#13 絆の繋がり | 著/Ryuka |
ある日の事、ヒロキはゴルザに呼び出され、ゴルザがいる社長室へといた。
「あの社長、僕に何か用なのですか?」
「実はな、君に頼みがあってな」
「頼み・・・とは?」
ゴルザの頼みというのは何なのかを問うヒロキ。
「これをこの紙に書かれた場所へ届けて欲しいのだ」
そう言うとゴルザは、目的地を示す紙と銀色の角の丸い四角形のペンダントが入ったケースを渡す。
「これは・・・?」
「昨日、レグス王国の者が来て、その紙に書かれた村の村長に渡してくれと頼まれての、何やらとても大事な物だそうだ」
「でも何故僕なのですか?」
自分以外にもイズキやライサーやアルトといった他のエースパイロットがいるのにとヒロキは思った。
「あいにくアルト君は依頼を受けてこの場には不在で、ライサー君は次の依頼を控えている、それにイズキだとちゃんと届けられるか心配での、だから君に頼んだという訳だ」
「そうですか、確かにイズキだとこの手の仕事は苦手そうな感じがしますね」
ゴルザの言い分に納得の様子のヒロキ。
「くしゅん!う〜ん、もしかして風邪かなぁ・・・?」
自分の事を言われてる事に全く気付いてないイズキであった。
「という訳で頼んだぞヒロキ君」
「はいっ!」
大きな声で返事をするヒロキ。
「ところで君のブレイジングウルフなのだが、まだ修理が終わっていなくての、すまないが、この前乗っていたシールドライガーに乗って行ってくれ」
「分かりました、それでは社長、行って参ります」
「うむ、くれぐれも気を付けるのだぞ」
ヒロキは社長室を後にし、格納庫へと向かう。
「・・・にしても、何故レグス王国の者はあのペンダントの為にこの場所を訪れたのだろうか、それに渡し先の村の村長に渡す理由は一体・・・」
ゴルザはレグス王国の者が持ってきたペンダントの事を不思議そうに気にしていた。
「よーし、まだブレイジングウルフじゃないけど、張り切って行くぞー!」
そして、ヒロキの乗ったシールドライガーは、勢いよく格納庫から飛び出し、街の外へと出て行った。
* * *
「あれ?そういやヒロキ、社長室に行ったっきり戻ってこないなぁ・・・、どうしたんだろ」
しゅんとした表情を浮かべるイズキ。とそこに、
「ヒロキなら急に依頼が入ってついさっき出て行ったぞ」
「あ、ライサー、それホントか!?」
現れたライサーが、ヒロキが急な依頼が入った事をイズキに言った。イズキはその言葉に反応した。
「あぁ、さっき偶然その事を耳にしてな」
「で、依頼先の場所とか聞いたの?」
イズキの言動からして、ヒロキの後を追うつもりらしい、だがライサーは、
「もしかして行くつもりなのか?あいにく場所までは聞いてない、それでも行くなら俺は止めたりはしないがな」
「うぅ、確かにそれだと無理があるよな・・・、流石に何の情報も無しに追いかけるってのも無謀だしね・・・」
ヒロキが向かった場所は知らないと聞いたイズキは、少しがっかりした様子で、ヒロキを追う事を諦めた。
「下手に追って迷うよりはここで待ってる方が賢明だと俺は思うけどな」
「そうだね、ここでヒロキが戻ってくるの待ってる事にするよ」
「そうか、それじゃ俺は依頼があるからこの辺で」
「あ、あの・・・さ」
「何だ?」
この場を去ろうとするライサーを呼びとめるイズキ。
「その・・・、ヒロキの事教えてくれてありがとう」
少し照れながらも、ニコッとしてライサーにお礼を言う。
「フッ・・・、普段もそれ位素直で可愛けりゃいいのにな」
「ちょ、何言ってんだよライサー!」
イズキをからかう様な言葉を言いその場から去るライサー。その後ろ姿に向かって少しむきになって言うイズキ。
「全く、ライサーのからかい癖には困ったもんだよ」
と、すでにいなくなったライサーの文句を言うイズキ、そしてイズキは窓の方へと向かって、
「あ〜あ、ホントは今日、ヒロキと一緒にいたかったのになぁ・・・」
