#19 Evolution Spirit | 著/Ryuka |
ここは、傭兵の街の外れにある墓地、俺はある人の墓の前に花を手向けていた。
「レオナ、あれからもう8年になるな・・・」
そのある人とは、かつての俺の親友でもあり、ゾイド乗りの師でもあったレオナ・リーフィスの事だ。そして目の前にある墓は、レオナの墓であった。何故レオナが死んでしまったというと、8年前、傭兵の街が襲撃された際に、俺を庇って自らを犠牲にした・・・。この8年前の事を知っているのは、クロノとじいさん位か。
「・・・これからも、俺達の事を空の上から見守っててくれよ」
俺は目の前の墓に対して多少の笑顔でそう言う、墓はじっとその場に立っているだけだったが、言葉を言った直後に、優しいそよ風が吹いた。
「もしかしたら、今のそよ風がレオナの返事なのかもしれんな。じゃ、また来るからな」
今吹いたそよ風を、俺はそう解釈し、墓地を後にする。俺は8年前の出来事以来、傭兵の街にいる時には、時々こうしてレオナの墓の前へと足を運んでいる、自分の未熟さで親友を失っただけに、“最強の傭兵”とまで呼ばれる様になった今でも、その事の無念を忘れる事は無かった。俺がゾイド乗りとしてより強くなろうと思ったのも、この事があったからこそだ。
「さてと、早いとこユートシティのZi-worksCorporationへと向かうとするか」
気持ちを切り替えて、失ったコマンドウルフに代わり、もう一つの愛機である俺用にチューンナップされたガンスナイパーに乗り込み、ユートシティへと向け機体を発進させる。
* * *
Zi-worksCorporationへと着いた俺は、早速依頼を受け取り、再び機体にへと乗り込む。何故俺がZi-worksCorporationに来ているかと言うと、仕事に行く事が出来ないヒロキとイズキの代わりとして来ている訳だが、実質やる事は、傭兵の時と変わらない、というよりも傭兵の延長みたいなものだ。因みに言うが、決して傭兵を辞めた訳では無く、傭兵とZi-worksCorporationの臨時エースパイロットを兼任しているだけだ。
「また今回の依頼も大した事は無さそうだな」
依頼が書かれたの紙を見て退屈そうに言う俺、事実、書かれた依頼の内容は、俺にとっては大した事無いものだった。元々はヒロキが引き受ける依頼であった。
「ライサーやアルトが言っていたが、未だにヒロキの記憶は戻ってはいない様だな」
ヒロキが鉄色のバーサークフューラーに惨敗して大怪我をし、彼は殆どの記憶を失ってしまい、現在も記憶を戻っていないらしい。記憶が戻る事はあるそうなのだが、いつ戻るのかは明確では無い。
「ん?誰からの電話だ?」
突然、携帯電話が鳴りだしたので、電話に出る事にする。
「はい、もしもし・・・」
「あ、ローダ君、今仕事中かい?」
声の主はDr.クロノスであった。一体何の用なのだろうか。
「いえ、これからですが」
「そうか、なら今話す事が出来るな」
「話す事って、一体・・・?」
俺はそう言うと、Dr.クロノスは咳払いを一つしてから話し始めた。
「実は、君に内緒で、大破したコマンドウルフACを新しく生まれ変えさせておいた」
「俺のコマンドウルフを!?」
Dr.クロノスは俺の知らない間に、俺のコマンドウルフACを生まれ変えさせていたのか!?これには俺も驚きを隠す事は出来なかった。だが今、Dr.クロノスは新型ブレイジングウルフを製造している筈と聞いていたが・・・
「だけどさ、今新型ブレイジングウルフの製造で忙しいってのに、よく俺の新しい機体を造る事が出来たよな」
