#18 守りたいもの
著/Ryuka

 

あたしとヒロキが一緒に暮らしてから一週間が経った。その間も色々とあったけど、ライサーやアルトの協力もあって何とか乗り越える事が出来た。もしライサーやアルトが協力してくれなかったら続けてはいられなかったと思う。いくらヒロキが好きだからと言っても限界があるからね。ヒロキの方も、頭の包帯が取れ、見かけではすっかり完治している様にも見えるが、依然として記憶は戻って無いまま。

それはそうと、今日父さんからあたしの新しいゾイドが出来たって電話が来たので、ヒロキと一緒にZi-worksCorporationへと来ていた。

「うわぁ〜・・・、大きなビルだね〜」

ヒロキは目の前のビルを見上げながらこう言った。

(そうか、今のヒロキはここが分からなかったんだったんだ)

ヒロキも本来はここZi-worksCorporationのエースパイロットだけど、今は記憶喪失でその事を覚えていないからZi-worksCorporationの事すら知らないのも無理も無いよね。

「ここはあたしやライサーやアルトが働いているZi-worksCorporationっていう会社なんだ」

「そうなんだ、それでこのZi-worksCorporationっていう会社は何をしているとこなの?」

ヒロキがあたしに質問をする。

「主にオリジナルのゾイドの製造・販売、それにゾイドのパイロットの育成をしてたりするんだ。まぁあたしとライサーとアルトは、エースパイロットと言って、パイロットの中でも特に優れた人達なんだ」

「イズキちゃんがエースパイロットなんて凄いんだねぇ〜、僕もイズキちゃんみたいにエースパイロットになれたり出来るかな?」

ヒロキはあたしに憧れに近い表情でこう言った。何かこれに近いやり取りが前にあった様な・・・

「ヒロキならきっと出来るさ(本当はヒロキもエースパイロットなんだけどね)」

「そうなの?したら僕も頑張らなきゃねって、まだZi-worksCorporationに入ってなかったんだ僕」

恥ずかしそうに頭を掻くヒロキ、その様子を見ると本当に初めて来た感じにも思えた。

「あはは、その心配はいらないよ、じゃああたしについて来て」

「う、うん・・・、本当に大丈夫なの?」

ヒロキは不安そうな顔であたしに確認をする。多分ヒロキは自分が部外者だから勝手に入ったらマズいのではと思っているに違いない。

「大丈夫だって、そう不安そうな顔しないの」

あたしはヒロキの不安を吹き飛ばす様励ましの言葉を掛けた。するとヒロキも少しホッとした表情を浮かべていた。

 

* * *

 

あたしとヒロキは、父さんが待つ格納庫へと来ていた。いつもなら最初に社長室に行くべきだけど、今回は仕事で来てる訳じゃないから、わざわざそうする必要も無い。

「こっちだイズキ」

格納庫から響いた声は、あたしの父さんで、この会社の社長のゴルザだった。自分の父さんを呼び捨てにするのはどうかと思ったけど、こういう場合は仕方無いよね。

「ゴメン父さん、少し遅くなっちゃった。あ、今日は父さんって呼んでもいいよね?」

「別に仕事中でも無いから構わんよ、それにヒロキ君も一緒か」

「まぁ・・・ね、一人にする訳にもいかないし」

「おじさん何で僕の名前を知ってるんですか!?」

父さんがヒロキの名前を知っていた事に驚く様子のヒロキ、そういやまだ言って無かったっけ。

「え〜と、この人はこのZi-worksCorporationの社長で、あたしの父さんなんだよ」

「え?ええぇぇぇっ!?」

あたしの言った事にさらに驚いた表情を見せるヒロキ。

「も、もしかしてイズキちゃんって、この会社の社長さんの娘さんだったのー!?」

「うん、そういう事になるね」

あたしが社長の娘である事を知って慌てるヒロキ、このやり取りも前にあった様な気がするな・・・

「こんな凄い人の娘さんと一週間も一緒に過ごしてたんだ僕・・・」

思わず唖然とするヒロキ、あたしそんなに凄くは無いんだけどな・・・

「そんな凄いって訳じゃないよ、それにあたしも社長の娘だからっていう特別な扱いは好きじゃ無いんだ」

「うむ、私もイズキにはそういう振る舞いをさせるつもりは無かったからな」

そう、父さんはあたしが小さい頃からあたしを社長の娘という立場じゃなく、普通の娘として育てたから、周囲からあたしがZi-worksCorporationの社長の娘という印象を持たれる事はあまり無かった。父さんのやった事は、母さんも反対するどころかむしろ賛成してたし、あたしにとっても気が楽で良かった。

