僕がゾイドに乗り込んで間も無くして目の前に1体のゾイドが現れた。
「あれは・・・、ウネンラギア、野良ゾイドかな」
目の前にいるウネンラギアからは人が乗ってる気配は感じない、多分群れからはぐれた野良ゾイドだと思う。そのウネンラギアは僕のゾイドを見るなり、いきなり吠えだし、戦闘態勢に入っていた。
「どうやら僕に対して敵意をむき出しにしてるみたい、戦うしか無さそうだね」
僕は操縦レバーを握り締め、僕が乗るコマンドウルフを動かす。ウネンラギアもそれに合わせ飛び掛かって来た。
「うわぁ!」
僕のコマンドウルフは、何とかスレスレの所でかわしたが、バランスを崩してよたついてしまった。その隙を突くようにウネンラギアは体当たりを仕掛け、よたついていた僕のコマンドウルフはかわせずまともに食らい、吹っ飛ばされてしまった。
「いてて・・・、まだ思った通りゾイドを動かせないや、でも負ける訳にはいかなんだ」
コマンドウルフは立ち上がり、ウネンラギアに向かってビーム砲を放つが、かわされてしまう。
「そ、そんな・・・」
ウネンラギアは、こちらに向かいながらハンドガンを乱射してくる。コマンドウルフはその銃弾の雨を浴びてしまい、動けない。そしてウネンラギアはコマンドウルフに飛び掛かり、爪を振りおろそうとする。僕はもうダメかと思った。だがその時、横からビーム砲が飛び、ウネンラギアに命中する。
「ふぇ?どこから?」
横を見てみるとコマンドウルフが1体いた。色は僕のと同じ白だった。
「何やら森の方で騒がしいから来てみたら野良ゾイドがいたとわな」
起き上ったウネンラギアがそのコマンドウルフに向かってハンドガンを撃ちながら走って行く。
「その程度の攻撃で私に当てられるとでも思ったか」
そのコマンドウルフは攻撃を軽やかにかわし、ウネンラギアにビーム砲を撃ち、そしてすかさず接近して爪で攻撃し、ウネンラギアを吹っ飛ばした。
「す、すごいあの人・・・」
「君、怪我はないかね」
そのコマンドウルフは、キャノピーを開け、中から乗っている人が降りて来た。見た感じおじさんであった。
「あ、はい・・・」
僕はシートのベルトを外し、キャノピーを開け、コマンドウルフから降りる。
「君はゾイド乗りの様だが、まだ乗り慣れていない感じだな」
「そうですね、まだゾイドに乗って日が浅いので」
「そうか、そういえばまだ君の名前を聞いてなかったな」
と、その人は僕の名前を聞いてきたので、助けてくれたから悪い人では無いと思って、僕はその人に正直に名乗った。
「えっと、僕はヒロキ=バラートです。先程は助けてくれてありがとうございます」
「礼はいらぬよ、私の名はゴルザ、この先のユートシティにあるZi-worksCorporationで働いている者だ」
「そうなんですか」
確かZi-worksCorporationって、元々はバラッツのカスタマイズメーカーだったけど、今は一大ゾイド企業として成長してるって聞いたことがある。
「そうだ、折角だからZi-worksCorporationの入社試験を受けてみるのはどうかね?」
「で、でも僕、まだ12歳ですよ!」
「年齢の心配はいらん、Zi-worksCorporationのパイロットとして入社試験に受ける事だ。本来なら筆記試験と技能試験があるが、君には特別に技能試験だけにしておこう。君はゾイド乗りとしての素質は十分にあり、まだまだ伸びる気がするんだ。決して悪い話では無いだろう」
「あ、ありがとうございます。その件については喜んで受けてみたいと思います」
僕はゾイド乗りとして成長出来るのであればそれでいいと思った。それに、ゴルザさんには助けて貰ったから断る訳にもいかないからね。
「それじゃ明日、この書いてある場所に来てほしい、それではまた」
そう言うとゴルザさんは僕に一枚の紙を渡し、コマンドウルフに乗ってこの場から去って行った。僕は貰った紙を開いて書いてあるものを見た。
書かれてたのは、Zi-worksCorporationの場所を示す手書きの地図だった。その地図は説明文等が付いていて、とても見やすいものだった。
