#1 始まりの風
著/Ryuka

 

『ぼくねぇ、おおきくなったらおとうさんみたいなゾイドのりになるんだ』

 

『おぉ、そうかそうか、お前なら父さんみたいな立派なゾイド乗りになるのもそう遠くもないかもしれないぞ』

 

『え、ほんと!?やったぁー!』

 

本当あれは何年前の事だろう、あの時父さんが言った言葉、丁度あの頃を境に父さんは行方知らずとなった。

僕があの時言った言葉、あの時の僕はまるで遠い夢かと思っていた。だけど結果としてゾイド乗りになった自分が今ここにいる。

「あの時言った事が現実になるなんて、ホント不思議なものだね」

そう森の中で独り言を言っているのは僕、ヒロキ・バラート。現役のゾイド乗り、しかもユートシティという近代都市にあるゾイドを取り扱い、パイロットを育成する企業、「Zi-worksCorporation」のエースパイロットとして所属しているんだ。

「今、父さん何しているのかな?生きてるといいけど・・・」

僕は目の前の花に向けて言っていたその時だった。

ピピピピピ・・・

突然携帯から電話が掛かってきた。僕はポケットから携帯を出し、画面を開いて着信者を見る、どうやらライサーからだったので電話に出る事にした。

「もしもし、ヒロキだけど、どうかしたの?」

「あぁ、丁度依頼が入ったんだ、至急戻って来てくれ」

「うん、すぐ戻るよ」

そう言って僕は電話を切る。今日も依頼が入ってきたみたいだ。Zi-worksCorporationはゾイドを改良・開発以外に、所属するパイロット達に、周辺地域からの依頼を受け付けている。パイロット達は、ゾイドに乗って依頼者の元へ向かって決められた依頼を解決する。依頼の内容は依頼者によって様々なのがあるんだけどね。

「いけないいけない、急いで戻らないと」

僕は急ぎ足で僕の愛機であるブレイジングウルフSAの元へと向かった。

 

* * *

 

僕は急いでZi-worksCorporationへと戻り、社長室へと向かう。

社長室の扉が見えて来たところから走るスピードを緩め、扉の前で足を止め、大きなため息を吐き、扉を開けた。

「すみません、遅れました」

「もう!遅い、ヒロキ!」

そう声を荒げて僕に言ったのは、イズキ・ラピレス、僕より一つ年下だけど、実質的には同い年の女の子、僕と同じくZi-worksCorporationのエースパイロットをしているんだ。外見は可愛いらしいんだけど、気が強く、男勝りな性格で、多少荒っぽいところがあるんだ。

「お前何処行ってたんだ?」

もう一人の方は、さっき僕に電話を掛けたライサー・シャナル。僕とイズキより二つ年上で、僕とイズキと同じZi-worksCorporationのエースパイロットなんだ。ライサーは、このユートシティから東にあるレグス王国って言う王国の出身なんだって。

「ちょっと街外れの森に行ってたんだ」

「何の為に?」

イズキがその事について問い掛けてくる。

「うん、森の中の植物の様子が気になって見に行ってたんだ」

「ヒロキらしいな、だけど俺達に黙って行くのは無いだろう」

「そうだね、今度から気を付けるよ」

そういえばイズキやライサーに黙って森に行ったんだっけ、すっかり忘れてたよ・・・。そんな事よりも依頼の件について聞いておかなくちゃ

「社長、依頼の事でお聞きしたいのですが」

「あぁヒロキ君か、そういやまだ依頼の事を聞いていなかったな。依頼の内容なのだが、街の西側の方でゾイド1機が暴れているそうで、治安局もかなり手を焼いているとの事だ」

物凄い威厳のありそうな態度で僕らに話し掛けるのは、このZi-worksCorporationの社長、ゴルザ・ラピレスさん。元はへリック共和国の軍人で、「射撃の名手」と呼ばれていたらしい。そして軍から身を退いて、たった一代でここまでこの会社を成長させた人でもある凄い人で、またイズキのお父さんでもあるんだ。