「それはそうと、イズキの新しいゾイドが出来ておる、今目の前にあるのがそうだ」

「これが・・・あたしの新しいゾイド」

あたしはその場から見上げると、新しく造り替えられたクイックサイクスだった。よく見ると色もクイックサイクスとは違っていた。

「クイックサイクスを基に、主に内部回路に改良を加えた新たなクイックサイクス、その名もバルトサイクスだ」

「バルトサイクス・・・」

「装備面だが、イズキの注文通り、クイックサイクスの様な派手な武装は一切付けず、必要最低限に抑えておいたぞ」

「ありがとう父さん、あたしのわがままに答えてくれて」

「娘の要望に答えない父親が何処にいる、それにお前があそこまで必死に頼んでいたから、父親として断る訳にもいかんしな」

今ファイズフォックスやヴァルツフォックスやコマンドフォーミュラーと言った軍用の量産型ゾイドの製造や、新型ブレイジングウルフの製造に忙しい中、父さんはあたしの頼みをちゃんと聞いてくれて、バルトサイクスという新しいゾイドを作ってくれた事に、あたしは父さんに凄く感謝している。それで、バルトサイクスを造る経緯については、数日前の出来事に遡る。

 

数日前、あたしの家の父さんの部屋での出来事である。

「父さん」

「何だイズキか、今はヒロキ君と一緒に暮らしているのでは無かったか?」

振り向いた父さんは、何で今あたしがここにいるのかと不思議に思っていた。

「そうだけど、実は父さんに話があってちょっと戻って来たの」

「話って、お前が私に話す事なんてあったか?」

確かに今まで父さんに話を持ち掛ける事はあまり無かった。だけど、今あたしが言いたい事は、どうしても父さんに伝えておきたい事だった。

「あのさ、あたしの新しいゾイドの事なんだけど」

「あぁその事か、確かに今のクイックサイクスではまともに戦うのは困難であるな」

クイックサイクスは、鉄色のバーサークフューラーとの戦闘で、背中の武装が破壊され、さらに内部回路等もボロボロの状態で、とても戦える様な状態では無かった。

「うん、それは分かってる。あたしが言いたいのは、新しいゾイドの武装面の事なんだ」

「何を急に改まって聞いてきたと思えばその事か、またクイックサイクスの時の様に特攻重視の武装にするのか?」

「ううん、違うの」

「違うって、どういう事だ?」

あたしがクイックサイクスの様な特攻重視にしない事を疑問に思う父さん、普通ならそう思ってもおかしくないよね。

「あたしね、今までヒロキ達と一緒に戦ってきて分かったの、あたしは少なからずみんなの足を引っ張っていたんじゃないかって、今までの様な突っ込むだけの戦闘スタイルじゃみんなの役に立てない、そう思ったんだ」

今までの戦いを振り返ってみると、あたしはいつも誰かに助けられたりして、あたし自身はまともに倒せていないし、しかもユートシティ襲撃されたときだって、あたしは殆ど何も出来ず、ただ赤いバンブリアンとヒロキのブレイジングウルフが戦っているのを見てるだけだった。その頃から今の戦闘スタイルに自信が持てなくなっていた。

「確かにそうかもしれんな、だがお前は本当にそれで良いのか?」

「うん、あたしがそう決めたから・・・」

あたしはローダの様な凄いゾイド乗りにはなれないと思う、せめてみんなの足を引っ張らないのであればそれで良いと思った。

「・・・お前の判断は悪くは無い、だが自分らしさだけは見失うな、私が言いたいのはこれだけだ」

父さんは少し黙った後、あたしにこう助言した。父さんがあたしの言う事に反対しなかった事に、あたしは少し驚いた。

「父さん、本当に・・・ありがとうね」

あたしは父さんに感謝の気持ちで一杯だった。普段は厳しい感じだけど、ちゃんと優しいところがあるのが、父さんの良い所だとあたしは思っている。

自分らしさか・・・、そうだよね、あたしにだって自分らしさはある。例え戦闘スタイルが変わっても、自分らしさは変わる事がないもの。あたしにはあたしにしか出来ない事を見つければ良いって事だよね、父さん。

