#15 紅の惨劇・後編
著/Ryuka

 

ユートシティに傭兵達が襲撃し、ヒロキを始めとするZi-worksCorporationのパイロット達がそれを食い止めた日の翌日、社長のゴルザは、Zi-worksCorporationのパイロット達に、街の警備を強化する為、治安局と合同でユートシティのパトロールをする事が決められた。だがそれは一般のパイロットの話であり、ヒロキ達エースパイロットは対象にはなっていなかった。何故なら・・・

「今日は君達に傭兵の街へと行ってもらう」

「何故私達が傭兵の街に?」

アルトがゴルザに問い掛ける。

「実は昨日、傭兵の街で、暴走したガイロス帝国のゾイドと、1体の赤いジェノザウラーと傭兵の街の傭兵達が交戦したそうだ」

「傭兵の街が!?どうしてあの場所に・・・」

ヒロキが驚いた様子を見せる。

「理由については私も分からん、だが、何者かがこの様な事を引き起こしている事は確かだと言える」

「確か昨日の傭兵達も、誰かに頼まれてだかとか言ってましたね」

(も、もしかして・・・)

「どうしたんだアルト、何か元気無いぞ」

浮かない顔をするアルトに、イズキが心配そうに話し掛ける。

「えっ、いや、何でもないわ・・・」

「そう?ならいいけど」

何も無い様に振る舞うアルト、イズキはアルトの様子に何か引っ掛かる感じだったが、彼女の事を思ってあえて追及はしなかった。

「その中でも赤いジェノザウラーがとてつもない強さで、リオン君のゾイドが中破、ユキエ君のゾイドが大破されたと、ギルフォート殿から聞いた。さらに言うとユキエ君がその戦闘で怪我を負ったとも聞いた」

「ユキエちゃ・・・、いや、ユキエさんが!?大丈夫だったんですか!?」

「幸い気を失ってたのと、軽い怪我だそうだ」

「そうですか、よかったぁ〜」

ホッとした様子を見せるヒロキ、ユキエとはゾイドバトルの際にタッグを組んだ頃に仲良くなった友人でもあったので、怪我したと聞いた時は不安な表情を浮かべていた。

「それともう一つ、これはヘリック共和国から聞いた話なんだが、昨日、1機のゾイドが、共和国の基地を壊滅させたとの事だ」

「たった1機で・・・、それで、壊滅されたゾイドの特定はされたんですか?」

ライサーが、今の話の事について問い掛ける。

「詳しくでは無いが、鉄色をしたバーサークフューラーらしきゾイドだと、向こうは言っていた」

「で、そのゾイドが何処に向かってるのかって分かるの?」

「そこまでは分からないと言っておった。少なくともこのユートシティに来る可能性は無い訳では無い、それに、君達が傭兵の街に向かう途中に出くわす可能性もある。くれぐれも気を付けて行動する様に、それでは準備に取り掛かってくれ」

「「「「了解!」」」」

ヒロキ達は、傭兵の街へと向かうべく、格納庫へと向かって行った。

 

(さっきの社長さんの言った鉄色のバーサークフューラーらしきゾイド・・・、もしかしたらそのゾイドが昨日感じた強い力を持つゾイドなのかもしれない・・・)

ヒロキはそう思いながらコックピットの中に入った。そしてヒロキ達のゾイドは、傭兵の街へ向かうべく、Zi-worksCorporationから出発した。

 

* * *

 

傭兵の街へ向け向かうヒロキ、イズキ、ライサー、アルト。ライサーのアグレッシブを先頭に、イズキのクイックサイクス、ヒロキのブレイジングウルフSA、アルトのグラブゾンザウラーと続いている。