良く考えてみれば、Dr.クロノスに、俺の機体を造れるだけの時間はそう多くは無い筈だ、俺はこの疑問を、電話越しにいるDr.クロノスへとぶつける。
「いえ、新型ブレイジングウルフと並行して製造していました。ローダ君の新しい機体は、Zi-worksCorporationから受け取ったコマンドフォーミュラーを元に、ローダ君用に改良、チューニングし、そこに、大破したコマンドウルフACから奇跡的に無事だったメモリーバンクを、新しい機体へと移植したのです」
「メモリーバンクが無事って事は・・・、つまり、コマンドウルフの時の記憶が新しい機体に引き継がれるって事なのか!?」
「そういう事になりますね」
要は外見だけが変わって、中身はコマンドウルフのままという事か、それなら新しい機体でも馴染みやすいかもな。
「おっと、まだ名前の方行ってませんでしたね、ローダ君の新しい機体の名前、コマンドフォーミュラースピリットです!」
「コマンドフォーミュラースピリット・・・」
その名前が俺の新しい愛機、コマンドウルフに次ぐ愛機となるゾイド、まだ見ぬ新たな相棒・・・。そんな俺をよそにDr.クロノスは話を続ける。
「では、仕事が終わってからで結構ですので、後で私の研究所の方へと来て下さい」
「あぁ、分かった」
そして、Dr.クロノスの方の電話が切れた。俺も携帯をしまい込み、手を操縦桿へと移す。
「コマンドフォーミュラースピリット、一体どんなゾイドなんだろうか・・・」
俺は新たな相棒に期待を持ちつつ、依頼された場所へと向かう事にした。
* * *
依頼主がいる小さな町へと辿り着いた俺は、依頼主から依頼の説明を聞き、依頼を実行する。案の定、然程時間が掛からずに終わった、と言っても1時間は経っていたが。
「ありがとうございます、あなた様のお陰で助かりました」
依頼主は笑顔で感謝の気持ちを俺に伝えた。こういったお礼は、俺にとっても嬉しい事だ。
「そう言われると何よりです、報酬につきましては、俺では無く、Zi-worksCorporationの方にお願いします」
「それは何故です?」
「俺はあくまでZi-worksCorporationの臨時パイロットとしての身ですので」
そう、俺はヒロキとイズキの代わりとして、Zi-worksCorporationの臨時エースパイロットにしか過ぎない、なのでZi-worksCorporation経由での依頼の報酬は、全てZi-worksCorporationへと送る様にして貰っている。勿論傭兵としての依頼の報酬は、俺自身が貰っている。
「分かりました、報酬の方はZi-worksCorporationへと送っておきます」
「では、俺はこの辺で」
依頼主や町の人達が手を振る中、俺は別れの言葉を告げ、この場から去って行く。
「さてと、Dr.クロノスの研究所へと向かうとするか」
小さな町から少し離れた場所で、俺は昼食を取り、そしてDr.クロノスの研究所がある傭兵の街へと戻ろうと機体の方に戻ろうとした時、突如俺の携帯が鳴り響いた。
「ったく、今度は誰だよ・・・」
俺は面倒臭そうに携帯の画面を見る、意外にもクロノからの電話であった。
「クロノが俺に電話するなんて珍しいな」
クロノが俺に電話をする事は、滅多に無い事だった。絶対何かあると思いつつ電話に出る。
「もしもし・・・」
「ローダ、今すぐ傭兵の街へ戻って来てくれ」
クロノは、声こそ荒げてはいないものの、言動からただ事では無い様子だ。
「何かあったのか!?」
「Dr.クロノスの研究所が襲撃された」
「何だって!?」
Dr.クロノスの研究所が襲撃されただと!?一体何故だ!?