「この示されてる場所で入社試験をやっているのか・・・」
僕もコマンドウルフに乗って、ユートシティへと向かう事にした。
* * *
こうしてユートシティにある宿で一夜を明かし、僕はZi-worksCorporationの前にいた。
「この場所で合ってるんだよね、さっき見た看板にも書いてあったからきっとそうだよね」
そう自分に言い聞かせ、僕はZi-worksCorporationのビルの中へと入って行った。
「えっと、この先を曲がった先が試験会場なんだよね、でもどんな試験なんだろうな〜」
そう考えながら歩いていた僕は、丁度曲がり角へと差し掛かっていた。
「うわっ!」
「え!?」
曲がり角を曲がろうとした時、突然目の前の走って来た人とぶつかってしまった。そしてお互い尻もちをつく。
「いてて・・・」
「いった〜・・・、ちょっとアンタ、いきなり目の前出てこないでよ!」
ぶつかった人は、僕と同じ年位の紺色の髪の女の子だった。僕とぶつかった事で怒ってるみたいだ。
「ちゃんと前見て歩けよな、危ないだろ!」
「ご、ごめん・・・」
そう言って、その女の子は走り去っていった。それにしてもあの子だって走ってたから、それこそああいう場所とかだと危ない気がするんだけどなぁ・・・、何か男の子みたいな女の子だったな。
「もしかしてあの子も試験受けに来たのかなぁ・・・?そんな事より試験会場へと向かわないとね」
僕は試験会場の場所へと向かっていった。
「・・・ったく、ちゃんと前見て歩けってんだよ」
さっきぶつかった奴に対してその場から去った後でもぶつくさと文句を言うあたし。あたしの名前はイズキ=ラピレス、このZi-worksCorporationは、あたしの父さんが築いた会社なんだ。でもあたしは社長の娘だからって優遇されたりするのが嫌だから一般の人と同じ様に入社試験を受けているんだ。まぁ、父さんもあたしを優遇するつもりは無かったからね。その辺はあたしと一緒かな。
「よ〜し、昨日もちゃんと対策勉強してあるからきっと大丈夫!」
これから受ける試験に対して準備万端だと自分に言い聞かせるあたし、周りからは勉強してる様なイメージが無いって良く言われるけど、勉強は嫌いな方じゃない、じゃあ好きかって言われるとはっきりとは答えられないけど・・・。あたしは目標の為ならどんな努力だって惜しまないから。
「いよいよ本番、今までの成果を全部出し切ってやるんだから!」
そう言ってあたしは筆記試験の会場へと向かった。
僕は技能試験の会場の前に着いた時、係員らしき人が僕に近付いてきた。
「君がヒロキ=バラート君かい?」
「はい、そうですけど」
僕の名前を聞いて来るって事は何かあったのかな?も、もしかして「お引き取り下さい」とか!?そんな事はないよね?昨日ここにいる人に誘われたんだからね。
「君の事はある人から聞いてるよ、今は筆記試験中だから、技能試験始まるまでもう少し待っててくれないかな?」
「そ、そうだったんですか、よかった〜」
ホッと腕を撫で下ろす、てっきり引き返されるかと思ったよ、どうやら僕の考え過ぎだったみたい。
「どうしたんだい、急に安心なんかして、試験はまだなんだよ」
僕の様子を見て不思議そうな顔をする係員の人。
「そうですよね、本番はこれからなんですよね」
「あぁ、そうだ。頑張れよ、あの人が君の事気に入ってるみたいだしな」
そう言って係員の人は僕から離れて行った。それにしてもあの係員さんが言ってた“あの人”って、誰の事なんだろう・・・
「それにしても待たなくちゃいけないのか・・・、あそこのベンチにでも座って待ってよ・・・」
僕は技能試験が始まるまで近くにあったベンチに座って待ってる事にした。
「何か僕だけ特別扱いされてるみたいで、他の人には何か悪い気がするな〜・・・」
確かに考えてみれば僕だけ筆記試験を受けていないから特別扱いって事になるんだよね。嬉しいには嬉しいけど、それと同時に自分だけ特別扱いっていう罪悪感も感じていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」