「ところで何であたし達が傭兵の街へ行くんだ?」

「傭兵の街の護衛が目的だろう、何せ昨日大きな戦闘で人手が足りなくなったからだと思うぜ」

イズキの質問に、普通に答えるライサー。確かにライサーの言う事は妥当なのかもしれない。

「それにしてもライサー、少しゆっくり走ってくれないか、あたし達じゃ追い付けないんだよ」

「そうか、悪い」

そう言うとライサーはアグレッシブの速度を落とし、他の3人と同じペースで走る。

「ありがとうライサー」

「ありがとうライサーさん」

「礼には及ばんよ、仲間として当然の事をしたまでさ」

ヒロキとアルトはライサーに礼を言った。ライサーは冷静に振る舞っていたが、顔には心なしか笑みがこぼれていた。そしてしばらく何事も無く進んでいると思った時、

「きゃあっ!」

「大丈夫、アルトちゃん!?」

アルトのグラブゾンザウラーの目の前に突然一発のレーザーが着弾し、グラブゾンザウラーがバランスを崩す。

「ええ、少しよたついただけだから大丈夫よ・・・」

「あれを見ろ」

ライサーの視線の先には、グラドのブラッディブレイクと鉄色のバーサークフューラーが対峙していた。

「あのゾイドはグラド、それにもう一体は・・・(間違い無い、昨日感じた強い力は、あのバーサークフューラーかもしれない)」

するとヒロキは急にその場所へ向かおうとしだした。

「待て、何でお前が行くんだ!?」

ライサーが向かおうとしてるヒロキを制止させる。

「・・・あのゾイドを、あの鉄色のバーサークフューラーを止めなきゃいけない気がするんだ」

「ならあたし達も一緒に行くよ!」

「いや、ここは僕一人で行かせて」

「どうしてさ!?こういうのはみんなで行った方がいいじゃん!」

口調を荒げて言うイズキ、ヒロキに対して荒げた口調で話すのは中々無かった。

「僕はみんなを巻き込みたくは無いんだ!だから・・・」

「だからって・・・」

「イズキ!」

イズキが何か言いだそうとした時、ライサーが制止に入った。

「ヒロキの気持ちは分かった、だから行け、俺達は先に傭兵の街へ向かう、くれぐれも死ぬなよ」

「うん、ありがとう・・・ライサー」

そう言い残し、ヒロキはブラッディブレイクと鉄色のバーサークフューラーが対峙している場所へと向かった。

「どうして行かせたりなんかしたのさ!!」

ライサーに怒りをぶつけるイズキ。

「あいつが何の目的も無くあんな場所に行こうとするか?」

「それは・・・」

思わずたじろぐイズキ。

「それに一人で行ったのは、俺達に自分と同じ目に遭わせたく無かったんだろう、特にイズキにはな」

「あたしが・・・」

「イズキに何かあったら社長やイズキの家族が悲しむ事を分かっているんだろう、だからヒロキはお前に危険な目に遭わせたく無いんだと思うぜ」

「そんなの・・・余計なお世話だよ・・・」

悲しくうつむくイズキ、ライサーは励ましの言葉すら掛ける事が出来なかった。

「さぁ早いとこ行きましょう、私達も戦闘に巻き込まれない内に」

「そうだな、行くぞイズキ」

「・・・・・・」

ライサー達は急いでこの場を離れ、傭兵の街へと向かった。

「ヒロキの・・・バカ・・・」

コックピットの中で小さくそう呟くイズキだった。

 

一方ヒロキは、ブラッディブレイクの横に着いた。

「お前は・・・、ヒロキ。何故ここに来た?」

「最初に言っておくけど、別に君を助けに来た訳じゃないよ」

「その位分かっているさ、俺も別に助けに来てくれとは頼んではいない」

「グラドがあのゾイドと戦ってるって事は、何か理由でもあるの?」

「・・・ミレンの部隊がアイツにやられたんだ」

「ミレンって、ミレンさんがいる部隊が!?」

実は共和国基地を壊滅後、目の前にいる鉄色のバーサークフューラーは、ミレン率いるリストリクト部隊を全滅させていたのだ、無論ミレンの機体も破壊され、ミレン自身も大怪我を負った。グラドは、その敵討ちの為に鉄色のバーサークフューラーと戦っていたのだ。

