#20 アルトの真実
著/Ryuka

 

「ではアルトよ、Zi-worksCorporationでの現状を聞かせてもらおうか・・・」

「はい、おじい様・・・」

ある日の夜の事、おじい様からの電話、定期的に私に連絡をするも、決まって用件はZi-worksCorporationの事を聞いてくるばかり、私にはおじい様の目的が未だに分からない、何故私をZi-worksCorporationへと送り込んだのか、一体おじい様はZi-worksCorporationの何を狙っているのかしら・・・?

「特に変わった出来事はありませんでした・・・」

私は特に変わった事が無い限り、おじい様にこう伝えている。いつもならここで済むのだけど、今回は違っていた。

「そうか・・・、今までじっと様子を見て来たが、一向に何も起こらないなら、わしが起こすまでじゃな」

「おじい様、それは一体どういう事ですか!?」

おじい様が何か企みを始めた、私は怖くなって思わずおじい様に叫ぶ様にして問い掛ける。しかしおじい様は私の問い掛けに聞く耳を持たず、自分の話を進める。

「そこでアルトよ、お前にはZi-worksCorporationの機密情報を盗み取るという指令を下す」

「ですが、私には・・・」

「わしに逆らうとでもいうのか?」

「・・・いいえ」

「お前はわしに逆らう事は決して出来ないからのぅ、では成果を期待しておるぞ」

「・・・はい」

おじい様は最後にそう言い、電話を切る。

「私は・・・」

私はおじい様に逆らう事が出来ない、それは私がおじい様の孫であり、おじい様の言う事は絶対であるから。私がZi-worksCorporationへ送り込まれる際も、おじい様の命令をただただ聞いているだけしか無かった。もしおじい様に逆らったら、私は殺されてしまうかもしれない。私はその恐怖を影で怯えながら過ごしていた。

「おじい様の命令には逆らえない、だけど・・・ヒロキくん達を裏切る事を私には・・・出来ないよ・・・」

最初はおじい様の命令でやってきただけだった、けどそんな私を温かく迎え入れてくれたのはヒロキくん達だった。そして私はヒロキくん達と友達になった。今まで友達と言える人がいなかっただけに、凄く嬉しかった。だけど、私はおじい様の命令によって、ヒロキくん達を裏切ろうとしている。私だって本当は裏切る事をしたくは無い、けどおじい様の命令に逆らえない以上、そうせざる得ない状況に私は心を痛めていた。

「私は・・・どうしたらいいの・・・」

私は涙を浮かべながらこう嘆いた。

 

* * *

 

そして翌日、本当は仕事が休みの日だけど、私はZi-worksCorporationへ行く事にした。本当はこんな事したくはないけれど、おじい様の命令には逆らえないので、仕方が無いとしか思えなかった。

「みんな、ごめんなさい・・・」

私はヒロキくん達に申し訳ない気持ちで一杯だった。折角友達になった私が裏切る様な事をしようとしているのだから。

家を出て、Zi-worksCorporationへと着いた私は、出来るだけ人に見つからない様に行動し、やがてこの場所へと辿り着いた。

「ここは・・・」

“社長以外の者の立ち入りを禁ず”と書かれた札が張り付けてある扉があり、その扉の上を見ると、機密資料室と言う場所であった。

「ここにおじい様が言っていたZi-worksCorporationの機密情報があるのね・・・」

やってはいけない事だとは分かっていた、だけど私はその部屋のドアノブへと触れようとしていた。

「い、いけない!」

私は首を横に振ってドアノブへ触れようとしていた手を止めた。

(やっぱり私に友達を裏切るような事は・・・、だけどおじい様に逆らう事も・・・)

私の心の中は、この二つの事で、どちらにすべきかを迷ってしまい、この場から離れるのか、それともこの扉を開ける事を躊躇してしまっていた。

「誰だ、そこにいるのは?」

「えっ!?」

突然人の声がして、思わず飛び上がる程驚く私。

「ってアルトじゃないか」

「あ、ライサーさん」

声の正体はライサーさんだった。でも何でライサーさんがこんな所に?