僕はいつの間にか寝てしまった。
* * *
「すぅ・・・すぅ・・・」
数時間後、僕は相変わらず座りながら眠っていた。とそんな時
『まもなく、Zi-worksCorporation入社試験、技能試験を始めますので、対象者の方は会場の方にお集まりください』
「うぇっ!?も、もうそんな時間!?そういや僕いつの間にか寝ちゃってたんだっけ・・・」
慌てて飛び起きる僕、寝ぼけ眼をこすり、大きなあくびを一つする。そしてハッと気づく。
「そんな事よりも急いで行かなくちゃ!」
慌てて会場へと走って行った。
何とか開始前に着いた僕は、こんな話を耳にした。
「なぁ、今回の筆記試験、結構難しかったんだが、一人だけ満点を取ったものがいるらしいぞ」
「マジかよ!?あんなの満点取るなんて俺には絶対無理な話だぜ」
「俺もだよ」
その話を聞く限り、ここの筆記試験って結構難しいんだなって思った。でもそんな試験で満点取れるなんてどんな凄い人なんだろう。
そうして僕は会場に入り、他の参加者と同じ様に並んで待っていた。
『え〜、これよりZi-worksCorporation入社技能試験を始めるのだが、その前に筆記試験での成績を発表する。あそこにある電光掲示板に載っていない番号の者は、速やかに退場してもらう』
「番号って、これの事かな」
ポケットから出したのは、入口で渡された番号札の事の様だ。これが受験者番号みたいだ。
「僕の番号って出るのかな・・・」
特別扱いされてはいるけど、やっぱりそういった面では心配になるものだよね。
そして電光掲示板に一斉に番号が表示される。
「あ、僕の番号あった!よかった〜」
番号があったので喜んだが、周りを見てみると、僕と同じ様に喜ぶ者、そしてうなだれてこの場を後にする人達とはっきり分かれた。
「現実は厳しいものなんだよな・・・」
今ある現実の厳しさを目の当たりにした。だけど僕だっていつまでも喜んではいられない、これからが本番だもの。
「あ、あたしの番号あった!」
という事は無事第一関門突破、残りは技能試験、ゾイドに乗っての試験って訳だ。
『以上の者が技能試験を受ける事が出来る。因みに今回の成績トップは何と100点中100点のイズキさん、しかも最年少の12歳だ!』
「ふぇっ!?あ、あたしぃ!?」
ま、まさかあたしが満点!?確かに結構出来たとは思ってたけど、まさか満点だとは思わなかった。ふと周りを見渡すとみんなあたしの事を見ていた。何故なら、電光掲示板のすぐ近くにあるモニターにあたしが移されていたからだ。しかもボソボソとあたしの事が言われている。
「あいつすげぇな」
「あの子満点って、凄い子なのね」
「うぅ・・・、これはこれで凄く恥ずかしい・・・」
折角満点取れても、みんなの晒しものにされるので、あんまり嬉しくない。
その頃僕は、成績トップの事を聞いて驚いていた。
「す、凄いなぁ・・・、でもあの子どこかで見たような・・・」
モニターに映ってる人を見て思った、今日どこかで見たような気がするんだよな。
「う〜ん誰だっけなぁ〜・・・、あ、思いだした、あの時の!」
そう、その子は今日会場に向かう時に曲がり角でぶつかった子だ。あの子あんなに頭良かったんだ、とてもそんな風には見えなかったなぁ。
『それでは、15分間の休憩の後、またこの場所に集まってもらおう。一旦解散』
参加者達はとりあえず一旦バラバラに行動を始めた。僕はあの女の子に話し掛けてみようと思った。あの子の事が凄く気になるんだ。
15分という休憩時間、何に使えば良いのかあたしは迷っていた。
「ここはやっぱり休んでおくべきかな・・・、それとも何か準備でもしといた方が・・・」
「あ、あのっ!」
「ぬあぁっ!」
突然の事で驚くあまり変な声を出してしまった。声がした方向に向くと、一人の男の子がいた。
「いきなり何?・・・ってあーっ!アンタはあの時あたしとぶつかった!」
「うん、あの時ぶつかった人だよ」
誰かと思えば、あの時ぶつかった何かナヨナヨした感じの男の子。あたしはあの時の怒りが沸々と再燃し始めた。もしかして謝れって言いに来たのだろうか!?