「そうだ・・・、だから俺はミレンの敵を討つ、ただそれだけだ。そういうお前こそ、何の理由があって来た?」

「僕はあのゾイドを何とかして止めなくちゃいけない、そう思ったんだ」

「フン・・・、理由は違えど、戦う相手は同じか・・・」

ヒロキとグラドは視線を鉄色のバーサークフューラーの方に移す。そしてお互い戦闘態勢に入る。

「さっきから何お喋りばかりしてるの・・・、でも一人増えたところで私に勝つ事は出来ない・・・」

「来るっ!」

バーサークフューラーが、バスタークローを突きたて、二人に向かって突っ込んで来る。二人は攻撃を普通にかわす。

「単純な攻撃だな」

「その位じゃ当たらないよ」

ブレイジングウルフSAとブラッディブレイクは、砲撃で反撃するが、バーサークフューラーは素早くEシールドを展開し、攻撃を防ぐ。

「攻撃が防がれた!」

「やはりEシールドを使ってきたか」

バーサークフューラーがレーザーを何発か放ち、そしてそのまま突っ込んでいく。

「そうはいかないよ、シャイニングアーマー起動!」

「集光パネル起動!」

お互いの機体のアーマーの一部が輝き、レーザーを吸収していく、ヒロキとグラドは、バーサークフューラーの目の前の地面に向かって砲撃する。

「・・・っ!」

見事砲弾がバーサークフューラーの目の前に着弾し、爆発する。バーサークフューラーは思わず動きが止まる。

「今だっ!インフィニティバースト!!」

「これで終わりだ!」

ブレイジングウルフSAは、砲撃武器を一斉発射し、ブラッディブレイクは、荷電粒子砲を、バーサークフューラーへと叩きこむ、バーサークフューラーのいた場所は、たちまち大爆発を起こした。

「やったか・・・!?」

「・・・そ、そんな、僕達の攻撃が・・・」

「何だとっ!」

恐怖におののくヒロキ、爆風が消えたその場所には、Eシールドを張ったバーサークフューラーの姿があった。

「さっきの攻撃全てを防いだというのか!」

これには流石のグラドも驚きを隠せなかった。

「・・・大した事の無い攻撃・・・、だから言ったでしょ、私には勝てないって・・・。これから先はもう容赦はしない、現実と言う名の悪夢を体感させてあげるわ」

バーサークフューラーのコックピットの中の少女はこう呟いた直後、ヒロキとグラドに強い衝撃が走った。

「ぐあっ!」

「い、今のはっ!?」

何と一瞬の内にそれぞれのキャノンを一門ずつ破壊し、背後にいたのだ。

「くっ・・・、やるじゃねぇか」

ブラッディブレイクは、残った方のキャノンでバーサークフューラーに反撃するが、素早くかわす。

「そんな遅い攻撃じゃ、私に当てる事は出来ない」

瞬く間にバーサークフューラーは、ブラッディブレイクの目の前に現れていた。

「クソッ!」

避けようとするブラッディブレイクだが、バーサークフューラーのパイロットの少女はこれを見逃さなかった。左側のバスタークローで、ブラッディブレイクの左腕を貫いて、もう片方のキャノンを破壊する。