「Dr.クロノスやジョシュアは大丈夫なのか!?」
「・・・後はお前が傭兵の街へ着いてから話す、まずは傭兵の街へ急げ!」
そう言ってクロノからの電話が切れた。俺はクロノの言う通り、急いで機体に乗り込み、傭兵の街へ向け、機体を全速力で走らせた。
* * *
傭兵の街へと着いた俺は、真っ先にDr.クロノスの研究所へと向かうと、そこには無残に大破したブラキオスとダブルソーダがあった。間違い無くDr.クロノスと、その助手ジョシュアの物だった。
「これは一体・・・」
「襲撃された跡だ」
「クロノ!」
背後から現れたのは、クロノであった。
「ここが襲撃されたって、どういう事だ!?」
早速クロノに、この事についての事情を聞く事にした。
「俺も詳しい事は分からんが、襲撃した奴らは、研究所からある試作品を奪ったそうだ」
「ある試作品を!?」
「あぁ、新型のブレイジングウルフとやらに搭載したシステムの試作品らしい」
新型ブレイジングウルフに搭載されたシステムの試作品!?どんな物なのかは、俺には分らないが、奪われる程の物である以上、相当な物であるのは間違いはなさそうだ。
「それよりも、Dr.クロノス達は大丈夫だったのか!?」
それもそうだが、まずDr.クロノスやジョシュアの身が気になる。
「心配するな、軽い怪我と、気を失っただけだ。二人とも今は病院で手当てして貰っている」
「そうか・・・」
どうやら二人とも死なずに済んだ事は良かった、だが襲撃した奴らを放っていく訳にはいかない。
「クロノ、そいつらが何処へ行ったか分かるか?」
襲撃した奴らが、何処へ向かったのかクロノに聞き出す。
「お前が来る前に門番から聞いたが、どうやらここから西の方角へと向かった様だ」
「よし、分かった」
「待て、ローダ」
行こうとする俺を制止するクロノ。俺は立ち止まる。
「何だよ」
「Dr.クロノスからお前に伝える様に頼まれた事がある」
「Dr.クロノスが俺に?」
それは、研究所が襲撃された直後に遡る。不審な爆発音が研究所の方から聞こえたクロノは、研究所へと駆けつけると、大破されたブラキオスとダブルソーダの姿があった。
「これは・・・、そんな事よりも」
クロノは大破したブラキオスのコックピットまで走り、ハッチを何とか開け、中にいたDr.クロノスに事情を聞き出す。
「大丈夫かDr.クロノス!?」
「君は・・・クロノ・・・君か・・・」
弱弱しい声で話すDr.クロノス。
「一体何があったんですか!?」
「さき・・・ほど・・・、この・・・研究所が・・・襲われて・・・」
「研究所が襲われた・・・」
「私が・・・造った試作品を・・・奪われて・・・しまった・・・」
「試作品を奪われた・・・!?」
この時、クロノは奪われた試作品が何であるかは、全く分からなかった。ただ、大変な事態である事だけはしっかりと認識していた。
「それと・・・ローダがここに・・・来たら・・・伝えてくれ・・・、新しい機体が・・・奥の方に・・・あると・・・」
Dr.クロノスがクロノに、コマンドフォーミュラースピリットの事について伝え、言い終えると同時に、体の力が抜け、ぐったりとする。
「・・・気を失っているだけか」
ぐったりとしているものの、息はしている事から、気絶しているだけの様だ。その後、ジョシュアの方も確認したところ、Dr.クロノスと同じ様に気絶していた。
「クロノさん!」
「ん?」
クロノが振り向くと、ユキエとフェイラが駆けつけていた。
「ユキエとフェイラか」
走って来たのか、ユキエとフェイラは息を荒げていた。
「はぁ・・・はぁ・・・、一体何があったのですか!?」
「何者かにこの研究所を襲撃された様だ」
「はぁ・・・はぁ・・・、誰がこんな事を」
「俺もそこまでは分からん、ただ分かる事は、Dr.クロノスが造った試作品を奪われた事だけだ」
クロノも、襲撃した者の正体については全く知らない、彼も襲撃された後に来た人であるからだ。
「そうですか・・・」
「来たばっかりですまないが、二人には、Dr.クロノスとジョシュアを病院に運んでくれないか?」
「分かったよ」
すぐに承諾したフェイラに対し、ユキエは。
「クロノさんはどうするのですか?」