「私の可愛い娘の頼みだ、反対する意思は無いさ、それで武装面とかはどうするんだ?」

「えっとね、こんな感じだけど、大丈夫かな?」

あたしは父さんに新しいゾイドの外見をこうして貰いたいとはっきり伝えた。

「分かった、出来次第お前に連絡を入れる」

「ありがとうね、完成楽しみにしてるよ」

あたしが部屋を出ようとした時、父さんがにこりと笑っている様にも見えた。

 

こうして、バルトサイクスが出来上がったという事になる。だからこそこの機体は大切に使っていこうと思う。

 

丁度その頃僕は、格納庫のいろんな場所を見ていた。

「凄いなぁ、色んなゾイドがあるよ〜」

格納庫の中には多種多様のゾイドが置いてあり、僕は眼をキラキラさせながら見ていた。

「どれもこれも初めて見るゾイドばかりだな〜、あれ?」

僕が思わず立ち止まった先には、青いライオン型のゾイドが止まっていた。

「何だろう・・・、僕このゾイドに乗った気がする・・・」

良く分からないけど、目の前の青いライオン型のゾイドに僕は前に乗っていた気がする・・・、だけど、何で乗っていた気がするのかは分からなかった。僕はその青いライオン型ゾイドが気になり、コックピットの近くまでやって来ていた。

「確かキャノピーの開け方はこうだったはず、・・・あれ?何でキャノピーの開け方を知っているんだ?初めて見たゾイドの筈なのに、それにキャノピーって何・・・?」

何だか僕は良く分からなくなった。僕はここに初めて来て、このゾイドも初めて見たのに、何でか前にも見た様な感じだ、どうしてだろう、ますます分からなくなってきた・・・、僕の頭の中は混乱していた。

「そういや開けたんだから、とりあえず乗ってみようかな」

そう言って僕はそのゾイドに乗りこみ、シートに座りこんだ瞬間、

<このゾイドはシールドライガー、僕が何度か乗っていたゾイド・・・>

「い、今の何!?」

僕の頭の中に僕と同じ声でこう聞こえてきた。一体どういう事!?

「うわっ、勝手に閉じてく、何で!?」

すると開いていたキャノピーが急に閉じ出し、計器類の電源が一斉に入った。僕はこの状況が全く理解出来なかった。

「一体どうなってるの!?何かもう良く分からないよ」

<さぁ、そこの操縦桿に手を掛けシールドライガーを街の外まで動かすんだ>

まただ・・・、頭の中で僕の声で僕に指示をしてくる。僕は言われるがまま操縦桿に手を掛け、このシールドライガーというゾイドを動かした。

「う、動いたっ!それで確か、街の外まで動かせって言ってたような」

僕は頭の中から聞こえた声の指示を元に街の外へと向かってシールドライガーを走らせた。

 

* * *

 

あたしは父さんとバルトサイクスの説明を聞いて一段落着いた頃、父さんがある異変に気付いた。

「そういやいつの間にかヒロキ君の姿が見当たらないな」

「え!?いつの間にかいなくなってる!」

あたしは慌てて辺りを見回したが、ヒロキの姿は何処にも無かった。

「何処行ったんだろヒロキ・・・」

もしヒロキの身に何かあったらと思い、不安になった。

「大変です社長!」

こちらの方に慌てて走って来たのは、メカニックのツルヤだった。

「ツルヤ、どうしたの慌てて!?」

「あれ、イズキ、何でここに?」

「そんな事今はどうでもいいでしょ!」

慌ててる割に何で細かいとこを気にするのかが、あたしには良く分からなかった。

「ツルヤ君、大変な事とは一体?」

「さっきシールドライガーが格納庫から飛び出して行ったんです。それには・・・」

「それには?」

あたしはツルヤの話を聞いてると、段々嫌な予感がしてきた。

「ヒロキらしき人物がシールドライガーに乗り込むとこを俺は偶然目撃したんだ!」

「何だと!?」

「そんな・・・」

嫌な予感が的中した、ツルヤはヒロキらしき人物って言ってるけど、それは間違いなくヒロキだ。でも何で急にゾイドに乗り出したんだろう?

「いかん、確かまだヒロキ君はまともに戦える状態では無かった筈だ」

そうだ、父さんの言う通り、ヒロキはまだまともにゾイドが扱えるとは思えない、下手に戦闘沙汰になったらヒロキの身は・・・、何としても助けなきゃ!