窓の向こうの空を見上げて、軽い溜息を吐くイズキであった。
* * *
一方ヒロキは、目的地の村に向けて、シールドライガーを走らせていた。
「目的地の村まであともう少しだ、それにしても意外と遠かったなぁ、あれ?」
そんな事を呟いていた時、目の前に1体のゾイドと遭遇した。
「あのゾイドはブラキオスだよね、僕以前何処かで見た様な気が・・・」
ヒロキは目の前のブラキオスに見覚えがあった。確かある人が乗っていた気がしたのだ。
「おや?こんな所にシールドライガー、それにその個体は間違いない、もしかしてヒロキ君が乗っているのかい?」
「あ、その声はDr.クロノスさんだ」
何とそのブラキオスに乗っていたのは、傭兵の街に整備工場を兼ねた研究所を持つ科学者、Dr.クロノスであった。
「さんはいらないな、ところで君は何の用でここに来たんだい?」
「えっと、依頼があってこの先の村に行くんです」
「この先の村か〜、偶然だね、私もこの先の村に用があってこの辺りに来ていたんだ。そうだ、向かう先は同じな訳だから、村まで一緒に行動しようか」
「そうですね、僕がDr.クロノスさんのブラキオスに合わせて動きます」
「すまないな、そうしてくれるとありがたい」
元々が海戦タイプのゾイドであるブラキオスが、陸上タイプでかつ高機動(最近の高機動ゾイドに比べればそうでないが)のシールドライガーにスピードでは絶対に追い付けないので、シールドライガーが、ブラキオスの移動速度に合わせて力を抑える感じで歩いた。
「それともう一つ、さんは付けなくて良いから」
「そうですか、分かりました」
最後に付け足すようにしてヒロキに突っ込むDr.クロノスであった。
やがて、二人は目的地の村の入口へと辿り着いた。
「やっと着きましたね、Dr.クロノス」
「そうだな、では早速入ってみましょうか」
と、入ろうとした二人の目の前に3体の小型ブロックスゾイドが出て来た。
「やい、悪者め!何しにこの村へ来た!?」
「あたし達が悪者からこの村を守るんだから!」
「お前達の好きにはさせないぞー!」
レオブレイズ、ウネンラギア、ナイトワイズに乗っていたのは、2人の少年と1人の少女、年齢的には10歳程であった。どうやら彼らは村に訪れたヒロキとDr.クロノスを悪者と勘違いしている様だ。
「悪者って・・・、僕達はただ用があってこの村に来ただけで・・・」
「うるさーいっ!!おいらはその手になんか乗らないぞ、そんな事言って村を襲うつもりなんだろ!」
「だから違うって・・・」
自分は悪者では無いと必死に証明するヒロキ、だが彼らにはその事は耳には入っていなかった。
「そうやって油断させようとしてもそうはいかないわよ」
「う〜ん、やっぱり聞く耳持ってないですね・・・」
落ち着いた表情でこの状況を見るDr.クロノス。ヒロキとは対称的であった。
「でも二人共、もしかしたら本当にあの人の言ってる事は、正しいのかもしれないよ」
「確かにそうかもしれないわね」
「何言ってんだよ、そんな訳無いだろ!」
未だにヒロキ達を悪者と思ってる少年に、ヒロキ達が本当に悪者なのか疑い始めるもう一人の少年と少女、その時彼らの機体の後ろから1機のモルガキャノリーがやってきた。
「これこれお前さん達、客人に何をしておるんじゃ」
「「あ、おじいちゃん」」
「じいちゃん、これはその・・・」
モルガキャノリーが来るなり、レオブレイズに乗っている少年は慌てた表情を浮かべた。
「また悪者が来たとかじゃろ、お前の早とちりには困ったもんじゃわい」
「・・・・・・」
どうやら図星だったようだ。
「ごめんなさい、おじいちゃん」
「ごめんなさい・・・」
「謝るのはわしじゃなくて、あそこにいる客人にするのじゃ」
と、モルガキャノリーに乗っている老人がウネンラギアとナイトワイズに乗っている少女と少年に向かって言う、すると少女と少年が乗ったウネンラギアとナイトワイズは、ヒロキ達のシールドライガーとブラキオスの方へと向けた。
