#22 頑張りの証 | 著/Ryuka |
Dr.ホワイトによって操られたアルトとの戦いから翌日、ヒロキ、イズキ、ライサー、そして原因となったアルトは、社長室で昨日の件の事を改めて話した。
「・・・つまり、そのDr.ホワイトという人物が、アルト君を利用して我が社の機密情報を盗み出す事を目的としていたが、アルト君が拒んだ為に、Dr.ホワイトは自分の部下を使ってアルト君を洗脳し、我が社の破壊を試みた、という訳か」
「それをイズキとヒロキの活躍で無事阻止し、アルトも救ったって訳です」
付け足す様にして言うライサー。実はライサーは、ゴルザにこの事を簡単にではあるが事前に話していた。
「なるほどな、それでヒロキ君が新型ブレイジングウルフに飛び乗って出て行ったのか」
ライサーの話を聞いて、昨日のヒロキが急に演習場へ向かい出した事を納得する様子のゴルザ。
「あ、あの私、この件は故意では無いにしても、大変ご迷惑な事をお掛けし、何より私がスパイとして送り込まれた事を今まで隠していた事は申し訳ありません。いかなる処分も引き受けます」
「ふむ、その事だが、私はアルト君に処分を与えるつもりはない」
「それはどうしてですか?」
自分は操られたにしろ、Zi-worksCorporationを破壊しようとしていたのに、処分一つ無いなんてどういう事だろう、アルトは不思議に思った。
「実はな、昨日処分の件をイズキに話したら猛反対されてな、それで君の処分は白紙にしたのだよ」
苦笑いするゴルザ、最初は処分を下す事を前提にしていたのだが、実の娘であるイズキにアルトの処分を猛反対を受け、取り止めたのである。
「そうだったんですか・・・」
「礼を言うなら、私では無くイズキに言ってくれ」
ゴルザの言う通り、処分を取り消してくれた事を感謝するのはゴルザでは無くイズキの方だ。アルトはイズキに感謝の気持ちを込めてお礼を言った。
「私の為に・・・、イズキちゃんありがとう」
「・・・・・・」
お礼を言ったアルトだが、言われたイズキの方は、何故かボーっとしていて、アルトのお礼は耳に入っていない様だ。
「あの・・・、イズキちゃん?」
どうしたのかと思ってイズキを見るアルト。
「おい、アルトがお礼言ってんのに何ボーっとしてんだよ」
「えっ!?あ、ゴメン・・・」
ライサーに肩を叩かれてようやく気付くイズキ、しかし話を聞いていなかったので、
「あのさ、お礼って何の事・・・?」
今の状況を全く飲み込めていなかった。
「ホントに話聞いてなかったのかよ・・・、お前昨日社長にアルトの処分猛反対したんだろ、それでアルトがイズキにお礼を言ったんだよ」
「あ、あぁ、確かそうだったね。さっきはゴメンね、折角お礼言ってくれたのに聞いて無くて・・・」
「ううん、私は気にしてないから大丈夫よ。それよりもイズキちゃんこそ大丈夫?」
アルトは心配そうにイズキを見ていた。
「うん、大丈夫・・・」
大丈夫だと言ったイズキだが、顔が火照ったように赤っぽく、たまにフラッとしている辺り、とても大丈夫そうには見えなかった。
「なぁヒロキ、イズキは大丈夫って言ったけど、本当に大丈夫なのか?」
「う〜ん、僕も気になってるんだけど、イズキに言ってもきっとまともに聞いてくれそうも無いし・・・」
「だよな〜」
ヒロキとライサーは、そんなイズキの様子は察知していたが、その事を二人はイズキ本人に言わないのは、イズキの性格を知っているからこそだ。
「何か悪い事が起きなきゃいいけど・・・」
それでもやっぱりイズキの様子を心配しているヒロキだった。
* * *
それにしても何だろ今日のあたし、朝起きてから頭はボーっとするし、時々フラッとするし、それに妙に体が熱い・・・。だけどヒロキ達に余計な心配は掛けて欲しく無いので、あたしは大丈夫そうに振る舞っていた。
「社長さん、今日は依頼とかはあるのですか?」
アルトが社長に今日は依頼が入って無いか聞いていた。
「いや、今日は特に何も入っとらんよ」
「そうですか、では私達は何をすれば良いのでしょうか?」
「そうだな・・・、整備員達と一緒に君達のゾイドをチェックしに行ってはどうかね?」
確かに今日は特に依頼も無くてやる事も無い、そもそも今日あたし達がいるのは、アルトの事を社長に話す為にあたし達が集められた訳だけど。
「そうしようか、俺達今日は特に何もする事も無いし」
「だね、僕はまだブレイジングウルフGDの事良く分からないから」
「ブレイジングウルフGD・・・?」