「というか何でこんな薄暗い所にいるんだ?それにアルトは今日仕事休みだった気がするんだが・・・」

ライサーさんの言う通り、この場所は薄暗く、あまり人が寄り付かない様な場所であった。

「えっと、考え事してたらいつの間にかここに・・・、私休みの日を見間違えちゃってたみたいだね」

私はライサーさんに本当の事を気付かれない様にどうにかごまかして言ったけど、心の中では辛かった。

「そうか、俺は依頼で一緒に行く予定だったパイロットが急に休んじまって、代わりに行ってくれるパイロットを探してたとこなんだ」

「そうですか、ねぇライサーさん、この先の部屋はどういった所なのかしら?」

ライサーさんなら何か知っているかと思い、聞いてみる事に。

「確かここは機密資料室っていうこのZi-worksCorporationの機密情報が保管された部屋だと聞いた事があるが、セキュリティも厳重らしく、細かい事は俺にも分らないしな。社長以外この部屋の事はトップシークレットだし」

「そうだったんですか、ありがとうございますライサーさん」

どうやらライサーさんが言うには、機密資料室の中の事は社長さん以外誰も知らないみたい、それにセキュリティも厳しいみたいで、下手に入ろうとしたら捕まるところだったかもしれない。

「あ、そうだアルト、代わりのパイロットとして俺の依頼の手伝いに一緒に来てくれないか?」

「え、え〜っと・・・、分かりました、手伝います・・・」

私は戸惑いながらも、一緒に行く事を決断した。おじい様には悪いけど、やっぱり友達を裏切る様な事は・・・、私には出来ない。

「よし、そうと決まれば一旦社長に報告しないとな」

ライサーさんは私が休んだパイロットの代わりに行く事を報告する為、社長室へと向かって行った。

 

社長室に着いた私とライサーさん、ライサーさんは社長さんに私がライサーさんのパートナーの代わりとして行く事を報告した。

「社長、今回の依頼で俺と共に行くパートナーの件ですが、アルトに代わって頂けないでしょうか?」

「ふむ、本来のライサー君のパートナーが急に休むという連絡を受けてはいたが、代わりのパートナーがアルト君とは・・・、それにアルト君は今日休みの筈だが」

「ちょっとした用事で来ていたのです」

流石に社長さんに本当の事を言う訳にはいかない、もし本当の事が知られたら私は・・・

「で、俺が偶然アルトと会い、話し合って決めたという訳です」

「そうか、では今回のライサー君の依頼に同行するパートナーはアルト君で決まりだな」

「あ、ありがとうございます」

こうして私はライサーさんの依頼のパートナーとして行く事になった。

「ところで、一つ君達に伝えておきたい事があるんだが」

「「何でしょうか?」」

社長さんは私達に何か伝えたい事がある様だ。

「ヒロキ君の事だが、イズキによると、ヒロキ君は時折記憶が戻った感じになるそうだが、その際ヒロキ君は頭を抱えているそうだ」

「て事は、大分ヒロキの記憶が戻り掛けているのか」

「だけど、完全に記憶が戻るには何かが足りない、という事になりますね」

「うむ、そういう事だが、明日イズキがヒロキ君と共にここに来ると言っておったな」

明日・・・、ヒロキくんとイズキちゃんが来るんだ・・・、私はイズキちゃんに本当の事を知られたらきっと悲しむのだと思うと、胸が締め付けられる思いだった。

「どうしたアルト、気分でも悪いのか?」

ライサーさんが私の不安そうな顔を見て心配して声を掛けてくれた。

「ううん、私は大丈夫よ」

私は作り笑顔でライサーさんを安心させる。だけど、私の心の痛みは晴れる事は無い、頭に浮かび上がるのはイズキちゃんの悲しい顔ばかり。

「丁度、新型ブレイジングウルフも無事完成している事だ」

「テストも行い、問題無かった事だし、いつでも動かせる準備は出来ていますしね」

「そうだな、ではそろそろ仕事の方に戻らなくてはな」

「そうだな、それでは行って参ります社長!」

「うむ、気を付けてな」

私はライサーさんについて行く様にして、社長室を後にし、格納庫へと向かっていった。

 