「あの・・・、迷惑掛けてごめんなさい」
「勝手に悪者呼ばわりしてごめんなさい」
「おいらもその・・・、勝手に疑ってごめんなさいっ!」
3人はヒロキ達を勝手に悪者呼ばわりした事を謝罪した。
「いいんだよ、僕も急に来たから疑われても仕方ないよね」
「確かに見ず知らずの私達を見たら疑いたくなるのも無理無いでしょうし」
ヒロキとDr.クロノスは、3人の行動を悪く言おうとはしなかった。
「この子達が迷惑を掛けてすまなかったの、わしはこの村の村長のフランゴじゃ」
モルガキャノリーに乗った老人の正体は、この村の村長であった。
「あぁ、この村の村長さんでしたか〜」
「そして、そこにいるのは、ベスタ、ローナ、サンドルじゃ」
フランゴは、先程の少年達を紹介する。
「僕はヒロキ、よろしくね」
「お、おぅ、おいらはベスタだ、よろしくな」
「あたしはローナです、よろしくねヒロキさん」
「僕はサンドル、ヒロキさんよろしくお願いします」
ヒロキが3人に挨拶すると、3人は元気よく答えた。
「お前さん2人が来た理由は分かっておる、Dr.クロノス、この先を左に向かった先にかつての研究施設がありますぞ」
「ありがとうございますフランゴ村長、それではヒロキ君私はこれで」
そういってDr.クロノスはブラキオスを発信させ、この場を去って行った。
「そしてお主が来た理由も勿論分かっておる、ここで無く、わしの家で話す事にしましょう、ほら子供達行くぞ」
「「「はーい」」」
ヒロキは、3人の子供と共にフランゴの後をついて行った。
フランゴの家にて、ヒロキは運んできたペンダントを入ったケースを受取人であるフランゴに手渡した。
「ふむ・・・、やはりレグス王国の物じゃな」
「では何故その様な物をあなたに渡したんでしょうか?」
その事を不思議そうに聞くヒロキ。フランゴは、
「実はわしはかつてレグス王国に兵士長として仕えていたのじゃ、このペンダントは国王から直々に渡される予定じゃったが・・・」
「と言うのは?」
「わしが兵士長を退役する丁度その時期にちょっとした混乱があっての、それで今まで渡す事が出来なかったのじゃ」
フランゴはかつてレグス王国の兵士達をまとめる兵士長であり、またレグス国王の側近でもあった。例のペンダントは、彼が退役する際に渡す物だったらしい。
「しかし、お前さんを見てると、どうも幼い頃の王子の顔にそっくりなんじゃ」
「え・・・?それは一体・・・」
ヒロキがその事を聞こうとしたその時、玄関の方から男の人の叫び声が飛び込んできた。
「た、大変だぁー!!村にゾイドが襲い掛かってきたんだ!!」
その男はかなり慌てた口調で、フランゴ達に伝える。
「何じゃと!?」
すると、ベスタ達は一目散に家から出ようとする。
「待つんじゃ!まさか応戦するつもりか!?」
「当たり前だろじいちゃん、おいら達にだってこの村を守る権利はあるんだ!」
「そうよ、あたし達だってこの村を守りたい気持ちは一緒だもん!」
「すみませんおじいちゃん、僕らも村を守る為の力になりたいんです!」
そう言ってベスタ達は、フランゴの家から走り去っていった。
「全くあの子達は・・・」
「フランゴさん、僕達も行きましょう」
「そうじゃな、村もあの子達も心配じゃからな」
ヒロキもフランゴも急ぎ足で家を後にした。
* * *
ヒロキとフランゴが向かった先には、数十体のモサスレッジと、1体のバーサークフューラーが暴れていた。ヒロキとフランゴは、街の人に事情を聞いたとこ、どうやらいずれも無人の野良ゾイドの様だと言っていた。
「それにしても、バーサークフューラーの野良ゾイドは不自然だよ」
ヒロキはバーサークフューラーを見るなり、野良ゾイドとしてはおかしいと思っていた。
「何故不自然なんじゃ?」
「それは元々バーサークフューラー自体数は多い方では無いですし、それに野生体の個体数も決して多くはないからです」
「うわ、Dr.クロノス、いつの間に来てたんですか!?」