「で、アンタはあたしに何か用なの?」
少しイラついた口調で話す。実際イラついてたんだけど。
「いや、何て言うか・・・、そのさっきは悪かったかな〜って、僕もあの時上の空だったから」
「え?」
軽く笑顔で答えるアイツに、あたしの怒りはいつの間にか沈んでいた。というかアイツの笑顔を見てると怒る気になれなくなった。
「い、いやあたしも周りの事考えずに走ってから・・・、その、あたしも悪いって言うか・・・」
何だろ、アイツといると何か調子が狂う、アイツのペースに引き込まれそうになる。
「じゃあお互い様って事だね」
笑顔でそう言うアイツ。あぁ、何か複雑な気分になってきたー
「あぁ・・・、でも技能試験では負けないんだからっ!」
「それは僕だって同じだよ」
何かアイツには負けたくない、でもどうせなら一緒に受かりたい、その二つの気持ちが混じり合い、あたしの中ではよく分からない状態になってた。
「それと、名前言い忘れてたけど、あたしはイズキ、アンタは?」
「ヒロキです」
「ヒロキね、覚えておくよ。それじゃ技能試験でな」
「うん、そうだね。じゃ技能試験でね〜」
そう言ってあたしの元から走り去って行ったヒロキ、その無邪気な姿は年相応な感じがした。受験者リスト見たけど、ヒロキはあたしと同じ年の12歳みたいなので、きっと仲良く出来そうな感じがした。
「って、何考えてんだあたし、今は目の前の事に集中しなきゃ!」
あたしは気持ちを切り替えて、もうすぐ始まる技能試験へと挑む。
* * *
『これより、技能試験を始める。それに伴い社長であるゴルザ=ラピレス殿が君達に一言です』
「こんにちは、第一関門を見事突破したもの達よ、次の技能試験も悔いの無い様に頑張りたまえ」
え、ちょっと待って、ゴルザさんってこの会社の社長さんだったの〜!?という事は、僕は凄い身分の人にスカウトされたって事なの〜!?僕は驚きながらも、必死で平常心を保とうとしていた。こう言う場で態度で示すとかなり目立つから。
『それでは、技能試験について説明します。受験者同士で1対1のトーナメント形式で2ブロックに分かれて戦ってもらいます。使用するゾイドは、試験用のコマンドウルフに乗って頂きます。一つ言っておきますが、これは試験の一貫ですので、反則行為は見つけ次第失格とさせて頂きます。各ブロックの勝者1名づつに、戦闘面の評価が良かった数名が、晴れて合格となります。それでは頑張って下さい』
すぐに別の係員の人数人が、2つのトーナメント表が書かれたボードを運んできた。僕はそのボードを見る。
「僕は・・・、Bブロックみたいだ」
僕の名前はBブロックのトーナメント表にあった。イズキちゃんはBブロックにいないって事はAブロックって事かな。
「へぇ、アンタはBブロックかぁ」
横から声が掛かってきた。僕は横へ振り向くと、紺色の髪の女の子、どうやら声の正体はイズキちゃんだったみたい。
「あたしはAブロックだから直接戦う事はないから、少し残念だな」
「どうして?」
一緒のブロックじゃないのが残念ってどういう事だろう?別々の方が一緒に合格出来るのに。僕はイズキちゃんの言った事に疑問を持っていた。
「か、勘違いするなよ、別にアンタと一緒にいたいって訳じゃないんだからな!」
顔を赤くしながらも、照れ隠しな感じで言うイズキちゃん。ところで何でイズキちゃん顔赤くしてんだろう・・・?