ブレイジングウルフGDって、昨日の新型ブレイジングウルフの事なのかな?いつの間にそんな名前付けたんだろヒロキ。
「僕が名付けた新型ブレイジングウルフの事だよ」
「ところで、GD(グランディア)の由来って何なんだ?」
ライサーが、ブレイジングウルフGDのGD(グランディア)の由来についてヒロキに聞いていた。
「特に深い意味は無いんだ、発進する時に頭に思い浮かんだ名前がこの名前だったんだ」
「全く、ヒロキらしいぜ」
「えへへ・・・」
照れ笑いするヒロキ。確かにヒロキらしい名前の付け方だ。
「あ、そうだアルト君、昨日君が帰った後、私は整備員数名に頼んでグラブゾンザウラーを調べさせて貰った」
「それでどうでしたか?」
「どうやらコックピットの中に特殊な装置が仕込まれていた。私の推測だが、その装置はアルト君の洗脳を促進させる物だと思うのだ」
いつの間にアルトの機体にそんな物が仕込まれていたのだろう、やっぱりDr.ホワイトの仕業なんだと思う、全く卑怯なじいさんだな。
「そう考えられますね、Dr.ホワイトなら」
「そのDr.ホワイトが今後どう出るのか分からない以上、気を引き締めなければならぬな」
「ですね、社長さん」
確かにDr.ホワイトはどういう人物なのかは、アルト以外は話でしか知らない。だが今後のDr.ホワイトの行動は、アルトでも分からないそうだ。アルトを操ってZi-worksCorporationを壊させ様としてた以上、今度は何をしでかすか分からない、だから気を引き締めなければいけないのかもしれない。
「じゃあいつまでもここで油売ってるのもあれだし、そろそろ行こうか」
「そうね、行きましょうか」
ライサーとアルトは格納庫へと向かう為、社長室を後にする。遅れてあたしも社長室から出ようとした時ヒロキが
「イズキ、大丈夫?手貸してあげるよ」
「ううん、あたしは大丈夫だから先に行ってて・・・」
ヒロキはあたしの気を遣って、手を差し伸べて言ったが、あたしは首を横に振ってこう答えた。気持ちは嬉しいんだけど、ヒロキや他の人に迷惑を掛けさせたくない気持ちがあたしの中にあった。
「そう・・・、もし手を貸してほしい事があったら言ってね」
「分かったよ」
あたしは笑顔で答えた。ヒロキは心配そうな顔をして社長室から出た。あたしもその後を追う様に社長室を後にして行った。
(ヒロキの言う通り、手貸して貰った方が良かったかも・・・)
格納庫へ向かってる最中、あたしはさっきヒロキの言ってくれた事を断った事に多少後悔していた。
(ダメダメ、これ以上みんなに迷惑掛けてられないし、あたししっかりしなくちゃ!)
あたしはみんなに見えない程度に首を横に振って、気持ちを奮え立たせた。
「あれ・・・?」
突然視界がぼやけたので、あたしは目をこすってもう一度見るが、ぼやけたままだった。それに何だか凄く体が重くなった感じになって、段々立っていられなくなった。そこから先どうなったかはあたしには分からなかった・・・
「ねぇ、今何か音しなかった?」
最初に異変を感じたのはアルトちゃんだった。アルトちゃんは立ち止まったので、僕とライサーも立ち止まる。
「確かに音はしたが、何の音なんだ?」
ライサーもその音は聞こえていたみたい。そういう僕も聞こえていたけど。
「一体何の音なんだろうね・・・」
僕もその音の正体は良く分からなかった。だけど音の大きさから、それ程遠い場所では無い事は確かだった。
「そういやイズキちゃんの姿が見当たらないわ」
「本当だ、何処行ったんだあいつ」
「まさか・・・!」
僕は嫌な予感が頭に過ぎり、慌てて後ろに振り向いて見ると、少し先の所でイズキが倒れていた。すぐに僕はイズキの元へと駆けつけた。
「イズキ!」
僕は倒れたイズキのおでこに手を触れる、すると凄く熱かったのだ。
「凄い熱・・・、もしかしてイズキ来た時から・・・」
イズキは来た時からこんな調子だったんじゃないか、そう思うと何で僕はさっきイズキの言う通りにしたんだろう、イズキの異変に気付いていたのに・・・、僕は今頃になってその事で後悔していた。
「イズキは大丈夫なのか!?」
ライサーとアルトちゃんも僕の後を追って、駆けつけて来た。
「それが、凄い熱出してるんだ」
「言わんこっちゃ無い、そこをどいてくれヒロキ」
「うん・・・」
僕はライサーの言う様に、イズキから少し離れた。するとライサーは倒れたイズキを抱きかかえた。俗に言うお姫様抱っこみたいなの・・・って、そんな事言ってる場合じゃない!