知らぬ間にDr.クロノスの乗るブラキオスが現れていた。
「ん?ついさっきだよ」
「と言うかそのセリフ僕が言おうとしたのにー!」
自分が言おうとしたセリフを取られ、思わず悔しそうに叫ぶヒロキ。
「それにしてもバーサークフューラーとは厄介ですね・・・」
「そうじゃな、たとえ無人とて、機体自体のポテンシャルが高いからの」
「だけど、倒す事は出来なくても、動きを止める位なら僕達でも出来る筈です。それにベスタくん達が心配です」
「そうじゃな、あの子達の事も心配じゃ、行くぞ!」
ヒロキ、フランゴ、Dr.クロノスは野良ゾイドの群れへと接近する。
バーサークフューラーやモサスレッジに対し攻撃をする村人達のゾイドだが、バーサークフューラーの圧倒的なパワーの前に次々と倒されていく。攻撃をする村人の中にベスタ達のブロックスもいた。
「あのゾイド、凄く強いな・・・」
「モサスレッジはそうでもないけど、やっぱりあのバーサークフューラーが異様に強いよ・・・」
「僕は村の人達の乗るプテラスと一緒になって何とかモサスレッジを倒してるけど、流石にバーサークフューラーまでは自信が無いよ!」
大方予想通り皆モサスレッジよりもバーサークフューラーに苦戦を強いられていた。
「でも何とかしないと・・・」
「ベスタくん危ないっ!」
「えっ?」
ベスタのレオブレイズ目の前に、バーサークフューラーが現れ、バスタークローを回転させ、レオブレイズに対して咆哮を上げる。
「あ・・・あ・・・」
ベスタは恐怖に怯え、その場から動く事が出来なくなっていた。その間もバーサークフューラーのバスタークローの回転音が不気味に鳴り響いていた。
「早く逃げてベスタくん!このままじゃやられちゃうよ!!」
ローナの必死の叫びもベスタの耳には届かなかった。
「誰か・・・、誰かベスタくんを助けてぇ!!」
そして、バーサークフューラーがレオブレイズ目掛け、バスタークローを突き刺そうとした時、シールドライガーがシールドを張った状態で現れ、そのままバーサークフューラーに突撃する。バーサークフューラーは勢い良く吹き飛ばされた。
「大丈夫かい、ベスタくん?」
「う、うん・・・」
ベスタは涙を浮かべていた。間一髪のところでヒロキに助けてもらったのだ。
「ローナちゃんも大丈夫?」
「ええ、あたしは大丈夫。ベスタくんが無事で良かったよぉ・・・」
ローナは、ベスタが無事だった事で安心した様だ。
「全く、心配ばかり掛けおって、だから言わんこっちゃない」
「ごめんなさい、おじいちゃん」
「さあのんびりしてる暇は無いですよ、まだヤツを倒した訳ではありませんよ」
Dr.クロノスの言う通り、まだバーサークフューラーは倒してはいない。バーサークフューラーも起き上がり、ヒロキ達のいる方目掛け力強く吠える。明らかな戦闘態勢だった。
「その通りだよ、まだ戦いはこれからだよ」
「そうじゃな、あの機体を動けなくするまではな」
意気込むヒロキとフランゴをよそに、Dr.クロノスは、空にいるモサスレッジを見るなり、ある提案を思いつく。
「これは都合が良いのかもしれません、皆さん聞いて下さい」
「何ですか?」
Dr.クロノスの掛け声に耳を傾ける一同。
「私の提案ですが、ヒロキ君とフランゴさんは、引き続きバーサークフューラーと戦ってもらい、時間を稼いで下さい」
「時間を稼ぐ?それは一体どういう事じゃ?」
ヒロキとフランゴに時間を稼いでもらうのは、Dr.クロノスのこんな思惑があったからだ。
「私とベスタ君達3人は、今からある事をする為です」
「ある事?」
ヒロキがその事を問う。
「ベスタ君達のブロックスゾイドと、あのモサスレッジの1体を使って、マトリクスドラゴンにユニゾンさせる事です」
「「「マトリクスドラゴンって?」」」
どうやらベスタ達にはマトリクスドラゴンの事を全く知らなかった。確かにそうかもしれないが。
「マトリクスドラゴンは、君達3人が乗っているレオブレイズ、ウネンラギア、ナイトワイズと、モサスレッジがユニゾンする事で誕生するドラゴン型ゾイドの事だ」
