#23 歩み寄る脅威
著/Ryuka

 

時は若干遡り、ヒロキ達がネオゼネバス帝国の科学者Dr.ホワイトの策略により洗脳されたアルトを救出したその頃、ガイロス帝国東方大陸本部基地では、活動が表面化しつつあるネオゼネバス帝国の事が話し合われていた。

「では、例のあのゾイドの件についてですが・・・」

一人の男が話を切り出す。すると他の軍人達も次々と話し始める。

「鉄色のバーサークフューラーの件か」

「聞くところ、ミレン中尉の部隊が壊滅させられ、部隊の軍人だけで無くミレン中尉も大怪我を負って病院へ運ばれたそうだ」

「ただ奇跡的に命には別状が無かったみたいだが、怪我の具合も考えて復帰にはまだ時間が掛かるらしい」

鉄色のバーサークフューラーことクリムゾンフューラーによって、ミレン率いる部隊が壊滅され、部隊内の軍人に加え、ミレンも大怪我を負い、病院へ運ばれ、治療を受けていた。幸いミレンは命に別条は無かったものの、腕や足等何か所か骨折しており、まだ復帰するには時間が必要な状態であった。

「それに、グラド少佐の乗るブラッディブレイクとある少年が乗っていた狼型ゾイドの二体掛かりでも全く歯が立たなくて、2体とも大破させられた位だしな」

「グラド少佐の機体を簡単に大破させられる程、相当強い奴なんだろう。ガイロス帝国にとって、非常に脅威となる存在だな」

グラドの乗るブラッディブレイクとある少年の乗る狼型ゾイド(ある少年とはヒロキの事で、狼型ゾイドはブレイジングウルフSAの事である)の二体をも返り討ちにするクリムゾンフューラーは、ガイロス帝国にとっても大きな脅威へとなっていた。

「皆さん、その件については後にするとして、まずはこのモニターをご覧下さい」

すると、モニターに映し出されたのは、ガイロス帝国では見た事の無い恐竜型ゾイドだった。

「あの映し出されているゾイドは一体・・・、見た事も無いぞ」

見た事の無いゾイドに、驚きを隠せない軍人達。男は構わず話を進める。

「このゾイドはラプトイエーガーといい、最近ネオゼネバス帝国が使っているゾイドです。しかも、急速に量産化が進められ、ネオゼネバス帝国の主力ゾイドになろうとしています」

「そういや最近になってネオゼネバス帝国の活動が活発化し始め、街や軍事基地等を襲撃し始めてるそうだな」

ネオゼネバス帝国は、最近になって活動が活発化を始め、襲撃活動を始め出していた。その背景には、ラプトイエーガーを製造、量産を指示したDr.ホワイトの姿があった。

「実はこのモニターに映っているラプトイエーガーは、ネオゼネバス帝国との戦いによって回収されたものを修復したものになります」

「おぉ、いつの間に」

実は、ラプトイエーガーを回収していた事は、説明している男を含めた本部基地にいるごく一部の人にしか知らない為、大半の人間が驚くのも無理もない。

「そしてこの機体を改良し、鉄色のバーサークフューラーに対抗しようと考えているのです」

男は目の前の軍人達に向け、はっきりとした声で言う。しかし、軍人達の反応はと言うと・・・

「しかし、いくら回収したこのラプトイエーガーという機体を改良して鉄色のバーサークフューラーに対抗すると言うのは、少しばかり無茶では無いのかね?」

実践経験豊富そうな中年の軍人がこう言うと、周りの軍人達も

「いかにも量産機っぽい機体で、あんな怪物に勝てるのかよ」

「改良たって、どういう風に改良するんだ?」

「その改良した機体は誰が乗るんだ?」

「本当に大丈夫なのか?」

男に対する抗議があちこちから飛び交う。しかし、男はそんな事には全く動じる事は無かった。

「皆さんの言う通り、この機体を改良しただけで、あの鉄色のバーサークフューラーに勝てる見込みは少ないでしょう、かと言って0パーセントという訳でも無いのです」

「確かにそれも一理あると言えよう、しかしその改良した機体は一体誰が乗ると言うのかね?」

「それは今ここではお答えする事は出来ません、改良した機体が完成した時に発表致します」

改良した機体に乗るパイロットについては答えようとはしない男。

「それに、鉄色のバーサークフューラーについては何か掴めたのか?」

「ええ、私が調べた結果では、鉄色のバーサークフューラーは、クリムゾンフューラーという名前で、ネオゼネバス帝国に所属する機体。そして、その機体を操縦するパイロットはなんと、フィヨル・ソグネスという僅か10歳の少女の様です」