「確かに高熱の上、息遣いも荒い、相当無理してたんだな」
「でも何でイズキちゃんはそれを隠してたのかしら?」
「多分俺達に迷惑掛けさせたくなかったんだろ、だから俺達には大丈夫そうに振る舞っていたんじゃないか」
「だけど無理してそこまでしなくても・・・」
僕達に迷惑を掛けさせたくない気持ちは分かるけど、無理をしてまでそうしなくても良いのにと思った。
「イズキはイズキなりの気持ちがあったんだよ、それに誰かに甘えたくても甘えられなかったんだろ、特にヒロキにはな」
「それって、どういう事?」
甘えたくても甘えられない、それも特に僕にってどういう事なんだろう?
「今のお前には覚えてないと思うが、お前が記憶を失ってた時イズキはお前と一緒に生活してたんだ」
「イズキと一緒に?」
知らなかった、いや知らないのも無理ないか、僕の記憶が失ってから戻るまでの間、僕はイズキと一緒に生活してたらしい。
「あぁ、イズキは家事や料理を殆どした事の無かったから、俺達に助けて貰いつつも一生懸命頑張っていた。それは記憶を失って何も出来ないヒロキの為に自分がしっかりやらなきゃっていう使命感があったから、ヒロキや俺達に甘える訳にいかなかったんだろ」
「イズキは僕の知らないところでそんなに苦労してたんだ・・・」
「それに昨日のアルトの件もあった。そしてとうとう今までの疲労が溜まりに溜まって体調を崩したんだろうな」
「そうだったんだ・・・」
イズキは僕の為にかなりの苦労をしていたんだ、記憶を失ってた時の事を知らなかっただけに、ライサーからその事を聞いた時は本当に驚いた。イズキはホント頑張り屋なんだね。だからあの時僕の手を借りなかったんだと今納得した。今度は僕がイズキに恩返ししないとね。
「さ、お喋りもこの辺にして、アルトは社長にイズキの事を伝えといてくれ」
「分かりましたライサーさん」
アルトちゃんはこの事を社長さんに知らせる為、社長室の方へと向かって行った。
「後はイズキを何処で休ませるかだな、社内で休ませる訳にもいかんしなぁ・・・」
イズキを休める場所で悩んでいる様子のライサー、確かに社内では安静に休めるとこは無さそうだし・・・、そうだ!こういう時こそ、イズキに恩返しをする事が出来る時じゃないか。
「ライサー、僕の家でイズキを休ませるってどう?」
「ヒロキの家か、確かにそこなら安静に休めそうだな」
「でもイズキを僕の家まで運ぶにはどうしたらいいんだろう・・・」
休める所が見つかっても、そこまで移動する手段を考えていなかった。するとライサーが
「じゃあ社長に頼んで車借りてくる、だからヒロキはイズキを入口まで運んでってくれ」
そう言うとライサーは抱き抱えてたイズキを僕の背中に背負わせた。突然の事だったが、僕はイズキが落ちない様にしっかりと持った。
「ちょ、ちょっと待ってよ、ライサー車運転出来るの!?」
「当たり前だろ、免許持ってんだから」
そう言ってライサーは免許を取り出した。ってよく見ると最近取った物では無かった。
「・・・その免許、いつ頃取ったの?」
「それは内緒だ」
そう言ってライサーは社長室の方へと向かって行った。
「そういやライサーって18だったよね、でも絶対それより前に取ってるよなぁ・・・」
明らかに年齢をごまかして免許を取ったなと思った。思わず僕はため息をついた。
「って、今はそれどころじゃない!急いで入口の方に行かないと」