ユキエは、クロノはこれからどうするのかを聞いた事に、クロノはこう答えた。
「俺はここに残ってローダを待つ、Dr.クロノスからあいつに伝えて欲しい事があると頼まれてな」
ユキエは少しの沈黙の後、クロノに対してこう答えた。
「・・・分かりましたわ、私達でDr.クロノスさんとジョシュアさんを病院まで運びますわ」
「すまないな、ユキエ」
「いえ、私達が出来る事をするまでですから」
ユキエは微笑んだ後、フェイラと共に、Dr.クロノスとジョシュアを、研究所に置いてあった担架に乗せ、病院へと運んでいった。幸い、研究所から病院まではそう遠くない場所にあった。
「今すぐローダに電話して戻って来る様伝えないとな」
クロノは携帯を取り出し、ローダへと電話を掛けた。
「あぁ、この奥にお前の新しい機体、コマンドフォーミュラースピリットがある」
「本当か!?」
「こっちだ」
俺はクロノの後について行く、そして辿り着いた先には、新しい相棒、コマンドフォーミュラースピリットがあった。機体には傷が無く、襲撃の被害を受けた様子は無い。
「これが、コマンドフォーミュラースピリット・・・」
外見は、コマンドフォーミュラー自体コマンドウルフベースなので、コマンドフォーミュラースピリットも、コマンドウルフと近い形をしている。背中には、ブースターとレーザーキャノンが一体化した武器が2門装備されている。色は、ややくすんだ白に、ダークグレーや赤がアクセントになっている。
「この機体に乗って行くのか?」
「出来ればそうしたい」
このコマンドフォーミュラースピリットなら、ガンスナイパーよりも早く追い付ける、そう思ったが、クロノからこんな事を言われた。
「俺は特別止めたりはしないが、この機体はまだ一度もテストをしてはいないそうだ。本来の力が出し切れないかもしれん、それでも乗るつもりか?」
クロノが言うには、コマンドフォーミュラースピリットはまだ一度もテストをしていない、つまり一度も動いていない事だ。いきなり動かしたとこで本来の力が引き出せる訳無いのは、俺でも十分に分かっている。だが今は悠長に考える場合では無い、ここは無茶でもコマンドフォーミュラースピリットに乗り込み、本来の力を引き出させるしか無い。
「当然だ、Dr.クロノスの敵打ちもあるし、何より本来の力を目覚めさせるには俺の力も必要にはなるだろうしな」
「・・・全く、お前らしい答えだぜ」
若干呆れ気味に言うクロノ、俺の事をよく分かってるだけに、そういう態度が取れるのかもしれんな。
「最後に言っておく、敵の正体が分からない以上、十分に気を付けて行けよ」
「あぁ、分かっているさ」
俺はコマンドフォーミュラースピリットに乗り込み、機体のシステムを起動させる。システムは問題無く起動した。
「それじゃ行くぜ、相棒!」
俺の掛け声に答える様にフォーミュラースピリットは動き出し、研究所を出て、傭兵の街から出る。
「・・・何事も無ければいいが」
いきなり動かしたコマンドフォーミュラースピリットに心配を抱くクロノ。
「クロノさん、今研究所から出て来た見た事の無いゾイドは何ですか!?」
すると、病院から戻って来たユキエは、外で研究所から出て来たコマンドフォーミュラースピリットを見て、急いでクロノの元へと来た。
「それがローダの新しい愛機だ」
「え、ローダさんの!?」
驚く様子のユキエ、外で見た見知らぬゾイドがローダの愛機とは、ユキエは思っていなかった。
「ところで何故ここに戻って来た?」
「え!?えぇ〜っと・・・、あれ?何で戻ってきたんだっけ私・・・」
ユキエは、コマンドフォーミュラースピリットの事を伝えようとするばかり、本来の目的をド忘れしてしまった様だ。
「おいおい、忘れるなよ・・・」
「あぅ、すみません・・・」
呆れて思わず溜息もつくクロノ、ユキエは暫し考え込んだ後、
「あ、思いだしました!Dr.クロノスさんとジョシュアさんの事です。二人とも眼が覚めて、明日には退院出来るそうです」
「そうか、それは良かった」
ユキエからの朗報でも、決して表情を崩す事の無いクロノ、だがそれは表情を顔に出さないだけで、心の中ではその事を喜んでいるに違いない。