10歳の少女だと!?」

会場中がどよめいていた。何せ10歳の少女があんな怪物クラスのゾイドを操縦しているという事が、軍人達にとっては考えられない事だったからだ。

「そんなバカな話があるか!?何かの間違いだろう!」

普通に考えれば、その様な答えが出るのは当然であろう。しかし、その少女は普通では考えられない様な人物であったのだ。

「いいえ、これは間違い無く事実です。現に彼女はネオゼネバス帝国皇帝にも一目置かれている程で、相当階級も高いと思われます」

「まさか10歳の少女とはいえ、我がガイロス帝国軍に多大な傷を残したのだからな・・・」

「よし、早速そのフィヨルという少女の乗るクリムゾンフューラーの対策を取らねばならぬ、各地の基地にいるガイロス兵達にもこの事を伝えておくこと!それでは各自持ち場へ戻れ!」

東方大陸本部基地の総隊長は、会場にいるガイロス兵士達に伝えると、兵士達は急ぎ足で会場を後にした。

「君には感謝しなくてはな」

「いえ、私は出来る事をしたまでですから」

男はにこやかに答えた。

「そうか、今後の君の活躍に期待するとしよう」

そう言って会場を後にする総隊長。

「ありがとうございます」

男は総隊長に向かってお辞儀をする。そして、男がお辞儀をし終えると、男の背後から男に向かって話しだした。

「よくもまぁお偉いさん達の前で大口叩けるな、お前の気が知れないぜ」

「フフ・・・、まぁそう言わずに、別に私は無意味に大口を叩いてる訳じゃない」

不敵な笑みを浮かべる男。

「何か考えでもあるのか?」

「あぁ、改良したラプトイエーガーを使い、クリムゾンフューラーと戦わせる事で、クリムゾンフューラーの戦闘データを集める事が真の目的なのさ」

「それなら上層部の軍人達にこんな事を言わないのも分かる気がするぜ」

男の真の目的は、改良したラプトイエーガーを使ってクリムゾンフューラーを倒すのでは無く、クリムゾンフューラーの戦闘データを取る事であった。確かにこの事を上層部の軍人達に言ったとこで認めてもらえる可能性が極めて低かったからである。

「それでパイロットはどうするんだ?」

「まずクリムゾンフューラーとほぼ互角で戦える程のパイロットでなければ、まともな戦闘データが取れないだろう。そこで、君の部下であるグラド君にこの事をお願いしたい」

「オマエなら言うと思ったぜ、機体が出来上がる前にグラドには話しておく」

「頼みましたよ、リッド大佐」

「・・・お前にそう言われると見下された気分だぜ」

そう言ったリッドは、ばつの悪そうな顔をしてその場から去っていった。

「さてと、こいつの最終調整を始めるとしますか。短期間で改修したとはいえ、生半可なものでは十分なデータを取る事が出来ないからね」

男は口元をニヤリとさせ、改良されたラプトイエーガーの方へと向かっていった。

 

* * *

 

一方、こちらはガイロス帝国東方大陸本部基地内にある軍人達の為の医療施設。夕日で空がオレンジ色に染まる頃、施設内の一室では

「ごめんなさい・・・、私のせいであなたの機体を犠牲にしてしまって」

ベットの上でしんみりとした顔をする金髪の女性、ミレンである。綺麗な外見も、今となっては至る所に包帯が巻いており、痛々しい姿であった。因みに彼女はヒロキやイズキと同じ年であり、女性というより少女の方が正しいのかもしれない。