今はそんなどうでもいい事考えてる場合じゃない、僕はイズキを落とさない様慎重に歩きながら入口へと向かった。途中何度かイズキの顔を見たが、息遣いが荒く、苦しそうな顔をしていた。その顔を見るたび“僕がイズキを助けるんだ”と心の中で言い聞かせていた。
僕達が入口に着いた頃には、既にライサーが待っていた。
「遅かったじゃないか、ヒロキ」
「むしろライサーが早すぎるんだと思うよ、それで車の件は?」
「事情を話したらすぐにOK貰った、この先に停めてあるから急ごう」
「分かった」
こうして僕とイズキは、ライサーが運転する車に乗り込んで僕の家へと向かった。
* * *
「・・・う、う〜ん・・・」
目が覚め、頭がボーっとする中、あたしは上半身を起こす。すると目の前に何か落ちて来た。
「これは・・・濡れタオル・・・、何でこんな物が?しかもそれに・・・」
目の前に落ちて来たのは濡れタオルだった。それと今気付いたのだが、あたしはベッドの中にいたのだ。さっきまでZi-worksCorporationにいた筈なのに・・・。しかも良く見ると見覚えのある部屋、するとここは・・・
「ヒロキの・・・家・・・だよね、でも何でここにいるの・・・?」
あたしはどうしてヒロキの家にいるのかが理解出来なかった、それに何でベッドで寝ているのかも。
「あ、気が付いたみたいだね」
「ヒロキ、どうしてあたしここにいるの?」
部屋に入ってきたのはヒロキだった。あたしは何故ここにいるのをヒロキに聞いた。
「それはイズキが凄い熱で倒れて、休ませる為に僕とライサーでここに運んできたんだよ」
笑顔で説明するヒロキ。そうか、あの時あたし倒れてたんだ、何かみっともないとこ見られちゃったなぁ・・・
「でももうあたしはだいじょゴホッ、ゴホッ」
「ほら、咳も出てる様じゃ大丈夫じゃないっしょ」
「でも・・・」
「ダ〜メ、今はゆっくり寝てるの。今イズキに大事なのは休む事だよ、いいね」
何か今のヒロキの言い方女の子っぽかったな。確かに言われた通り、今のあたしじゃ何も出来ないよね。
「うん、ヒロキの言う通りにするよ」
あたしはヒロキの言葉に甘えてもう一度眠る事にした。
あたしがもう一度目を覚ました頃には、外は暗くなり掛けていた。
「さっきより比べると、少し体が楽になったかな・・・」
まだ体のだるさが完全に取れた訳じゃないけど、一回目の目が覚めた時よりは少し体が楽になっていた。そしてあたしはリビングの方へと足を踏み入れた、するとヒロキがあたしの下にやって来た。
「そうだイズキ、ご飯出来たけど、その前に着替えてきてよ。あれだけの高熱を出していたから寝汗も凄いと思うから」
「分かった、ありがとね」
そう言ってあたしにパジャマを渡してきたヒロキ、あたしは言われた通りもう一度寝室の方に戻ってパジャマに着替えた。
「うわ、凄い汗・・・」
脱いだ服を見ると、背中のあたりがびしょ濡れだった。確かに凄い寝汗だ。あ、そういやさっき気付いたけど、寝てた時は仕事の時に着てる上着は脱いであったみたい、ベッドの近くにあるクローゼットの取っ手にハンガーで掛けられていた。
「あれ、このパジャマ、よく見るとあたしのだ」
改めて気が付いたのが、今着ているパジャマがヒロキと一緒に生活してた際に、ヒロキの家に置いていったものだった。でもどうしてヒロキがあたしのパジャマを・・・?