「それとDr.クロノスさんからクロノさんに『すまなかったな、クロノ君』と伝える様に言われました」
「分かった、明日Dr.クロノス達がここに戻って来てから返事を言う事にする」
「分かりました、それじゃ私は失礼しますね」
とユキエは、振りむいて研究所から出ようとしたその時、
「きゃあっ!」
研究所の機材に足を引っ掛け、転んでしまった。
「あいたたた・・・」
「大丈夫か?」
「え、ええ、私は大丈夫ですので・・・」
顔を紅潮させ、恥ずかしそうに駆け足で研究所を後にするユキエ。
(あのユキエって娘、本当に大丈夫なのか・・・)
また違った意味で心配を抱くクロノであった。
* * *
Dr.クロノスの研究所の襲撃した奴らを見つけて倒す為に、コマンドフォーミュラースピリットに乗り、傭兵を街を出たまでは良かったのだが・・・
「く、本来の力が引き出せないのはこういう事か」
コマンドフォーミュラースピリットの動きは、お世辞にも速いとは言えず、さらに安定感が無く、走っているだけなのに、コックピットの中は異様な揺れ方をしており、いつバラバラになってもおかしくない様な状況だった。
「まだ本体とメモリーバンクが上手く結合していないのかよ」
原因は何となくだが分かっている、本体と、移植した俺のコマンドウルフのメモリーバンクが上手く結合されていない事だ。結合されない事には、機体の力が十分に出せないだけで無く、最悪機体が分解する恐れがある。俺は何としても食い止めるため、機体、コマンドウルフのメモリーバンクに呼びかける。
「思い出せっ!俺とお前で築いてきた絆をっ!」
俺は必死になって呼び掛けを続ける。
「例え機体が変わっても、お前との絆は色あせる事はない筈だ!」
すると、呼び掛けに答えるかの様に、コックピットの中の異様な揺れが少しずつ収まっていき、コマンドフォーミュラースピリットの走りが安定してきた。
「じゃあ、また共に行こうぜ、相棒っ!」
俺の最後の呼び掛けによって、本体とメモリーバンクが完全に結合され、コマンドフォーミュラースピリットは覚醒し、さっきよりも格段に走りが速くなり出した。
「うおっ、いきなり速くなったな、重力に押しつぶされそうな感じだぜ、だがこれで相棒の本来の力を引き出す事が出来たって訳だな」
コマンドウルフの時とは比べ物にならない速さだ、これならいける!
「よし、早いとこ襲撃した奴らを見つけないとな!」
新しく生まれ変わった相棒と共に、研究所の襲撃した奴らを追い掛ける。
「後はこれをホワイト様に渡すだけだか・・・」
赤いジェノザウラーに、新型のブロックスシステム、ネオブロックスシステムを搭載した恐竜型ゾイドが2体、こいつらこそが、Dr.クロノスの研究所を襲撃した張本人達であった。
「しかし、あの研究所の奴ら、大した事無かったですね〜」
「ブラキオスにダブルソーダ、あんな旧式で俺達に勝てる訳が無いんだよ」
「全く笑える話だな・・・」
彼らにとって、Dr.クロノスのブラキオスや、ジョシュアのダブルソーダは、雑魚同然であった。
「待ちな、あんたら」
「何だ、貴様!?」
彼らの背後には、コマンドフォーミュラースピリット、ローダがいた。
「悪いけど、Dr.クロノスで奪い取った物返してくれねぇか?」
「黄様、もしやあの研究所の関係者か!?」
「間接的ではあるが、そういう事だ」
確かにローダは実質的にはDr.クロノスの研究所の関係者では無い、しかしDr.クロノスとの関わりはあるので、間接的に関係者として扱えるのかもしれない。
「丁度、新しい相棒の肩慣らしにもなるしな」
「肩慣らしだと!?ふざけやがって、ぶっ倒してやるぜ!」
2体の新型の恐竜型ゾイドは、コマンドフォーミュラースピリットへと向かって走り出し、ジェノザウラーは、レーザーライフルでコマンドフォーミュラーを狙う。
「遅いぜ!」
ローダは素早く攻撃をかわし、2体の恐竜型ゾイドへと物凄い速さで接近していく。
「あのゾイド、何て速さだ!」
「へぇ、見た事の無いゾイドだな、だが今の相棒の敵じぇねぇ!」
すさまじい速さで、恐竜型ゾイドの一体を爪で切り裂き、着地と同時にレーザーキャノンでもう一体の恐竜型ゾイドを倒す。