「・・・・・・」

彼女の言葉を窓の方に向いてじっと聞いている銀髪の青年、彼こそがグラドである。

「私がヘマさえしなければ・・・」

今にも泣き出しそうなミレンを横にグラドは

「・・・泣くな」

「えっ!?」

突然のグラドの言葉に驚くミレン。

「別にお前が悪い訳じゃない、相手が悪かっただけだ。俺でさえ奴には勝てなかった」

「グラド・・・」

「だからお前は傷を治す事に専念しろ、俺達の事は心配するな」

そう言って病室を後にしようとするグラドを見て、ミレンはこんな事を言い出した。

「ねぇ、ちょっと待ってくれないかしら・・・」

「何だ?」

立ち止まり、ミレンの方へと振り向くグラド。

「えっと、その・・・、私の散歩に付き合ってくれないかしら?」

若干はずかしめに言うミレンだが、聞いていたグラドは呆れた様子で答えた。

「・・・お前、その足で歩けるとでも思ってるのか?」

グラドの言う通り、ミレンの足は包帯が何重にも巻かれており、とても歩ける状態ではなかった。しかしミレンにとって散歩とはそう言った意味ではない。

「違うってば!歩くとかじゃなくてそこにある車椅子に乗って・・・」

「その怪我の様子じゃ誰が見ても分かる」

ミレンが話し終える前にグラドが突っ込みを入れる。グラドは始めから分かっていながら先程の態度を取ったのだ。ミレンはぶすっと不機嫌そうに頬を膨らませていた。

「分かってるならそんな事言わないでよ・・・!グラドったら本当デリカシー無いんだから・・・」

「そんな事言ってる前にさっさと車椅子に乗れ、俺が手伝ってやるから」

「えっ!?」

若干気だるそうな感じで言うグラドであったが、ミレンには何か違った感じに聞こえた様で、グラドに車椅子に乗せてもらうのを手伝って貰っている間、ミレンの顔を紅潮し続けていた。

「終わったか、・・・でお前は何故顔を赤くしてる?」

「え!?いや、これはその何て言うか・・・!?」

慌てて必死に否定しようとするミレン、だがグラドはそんな事に興味を抱く様子はなかった。

「それじゃ行くぞ、行き先はお前に任せる」

「うん・・・、じゃあ私が指示した通りに車椅子を動かしてね」

「分かった」

(もしかしてグラド、私の事全然意識してないのかな・・・、何かこっちが恥ずかしくなってくるよ・・・)

ミレンを乗せたミレンとその車椅子を押すグラドは病室を後にしたが、彼女の中に密かに芽生えたグラドに対する淡い恋心は、当の本人には全くと言っていいほど気付いてはいなかった。

 

やがてグラドとミレンは、病院を出てすぐの花壇の前にやってきていた。そしてミレンは思い切った行動に出る。

「・・・ねぇグラド、私の話を聞いてくれないかな?」

「別に構わんが」

「今だから言えるけど、私ね、本当は孤児だったの」

ミレンは真剣な表情でグラドに自身の過去を明かした。ミレンは幼少の頃、住んでいた村が戦争に巻き込まれ、住んでいた村は焼け野原と化し、自分の両親を含む村の人々は自分を除き全員が戦火に巻き込まれ命を落としていた。グラドはミレンの話を黙って聞いている。

「そして私は焼け野原となった村を彷徨っていたところを今のお父様であるアーネスト・オプソティ中佐に引き取られて、今の軍人としての私がいる」

「・・・話を聞く限りだと、元々お前はミレンという名前では無い様だな」

「えぇそうよ、ミレンという名前はお父様に引き取られた際に付けて貰った名前なの。ただ私の本当の名前や両親の顔だけ全く覚えていないわ」

ミレンという名前は、現在の彼女の父親であるアーネスト・オプソティ中佐によって名付けられたもので、彼女自身は本当の名前だけで無く、本当の両親の事も全く覚えていないのだ。いわば彼女はミレン・オプソティという仮の名前の上で成り立っている存在であった。

「不思議よね、自分の名前を覚えていない割に身に起きた出来事は嫌って程鮮明に覚えているって」

「確かに不思議といえば不思議な事ではある。しかし強い精神的なショックによって記憶が部分的に消失する事があると聞いた事がある」

グラド曰く、ミレンが本当の名前や両親の存在を覚えていないのは、住んでいた村が戦争の被害に遭った事による強い精神的なショックによって、その部分だけの記憶が消えてしまったのではないかと推測した。