「父さん!あたしがヒロキを助けに行くよ!」

「だけど、何処に向かったのか分からないんだぞ!」

「それは分かってる、でも・・・」

確かにヒロキが何処へ向かったのかは、正直あたしも良く分からない。だけどここでジッとしてる訳にもいかない。

「ただ闇雲に探しても時間が掛かるだけだ」

「でもあたしはヒロキを何としても探したいんだ!もしヒロキの身に何かあったらって考えたらあたし・・・だからお願い、あたしに行かせてっ!」

あたしは必死に父さんを説得する、ヒロキから目を離してしまったあたしの責任もあるし、何よりヒロキを死なせる事だけはさせたくない、あたしはその一心だった。

「・・・分かった、このバルトサイクスでヒロキ君を探しなさい」

「ありがとう、父さん」

あたしは急いでバルトサイクスへと乗り込んだ。待っててねヒロキ、今助けに行くから!

 

「社長、いいんですか!?」

「あぁ、何かの為に必死になってやろうとする姿は昔の私にそっくりだな。流石は私の娘だけはある」

 

「さぁ行くよ、バルトサイクス発進!」

バルトサイクスは勢い良く走り出し、格納庫を飛び出し、やがて街の外へと出る。

「これは、シールドライガーの足跡、こっちだな」

あたしはシールドライガーの足跡のある方向に向け走り出した。

 

* * *

 

一方、僕はというと、トラ型の大型ゾイド(セイバータイガー)3機に絡まれていた。

「黙って俺達の前に来るとはいい度胸してんじゃねぇか」

「えっと、僕はそんなつもりじゃ・・・」

「てめぇがどういうつもりだろうが知った事か!」

どうしよう、ただ目の前を通り過ぎただけなのに、何で急に襲い掛かってくるんだろう、僕はあまりの突然の出来事にパニックになっていた。

「ん?どうした、攻撃してこねぇのか?」

「攻撃って・・・、そんなの僕には出来ないよ・・・」

はっきり言うと、攻撃が出来ないんじゃ無くて、攻撃の仕方が分からないだけなんだ。だって僕、さっきゾイド乗ったばかりだし・・・あれ?僕は一体何処へ向かおうとしたんだろう、それに何でこんな絡まれる様な事になったんだろう、また良く分からなくなってきた・・・。

「攻撃が出来ないだと!?じゃあ俺達から攻撃させて貰うぜ!」

そう三人組の一人が言うと、トラ型の大型ゾイド3機は、一斉に僕のシールドライガーに向かって光の弾を撃ち出してくる。

「うわぁ!」

僕はどうしたら良いのか分からず、光の弾の雨をまともに受けてしまう。僕のいるコックピットの中も攻撃を受けた衝撃が伝わってくる。すると僕の頭の中に、黒い鉄の様な色をした恐竜型ゾイドが背中のドリルの様な物で僕に向かって突き刺してくるのが過ぎった。

「い、嫌だ・・・」

さっき頭に過ぎった事で、さらに怖くなり、手が震えて操縦桿すらまともに握れなくなっていた。

「何だありゃ?さっきから全く動いてないぞ、あのシールドライガー」

「フン、ビビって動けなくなったんだろ、丁度良い、俺がとどめを刺してやる。お前らは手を出すなよ」

「分かったぜ」

トラ型ゾイドの一体が、僕の方目掛けて走り出した。

「もう・・・嫌だよ・・・」

怖い、もう何もかも怖い、僕にはもう・・・どうする事も出来ないよ・・・

「これで終わりだぜぇ!」

「えっ・・・!」

見上げると目の前には牙を剥き出しにして今にも噛みつこうとするトラ型ゾイドの姿があった。今の僕には避ける事すら出来なかった。

「死ねぇぇぇっ!!」

(誰か・・・、助けてっ!)