「今日のアルト君の様子、いつもと違って悲しげな表情をしておったな、一体何があったのだろうか・・・」

いつもと様子が違ったアルトを見て、頭を悩ませているゴルザ。

「それに、仕事が休みであるのに関わらず、何故ここへ来たのか・・・、う〜む、よく分からんな・・・」

加えて仕事が休みのアルトが、何故Zi-worksCorporationへと来たのか、それについても悩むゴルザであった。

 

* * *

 

私達は、それぞれのゾイドに乗り込み、依頼を受けた場所に向け、ユートシティを出て、向かう最中。

「あの、今回引き受けた依頼はどういった内容なんでしょうか?」

私は依頼の事については、何も聞かされていなかった事に気付き、ライサーさんに依頼の内容について聞いてみる。

「そういえばまだ言って無かったな、今回の依頼は襲い掛かってくるゾイドを追い払ってほしいとの事だ」

「野良ゾイドとかでしょうか」

「いや、今回は野良ゾイドじゃなく人が乗ったゾイドのようなんだ。それに見た事の無い恐竜型ゾイドが数機との事らしいぜ」

「見た事の無い恐竜型ゾイド・・・」

見た事の無い恐竜型ゾイド、もしかしておじい様が絡んでいるのかも・・・、いや、そうで無い事を祈りたい。

「見た事が無い以上、気を引き締めて掛からないとな、頑張ろうぜアルト」

「はい・・・」

 

そして私達は依頼を受けた場所へと辿り着き、ゾイドから降りて周りの様子を見る。

「これは・・・」

「酷い有様だな・・・」

その場所は街であったけど、私達の眼に映る物は、廃墟と化した建物に、大破したゾイドばかりであった。

「君達、こんな場所に何か用なのかね?」

すると何処からか、一人のおじさんが私達の前に現れた。もしかしてこの人はこの街の人なのでは・・・

「あなたは・・・?」

「私はZi-worksCorporationにこの街を襲ってくるゾイド達を追い払って欲しいと言った者ですが・・・」

目の前のおじさんは、頼りない声で私達にこう話した。・・・あれ、今Zi-worksCorporationって言ってたよね、もしかしてこの人が・・・

「あぁ、俺達がそのZi-worksCorporationから来た人達なんだが」

「おぉ、そうか、君達なのか」

おじさんは私達がZi-worksCorporationの者である事を知って、声が明るくなった。

「けどなおじさん、知らない人間にそう言うのは止めておいた方がいいぜ、もし悪人とかだったら殺されかねないからな」

「すまない、そうだったな。迂闊に本当の事をバラすものでは無いな」

私は今のおじさんの言葉を聞いて、私は気が重くなった。まるで今の私を照らし合わす様な言葉だった。

「・・・・・・」

「どうしたアルト?そんな顔して」

私の方へと顔を向けたライサーさんは、私の顔を見るなり心配そうに言った。

「・・・いえ、何でもありませんわ」

「ホントにそうか?今日のアルト、いつもと様子が変だぞ、何かあったのか?」

「本当に何でも無いんです、何でも・・・」

私は苦笑いしながらこう答えた。ライサーさんは「本当にそうなんだろうか」と言う様な顔をしていた。

「それで本題の方に戻るが、何でこの街が襲われているんだ?」

「実は何故襲ってくるのかは私にもよく分からないのですが、この街を襲っているのは傭兵達の仕業なのです」

「傭兵だって!?」

「もしかしてローダさん達と何か関係が!?」

「いやいや、ローダさん達を始めとする傭兵の街の傭兵達はこんな事をしたりはしません、襲い掛かってくる傭兵達は、ここらでは見かけない者達なのです」

傭兵の街の傭兵とは違う別の傭兵、確かユートシティに襲い掛かって来た傭兵も傭兵の街の傭兵とは違う傭兵であった。

「なぁアルト、ユートシティが襲撃されそうになった時と似てないか?」

「えぇ、ユートシティは私達Zi-worksCorporationのパイロット総出で何とか防げましたけど、こちらの方は・・・」

ライサーさんの言う通り、今回の件は、ユートシティが襲撃された時と似ている点が幾つかあった。目的が分からない、知らない傭兵、この二つは一体何を意味してるのだろう・・・