「う、うん分かったよ。それじゃお互い頑張ろうね」
「あ、あぁそうだな、お互い頑張ろうな」
そう言って僕とイズキちゃんは、それぞれのブロックの集合場所へと向かって行った。
こうして技能試験というトーナメントバトルが始まった。僕は途中危なげながらも勝ち進み、何とかブロック優勝を決めた。決勝では危なく負けそうになったったけど、最後まで諦めず挑みかかった甲斐あって、ボロボロになりながらも辛うじて勝利したんだ。
「てやぁぁぁっ!!」
自分の番が終わり、Bブロックの決勝戦を見ていた。どうやらイズキちゃんも決勝戦進出したみたいだしね。
コマンドウルフの爪攻撃で、相手のコマンドウルフは吹き飛ばされ、壁に激突する。攻撃したコマンドウルフもかなりボロボロだった。
『戦闘不能確認、勝者、イズキ!』
「やった、勝った!」
イズキちゃんの喜びの声が会場内のスピーカーから聞こえてくる。
「イズキちゃんも勝ったから、僕と一緒に合格って事になるよね、良かった、知ってる人がいてくれて」
周りが知らない人だらけだったら僕どうしたらいいのか困ってたと思うけど、イズキちゃんがいてくれたら不安にならずに済むかもしれない。
勝負を終えて、会場の入り口付近に戻って行くと、そこには嬉しそうな顔をした焦げ茶色の髪で、やや赤っぽい瞳の女の子みたいな男の子があたしを迎えてくれた。
「おめでとう、イズキちゃん」
その正体は、勿論ヒロキであった。ヒロキは嬉しさで、瞳を輝かさせさせてる様にも見えた。
「ありがと、そっちも優勝したみたいだな、おめでとう」
「うん、ありがとう」
ヒロキも優勝したって事は、共に合格って事で、パイロットとして一緒に働く事になるのか、同年代の子がいるってのはあたしに取って安心出来る、だって周りはあたしより年上ばかりだし・・・
それに何かヒロキの事が凄く気になる、もっと話してヒロキの事を良く知りたいと思っていた。あたしは勇気を振り絞って、ヒロキにこう言った。
「あ、あのさ・・・、合格発表終わってからあたしと一緒に来て・・・くれないかな・・・?」
普段言わない言葉に恥ずかしながらも、戸惑いながらも口にする事が出来た。あたしの顔は真っ赤に染まっていた。
「うん、いいよ。僕もイズキちゃんと仲良くしたかったとこなんだ、同じ歳の人イズキちゃん位しかいないから」
「ホント・・・、嬉しいな・・・」
彼の無邪気な笑顔は、あたしを心から安心させてくれた。ヒロキみたいな子と仲良くなれるなんて嬉しい話だよ。
「それじゃZi-worksCorporationの入り口付近に来てくれない?」
「うん、分かったよ」
「絶対に約束だからな〜」
ヒロキは笑顔であたしに答えた。あたしも笑顔でヒロキに答える。今からでも凄く楽しみだな・・・
『それではこれより合格発表を行いますので、最初集まった場所へと集まって下さい』
合格発表を始める放送が流れた。あたしたちも行かなくちゃね。
「じゃあヒロキ行こうっか」
「うん、そうだね」
あたしはヒロキと共に最初来た場所へと向かって行った。
『これより合格者の発表を行う、まずは戦闘面の評価が良かった者から発表していく』
各ブロックの優勝こそ出来なかったものの、高い評価を受けた人達が次々と発表されていく、そしていよいよ優勝者の発表が始まる。
『続いて、激戦の中、見事優勝を果たしたものを発表する』
次第に周りがざわめき出す。やっぱり他の人も気になるよね、こういうのって。