「そんな事が本当にありえるのかしら・・・」

「知らんな、俺はその手の事を専門にする人間ではないからな」

「自分で言っておいて知らないって・・・、でもこの事がグラドに話せて良かった気がする」

「そうか」

相変わらずな無表情で答えるグラド。

「あ、でもこの事は他の人達には内緒だからね!」

この言葉だけ強調して言うミレン、どうやらこの事は他の人には知られたくない様だ。

「何故最後の一文だけ強調して言う」

「だって私、普段は気の強いお嬢様キャラで通してるからそういった面を見せる訳にはいかないじゃない」

にこやかな表情で言うミレン。グラドは思わず溜息をこぼす。

「そんな事の為に内緒にしてるのかお前は・・・」

「それは表向きでの答え、本当は私が孤児である事を知られたくないからなの。知られる事で今の軍人としての生活に影響が出るかもしれないと考えると嫌だから」

彼女が孤児であった事を知られたくない真意は、知られる事で軍人としての生活に影響が出て欲しくないからであった。グラドもその事を聞いて理解した様子だった。

「そういう事なら分かった、他人に漏らす事はしないでおこう。ところで帰りはどうするつもりだ?」

「いけない!そろそろ病室に戻らないといけない時間だわ。心配してくれてありがとう、でも帰りは一人で大丈夫だから」

そう言ってミレンは一人で車椅子を動かし始めた。因みにミレンが乗っている車椅子は手で押してもらう他にも切り替えによって自動で操縦出来るタイプのものであった。何故なら彼女は片腕を骨折して動かせないからであるからだ。

「いつまでもグラドに世話になってばかりじゃいられないし、自分で出来る事はやっておかないと」

「だからって無理は禁物だ」

「分かってるって、グラドこそさっきの話バラしたら私の怪我が治った後覚悟しておきなさいよ〜!」

そう言い終えた後、ミレンは病院の中へと戻っていった。

「・・・怪我をしても相変わらずな奴だ」

グラドは軽い溜息をした後、

「ただ境遇は若干違うにしろ、あいつは俺と似ている気がする」

グラドは自分の過去の境遇がミレンの過去の境遇と似ている気がしていた。そしてグラドは振り向いて病院から遠ざかる様にして歩いていく。

「・・・しかし思うのが、ミレンはどうやって車椅子からベッドへと戻れるのだろうか、まぁ俺の知る事でも無いだろう」

ふとそんな事を言い出すグラドであった。グラドの言う通り、あの後ミレンは自分では車椅子からベッドに戻れない事に気付き、慌てて看護師数人を呼んでベッドへと戻して貰ったものの、担当医師からはこっぴどく怒られたという。

 

* * *

 

「グラド、今から俺が指定した場所へと来てもらいたい。ただし君一人でな」

翌日、リッド大佐に呼ばれたグラドは、大佐の指示された格納庫へと来ていた。

「大佐、この俺に何か用でもあるのか?」

「相変わらず口の聞き方が悪いなぁグラド」

グラドは上官であろうが下の階級の人間だろうが関わらず口の悪いのは、軍内では有名であった。自身の上官であるリッドにもお構いなしである。この口の悪さから新人兵士には恐れられているが、慣れている人間にしてみれば大した事も無く、むしろそれに憧れを示す兵士もいるとか。

「口が悪いのは元からだ。それで俺に一体何の用なんだ?」

「あぁそうだったな、実はお前に乗って貰いたい機体があるんだが・・・、その前にこいつを紹介してからにしようか・・・」

あまり気乗りしないリッドをよそに、リッドの後ろから一人の男が姿を現した。

「やぁ、君がリッド君が言っていたグラド君ってのは君の事だったのか〜」

その男の奇妙なノリにグラドは嫌悪感を抱いていた。

「リッド大佐、あのキモい男は誰なんだ?」

「おま・・・、随分とバッサリと言うもんだな。まぁドン引きされるのも無理ないか、この男はネルマ・ヴォロス、ガイロス帝国の研究員であって俺の幼なじみみたいなもんだ」

奇妙なノリの男の正体はネルマ・ヴォロス、ガイロス帝国の研究員でありリッドの幼なじみ的存在であった。

「正しくはここの所長なんだけどね」

「んなこたぁいいだろ別に」

因みに言うと、ネルマはこの東方大陸本部基地内の研究所の所長でもある。

「なぁ、いい加減話を進めてくれ、お前らの茶番も見飽きてきた」

グラドはリッドとネルマのコントの様なやり取りに次第にいら立ちを見せていた。

「あぁ失礼、では早速だが君にはこのゾイドに乗って貰おう」

「っていきなりかよっ!」

ネルマのいきなり過ぎる結論に思わず突っ込むリッド。だがグラドはネルマの指差した方向にある一体のゾイドを眺めていた。

「・・・俺がこの機体に乗るのか?」

「そう、君がこのゾイドに乗ってクリムゾンフューラーと戦闘をして貰いたい」

軽いノリで答えるネルマだが、発した言葉の中にクリムゾンフューラーという言葉に反応するグラド。

「何!?」

「ん?もしかして君クリムゾンフューラーの事知ってるのかい?」

「知ってるも何も、俺にとってはあの機体は最も憎い存在だ」

グラドはかつて、ヒロキのブレイジングウルフSAと共にクリムゾンフューラーに挑んだものの、全く歯が立たず自分の機体が大破させられた相手でもある。そしてさらにミレンの機体を大破させた挙句大怪我までさせているのもあり、彼にとって憎く復讐すべき存在であった。