「やあぁぁぁっ!」

その時、トラ型ゾイドを一体のゾイドが吹き飛ばした。よく見るとそのゾイドは今日イズキちゃんと一緒に見たゾイドだったから、もしかして・・・

「ヒロキにこれ以上指一本触れさせないよ!」

「イズキちゃん!」

やっぱり目の前のゾイドに乗っていたのはイズキちゃんだった。僕を助けに来てくれたんだ。

 

「大丈夫、ヒロキ?」

あたしはヒロキに怪我は無いか確認をする。

「うん、何とか大丈夫だよ」

「良かった」

ヒロキの声は少し震えていたけど、無事で何よりだ。

「さてと、よくもさっきはヒロキをやってくれたね!今度はあたしが相手だ!」

「何だ、あの見た事も無いゾイドは?」

「だが乗っているのは女みたいだぜ」

「さっき食らった分の借りはしっかり返さねぇとな!」

さっき吹っ飛ばしたセイバータイガーも起き上がり、3機のセイバータイガーは戦闘態勢に入っている。

「ヒロキ、下がって」

「う、うん」

あたしの言う事に素直に答え、ヒロキのシールドライガーはその場から下がった。

「セイバータイガー3機か、バルトサイクスの戦闘テストには丁度良い相手ね」

「女一人がデカい態度取ってんじゃねぇよ」

「あんまりあたしを舐めないでよね、痛い目遭うよ」

「調子に乗るなよ!このアマぁ!」

セイバータイガーの一体があたしのバルトサイクスに向かって噛みつこうとする。あたしは攻撃を素早くかわす。

「何!?何て素早さだ!」

「隙ありっ!」

かわす動作と同時に、セイバータイガーの足元を狙い、背中のレーザーを何発か撃つ。

「ぬわっ!」

見事前脚にヒットし、バランスを崩して転倒する。

「だから舐めないでって言ったじゃない」

「クソッ、言わせておけばっ!」

残りのセイバータイガーが火器類を連射してくるが、今のあたしには大した事の無い攻撃だ。

「あれだけ連射してるのに何故全く当たらないんだ!?」

「何てすばしっこいゾイドなんだ」

あたしはビームの雨を上手く掻い潜り、着実にセイバータイガーへと近づいて行く、あたしはローダの様にはなれないけど、あたしはあたしなりの戦い方だってある。今までの様にただ突っ込むだけじゃ無く、機体のスピードを生かして戦う、これが新しいあたしの戦い方だ。

「ブースターON!」

バルトサイクスのブースターを作動させ、一気に近付く。

「うぅ、凄い衝撃だ、でもあたしはこの程度で負けてなんかいられないんだっ!」

あたしはセイバータイガー同士の間を駆け抜けると同時にブースターを切り、すぐさま振り返って、片方のセイバータイガーにレーザーを何発か撃ち込む。

「何だと!?ぐわっ!」

レーザーがヒットしたセイバータイガーは崩れ落ちた。あたしはブースターをふかし、滑りを止める。

「アンタで最後の一体って訳ね」

「タイマンか、おもしれぇ!」

あたしのバルトサイクスと相手のセイバータイガーは互いに向かい合う様に走り出した。

「いっけぇぇぇっ!!」

飛び掛かると同時にブースターをふかし、爪を振りかざしながら一気に近付く。

「スラッシュクロー!!」

「クソッ、避け切れねぇ!」

バルトサイクスの一撃は、セイバータイガーの右前足を破壊した。セイバータイガーは滑り込む様にして倒れ込んだ。

「ち、チクショウ!覚えてやがれっ!」

セイバータイガーに乗っていた3人組の男達は、セイバータイガーを乗り捨て、その場から走り去って行った。

「どんなもんだいっ!」

あたしはクイックサイクスから降りて、ガッツポーズを取って言った。

「凄いねイズキちゃん、あの3体の大型ゾイドを倒しちゃうなんて、僕は全然・・・」

シールドライガーから降りたヒロキがあたしに羨ましそうに言った。

 