「ぐぅっ!左腕ごとやりやがったな!」

攻撃を受けた際に、グラドの方にも衝撃が走る。

「グラド!」

「手出しするな!」

「でも・・・」

「俺はお前に助けられる義理は無い!」

グラドがそう言った直後、バーサークフューラーの尻尾の攻撃を食らい、吹き飛ばされる。

「おわっ!」

地面に滑り込む様にして倒れながら着地するブラッディブレイク。

「あなたも後で遊んであげるから、今はあのゾイドの死に様を見るといいわ・・・」

無表情でこう言いのけるバーサークフューラーのパイロットの少女、その言動にヒロキは恐怖を覚えた。

そして、バーサークフューラーは、起き上がろうとしているブラッディブレイクの方に向かっていき、すれ違いざまに、回転したバスタークローで右足膝を破壊した。

「な、何だとっ!?」

ブラッディブレイクは悲鳴にも似たうめき声を上げた。グラドもこれにはどう対処も出来なかった。

「これでもうあなたは動けない、終わりね・・・」

バーサークフューラーは動けないブラッディブレイクに向け荷電粒子砲発射形態を取り、口の中に収納されていた砲口の中が光り出す。

「ちっ、万事休すか」

「塵となるがいいわ」

荷電粒子砲をブラッディブレイク目掛け発射する。グラドは死を覚悟していた。

「・・・やっぱり黙って見てるなんて、僕には出来ないよ!」

動けないブラッディブレイクの目の前に突如ブレイジングウルフSAが現れ、バーサークフューラーの荷電粒子砲をシャイニングアーマーで吸収し始めた。

「くうぅぅぅっ!」

「貴様、何故助ける!?」

「放っておけないからだよ、君が倒されるのをただ見てるなんて出来る訳無いじゃないか!」

「言った筈だ、貴様に助けられる義理は無いと」

「君が何度嫌だと言ったとしても、僕は君を助ける!」

「・・・バカな奴め」

「バカで構わないさ」

そしてようやく荷電粒子砲が撃ち終わったが、ブレイジングウルフSAのシャイニングアーマーは、至る所に亀裂が生じていた。

「ビービー!シャイニングアーマー損傷率80%以上、コレ以上の吸収は不可能デス」

「荷電粒子砲一撃でシャイニングアーマーが使い物にならなくなるなんて・・・」

「荷電粒子砲を防いだ・・・、でももうそのアーマーは使い物にはならない、さっきの邪魔された分思いっ切り遊んであげる」

またしても無表情で言う少女、まるで感情という概念が無い様にも見える。

「言っておくけど、私から逃げる事は出来ないわ・・・」

「逃げるつもりはないよ、最初から戦うつもりさ」

逃げようとはせず、強い意志でバーサークフューラーに立ち向かうヒロキ。

「それじゃあ本気で行くよっ!」

ヒロキがそう言った後、ブレイジングウルフSAは、走りながら、残ったキャノンとミサイルでバーサークフューラーを狙い撃つ。

「その程度じゃ当たらないわ」

バーサークフューラーは、攻撃を鮮やかにかわし、驚異的なスピードでブレイジングウルフSAに向かって行く。

「うわっ、何て速さなんだ!」

ヒロキが横に振りむいた時には、もう既にバーサークフューラーの姿があり、ブレイジングウルフSA目掛け、一本のバスタークローが低い回転音を響かせていた。

「このままじゃマズい!」

ブレイジングウルフはその場で体勢を低くし、そのまま駆け抜けようとしたが、バーサークフューラーも素早く察知し、素早く回転している方のバスタークローをブレイジングウルフSAに突き刺す。バスタークローは、ブレイジングウルフSAの背中のユニットを貫いた。それと同時にヒロキはブレイジングウルフSAの背中のユニットを強制排除し、何とかバーサークフューラーから逃れる。

「危なかったぁ〜、もう少しでまともに食らうとこだったよ。でも、さっきよりは火力は落ちたけど、その分軽くなったから、素早く動ける筈だから、今度は接近戦で戦っていこう」

背中のユニットを失い、火力は減少したものの、身軽になったブレイジングウルフSA。ヒロキは機体の状況を見て、接近戦重視で戦う事にした。だが、バーサークフューラーも接近戦重視である事もまた事実であった。

「行くぞぉぉぉっ!!」

バーサークフューラーに向かって全速力で走るブレイジングウルフSA、背中のユニットが無い為、ある時よりも動きが素早くなっていた。

「さっきより速くなってる、でも」

バーサークフューラーは向かって来るブレイジングウルフSAに、バスタークローで迎え撃とうとする。

「そう簡単には食らわせない!」

「!」

ブレイジングウルフSAは小さく横移動し、バスタークローをかわし、バーサークフューラーに攻撃を仕掛ける。

「いっけぇぇぇ!!」

「バスタークローはもう一本あるのよ」

バーサークフューラーは、もう片方のバスタークローを勢い良く横に振り、ブレイジングウルフSAを吹き飛ばす。

「うわぁぁぁっ!」

ブレイジングウルフSAは、地面に叩きつけられる。バスタークローが当たった際に、左前足のシャイニングアーマーが砕け、頭部もダメージを受け、キャノピーの一部に亀裂が入っていた。そして地面に叩き付けられた時に、右前後足のシャイニングアーマーが砕けてしまった。

「あなたにだけ教えてあげる、この子はクリムゾンフューラーっていうの、フレームの色が血のように紅いからそう名付けされたそうよ」

無表情にこのバーサークフューラー、もといクリムゾンフューラーの事を説明する少女。

「・・・そんな事、僕には関係ないね」

ブレイジングウルフSAは起き上がり、クリムゾンフューラーの方に機体を向ける。

「僕は・・・、僕は負ける訳にはいかないんだー!!」

頭から血を流しながら、力強い声で叫ぶヒロキ、普段の様子からは到底想像出来ない事である。そして、それに応えるかの様にブレイジングウルフSAは、天に向かって雄叫びを上げる。さらに言えば、ヒロキの瞳の色が若干赤みを増している様に見えた。