「一つ聞くが、クリムゾンフューラーとの戦闘において、クリムゾンフューラーを破壊するのはいいのか?」

どうやらただ戦うだけで無く、破壊をも目論んでいる様だ。

「別に構わないが、相手も生半可な機体ではないぞ」

「そんな事どうでもいい、俺はいかなる手段を使ってでも奴を倒す」

「おいまさかお前、自分の命を投げ出す気か!?」

自分の命の投げ出してまでクリムゾンフューラーを倒すのでは無いかと思い心配し、声を掛けるリッド。しかしグラドは軽く笑みを浮かべこう答える。

「昔の俺ならそうしたかもな、だが今は俺の事を見守る奴がいる、そいつを悲しませない為にも命を投げ出してまでやるつもりはない。幸いこの機体には脱出ポッドが付いてる様だしな」

「グラド、お前・・・」

リッドにとっては、これがグラドの心境の変化を始めて知った瞬間であった。

「さて、では実践の前に戦闘テストを行う、何分この機体は短期間で完成させただけあってまだ動かしてもいないのだよ。本来なら駆動テストとかもやるところだけど、時間が無いからこうする事に決めたのさ」

「まだ動かした事無いのにいきなり戦闘テストって、無茶じゃないのか!?」

「だから一からテストをしている時間が無いって言ってるでは無いか!話の聞きが悪い奴だ!」

強い口調で言うネルマに、思わずたじろくリッド。

(こいつに何言っても聞いてくれそうには無いな・・・)

内心言い返す気も失せたリッドであった。

「分かった、そういう事ならすぐに機体に乗り込む」

「頼むよ」

グラドはネルマの言葉を瞬時に理解し、すぐさま機体へと乗り込む。

「準備はいいかいグラド君?」

「あぁ、いつでもOKだ」

「それじゃテスト会場へと向かうとしよう、ほらリッド大佐も乗った乗った」

「お、おいっ!」

ネルマはリッドを強引に車に乗せ、グラドの乗った恐竜型ゾイドと共に戦闘テストを行う場所へと向かう。

 

先程の格納庫から若干距離のある場所にある戦闘テストを行う模擬戦場へと着いたグラド達。早速ネルマが準備に取り掛かる。

「ではグラド君、これより私が用意した模擬戦用のゾイドと戦ってもらう。戦い方は君の得意なやり方で構わない、要は機体がまともに戦えるか確かめたいだけだから」

「別にあんたに言われなくともそうするつもりだ」

グラドはそう言った直後、操作レバーを握り締めいつでも動かせる体勢を取る。

「なら話が早い、では始めるぞ!」

ネルマの言葉と共に奥からゾイドが4体程姿を現した。

「セイバータイガーが2体にモルガキャノリーが1体、それにセイバータイガーATが1体か、恐らくセイバータイガーATは模擬戦用の物じゃないな、あの科学者中々面白い事してくれるな」

そう言ってグラドは4体のゾイド達に向かって機体を走らせた。一方ネルマ達は

「遂に始まった様だね〜」

「おい、あのセイバータイガーATはどうみても模擬戦用のゾイドじゃないだろ。どこから用意してきた!?」

「あのゾイドは旧式化され、戦線から退いた物を引き取って私が改良したものだ。それに他の模擬戦用のゾイドのAIの思考ルーチンもかなり高めに設定しておいたのさ」

今回の戦闘テストの相手の内の一体であるセイバータイガーATは、旧式化によって使われなくなった個体をネルマが引き取り、改良を施し、さらにはAIによる自動操縦という高性能ゾイドに生まれ変わっている。密かにネルマが気に入っている“作品”の一つでもある。

「セイバータイガーATは良いが、模擬戦用のゾイドを勝手に弄るのは流石にマズいんじゃないか?」

「そんな事をいちいち気にしていたら彼の為にはならんだろう、通常レベルでは結果がたがが知れている」

(こいつ、そこまで予測していたってのか・・・)

やはりこいつには敵わないな、と思ったリッドであった。

 