「ねぇ、そのユニゾンってのは何なの?」
当然のことだが、3人はユニゾンの事を何なのかは、全くをもって知らない。Dr.クロノスが手短に説明をする。
「ユニゾンとは、Zi-ユニゾンの事で、特定のゾイド数体が合体する事です。合体すれば強力な力を得る事が出来ます、ただ」
「力を得る分、それだけのリスクもあるって事ですか?」
サンドルは得る物が大きい分、それだけの代償があるのでは無いかと思っていた。
「その通りだ、合体する分、それだけ操縦が難しくなってくる。合体した物同士のパイロットの波長が合わなければ、思う通りには動いてくれない、ユニゾンゾイドにはパイロットのチームワークも重要になってくるのだ」
「あたし達なら何とか出来るよね?」
「僕達なら出来るよ、ね、ベスタ」
「当たり前だろ・・・、さっきの借りは絶対に返す!」
「「うんっ!」」
(この調子なら何とかいけるかもしれないな・・・、後は・・・)
Dr.クロノスは空を見て、どのモサスレッジにするか確認している。
「そいつだっ!」
Dr.クロノスのブラキオスは、背中のレーザー砲を、あるモサスレッジに向け撃ち出す。
レーザーは見事モサスレッジに当たり、ベスタ達のいる方へと落ちて行く。
「今だっ!ユニゾンの準備を!」
「「「はいっ!」」」
3人共気合いを込めて、同時に掛声を言う。
「「「Zi-ユニゾン!!」」」
掛け声と共に、レオブレイズ、ウネンラギア、ナイトワイズ、そしてモサスレッジが、それぞれバラバラになり、光に包まれ、光の中でバラバラになった4機が一つに固まっていく。
一方、ヒロキとフランゴは、彼らのユニゾンの時間稼ぎの為に、バーサークフューラーに奮闘していた。
ヒロキのシールドライガーが、接近してバーサークフューラーを翻弄しつつ、フランゴのモルガキャノリーのキャノン砲を叩き込んでいく。しかし、バーサークフューラーは、尻尾でシールドライガーを薙ぎ払い、Eシールドを展開してモルガキャノリーの攻撃を防いでいくので、殆どダメージと言ったダメージを与えられない。
「くっ・・・、せめてブレイジングウルフならまだそこそこ戦えるのに・・・」
「なんて防御力の高いEシールドなんじゃ!まるでこっちの攻撃が歯が立たんわい!」
やはりシールドライガーとモルガキャノリーでは、バーサークフューラーには相手にならなかったのだ。
「時間稼ぎとは言ったものの、これじゃこっちがいつまで持ちこたえられるか心配じゃわい」
「確かにそうですけど・・・、ん、あれは・・・?」
ヒロキが後ろを見ると、そこには白き光が眩しく放っていた。
「もしかして、ユニゾンに成功したのか!?」
やがて光が消え、中からは、青き大型のブロックスゾイドが姿を現した。それこそが正しくマトリクスドラゴンであった。
「これが、マトリクスドラゴン・・・」
「すごい・・・」
「これならあのバーサークフューラーにも対等に戦えそうだ」
マトリクスドラゴンへとユニゾンし、その凄さを実感するベスタ、ローナ、サンドル。
「それじゃあ早速行くぞぉー!!」
「「うんっ!」」
3人はマトリクスドラゴンを動かそうと試みた。しかし、彼らの思いに反してマトリクスドラゴンはぴくりとも動かない。
「あ、あれ、何で?」
「動かない・・・わね」
「一体どうなってんだよー!」
3人は何故動かないのかが分からない、いや、分からなくて当然なのかもしれない。
「ローナ、サンドル、しっかりしてくれよ!」
「あたしに文句言わないでよ、あたしだってよく分からないんだから!」
「二人とも、喧嘩はよそうよ・・・」
「「サンドルは黙ってて!」」
「そ、そんなぁ・・・」
動かない理由を巡り、言い争いを始めるベスタとローナ、サンドルが必死になだめようとするが、二人はサンドルの言う事を聞く気は全くなかった。
「もしや、ユニゾンは成功したものの、パイロット同士の波長がバラバラなのか!?」