「流石はDr.クロノス、凄いパワーだぜ」
ローダは、Dr.クロノスの高い技術力に絶賛していた。それだけコマンドフォーミュラースピリットのクオリティが高い事になる。
「ま、まさか・・・、ホワイト様が新型ブロックスシステムを利用して作られた新型機のラプトイエーガーがいとも簡単にやられるなんて・・・」
ジェノザウラーは、一瞬の内にラプトイエーガーを2体倒したコマンドフォーミュラースピリットを見て、後退する。
「おっと、逃げるのは無しだぜ」
ローダは後退するジェノザウラーを見逃さなかった。そしてジェノザウラーは後退するのを止めた。
「く、くそぉぉぉっ!!」
追い詰められたジェノザウラーのパイロットは、やけを起こし、コマンドフォーミュラースピリットへと突撃する。しかしローダは攻撃を見切り、あっさりとかわす。
「野郎、何処だっ!?」
ジェノザウラーのパイロットは焦った様子で周りを見渡すが、コマンドフォーミュラースピリットの姿が無い。
「焦りが視野を狭くするもんだぜ」
「はっ!」
ジェノザウラーの背後に爪を振り下ろそうとしているコマンドフォーミュラーの姿があった。反応が遅れたジェノザウラーはかわす事が出来ず、コマンドフォーミュラースピリットの爪で右脚を破壊されてしまう。
「畜生・・・」
右脚が破壊され、バランスを崩したジェノザウラーは地面へと倒れる。
「さてと、奪った物を返してもらおうか」
倒れたジェノザウラーから見上げる様にして目の前に立つコマンドフォーミュラースピリット。
「・・・分かったよ、返せばいいんだろ返せば!」
ジェノザウラーのパイロットは、機体から降り、小さな機械を置き、再びジェノザウラーに乗り込み、壊れた脚を引きずりながら、他の二機の脱出ポッドと共に去って行った。
「っと、これが奪われたものか・・・」
ローダは機体から降り、置いていった小さな機械を手に取った、これが新型ブレイジングウルフに搭載されたシステムの試作型らしいのだが、然程メカに詳しく無いローダには良く分からなかった。
「それにしても、本当良い機体だぜ」
改めて、コマンドフォーミュラースピリットとDr.クロノスに感謝の意を示した。
「後は、Dr.クロノスの為に、あの見た事の無い恐竜型ゾイドを他の傭兵達に頼んで一体回収しておくか」
おもむろに倒れているラプトイエーガーの一体へと近付くローダ、するとローダがある物を見付ける。
「これは・・・、ネオゼネバス帝国の紋章」
ローダが見たのは、ラプトイエーガーに付けられていたネオゼネバス帝国の紋章であった。ローダは顔色を変え、
「どうやらネオゼネバス帝国の仕業のようだな・・・。まさかこの前のユートシティと傭兵の街の襲撃に、鉄色のバーサークフューラーも、ネオゼネバス帝国が絡んでるかもしれない」
今回だけでは無く、この前起きた事も、ネオゼネバス帝国が絡んでいるのでは無いかと推測するローダ、事実、ローダの読みは正しく、ネオゼネバス帝国が絡んでいる事は確かであった。
「・・・本当の戦いはこれからだな」
* * *
所変わって、とある研究所、ネオゼネバス帝国が管理している研究施設である。
「ほう、戻って来たか、例の物を手に入れて来たのか?」
「ホワイト様申し訳ありません、例の物は邪魔が入り、手に入れられませんでした」
部下の一人がこう答えた。この部下はローダと戦った者の一人だ。
「ですが、例の者のデータはコピーしておきました」
もう一人の部下が答える。この部下は、奪い取った際にコピーを取っていた様だ。
「・・・データのコピーだけでも十分ぞい、貴様達は下がれ」
「はっ!」
部下達は命令通り、大人しく部屋から出て行く。
「ふん、このコピーを元に例の物にそっくりなのをわしが作れば良いだけの事、後はこの例の物を積んだゾイドに乗せる奴を連れてくるだけ・・・」
ホワイトは不敵の笑みを浮かる。
「その為には、わしの孫娘のアルトを利用しなくてはな」
この老人の名はホワイト・ソネード、通称Dr.ホワイト。ネオゼネバス帝国の幹部であり、研究者であるが、マッドサイエンティストとして帝国内で有名である。そして何より、アルトの祖父でもあったのだ。
#19 完、#20へと続く