「でも今のヒロキは記憶が元に戻ってる筈だよね・・・、ま、いっか」
あまり細かい事を気にせず、あたしはリビングへと行った。
「今日のご飯なんだけど、イズキの体調を考えて消化の良いお粥にしたんだ。それと食べ終わってからこの風邪薬飲んでね」
ヒロキはあたしの為にお粥を作ってくれて、風邪薬も用意してくれた。
「それじゃ、冷めない内に早めに食べよう」
「うん・・・」
あたしは食卓テーブルの椅子に座った。
「いただきます」
あたしはお粥をれんげですくって、それを口に運ぶ。丁度良い塩加減でとても美味しい。
「味はどう・・・?」
「うん、凄く美味しいよ」
「良かった〜、美味しいって言ってくれて」
安心した様子で胸を撫で下ろすヒロキ。あたしもこうしてくれてる事は嬉しかった、だけどどうしてこうまでしてあたしを看病してくれるのだろう、あたしはそこが気になっていた。
「あのさ、何でヒロキはあたしにここまでしてくれたの?」
あたしは気になっていた事をヒロキに聞いた。ヒロキは一瞬ハッとした表情をしたが、すぐに表情を穏やかにしてこう答えた。
「僕も・・・、僕もイズキに面倒見て貰ったから」
「え・・・」
「ライサーから聞いたんだ、僕が記憶を失ってる間、イズキは一生懸命僕の面倒を見てくれたでしょ、それを始めて聞いた時僕凄く嬉しかったんだ、だから今度は僕がイズキに恩返しする番だよ」
「ヒロキ・・・」
ヒロキはライサーから聞いたにしろ、ヒロキの記憶が失ってる時にあたしが付きっきりで面倒を見ていた事に感謝していた、そしてその恩を今こうしてあたしに返してくれてる・・・、あたしはヒロキのその優しさが嬉しくて、とても嬉しくてお粥を食べていた手を止めて、思わず涙がこぼれた。
「ど、どうしたのイズキ?」
そんなあたしの様子を見て、心配そうにあたしの近くに寄ってくるヒロキ。
「そうじゃないんだ・・・、あたし嬉しくて・・・。ホントはね、あの時ヒロキの手を借りたかった、でも・・・あたしはヒロキに迷惑を掛けたくなかったから・・・それで・・・」
「イズキの気持ち、僕にも凄く分かるよ。でもね、僕は迷惑だなんて全く思ってないよ、それにさ、誰にだって甘えたい時はあるから、イズキも一人で無理しないで甘えたい時は甘えたっていいんだよ」
「うわぁぁぁん!!」
あたしは何かが弾けたかの様に、ヒロキに抱きついて大泣きした。こうして見れば最近のあたしは、誰かに甘えようとはせず、我慢してずっと頑張ってきた。時にはライサーやアルトの手助けも貰ったりしたけど、出来るだけ一人でやってきた。これも全て記憶を失ったヒロキをちゃんと責任を持って面倒を見るという思いがあったからだ、だけどそれは気付かぬ内に無理をしていたのかもしれない、そして操られたアルトを助け出す為にも奮闘した。それらによって溜まった今までの疲労が、あたしの体調を崩したんだと思う。こうして見ると、この風邪は今まで頑張ってきた証なのかもしれない。だから今度はあたしが甘える番で良いんだよね・・・
あたしは気が済むまでヒロキから離れる事無く泣き続けていた。ヒロキもそんなあたしに嫌な顔一つせず、やさしくあたしの背中をさすっていた。
暫くして泣き止んだあたしは、残りのお粥を残さず全部食べた。折角ヒロキがあたしの為に作ってくれたんだから、残すのは悪いと思ったから。
「この書かれた通りに薬を飲めばいいんだね」
「うん、そう」
あたしは風邪薬のラベルに書かれた通りに、水と一緒に薬を飲んだ。
「そういやイズキがあんな風に大泣きしたのって、始めてだよね」
「言われてみればそうかもね、でもありがとうヒロキ、お陰でスッキリしたよ」
確かにあそこまで大泣きしたのは初めてかもしれない、父さんや母さんの前でもあんなに泣いた事は無かったと思う。
「ところで体調の方は大丈夫?」
「まだ少し体がだるくて咳があるけど、明日は大丈夫だよ・・・と言いたい所だけど、無理は良く無いよね、明日もゆっくり体を休ませるよ」
「そうした方が良いよ、また風邪がぶり返しても困るからね」