一方、グラドの乗る恐竜型ゾイドはというと、セイバータイガー2体とモルガキャノリーの連携攻撃に苦戦を強いられていた。セイバータイガーATは現れた位置から動かず、目の前の戦闘の様子を眺めている様にも見える。

「くっ・・・、まだ機体の方が完全に慣れきってねぇから動きが安定しない!」

先程動かし出したばかりであって、まだゾイドがグラドの操作について行けてないのである。グラドの表情が多少曇っていた。

そんな状況下でも構わず、セイバータイガー2体とモルガキャノリーの連携が来る。

「ちっ、二度も同じ手喰らうかよ!」

モルガキャノリーのグラインドキャノンによる砲撃を何とかかわし、飛び掛かってくるセイバータイガーも避け、時間差で飛び掛かってきたもう一体のセイバータイガーに腕に装備されているハンドキャノンで顔目掛けて撃つ。避ける術の無いセイバータイガーは頭部に被弾し、その場に倒れ込む。

グラドはその隙を逃さず一気に接近し、起き上がろうとするセイバータイガー目掛け自身が乗るゾイドの尾を勢いよくセイバータイガーにぶつける。そしてセイバータイガーは思いっ切り吹き飛ばされ、再び倒れ込んでしまう。

さらにグラドは倒れ込んだセイバータイガー目掛け、ハンドキャノンを連射させる。倒れ込んだセイバータイガーの辺りに爆風と共に砂埃も巻き上がる。そして砂埃が消えた頃には、動かなくなったセイバータイガーが姿を現した。

「まずは一体」

グラドがそう言った瞬間、突如グラドのゾイド目掛け、砲弾が何発か飛んできた。しかしいずれの砲弾もグラド機の手前で着弾していた。

「威嚇射撃か、だがその武器では次を撃ち出すのに時間が掛かる」

撃ち終わった後のモルガキャノリー目掛けハンドキャノンを連射、身動きの遅いモルガキャノリーはかわす事が出来ず、たちまちモルガキャノリーは戦闘不能に陥った。

「これで2体目、後はセイバータイガー1体にセイバータイガーATだが、セイバータイガーの方が先だな」

グラドの次なる標的は2体のセイバータイガーの片割れであるセイバータイガーを倒す為接近していく、相手もまたグラドのゾイド目掛け接近する。

 

丁度グラドがゾイドの戦闘テストを行っている上空では、一体のフクロウ型のブロックスのゾイドであった。

「どうやらガイロスの連中にラプトイエーガー持っておるのか。さしずめ何処かで奪ってきたことなんじゃろう」

しかしDr.ホワイトはこんな事を言い始めた。

「わし自信が開発したゾイドとはいえ、敵方が使われるのも厄介なものだ。まぁそんな事じゃろうと思って刺客を送り込んでおいたがな」

Dr.ホワイトは、フクロウ型ブロックスのコックピットの中では不気味な笑いを浮かべていた。そしてその刺客はグラド達がいる場所へと刻一刻と近づいていく。

 

グラドが乗る恐竜型ゾイドの模擬戦は今だ続いており、現在相手の残りは2体、セイバータイガーとセイバータイガーATである。

グラドはまず、セイバータイガーの方へと向かった。セイバータイガーもそれに反応してグラド機へと向かう。

セイバータイガーは背中のビーム砲を連射しながら接近するが、グラド機は上手く回避し接近するが、やはりタイミングの悪いとこでまたグラドの操縦について行けず一瞬機体がよろける。