『Aブロック優勝者、ヒロキ=バラートさん。Bブロック優勝者、イズキさん』
僕とイズキちゃんの名前を呼ばれた。頑張って優勝した分、呼ばれた時の喜びも大きくなるもんだよね。
『合格者の皆さんの今後の予定は、後日発表します。ではこれにて入社試験を終了します。皆さんお疲れ様でした』
こうして僕達が挑戦したZi-worksCorporationの入社試験は幕を閉じた。
そして僕はイズキちゃんの約束を守るべく、待ち合わせの場所へと向かった。
* * *
入社試験が終わり、あたしは一足先にZi-worksCorporationの入り口前でヒロキを待っていた。
「う〜ん・・・、やっぱ少し早かったかな・・・」
まだ来ないかなと思っていた時に、あたしを呼ぶ声がZi-worksCorporationのビルの中から聞こえて来た。
「ゴメ〜ン、少し遅くなっちゃった」
ヒロキは走ってきたのか、息を切らしてた状態だった。
「全く何やってたんだよ」
「出口が分からなくて少し迷ってた・・・」
ヒロキの表情を良く見てみると、「やっと出られたよ〜」と言わんばかりの表情をしていて、目には涙が浮かんでいた。
「それなら中にいる人に出口どこか聞けば良いだけじゃん」
「あ・・・、そうだったよね」
「そうだったよねって、忘れてたのか」
「うん・・・」
あたしはヒロキの行動に思わず呆れてしまった。でもそこがアイツらしいかもしれないな。
「お前ここで働くんだぞ、本当に大丈夫か?」
「多分大丈夫だと思うよ・・・」
ヒロキの自身の無い言葉に、少し苛立ちするあたし。何かはっきりとしないなぁ、もう!
「その調子じゃ全然大丈夫じゃないだろ!それにお前何ていうかさ・・・、その、ナヨナヨしてて頼りないっていうか・・・、だからあたしがお前の事守ってやるから・・・」
何言ってんだろあたし、思わず勢いで言っちゃったけど、ヒロキを守ってやるって・・・、アイツは男のはずなのに、何かあたしよりも女の子みたいな感じだし、それにアイツの頼りない姿を見てると守ってあげなきゃって感じになっちゃうんだよな。不思議なものだよな、こういうのって。
「あ、ありがとう・・・、でも女の子のイズキちゃんに守ってもらえる様じゃ、僕って頼りないよね・・・」
少ししょんぼりとするヒロキ。ヒロキの言ってる言葉は何か勘に触るけど、怒るに怒れなかった。というか複雑な気持ちだった。
「何落ち込んでんだよ、そりゃ確かに頼りないかもしれないけどさ、だからその・・・、上手く言えないけど、自分に自信持った方が良いと思うんだ」
「そ、そうなの?」
「そうだって、ヒロキならきっと出来るよ」
あたしは落ち込んでるヒロキを、上手く表現は出来ないけど、あたしなりに励ましてあげた。それを聞いたヒロキは安心そうな表情をした。
「そうだよね、自分に自信を持てばいいんだよね。ありがとう、イズキちゃん」
自分を励ましてくれた事に感謝しているヒロキ、あたしは何だか急に恥ずかしくなった。
「か、勘違いするなよ!あたしはただ、ヒロキがいつまでも頼りないんじゃ困ると思って言っただけだぞ!ホントだからな!」
顔を紅潮させながらも、意地を張って否定しようとするあたし、どうしてあたしってこう素直になれないんだろう・・・
「分かってるよ、それじゃそろそろ行く?」
「あぁ、そうだな。行こうか」
あたしとヒロキはZi-worksCorporationを後にした。