「ヒロキ・・・」

「イズキちゃんどうしたの?」

僕はイズキちゃんの様子を見て心配そうに声を掛けた。

「ヒロキのバカっ!何で勝手な行動取ったんだよ!」

「そ、それは・・・」

「急にいなくなったから、あたしヒロキの事心配してたんだよ!」

イズキちゃんは僕に怒鳴り付ける様に大声で言った。だけどイズキちゃんの表情は怒っているというより、今にも泣きそうな顔をしていた。

「ご、ゴメンね・・・、うわぁ!」

いきなりイズキちゃんが僕に抱きついてきたのだ。

「え?え?どういう事イズキちゃん?」

僕はこの状況が理解出来ずに混乱していた。

「今のヒロキには分からないかもしれないけど、あたしはヒロキの事が・・・大好きなんだよ」

「え・・・?」

僕の事が大好きって・・・、どういう事なのかな?でも何かその言葉を聞くと急に恥ずかしくなった。

「僕どうしてか恥ずかしいな・・・」

「え、あぁゴメン、あたし思わず・・・」

イズキちゃんは顔を真っ赤にしながら慌てて僕から離れた。

「イズキちゃん、僕の事大好きって?」

「今は記憶を失ってるから良く分からないと思うけど、後になったら・・・きっと分かるから」

イズキちゃんの言ってる意味は僕には良く分からなかった。だけど、何かあるって事だけは確かなのだと僕は思った。

「さて、帰ろうか」

「そうだね、今日は僕もう疲れちゃったしね」

そして僕達はそれぞれのゾイドに乗りこんで、街へと帰って行った。

それにしても、頭の中から聞こえてきた僕の声や、頭に過ぎったものは一体何だったんだろう、そもそも僕は一体何者なのだろうか、本当に僕はヒロキっていう名前の人なんだろうか、何だか最近僕の頭の中がよく分からない状態になっている。そして僕はこれからどうなっていくんだろうか・・・

 

* * *

 

辺りもすっかり暗くなった頃、イズキの家では、ゴルザとイズキの母が話をしていた。

「あの子、最近になって本当変わったよね」

「そうだな、昔はとにかくやんちゃで、よく手を焼いたものだ」

「もしかしたら、あの子が変われたのはヒロキくんのお蔭なのかもしれないわね」

「それは言えるかもな、もしイズキがヒロキ君と会う事が無かったら、昔と変って無かったかもな」

「うふふ、そうかもしれないわね」

 

* * *

 

その夜、夕食を食べ終えた後、ヒロキがあたしに話したい事があると言ったので、聞いてあげる事にした。

「あのねイズキちゃん、僕今日凄く怖い思いをしたんだ」

「怖い思いって、セイバータイガー達に襲われた事?」

「ううん、その事じゃないんだ」

「じゃあそれ以外に怖い事って?」

あたしにはヒロキが怖いと思ったのはセイバータイガーに襲われた事だとばっかり思っていたが、どうやら違うらしい、他にヒロキが怖がる事なんてあったかな?

「僕がセイバータイガー達に襲われてた時に、黒い鉄の色をした恐竜型ゾイドが背中のドリルのような武器で僕に突き刺そうとしたのが頭に過ぎったんだ、そしたら凄く怖くなって・・・」

黒い鉄の色をした恐竜型ゾイド、それに背中にドリルのような武器・・・、間違い無い、あの時ヒロキのブレイジングウルフSAを串刺しにした鉄色のバーサークフューラーの事だ、でも今のヒロキは記憶を失ってるはず、なのにどうして・・・

「それだけじゃないんだ、シールドライガーに乗り込んだ時、何度か頭の中で僕の声で僕を呼び掛けていたんだ」

「一体どういう事なの?」

ヒロキの頭の中で自分の声が聞こえるってどういう事なんだ?あたしにはさっぱり分からなかった。

「それは僕にも良く分からないんだ」

「それもそうだね」

もしかしてそういうのが起こる様になってきたのって、少しずつヒロキの記憶が戻って来てるって事?あたしには良く分からないけど。

「だから黒い鉄の色をした恐竜型ゾイド見てから、今も凄く怖いんだ・・・」

あたしから見ても分かる様に、今のヒロキは凄く怯えていた。

「大丈夫だよ、あたしがついてるから」

「ホント・・・?」

「ホントだよ」

「ありがとう、イズキちゃん」

あたしの言葉を聞いて、さっきまでの怯えていた表情から、安心した様子で笑顔を浮かべていた。

「もう夜も遅いし、もう寝ようか」

「そうだね、今日も一緒に寝てくれるよね?」

「分かったよ、寝てあげるから」

「ありがとうね」

そうしてあたしとヒロキは眠りについた。こうして考えると、ヒロキと一緒に寝る事にいつの間にか慣れてしまっていた、最初の頃の様に戸惑ったりする事は、今はもう無くなっていた。それよりもヒロキはあたしにも分からないような事に直面している。あたしはそんなヒロキに何かしてあげれる事はあるんだろうか、あたしもヒロキの身に起きている事を聞いて、少しに不安になったのかもしれないな。

 

#18 完、#19へと続く