「バカみたい・・・、叫んじゃってさ・・・」

クリムゾンフューラーはレーザーを何発か発射し、ブレイジングウルフSAに攻撃する。

「そんな程度じゃ、僕には当たらない!」

さっきまでのブレイジングウルフSAとは動きがまるで違っていた。素早く、そして身軽にレーザーをかわし、クリムゾンフューラーへと近づいて行く。

「さっきまでと動きが違う、どうしてなの・・・?」

クリムゾンフューラーはブレイジングウルフSA目掛け、バスタークローを突き刺すが、既にその場所にはブレイジングウルフSAの姿が無かった。

「い、いない・・・、あっ!」

少女が顔を上に向けると、今まさにブレイジングウルフSAが飛び掛かってきたのだ。

「やあぁぁぁっ!!」

「そうはさせないっ!」

もう片方のバスタークローでブレイジングウルフSAの右前足の肩アーマーを破壊するが、勢いは衰える事無く突っ込んで行く。

「え・・・」

振りかざした爪がクリムゾンフューラーに見事ヒットし、クリムゾンフューラーは攻撃された反動で何歩か後退りする。

「くぅっ・・・!私が、攻撃を・・・食らったっていうの・・・」

少女は無表情ながらも、時折焦りの表情を見せていた。

「この調子でもう一回だ!」

一方ヒロキは、追撃すべく、もう一度クリムゾンフューラーに飛び掛かり、渾身の力を込め、爪を振りかざそうとする。

「一回攻撃当てた位で調子に乗らないでよ!」

さっきの無表情とはうって変わり、怒りの表情で叫び声を上げる少女、同時にクリムゾンフューラーが、バスタークローでブレイジングウルフSAの胴体に突き刺し、中にあるゾイドコアごと貫通させた。その際ヒロキは、貫かれた際の衝撃で正面のコンソールに頭を強くぶつけ、意識を失っていた。しかも、さっきより出血量が増していた。

「私にとって・・・、あなたは他の人達よりも良く分からない人・・・」

バスタークローに貫かれ、力無くぐったりしているブレイジングウルフSAに向かって言う少女。だがブレイジングウルフSAからは、何一つ言葉が返ってくることは無かった。

 

* * *

 

時は少し戻り、ヒロキと別れたイズキ達は、傭兵の街へと辿り着いた。

「何とか着いたな」

「私は傭兵の街へ来るのは初めてです」

「そういやそうだったな」

ライサーとアルトが話す一方で、イズキは黙っていたままだった。

「イズキちゃん・・・」

「・・・・・・」

イズキの様子を見て、心配そうにするアルト、だがライサーは、

「今はそっとしといてやれ、ヒロキが戻って来ればケロッとするさ」

「ライサーさん・・・」

ライサーは、今のイズキにかまった所で、無駄だというのを知っているからこそ、あえてそっとしておこうとしているのだ。

「・・・確かに、そうかもしれませんね。かえってイズキちゃんに悪いのかもしれないし」

アルトもこの状況を理解したようだ。

「お、ここだな」

ライサー達は、Dr.クロノスの研究所兼整備工場に着き、施設内の格納庫にそれぞれゾイドを止める。

「ほら、降りるぞイズキ」

「・・・・・・」

既にゾイドから降りたライサーとアルト、そして、ライサーに言われ、無言のままゾイドから降り、ライサー達の跡をついて行く。イズキの表情は、何処か寂しさの感じが漂っていた。

 

「皆さんお待ちしてました」

Dr.クロノスが3人を出迎える。その他にもローダがいた。

Zi-worksCorporationから俺達を呼びだしたのは、この街の警備のためですか?」

「いえ、そうでは無くて、この資料をゴルザさんに渡して貰おうかと思って、君達を呼んだのさ」

そう言うと、Dr.クロノスは資料らしきものが入ったスーツケースをライサーに渡す。

「その資料というのは、一体どういう資料なのですか?」

資料の件についてDr.クロノスに問い掛けるアルト。

「え〜と、君がアルトちゃんだっけ、渡して欲しい資料というのは、あるゾイドの強化型プランの設定資料なのさ」

「後、この事に、どうして私達エースパイロットを全員に来る様頼んだんですか?」

続けて問い掛けるアルト。

「君達も分かる通り、昨日から急に活動を起こしだした謎の組織がまだこの近辺に現れる可能性は十分高い、一人だと、囲まれたらやられかねない状況だから、こうして全員来る様に呼んだって訳だ」