「私達も必死にその傭兵達に対抗しましたが、傭兵達が乗る見た事の無い恐竜型ゾイドの前に私達のゾイドでは太刀打ち出来ませんでした・・・」

おじさんが辛そうな気持ちでこう言った。

「しかし何で傭兵が出回っていない様なゾイドに乗っているんだ?まさかローダの様な専用機みたいのがあったりするのか?」

「多分それは無いと思うの、私が思うには、襲い掛かって来た傭兵達の裏で何かがあると思うわ」

私もこの言葉に根拠がある訳では無かった、でもおじい様の企みから、その様な可能性があるのでは無いかと思っていた。

「まさか・・・、そんな事は無いよね・・・」

私はおじい様の企みでは無い事を願った。だが、それはあっけ無く裏切られる事になろうとは、今の私には分かる筈も無かった。

「幸い、まだ街の一部が残っています。なので、残された箇所を守る為、襲ってくる傭兵達のゾイド達を追い払ってください、あなた方は私達の最後の希望なのです!」

おじさんは、残された街の一部を守る為、私達に傭兵達が乗るゾイド達を追い払って欲しいと強く頼み込んだ。

「決まってるじゃないか、勿論引き受けますよ!」

「断る理由もありませんから」

「ありがとうございます。では私は他の住民達と共に安全な所へと避難しています」

そのおじさんは私達に感謝し、安全な場所へと避難する為、この場から離れて行った。

「・・・俺達もいつでも戦闘態勢に入れる様に、ゾイドに乗り込んでおこう」

「はい、そうですね」

私は戦闘に備え、それぞれのゾイドがある場所へと戻り、ゾイドへと乗り込んだ。

 

「アグレッシブを改良した新しい俺の愛機、ライジングブリットの調子も良好、いつでも戦える状態だ」

「私のグラブゾンザウラーの調子も大丈夫です。問題無く戦えます」

お互いのゾイドを確かめる。そういえば今気付いたら、ライサーさんの機体がアグレシッブからライジングブリットへと変わっていた。ライサーさんがメカニックさん達に頼んで改良して貰ったと聞いてはいたけど、ライサーさんと仕事が一緒になる機会が中々無くて、見るのは今回が初めてとなるわ。アグレッシブよりもすっきりとした印象にはなっているけど、頭のヘッドギアは、アグレッシブの時と同じく付けたままであった。

「どうやら早速来たみたいだな」

遠くからいくつものゾイドの足音が聞こえてくる。やがてその足音はどんどん私達の方へと近づいていき、私達の目の前には見た事の無いゾイドが10機近く現れていた。

「こいつらが見た事の無い恐竜型ゾイドか、数もそれだけあるとなると、既に量産されているみたいだな」

ライサーさんの言う通り、あの目の前の機体は、私達が知らない間に量産されていた様ね。だけど、何処で量産されていたのだろう?

「ん?あの恐竜型ゾイド、何処かで・・・」

「え?」

見た事の無い恐竜型ゾイドに乗っている傭兵の一人が、私のゾイドを見て、こう言った。

「あ、そうだ、確かDr.ホワイトの孫で、名前は確か・・・アルトと言ってたかな・・・」

(ど、どうしておじい様の名前を、そして私の名前まで知っているの・・・!?)

何故面識の無い傭兵達がおじい様と私の名前を知っているのか、私には理解出来なかった。

「黄様ら、どうしてアルトを知っている!?」

ライサーさんが傭兵達に私の事を知っているのかを問い掛ける。

「そのアルトって女は、ネオゼネバス帝国の科学者、Dr.ホワイトの孫だそうだ」

「何だと!?」

私は言葉を失った、遂に私の真実がライサーさんに知られてしまった。さらにその傭兵は話を続ける。

「確かその子は、Dr.ホワイトの計画でZi-worksCorporationにスパイ的な役割で送られたと聞いたが」

「・・・・・・」

私は言い返す事が出来なかった。傭兵が言っている事は、全て事実である事であった。私は愕然とし、頭をうつむく。

「私は・・・もう・・・」

私はとても戦いに集中出来る状況じゃ無かった。友達であるライサーさんに、私の真実を知られ、何もかも失ってしまった様にも思えてくる。

「危ないっ!」

「えっ・・・」

私がうなだれている間に、恐竜型ゾイドが私の方へと飛び掛かっていた。しかし、目の前にライサーさんのライジングブリットが私を庇う様にして、恐竜型ゾイドの爪の攻撃を受けた。攻撃は、ライジングブリットのヘッドギアに受け、ヘッドギアが外れると同時に壊されてしまった。