Dr.クロノスもこの状況を理解していたが、彼自身ではどうする事も出来なかった。
「おい、様子がおかしいぞ。ユニゾンしたはいいが、全く動いておらんぞ」
「も、もしかして!?」
「どうしたんじゃヒロキ君!?」
「僕には感じるんだ、3人の波長が乱れているのを。気持ちが一つになってない、だからマトリクスドラゴンは動いてくれない、僕が・・・、何とかしなくちゃ!」
「お、おいヒロキ君!どこへ行くのじゃ!?」
ヒロキのシールドライガーは、マトリクスドラゴンの方へと向かって走り出した。
「ちょっと待て、いくらなんでもモルガキャノリーでバーサークフューラーを相手にするのはちと不利すぎるぞ!」
すかさずバーサークフューラーがビームを放つ、フランゴは何とかかわすものの、攻撃がまともに通じない相手に頭を抱えていた。
「頼むからあまり時間を掛けないでくれよ、これでは本当にわしの身が持たんわい!じゃが、ヒロキ君のあの力・・・、やはり間違い無いのう・・・」
バーサークフューラーの攻撃を必死にかわし続けながら言うフランゴであった。
その頃、ヒロキはマトリクスドラゴンの元へと駆けつけていた。
「ヒロキ君、どうしてここへ!?」
Dr.クロノスがここへ来た理由を問う。
「ベスタくん達の波長がバラバラだから、僕が何とかしないとって」
「やはりそうですか・・・、ん?でも何故君はそれが分かるんだい?」
「説明は後です!」
「・・・そうだったな」
何故ヒロキがその様な事が分かるのか不思議に思うDr.クロノスであったが、状況を考え、その事を追及する事はしなかった。
「あ、ヒロキさん。この状況をどうにか出来ませんか?」
サンドルの言う通り、ベスタとローナはまだ言い争いを続けていた。
「勿論だよ、その為にここに来たんだ」
ヒロキは深呼吸をし、ベスタとローナに向かって話し掛ける。
「なにやってんのさ2人共!今は言い争ってる場合じゃないよ!」
「「あ、ヒロキさん・・・」」
「折角マトリクスドラゴンにユニゾンしたっていうのに、君達の気持ちがバラバラになってどうするのさ!3人共互いの気持ちを信じ合うんだ、僕には分かるよ、ベスタくん、ローナちゃん、サンドルくん、君達には深い絆が結ばれている事を、だからこそ君達の気持ちを一つにするんだ、そうすればマトリクスドラゴンも答えてくれる筈だよ」
普段の様子からは想像出来ない程厳しい表情でベスタ達を説得するヒロキ。ベスタ達もヒロキの説得を聞いて、改めて自分の気持ち、そして相手の気持ちを考えた。
「・・・そうだよな、おいらはどうして言い争ってなんかいたんだろう・・・」
「ヒロキさんの言う通り、みんなの気持ちを一つにしないと、マトリクスドラゴンは答えてくれないよね」
「そうだよ、僕達は深い絆で繋がっているんだよ!」
「だからさ、おいら達の心を」
「一つすれば」
「「「不可能なんて無い!!」」」
すると、3人の気持ちに答えるかの様に、マトリクスドラゴンは力強く天に向け咆哮を上げる。
「やった、動いたわ」
「マトリクスドラゴンが僕達の気持ちに応えてくれたんだ」
「よーし、今度こそ行くぞー!!」
「「おー!」」
マトリクスドラゴンはバーサークフューラー目掛け、低空飛行で突撃する。
「良かった・・・、心を一つにする事が出来て、あれならきっと勝てる筈だよ」
ニコッとした表情で、突撃するマトリクスドラゴンを見守るヒロキ。
今まで逃げ続けたフランゴのモルガキャノリーも、遂にバーサークフューラーのビームに当たり動けなくなっていた。その間、バーサークフューラーはモルガキャノリーへと近寄って行く。
「万事休すか・・・、わしもこれまでか・・・」
バーサークフューラーがモルガキャノリーにバスタークローを向けたその時、物凄い勢いで突っ込んでくるゾイド、それはベスタ達のマトリクスドラゴンだった。
「じいちゃんー!今助けるからなー!」
「おお、やっと動いたのか」
「覚悟なさい!おじいちゃんはあたし達が守る!」