「そういう事だったのですか」

Dr.クロノスの言い分に、納得の様子を見せるライサー。

「そういやヒロキの姿が見当たらないが、どうかしたのか?」

一緒にいる筈のヒロキがいない事を指摘するローダ。

「あぁ・・・、実は、ここに来る途中、グラドの赤い凱龍輝と対峙している鉄色のバーサークフューラーとの戦いに加戦しに行ったんだ」

「鉄色のバーサークフューラーだと!?」

ローダは厳しい表情になり、この研究所から出ようとする。

「待って!あたしも行く!」

「イズキ!?」

突然イズキは、ローダに自分も一緒にいくと言い出した。

「何言ってんだよ、お前が行ったとこで足手まといになるだけだ」

「そうよ、私達と一緒にここで待っている方が良いと思うよ」

イズキを何とか制止しようとさせる二人だが・・・

「二人の気持ちも分かるけど、あたしはどうしてもヒロキの元へ行きたいんだ!だからお願い・・・、ローダ、あたしを一緒に行かせて!」

二人の制止を振り切って、自分の真剣な気持ちを、ローダに訴えかける様にして言う。

「・・・分かった、いいだろう」

「ちょ、待てローダ、本当にそれでいいのかよ!?」

ローダの決断に、驚きを見せるライサー。

「イズキの真剣な表情を見て、断る訳にはいかなかったからだ。それに、ヒロキを本気で心配してなければあんな事を言い出したりはしないだろ」

「確かに・・・、あんたの言う通りかもしれないな、それじゃイズキを、そしてヒロキを頼んだぜ」

「あぁ、勿論さ」

ヒロキとイズキの事をローダに託すライサー。ライサーは、アルトと共にこの場に残る事にした。

「それじゃDr.クロノス、行って来る」

「ライサー、アルト、心配掛けてゴメン、それじゃ行くね」

「うん・・・」

「気を付けてな」

ローダとイズキはそれぞれのゾイドに乗りこみ、傭兵の街を後にして、イズキの案内の元、ヒロキのブレイジングウルフSAとクリムゾンフューラーが戦闘している場所へと向かう。

 

* * *

 

ようやくその場所へと辿り着いたローダとイズキが見た物は、片腕を失い、片足を破壊されて動けないブラッディブレイクと、ほぼ無傷で立っているクリムゾンフューラー、そして、クリムゾンフューラーのバスタークローに串刺しになったブレイジングウルフSAがいた。

「一足遅かったか・・・」

「そ、そんな・・・」

無残な姿と化したブレイジングウルフSAを見るなり、愕然とし、目から涙を浮かべるイズキ。

「でも、あなたをここで始末しなくちゃいけない・・・、そんな気がするの」

ブレイジングウルフSAを串刺しにしていた方のバスタークローを振り下ろし、ブレイジングウルフSAをバスタークローから引き離す、引き離されたブレイジングウルフSAは、なすがままに地面へと叩き付けられる。

「もう、許さない・・・!」

「待て、イズキ!」

イズキのクイックサイクスが、ローダの制止を無視し、クリムゾンフューラーにバスタークローを向けながら猛突進する。

「許さないっ!アンタだけは絶対に許さないっ!!」

泣きながらクリムゾンフューラーに乗っている少女に対して怒りの叫び声を上げるイズキ。

「邪魔よ」

「きゃああっ!」

クリムゾンフューラーが尻尾でクイックサイクスを吹き飛ばす、クイックサイクスは、背中の武装を破壊され、地面を転がるようにして倒れていった。

「くそぉ・・・」

何もする事が出来ず、悔しさを見せるイズキ。

「少し邪魔が入ったけど、これであなたも最後ね・・・」

クリムゾンフューラーは、ブレイジングウルフSAの目の前に立っていた。

「さよなら・・・」

ブレイジングウルフSAの頭部に向けて突き刺そうとする。

「させるかっ!」

何と、ローダのコマンドウルフがブレイジングウルフSAを庇って、バスタークローに胴体を貫かれた。しかも、その場所が運の悪い事に、貫かれた場所は、ゾイドコアのある場所だった。