「くっ!」

ライジングブリットは、バスターブレードで攻撃した恐竜型ゾイドを真っ二つにした。

「戦いの途中に何ボサっとしてんだよ!」

「でも私・・・」

「お前がネオゼネバス帝国のスパイだなんて今は関係ないだろ!それよりも目の前の敵を倒す事が先だ!」

ライサーさんは、動揺して動けなかった私に一喝した。

「今はこいつらを倒そう、話はそれからだ」

「・・・・・・」

確かに今は気にしてる様な状況では無い事は分かっていた、だけど、ライサーさんに私の本当の事を知られて私は動揺していた。だけど今のライサーさんの一喝で一つだけ分かった事がある、それは今周りにいる敵達を倒さなくてはいけない事、ライサーさんが庇ってくれなかったら、今頃私は・・・。だから、私は戦わなくちゃいけないんだよね。

「・・・そうですね、今は戦いに集中しないといけませんね」

「じゃ、こっちの実力をあいつらに見せてやろうか」

「はいっ」

ライサーさんのライジングブリットは、傭兵達のゾイド達がいる方向へと走り出した。

 

Dr.ホワイトから受け取ったラプトイエーガーで貴様らを八つ裂きにしてやるぜ!」

ラプトイエーガーと呼ばれる恐竜型ゾイド3機が一斉にライジングブリットの前へ飛び掛かって来た。しかしライサーは慌てたりはせず、逆に口元で笑みを浮かべていた。

「八つ裂きになるのはどっちかな」

ライジングブリットの左右6本のバスターブレードが展開し、飛び掛かって来た3機のラプトイエーガーを一度に切り裂いた。切り裂かれたラプトイエーガー達はバラバラになり、地面へとまき散らされる。

「ふ〜、ヘッドギア無い方がいいな、一応外してくれた礼は言っておくぜ」

バラバラになったラプトイエーガー達に向かって言うライサー。するとその時、背後から一体のラプトイエーガーが飛び掛かり、爪を振り下ろす。

「っ!Eシールド展開」

ライジングブリットのバスターブレードを再び展開し、バスターブレードが光を帯び、ライジングブリットの目の前にEシールドが展開される。

「ぐっ、何て強力なEシールドだっ!」

ラプトイエーガーの振り下ろした爪は、Eシールドによって防がれ、ラプトイエーガーは弾き飛ばされる。

「ぐあっ!」

弾き飛ばされたラプトイエーガーは、爆発を起こして吹き飛んでいった。それはグラブゾンザウラーの銃撃によるものであった。

「ナイスアシストだアルト」

「私もこれ位なら出来ますわ」

その時グラブゾンザウラーの背後からラプトイエーガーが2体襲い掛かってきた。だがグラブゾンザウラーはラプトイエーガーの不意打ちを何とかかわしてラプトイエーガーから間合いを取る。