「僕達だって心を一つにすればバーサークフューラーなんて怖くは無い!」
バーサークフューラーは、モルガキャノリーからマトリクスドラゴンの方へと向きを変え、バスタークローを回転させ、応戦態勢を取る。
「あたしたちの深い絆で結ばれた」
「一撃を!」
「喰らえーっ!!」
「「「ドラゴントゥース!!」」」
マトリクスドラゴンが光り輝き、バーサークフューラへと突っ込んでいく、バーサークフューラーは、バスタークローで受け止めようとしたが、マトリクスドラゴンの突撃に耐えきれず、根本から刃が折れ、直撃する。
幾らかのパーツが砕けたバーサークフューラーは、地面へと倒れた。
「何と!動きを止めるつもりが、倒してしまうとはっ!何というパワーじゃ」
バーサークフューラーを一撃で倒してしまうマトリクスドラゴンのパワーに驚きを隠せないフランゴであった。
「やった!おいら達が倒したんだよな!」
「そうね、あたし達が倒したんだよね!」
「僕達があいつを倒したんだよ!」
自分達の力で倒した事に、喜び合う3人だった。
* * *
「え〜、もう行っちゃうのヒロキさん」
「まだ会ったばかりなのにもう行っちゃうなんて」
「うん、僕には帰るべき所があるから」
「仕方無いよ、ヒロキさんはこの村の人じゃないんだから、と言ってる僕も実は寂しいんだけどね」
別れの時、ベスタ、ローナ、サンドルは、折角会ったばかりのヒロキとの別れを惜しんでいた。
「例え今別れたとしても、またいつか会える時が来るものですよ」
3人に対してこう助言するDr.クロノス。
「そうよね、また会える日まであたし達は待っているわ」
「いつでも大歓迎だぜ」
「僕達の事、忘れないで下さいね」
「勿論だよ、それじゃ、また会おうね」
「「「うんっ」」」
両者笑顔で振る舞い、そしてヒロキのシールドライガーとDr.クロノスのブラキオスは村を後にした。
「行っちゃったな・・・」
「行っちゃったね・・・」
「あたし達もヒロキさんの様に優しくて強い人になりたいね」
「そうだね」
ヒロキ達の後ろ姿をじっと見ている3人。実は彼らのマトリクスドラゴンは、通常のユニゾンゾイドと違って、何故か元の4体に戻る事はなかった。Dr.クロノスも何らかの原因で戻らなくなったと言っていたが、今の3人には、それで良かったと思っていた。
「私はこの辺で、今日は随分とヒロキ君に世話になった気がするな〜」
「そんな事無いですって、実際お世話になった方は僕かもしれませんし・・・」
「はっはっはっ、そうか、じゃ私はこれで」
「さようなら、Dr.クロノス」
Dr.クロノスと別れたヒロキ、そしてヒロキもまた、
「それじゃあ、帰るとしようか〜」
「待つんじゃ〜!」
「え?」
シールドライガーの跡を全速力で追ってきたモルガキャノリー、この機体はフランゴさんの乗る機体であった。
「あの、何ですかフランゴさん?」
一体どうしたのかと思い、シールドライガーから降りるヒロキ、フランゴもまたモルガキャノリーから降りる。フランゴの右手に何かを持っていた。
「おお、やっぱりそうじゃ、お前さんにこれを託そうと思っての」
そう言うとフランゴは、右手に持っていた物をヒロキへと渡した。
「これって・・・、僕がフランゴさんに渡したペンダントですよね?」
フランゴが渡した物は、紛れも無くヒロキがフランゴに渡したペンダントであった。
「そうじゃが、これはお前さんが持っておいた方が良いと思っての」
「どうしてですか?」
ペンダントを渡す理由が分からないヒロキ、するとフランゴはこんな事を言い出した。
「君が先程のベスタ達の波長を感じ取ったと言った際に分かったんじゃよ、お前さんは恐らくレグス王国の王子なのであろう」
「僕が・・・王子・・・?」
突然の衝撃発言に言葉を失うヒロキ。
「王子は確か、人の波長を感じ取れると聞いた事があっての、それに顔もお前さんとそっくりなんじゃ、その証拠にペンダントの中の写真を見てみるがよい」