「またかっ!くっ・・・!」

しかもその隙を突かれ、セイバータイガーのビーム砲がヒットする。幸い大したダメージ量では無いものの、怯んでしまった。

「上か・・・!」

グラドが上に視線を向けると、今にもセイバータイガーは空中でグラド機目掛け爪を振り下ろそうとしていた。

「少々ギリギリだが、かわす事は出来る!」

セイバータイガーは思いっ切り爪を振り下ろし、機体が地面に着地する。だがグラドの一瞬の判断で攻撃を紙一重でかわす。

「今だっ!」

着地して間もないセイバータイガーに向かって腕の爪で切り裂いた。セイバータイガーの左前後脚を切断し、セイバータイガーはバランスを失い倒れる。

「後はあのセイバータイガーATだけか」

今まで眺めていたセイバータイガーATがミサイルを放とうとした瞬間、突如二機の間に爆風と共に一体のゾイドが紛れ込んできた。

「あれは・・・ジェノザウラー」

「赤いジェノザウラー、それに機体に付いている紋章、あれはネオゼネバスの機体じゃねぇか!」

突如として割って入ってきたのは、ネオゼネバス帝国の赤いジェノザウラーであった。

「どうやらネオゼネバス帝国の者に見られていたみたいですね〜」

「見られてたって、何処から一体誰が!?」

「陸で見る事が出来なければ、他に見るところがあるといえば・・・」

上の方に向けて指を指すネルマ、リッドは彼の行動から何を言いたいのか即座に理解した。

「・・・空か、クソッ!全く気付いて無かったぜ」

「ただ様子を見ているだけで無く、わざわざ刺客をこちらに差し向ける辺り、向こうにとってグラド君が乗っている機体は邪魔な存在なんだろうね」

ネルマがこう解釈していたが、これが見事に的中していた事までは知る由も無かった。

「今すぐ俺の機体で応戦し・・・」

「待った、リッドは余計な事しなくていい」

またしてもリッドが言葉を全て言い切る前にネルマが割って入り、リッドを制止する。リッドは納得いかなそうな顔をしていた。

「何で止めるんだよっ!」

「ここはグラド君に任せてみようかとね、それに私の自動操縦のセイバータイガーATもいる。つい先ほどターゲットをあの赤いジェノザウラーに変更しておいた」

「いつの間にそんな事してたんだよ・・・」

 

ジェノザウラーは迷う事無くグラドの乗る恐竜型ゾイドに向かってレーザーライフルを放つが、グラドは何とかかわす。

「ちっ、明らかに狙いはこの機体か」

その間セイバータイガーATがジェノザウラーに向けミサイルを放つ、しかしジェノザウラーはレーザーライフルでミサイルを何発か撃ち落としたため大したダメージにはならなかった。

「あのジェノザウラー、中々やるな。だが!」

その隙を狙ってジェノザウラーに向け爪を振ろうとするが、あっさり見切られてしまい、尻尾でカウンターされグラド機は大きく吹き飛ばされる。

「あのジェノザウラー、人間が操縦してはいないな、反応速度が人間以上だ」

そう、グラドの言う通り赤いジェノザウラーもセイバータイガーATと同じくAIによる自動操縦によるものであった。しかもジェノザウラーのAIはセイバータイガーATAIよりも優れていた。

グラド機が吹き飛ばされた後も同じAIによる自動操縦のセイバータイガーATもジェノザウラーと戦ってはいたものの、AIの思考ルーチンの差に加え、機体差もあってか、形勢は不利になる一方であった。グラド機がジェノザウラーの近くに来る頃には、セイバータイガーATはボロボロになっていた。

「同じAIの自動操縦でもこんなに差が出るとは、あのジェノザウラーに搭載されたAIは相当なものなのだろうな。だがAIごときで俺が負ける訳にはいかない!」

グラド機はハンドキャノンでジェノザウラーを牽制し、接近戦へと持ち込もうとするが、またしても機体は彼の思う様に動いてくれなかった。

「こんな時に・・・、俺の操縦通りに動けっ!」

その隙を突かれ、ジェノザウラーは片腕の爪をグラド機に射出する。グラドにとっては絶体絶命の状況であった。

「万事休すか・・・」

グラドがそう思った瞬間、目の前でジェノザウラーの攻撃を受け止める影があった。セイバータイガーATがグラド機を庇ったのである。ジェノザウラーは腕から爪に向け放電する。電流はセイバータイガーATに走り、放電が終わったと同時にゆっくりと崩れ落ちた。どうやら放電を受けてる途中にシステムフリーズを起こしてしまった様だ。そして射出された爪はジェノザウラーの元へと戻って行く。

「助かったぜ、セイバータイガーAT

動かないセイバータイガーATを見て、自分を庇った事に礼を言うグラド。そしてグラドの視線はジェノザウラーの方へと向けられた。

「確かにAIは人間より優れた面があるかもしれん、だがAIごときに負けていてはアイツには勝てんからなっ!!」

力強い声で言うグラド。グラドの言うアイツとは、自分の愛機を大破させたクリムゾンフューラーの事であった。

「さぁ動け、俺の思う通りに!俺の機体であるスレイブラプターよ!」

グラドの叫びに答える様にスレイブラプターの目が強く輝き出し、力強い雄叫びを上げた。そしてジェノザウラーに突撃を始める。ジェノザウラーはレーザーライフルで応戦するが、スレイブラプターは先程とは違い、素早く次々とかわしていく。