「あなた達さっきから不意打ちばかりですね」

アルトはグラブゾンザウラーの二門のレーザーキャノンでラプトイエーガー2機を一度に撃ち抜いた。

「凄いじゃないかアルト」

「ぐ、偶然ですよ・・・」

照れ笑いするアルト、その射撃能力の高さから、ライサーが褒めるのも納得のいくものである。

「さてと、残りはあとそこにいる4機か」

「まだ戦うのですか?」

ラプトイエーガー6機をあっさりと倒したライジングブリットとグラブゾンザウラーの前に、たじろく傭兵達のラプトイエーガー。

「あの2機、俺らと強さが違いすぎる」

「ん?通信が入って来たみたいだ」

傭兵達の中の一人が、入ってきた通信を繋いだ。

『お前達ご苦労だ、すぐにその場から撤退しろ』

「リーダー、しかしまだ・・・」

通信してきた声の主は、この傭兵達のリーダーの様だ。リーダーは今いる傭兵達をここから引き上げるという命令であった。

『もうその場所は用済みだ、必要以上に戦う必要は無いだろう』

「・・・了解しました」

そうして通信が切れ、通信を受けた傭兵はすぐさま他の傭兵達にもリーダーの命令を伝えた。

「どうしたのでしょう、攻撃してきませんね・・・」

「確かにな、ん?」

突然ラプトイエーガー達が撤退を始めた事に、ライサーとアルトは理解出来ていなかった。

「どういうつもりだ?」

納得のいかない様子で傭兵達に事情を聞こうとするライサー。

「上から引き上げる様言われたんだ、俺達は納得いかねぇけどな」

「そういう事なら無理に戦う必要は無いな」

「そうだ、一つだけお前らに言っておく、俺達はもうこの街を襲う事は無い、第一理由も無くなったしな」

その言葉を最後に、傭兵達はこの場から去って行った。

「あの傭兵達の目的は何だったんでしょうか?」

「さぁな、俺にもよく分からん。で、話を切り替えるが、お前がネオゼネバス帝国のスパイってどういう事だ?」

傭兵達も去った事で、ライサーはアルトがネオゼネバス帝国のスパイについてへと話を切り替えた。

 

ライサーさんが私の本当の事を聞いてきた事に対して、包み隠さず答える事にした。

「私は、おじい様の命令で、Zi-worksCorporationでの諜報活動を目的で、エースパイロットとしてやってきたの。最初は命令として来たとしか考えてなくて、気乗りはしなかったわ」

「それが俺達との出会いによって考えが変わったんだな」

「ええ、ヒロキくんにイズキちゃん、それにライサーさんと出会って私を暖かく迎え入れた事は、凄く嬉しかったの。それから友達になって・・・」

私は思わず泣きそうになった。私の真実がバレてしまった以上、もうZi-worksCorporationにいられる訳なんて無い・・・よね。

「アルトがスパイか・・・、普通なら追い払うけどアルトは違う、俺達の知ってるアルトはそんな事をする様な奴じゃない、アルトがネオゼネバス帝国のスパイだろうが俺達の友達である事には間違い無い事だろ」

「うん・・・、それは嘘じゃない、私の数少ない大切な友達ですもの」

今の私の言葉には嘘は無い、本当にヒロキくん達の事を私は友達だと思っている。私の中で友達と言える友達はヒロキくん達位しかいないもの。

「でも私・・・、怖かったの、本当の事がバレるのが・・・、ヒロキくん達が私からいなくなるのが・・・凄く・・・嫌だったの・・・」

私は泣きながら胸の内をライサーさんに打ち明けた。本当に折角出来た友達がいなくなるなんて、私には嫌だった。

するとライサーさんは、泣いている私を抱きしめ、私にこう言った。

「心配するな、俺達だって望んではいないさ、アルトは立派な俺達の友達だからな」

「ライサーさん・・・、ありがとう・・・」

私はライサーさんの言った言葉に安心した。私がスパイであろうとも、決して突き放そうとはせず、今までと変わらずに接していくとライサーさんは言った。いや、もしかしたらライサーさんはみんなの思っている事を代弁しているのかもしれない、私を一人の友達として見てくれている事が何よりも嬉しかった。

 