フランゴの言う通り、ヒロキはペンダントのふたを開き、中の写真を見る。
「これは・・・、確かに僕そっくりだ・・・」
写真に写っていたのは、国王に王妃、それに王妃に抱かれた赤ん坊、そしてヒロキの顔に瓜二つの小さな少年が映っていた。
「でも、僕はレグス王国になんかいた記憶は無いし、王子でも無いですし・・・」
「そうか、そのペンダントはお前さんにやろう、きっと後に何かが分かるきっかけになるのかもしれんからの」
意味深な言葉を並べるフランゴに、ヒロキの頭はすっかり混乱していた。
「はい、このペンダントは僕が貰っておきます。それでは僕も帰りますんで、この辺で」
ヒロキはそう言った後、シールドライガーへ乗り込み、ユートシティへと向かって走り出す。
「・・・恐らく、あの出来事で、レグス王国にいた時の記憶を失っておられるのでしょうな、ヒロキ王子・・・」
場所は変わって、とある施設、その薄暗い部屋の中で、
「先程野生ゾイドに扮したゾイド部隊が何者かの手によって全滅させられた模様です」
部下の一人と思われる男が、ある人物に報告していた。
「まあよい、あれは単なるテストに過ぎんのじゃからな。お陰でデータも取れたしな」
「そうですか、それでは例の計画は」
「予定通り実行する、では準備に取り掛かるがよい」
「はっ!」
部下は速やかにこの部屋を去って行った。
「さあ始まるぞい、もうすぐこの世界は混乱へと包まれるのじゃからの、カーカッカッカッ!」
不気味な笑い声が薄暗い部屋中に響き渡っていた。
* * *
その後、ユートシティに戻ったヒロキは、今日の出来事をゴルザに報告し、その帰り道、社内の休息所を通りかかった際、
「あれは、イズキ・・・?」
ヒロキが見た先には、テーブルの上に腕を組んで、その上に頭を乗せて眠っているイズキの姿だった。
「すぅ・・・すぅ・・・」
「仕方無いなぁ、こんな所で寝ちゃって・・・、風邪引くよ」
そう言いつつも、休息室の奥から仮眠用の毛布を探し出す。
「えっと・・・、あった、これだ」
ヒロキは毛布を持ってイズキの元へ行き、優しく毛布を掛ける。
「・・・ごめんね、今日約束守れなくて・・・」
「・・・ありがとう」
「え?今のって・・・?」
慌ててイズキの方を見るが、イズキは眠ったままだった。
「寝言・・・だよね」
ヒロキは、イズキを起こさないように、静かにその場を去った。そして夜は更け、ヒロキはフランゴに言った事がずっと頭の中に引っ掛かっていた。
「僕が王子って、一体どういう事なのだろう・・・。確かに僕は4歳位までの時しか記憶には無い、それ以前は全く分からない。僕はその間一体何をしていたのだろうか・・・」
そしてヒロキは、ペンダントの中の写真を眺めて、
「やっぱり僕そっくりだな〜」
何度見ても僕にそっくりだよな〜と、思うヒロキ。
「それにしても何だろうこの感じ、何か嫌な予感するなぁ・・・」
何か良からぬ事でも起こるのでは無いのかと感じているヒロキ、だがその事が現実になろうとは、ヒロキには知る由も無かった。
また、傭兵の街でも、ヒロキと同じ事を感じている者がいた。
「うぅ〜ん、何か目が覚めちゃったなぁ・・・」
ユキエは寝ぼけ眼をこすり、隣を見る。そこには気持ち良さそうにフェイラが寝ていた。
「ふふ、相変わらずねフェイラちゃん」
窓の方を見ると、一人の男が何処かを見つめて立っていた。
「あれは、ローダさん。こんな時間に何してるんだろう・・・?」
ユキエは眼鏡を掛け、フェイラが起きないようにそっと外に出る。
「ローダさん、こんな夜更けに何してるの?」
「あぁ、ユキエか。いや、何か妙な胸騒ぎがしてな、こうして空を見ていたんだ」
「妙な、胸騒ぎですか・・・、何か悪い事でも起きなければいいですけど・・・」
「そう願いたいところだな」
ローダもヒロキ同様、何かこの先悪い予感が起こるのではと思っていた。だがその予感は思った以上に早い段階でなる事とは・・・
#13 完、#14に続く