Zi-worksCorporationから少し離れたところの街の広場で、あたしは、ヒロキと一緒のベンチに座っていた。
「なぁ、お前どうしてZi-worksCorporationの入社試験なんか受ける事にしたんだ?」
前から気になっていた事をヒロキ本人に直接言った。
「う〜んとね、昨日野良ゾイドに襲われてたところを、ゴルザさんって人が助けて貰って僕をスカウトしたんだ。まさかゴルザさんが社長だったとは驚いたなぁ」
「それってあたしの父さんの事?」
「え、えぇぇーっ!?イズキちゃんってゴルザさんの子だったのー!!?」
ヒロキは凄く驚いていた。そりゃ教えてないから無理もないか。
「そうだよ、あたしの本名はイズキ=ラピレス、父さんであるゴルザ=ラピレスの一人娘だよ。だから入社試験の時、父さんに頼んで苗字を隠してたんだ」
「何で?」
「一応あたしは社長の娘だから、周りから特別扱いされたって思われたく無かったから、他の人に知られない様にする為にさ」
あたしは“社長の娘”だからって、特別扱いされたりするのが嫌だった。そういうのは関係無しに他の参加者と同じ様な条件で挑みたかったからのが一番の理由さ。
「そうだったんだ、それで最初僕にも苗字言わなかったんだ」
「まぁ、そうなんだけどな」
「じゃあ、これから一緒になるって事でよろしくねイズキちゃん」
これもさっきから思っていたんだけど、ちゃん付けされるって何か自分には合わない気がするんだよな〜。
「その、一言いい?」
「なぁに?」
「あたしの事さ、“イズキちゃん”じゃ無くて、“イズキ”って呼んで欲しいんだ。ちゃん付けされるとどうもむずったいっていうかさ」
「そう、じゃあ本当にイズキでいいの?」
やっぱり会って間もない人にいきなり呼び捨てで呼べって言われると、戸惑うよな、普通。
「うん、そうした方があたし的にはいいかな」
あたしは“ちゃん”とか“さん”とか付けられるより、呼び捨てで呼ばれる方が気が楽だし、あたしに合ってる気がするしね。
「そ、それじゃあ改めてよろしくね、イズキ。・・・うわぁ、何か恥ずかしいなぁ〜・・・」
恥ずかしさで顔を紅潮させるヒロキ、こうして見ると何か可愛らしいなぁ・・・
「あ、あぁ、よろしくな。これから大変になるだろうけど一緒に・・・って」
「すぅ・・・すぅ・・・」
ヒロキはあたしの肩に寄り掛かってすやすやと寝息を立てながら眠っていた。突然の事で恥ずかしかったけど、でもよく考えたら入社試験に加えて、迷ってたのもあったからよっぽど疲れてたんだろうね、あたしも今日は結構疲れたなぁって思う。
「ふわあぁぁ〜・・・、そういうあたしも疲れて眠くなってきたなぁ・・・」
「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」
あたしもヒロキに寄り掛かる様な感じで、すやすやと寝息を立てて眠った。その姿はまるで、2人が寄り添ってる様にして眠っていた。それと、あたしは気付いたんだ、ヒロキの事が、いつの間にか好きに・・・なっていた事を・・・
* * *
「やはり、私の目に狂いは無かった様だな」
Zi-worksCorporationの社長室でゴルザは、窓の外を眺めていた。
「恐らく、ヒロキ君とイズキがZi-worksCorporationを何らかの形で大きく変える存在になるのかもしれないな」
そう悟ったゴルザ、そしてそれが現実になろうとはまだ誰も予測していなかった。
完