「だから僕達が呼ばれたんですね」

「まぁ、そう言う事だな。それで今回はヒロキとイズキにその暴走ゾイドを止めに行ってもらう」

「えぇ!?あたしがヒロキと一緒に行くのっ!?」

驚いたような様子で大声で言うイズキ。

「そうだ、なにか愚問でもあるのか?」

と、表情一つ変えず言う社長、一方のイズキの方は顔を真っ赤にしながら僕の方をちらちら見ながらこう言った。

「い、いや、別に悪いって意味じゃ無いんだけど、何て言うかその・・・」

いまいちハッキリしない感じで言うイズキ。社長もイズキの様子に不思議そうに首を傾げていた。すると横にいたライサーが、

「ヒロキだと何か頼りない感じがするとか?」

「そう!それなんだよ!・・・って何言わすんだよ!」

「ぐはぁ!」

イズキのパンチが、ライサーの顔面にヒットし、鈍い音を立て、勢いよく吹っ飛んでいく。

「うわぁ・・・」

その一部始終を見ていた僕は思わず言葉を失った。

「ったく、ライサーったら何言わせんだよ全く!」

ライサーを殴ったイズキはと言うと、不機嫌な顔で頬を膨らませていた。

「イズキ、何もあそこまでやらなくても・・・」

僕は怖々ながらイズキに話し掛ける。

「いーや!アイツにはああまでしないとダメなんだよっ!人の事散々からかうしさ」

「だから、それは気にし過ぎなんじゃ・・・」

「うるさいっ!それにあたしはヒロキの事が・・・」

突然イズキが言葉を詰まらせる感じで、話を中断した。僕はそれが気になったので、イズキに問い掛けてみた。

「僕がどうかしたの?」

「な、何でも無いから気にするな!」

「そう・・・」

何か煮え切れない感じだった。イズキは本当は僕に何を言いたかったんだろうか?僕はイズキにその事を追及したりはしなかった。だって、下手するとライサーの二の舞になるかもしれないし。

「イズキ、無闇に人を殴ってはいかんだろう」

「父さん・・・いや社長、すみません」

「全くだぜ・・・、何も本気で殴るなよな」

ライサーは、殴られた箇所を手で押さえながらイズキに言った。僕から見ても痛々しい感じだった。

「ライサーに言ったつもりじゃないぞ!」

「言われなくても分かってるって、社長に対して言ったんだろ」

「あぁ、そうだよ」

またしても不機嫌な顔でライサーに言うイズキ。

「まぁまぁ・・・」

「そんな事よりもヒロキ、さっさと行くぞ」

「う、うん、そうだね。それじゃ社長行って来ます」

「くれぐれも気を付けるのだぞ」

そう言って僕とイズキは社長室を後にし、格納庫へと向かった。

 

「う〜ん、ヒロキ君は良いとしても、イズキの方が少し心配だな」

「あまり派手にならなければ良いですけどね」

社長室に残ったライサーとゴルザは、ヒロキ達、特にイズキの方を心配していた。

「それにしても大丈夫かねライサー君、氷のうでも持ってこようか?」

「そうして貰えると助かります」

「すまんな、我が娘ながらとても手の掛かる奴でな」

「その気持ち、分かる気がします」

ゴルザの言い分に同感するライサーであった。

 

* * *

 

その頃僕達は言うと、僕が乗るブレイジングウルフSAと、イズキが乗るクイックサイクスと共に、暴走ゾイドが暴れているという場所へと来ていた。思いの他、あまり人通りの少ない通りだった。

「君達がZi-worksCorporationの者達?」

治安局仕様のシールドライガーに乗っている女性局員が僕達に問い掛ける。

「はい、そうです」

「その暴れてるゾイドってのは何処にいるんですか?」

「あそこにいる3体がそうよ」

治安局の女性局員が言うに、目の前にいる3体のコマンドウルフが暴走ゾイドの事、ただそのゾイドは何故か火器が装備されてなく、ひたすら建物等に突っ込んだりしていた。中のパイロットは大丈夫なんだろうか?そもそもこのままだと街の人達が危ない。

「さぁて、あたしが全部ボッコボコにしてやるんだから」

と、気合い十分のイズキ、だけど街の中だからあんまり派手に戦うのは良くないとおもうんだけど・・・

「ねぇイズキ、気合いが入ってるのは分かるけど、あんまり派手に暴れないでね、ここ街の中だから」

「大丈夫だって、心配いらないよ」

胸を張って言うイズキ、逆にそれが怖かったりする。

「あの子、本当に大丈夫なのか?」

「いや、多分大丈夫じゃないと思います・・・」

「私もそう思っていたとこだ」

僕と女性局員は、イズキの行動にとても心配していた。街を壊しかねないかもしれないと。

「どうやら私達に気付いたみたいね」

コマンドウルフは、こちらに僕達に気付き、猛ダッシュで向かってくる。とイズキのクイックサイクスが勢い良くコマンドウルフに向かって走り出した。

「やっぱりイズキのいつもの癖が始まっちゃったよ・・・」

クイックサイクスは、バスタークローを向け、コマンドウルフを突き刺すつもりだ。もしかわされたら、勢い余って建物に突っ込んでしまう。それだけは何としても起こしてはいけないので、僕は慌ててイズキに攻撃を止める様に言う。