ヒロキの言う通りだ、完全に治ってない状態で行って、風邪をぶり返して余計悪化させるのも良くないしね。
「ねぇイズキ、聞きたい事があるんだけど、記憶を失ってた僕ってどんな感じだったの?」
「記憶を失ってた時のヒロキか・・・」
ヒロキが、記憶を失ってた時の自分はどうだったのかと聞かれたので、あたしはその事で考え込んでいた。そっか、ヒロキは記憶を失ってた時の記憶が無いんだっけ、さっきヒロキがそう言ってたな。
「そうだね・・・、一言で言うと、子供っぽかったってとこかな」
「子供っぽいかぁ〜、イズキにそう接してたと思うと何だか照れるなぁ〜・・・」
顔を赤くして照れ笑いするヒロキ、そう言われるとあたしだって照れるじゃないか。
「バっ、バカっ、そう言われるとあたしだって照れちゃうじゃん!」
そういうあたしも顔を真っ赤にしていた。思わずまた熱が上がりそうになった。
「ご、ゴメン・・・」
「全くもうっ!・・・ゴホッ、ゴホッ」
思わず咳込むあたし、やっぱまだ体調は万全とは言えないね、こりゃ。
「まだ一応体調も良くないから、そろそろ寝た方が良いんじゃないイズキ?」
「そうだな、風邪を早く治す為にも、早めに寝た方が良さそうだね」
風邪を引いてあまり体調が良くない以上、夜更かしは禁物、あたしは寝る為寝室へと向かった。
寝室に着いたあたしは、迷う事無くベッドに上がり、足の上に布団を掛けた。するとすぐにヒロキが寝室に入ってきた。
「それじゃ電気消すね、おやすみ」
「うん」
ヒロキは寝室の電気を消して部屋を出ようとする。だけどあたしはこのまま部屋から出て行って欲しく無かった。
「あ、待ってヒロキ!」
「どうしたのイズキ?」
あたしの言葉を聞いて立ち止まり、電気を点けようとするヒロキ。
「いや、電気は付けなくていいんだ、そのままあたしの近くに来てくれないかな?」
正直電気を点けて貰うのは、あたしとしてはちょっと困るからね。
「こんな暗闇で僕に何の用なの?」
「今日はホントにありがとうね、あたしとっても感謝してるよ」
「そんな・・・、僕は大した事してないよ〜」
暗闇だから表情が見辛いけど、多分ヒロキは照れ笑いしてると思う。
「ううん、そんな事無いよ、それに・・・」
「それに・・・?」
あたしは言い終えた後すぐに、ヒロキの頬にキスをした。ヒロキに電気を点けさせなかった理由は、この為だから。だって、頬とはいえ、キスするとこ見られるの恥ずかしいじゃん。
「今・・・何かした?」
「いや、あたしは何もしてないよ、それじゃおやすみヒロキ」
「う、うん・・・」
あたしはヒロキにキスした事はあえて言わなかった。ヒロキは不思議そうな表情をして寝室を出て行った・・・と思う。そしてあたしは体を横にして眠る事にした。
イズキがいる寝室から出た僕は、さっき寝室で頬に当たった柔らかい感覚が気になっていた。
「もしかしてイズキ僕にキスでもしたのかな・・・、いや、気のせいだよねきっと」
僕は一瞬イズキが僕にキスをしたのかと思ったが、多分僕の錯覚かもしれない、イズキが僕にそんな事すると思えないし・・・。でも一体さっきのは何だったんだろうか?
「疲れてるのかな・・・、僕ももう寝よう」
本来寝る場所である寝室は、今はイズキが寝ているので、僕はソファーの上で毛布を掛けて眠った。
* * *
次の日の朝、あたしが起きた頃にはヒロキの姿は無かった。恐らく仕事に行ったんだろう。食卓テーブルの上には、あたしの朝食と一枚のメモ帳が置いてあった。
「何て書いてあるんだろう?」
あたしはテーブルに置いてあったメモ帳を手に取って見た。メモ帳にはこう書いてあった。
“イズキがこのメモ帳を見る頃には、僕は仕事に行っていないと思うから、そこに用意した朝食を食べて。イズキの体調の事考えて消化の良いものにしておいたよ。あと食べ終わった後は、薬を飲んでゆっくり休んでね。”
「ありがとう、ヒロキ。今日はゆっくり休んで風邪を治すよ」
あたしはそう言って食卓テーブルの椅子に座り、朝食を食べる事にした。
#22 完、#23へ続く