「ローダ!」

「どうして私の邪魔するの!?」

「動けない相手にそこまでやる必要はねぇじゃねぇか、それに俺はアイツを守る為に割って入っただけだ」

自分の機体を犠牲にしてまでヒロキを守るローダ、ローダにとっても、ヒロキは大切な仲間の一人でもあったからだ。

「あなたも、そしてさっきの人も、どうして他人なんか守る為にそんな事ができるの・・・、私には分からない、考えられない」

少女はローダやイズキの行動に、混乱した様子を見せ、コマンドウルフが突き刺さったバスタークローを振り回し、コマンドウルフを投げ飛ばす。そしてクリムゾンフューラーはその場から離れて行った。

「ぐうっ!す、すまないな・・・、相棒」

ローダは、自分の判断で死なせてしまった事を、相棒であるコマンドウルフに謝る。

「に、逃げた・・・?そんな事よりヒロキの方が心配だ!」

クイックサイクスでブレイジングウルフSAの元まで行き、クイックサイクスから飛び降りてブレイジングウルフの頭部へと登る。

「先に来てたかイズキ」

少し遅れてローダも、頭部へと登って来た。ローダはコックピットのハッチの後方にある非常用開閉装置が設置されてるカバーを開け、中のボタンを押した。するとハッチが少し開いた。

「よし、ここからは2人で力を合わせて開けるぞ」

「うんっ」

ローダとイズキは、力を合わせ、何とかブレイジングウルフSAのハッチをこじ開ける。

「ヒロキ!だいじょ・・・」

ヒロキの姿を見た瞬間、イズキは言葉を失った。ヒロキは血だらけの状態でシートにぐったりとしていた。

「ヒロキ、しっかりしてよ!ねぇってば!!」

イズキの必死の叫び声も、今のヒロキには全く届く事は無かった。

「お願いだから目を覚まして・・・、死んじゃうなんて、あたしはいやだよ・・・」

イズキはその場で泣き崩れてしまった。いつも一緒にいただけにショックも大きかったのだ。

「落ち着け、イズキ。ヒロキはまだ死んではいない」

「ローダぁ・・・、それ本当なのぅ・・・?」

ローダは、ヒロキの様子を確認して、泣いているイズキに言った。だが、ローダの表情は決して明るくは無かった。

「あぁ、今から救護班呼んでくるからそこにいてくれ」

「うん・・・」

ローダは、ブレイジングウルフSAから離れた場所で、携帯を使って、Dr.クロノスへ連絡する。

「もしもし、ローダ君か、何かあったのかい?」

「今すぐゾイド回収用のトレーラー3機分と、救護班をこちらに向かわせてくれ、特に救護班は急ぐ様に言ってくれ」

「救護班を特に急がせるって、まさかヒロキ君やイズキ君の身に何かあったのか!?」

「イズキは何とも無いが、問題はヒロキの方だ、辛うじて生きているが、命は危険な状態だ、いつまで持つか分からない」

「分かった、今すぐ向かわせる様言っておくよ!」

「すまないな、Dr.クロノス」

そう言って電話を切るローダ。ブラッディブレイクが倒れていたとこを見ると、ガイロス帝国の者が、機体を回収して去って行く所だった。

「どうやら向こうも回収していったみたいだな」

その後間も無くして、ジョシュアの乗るゾイド3機分のトレーラーを牽引したグスタフと、救護班の医療用に改良されたグスタフがやって来て、それぞれの機体を回収し、ヒロキは医療用のグスタフの中で応急処置を受け、急いで傭兵の街の病院へと運ばれて行った。そして帰りのグスタフの中、イズキは泣き疲れたのか、眠っていたが、その寝顔もまた悲しげな表情で、閉じている目の隙間から涙がにじみ出ていた。ローダとジョシュアも、今のイズキの見て、心が締め付けられる思いで一杯だった。こうして、ジョシュアのグスタフは、傭兵の街へと辿り着いた。

 

#15(後編) 完 #16へと続く