「バスタークローで攻撃しちゃダメイズキ!」

「何でだよヒロキ!」

イズキのクイックサイクスが止まり、イズキは納得のいかない様子で僕に聞いてくる。

「ここは街の中なんだよ、かわされたりとかしたら建物とかにぶつかって建物が壊れちゃうよ」

「それに事を大きくすると、返って何言われるか分からないわよ」

「わ、分かったよ。で、あたしは何をすればいいんだ?」

自分が何をすればいいのかと聞いてくるイズキ。すると、僕の代わりに女性局員の人が指示を出す。

「あなたにはコマンドウルフ達を引き付けて欲しいの、その間に私ともう一人の子が最低限の射撃でコマンドウルフ達の動きを止めるから」

「何かあたしには似合わない役割だな・・・、でも分かったよ」

クイックサイクスは、バスタークローを戻し、コマンドウルフ達の前に躍り出た。

「あたしのクイックサイクスに追いつけるもんなら追いついてみなよ」

イズキはコマンドウルフ達に挑発する様にして、コマンドウルフとは逆方向に走り出した。コマンドウルフ達は、一応挑発に乗ったらしく、そのままイズキの跡を追い始めた。

「どうやら順調のようね、それじゃ私達も隙を見て攻撃しましょう」

「はい」

未だにクイックサイクスの跡を追い続けるコマンドウルフ達、だがシールドライガーとブレイジングウルフSAが、隙を見つけて1体、また1体とコマンドウルフに当て、動けなくした。

(それにしてもホントこれあたしらしくないな〜)

そんな事を思っていたイズキに、残ったコマンドウルフがクイックサイクスに向け飛び掛かって来た。

「な、何だと!?」

突然の事に驚くイズキ、するとコマンドウルフに銃弾が当たり、地面へと落ち、動かなくなった。

「あ、危なかったぁ〜」

間一髪の所を救われ、安堵の表情を浮かべるイズキ。

「イズキ、大丈夫?」

「何とか大丈夫、ちょっと危なかったけど。もしかしてさっきのって、ヒロキがやったの」

「うん、そうだよ」

「あ、ありがと・・・、それと、さっきあんな事言ってゴメン」

「ううん、気にしてないから」

「そう、良かった・・・」

イズキの顔はほのかに赤みを帯びていた。僕にはその理由がよく分からなかった。

「あなた達のお陰で何とか解決出来たよ、後は私達治安局がするから、あなた達は先にZi-worksCorporationへと戻って行って」

「「はいっ」」

僕達は、女性局員の言う通り、Zi-worksCorporationへと戻っていった。その後、コマンドウルフ達は、治安局の手によって回収され、調べたところ、どうやら野良ゾイドだった様で、街の出入りの際に誤って入り込んできたとの事。こんな事もあるんだなと僕は思った。

 

* * *

 

会社へ帰った僕とイズキは、社長からあの女性局員は実はこのユートシティ治安局の治安局長だった事を聞いて驚いた。

「回収したコマンドウルフ達は、Zi-worksCorporationで修理され、野に帰す事に治安局と共に決めた

「そうですか、それなら野良ゾイドにとってはいいかもしれませんね」

「あぁ、それにこれからはこの様な事が起きない様に気をつけなければいけないとな」

「何たってあたし達が住んでる街なんだしね」

「さてと、日も暮れてきたし、そろそろ帰るかヒロキ」

「そうだねライサー、それじゃ僕達はこれで帰ります」

「またな、ヒロキ」

「またね〜、イズキ」

そうして僕はイズキに別れの挨拶を済ませ、ライサーと共にZi-worksCorporationを後にした。

「じゃあなヒロキ、また明日な」

「うん、また明日」

ライサーとも別れ、僕は一人で家へと帰る。その帰り道、暮れ際の夕日はとても綺麗に輝いていた。

 

#1 完、#2へ続く