「やっと言う事を聞く様になったか、それでいい」

次にジェノザウラーは両腕の爪をスレイブラプター目掛け時間差で射出するが、爪が当たる前にスレイブラプターが飛びあがる。その間に射出された爪が地面に食い込み、その場から動けなくなっていた。スレイブラプターはその間に爪を振り下ろし、レーザーライフルをジェノザウラー本体から引き裂いた。

スレイブラプターが地面に着地する頃には、ジェノザウラーは射出した爪を本体から戻しており、荷電粒子砲発射形態になっていた。

「荷電粒子砲なんざ撃たせはしねぇよ!」

だが既にジェノザウラーの口内の砲塔からは光が集まり出していた。だがグラドはスレイブラプターに装備されたブースターを噴射させ、その勢いでジェノザウラーへと突撃する。

「・・・決まったな」

何とジェノザウラーの荷電粒子砲が発射する前にスレイブラプターの腕の爪がジェノザウラーの口内の砲塔に突き刺さっていた。すると発射されなかった荷電粒子が暴発し、ジェノザウラーの頭部が爆発を起こし、頭部が吹き飛んだジェノザウラーはその場に崩れ落ちた。

 

* * *

 

「いや〜、上出来上出来、このゾイドのパイロットを君に選んで正解だったよ」

「今更わざとらしい言い方すんなよ」

上機嫌で寄ってくるネルマに嫌気を見せるグラド、グラドはネルマの様なタイプの人間が本当に苦手な様だ。

「それにしても完成したばかりのあの機体をあっという間に乗りこなすとはな、上官でもある俺の鼻が高くなるぜ」

「何訳分かんねぇ事言ってんだよ、別に俺は何の功績も残してないぜ」

「それもそうだが・・・。しかし今の一件でネオゼネバス帝国の活動が活発になっている事が確実になった訳だ」

「あぁ、またクリムゾンフューラーと戦う時がくる」

二人が話しているとこにひょこっとネルマが割って入ってきた。

「またあんたか」

「今度は何だ?」

不機嫌な二人をよそにネルマは話し始める。

「実はそのクリムゾンフューラーの件だが、私がこっそりとネオゼネバス帝国の情報を傍受したところ、翌日にここから先の荒野にクリムゾンフューラーを主軸とした小規模部隊が姿を現すそうだ。ただ何の目的でその場所に現れるかまでは分からんけどな」

「何!?クリムゾンフューラーだと!?」

驚きを見せるリッド、何故その様な強敵が荒野に姿を現すのだろうと不思議に思っていた。

「勿論グラドはその部隊、いやその部隊の隊長格であるクリムゾンフューラーに挑むつもりなのか?」

「当たり前だ、俺の機体とミレンの仇を討つためにな!」

グラドの表情から、クリムゾンフューラーに対する怒りに満ちている事が分かる。

「お前なら言うと思ったぜ、お前はクリムゾンフューラーと交戦をしてもらおう、他の奴らは俺達の部隊で何とかする」

「そうして貰うとありがたい、じゃあ俺は明日に備えての準備を行う。また明日会う事になるだろう」

「君の機体はしっかり修理しとくからね〜」

ネルマのお気楽そうな声にも反応する事なくその場から去っていったグラド。

「さて、壊れた機体の処理とこの機体を格納庫まで運ぶとしますか」

「おい、本当はここにネオゼネバス帝国の奴が襲い掛かる事を知ってたんだろ」

ネルマは作業する手を止めて、一間置いた後、ゆっくりと口を開いた。

「あぁ、勿論知ってたさ、だから模擬戦をここに選んだ訳だ。あのジェノザウラーを送り込んだ人物、Dr.ホワイトっていうネオゼネバス帝国の中でも相当マッドな科学者が仕掛けたそうだ。もしかしたらネオゼネバス帝国の行動の活発化もそいつが絡んでるかもしれんな」

Dr.ホワイト・・・、そいつは一体何が目的なんだ・・・」

「さぁね、それはあの人自身にしか分からないじゃないんかな?まぁいずれにせよ今後において厄介な人物である事は確かだけど」

「・・・・・・」

Dr.ホワイトの暗躍は徐々に表面化しつつあるのであった。そして翌日、グラドは再びクリムゾンフューラーと激突する事となる。

 

 

#23 完、#24へ続く