「本当にありがとうございます、あなた方に何とお礼をしたら良いか・・・」

おじさんはとても嬉しそうに私達に感謝の言葉を言った。

「礼は気持ちだけで十分です。それにもうあの傭兵達もこの街を襲う事はもう無い様ですし」

「そうですか、なら安心して街の復興作業が出来ます」

「私達も手伝いましょうか?」

私達に何か出来る事があれば、手を貸してあげたいと私は思っていた。だけどおじさんは嬉しそうな顔で首を横に振った。

「お気持ちは嬉しいですが、この街に思い入れのある者達だけでこの街を元に戻したいのです」

「そうですか、早くこの街が元の姿に戻ると良いですね」

私は笑顔でこう言った。おじさんはにこやかと笑ってこの様に応えた。

「うむ、そうですな」

「じゃあ俺達はこの辺で失礼させて頂きます」

「街が元に戻った時にでも、また来て下さい〜」

「「分かりました〜」」

私達はそれぞれのゾイドへと乗り込み、ユートシティへ向け出発した。おじさんは段々と遠くなっていく私達のゾイドの後ろ姿に手を振っていた。

「では、私達も街の為に頑張らなくてはな」

おじさんは姿が見えなくなったのを確認すると、振っていた手を下ろし、廃墟の街へと向かって歩き出した。私達は最後まで気づく事が無かったが、おじさんは実はこの街の市長さんであったのだ。この事実を知ったのは、Zi-worksCorporationへ戻って社長さんから聞いた事なんだけどね。

 

ユートシティへと戻る最中、ライサーさんは私にこう言った。

「お前がスパイだったって事、イズキには伝えないでおこう」

「どうしてですか?」

確かにこの事がイズキちゃんには知られたくは無いけど、でもどうしてライサーさんはそんな事を言ったのだろう。

「あいつの事だ、悲しむのもあるが、事実を受け入れられずお前を突き放しかねないかもしれんしな」

「そうかも・・・しれませんね・・・」

現にイズキちゃんはヒロキくんが記憶を失った時、事実を受け入れる事が出来なくて涙を流して逃げ出してしまった事があった。私の場合は、きっと涙を流しながら私から離れるに違いない、これ以上イズキちゃんに辛い思いはさせたくない。それはライサーさんだって同じ事を思っている、だからイズキちゃんに私の本当の事を言わない方が良いと言ったのだろう。

「社長には日を改めて言った方が良いだろう、その時は俺も一緒について行く」

「そうですね、ありがとうございますライサーさん」

ライサーさんは何も言わなかった、だけどその冷静な表情に少しだけ笑みを浮かべていた。

 

* * *

 

私達はZi-worksCorporationへと着き、社長に今日の依頼での出来事を話し、ライサーさんと別れて、家が目前と迫った所で、ある人物と遭遇してしまった。

「あ、あなたは・・・」

「私はDr.ホワイトの使いの者です」

「おじい様の・・・」

私はその男の人の言葉に背筋が凍り付いた。今にも逃げ出したいと思った、だけど恐怖で足が動かなかった。

「あなたはDr.ホワイトの命令を果たす事が出来ませんでしたね」

「どうして、その事を・・・」

どうして私がおじい様の命令に従えなかった事を知っているの!?私はますます怖くなった。

「あなたの事ですから、この様な命令を果たせない事をDr.ホワイトは分かっていた様です。ですからDr.ホワイトに代わってこの私があなたを変えさせるのです」

「私を変えるって、どういう事なの・・・」

「こういう事です」

すると男の人がスピーカーが付いた機械を取り出し、私の方に向かって鳴らし始めた。

「うっ・・・な、何・・・この音・・・」

男の人が持っていた機械が鳴り始めた途端、私の頭が締め付けられる感じに襲われた。その痛みはあまりにも激しく、立っていられるのがやっとであった。

「この機械から発せられる音には何の効果もありません、ですがスピーカーの向いてる方向には、音の他に特殊な電波が流れるしくみなのです」

「あ、ああ・・・、頭が・・・」

男の人は手に持っている機械の事を淡々と説明するが、今の私はそんな事を聞いている場合では無かった。それに次第に私の意識が遠のいていき、徐々に目の前が暗くなっていく・・・

「そろそろですね、Dr.ホワイトが望んでいた姿に・・・」

「わ・・・わた・・・しは・・・」

私は一体どうなってしまうの・・・!?誰か私を・・・助けて・・・。そう言おうとする前に目の前が真っ暗になってしまった。

 

「では明日、宜しく頼みますよ」

「分かったわ、私がおじい様の命令に必ず応えてあげる」

そう言ってDr.ホワイトの使いは姿を消した。そしてアルトの人格が先程と全く異なるものへと変貌していた。

 

 

#20 完、#21へ続く