#24 因縁、渦巻く影


著/Ryuka

ある朝、ユートシティにあるヒロキの家。

「う〜ん・・・、うわぁっ!!」

突然飛び起きるヒロキ。それ以前に寝ている時から何かにうなされている様子だった。

「はぁ、はぁ・・・、何だろうこの気味の悪い感じ・・・、まるで僕の中に違う人がいるみたいだ」

ヒロキは自分の中で自分では無い人間がいる感じに陥っていた。後にこの事が彼の運命を大きく左右される出来事になろうとは、今のヒロキに知る筈も無かった。

 

* * *

 

同時刻、ガイロス帝国東方大陸本部基地では、帝国軍人や整備士達が慌ただしく動いていた。その理由はこの先の荒野にネオゼネバス帝国の小隊が現れるという情報をキャッチし、それに備えての準備だった。勿論その中には、スレイブラプターに乗り込み、機体の調整をするグラドの姿があった。

「動かす分には問題は無いが、この機体で奴にどこまで戦えるか・・・」

「よぉグラド、随分と気合が入ってるみたいだな!」

「大佐、それにミレン!何故ここに!?」

グラドがコックピットから見下ろすと、リッドの他に車椅子に乗ったミレンの姿があった。

「何よその言い方、私が来たら悪いみたいじゃない!」

グラドの言い方に、むくれるミレン。その間グラドは機体から降り、リッドとミレンの元へと来ていた。

「ここは怪我人が来るとこじゃない、それ位わかっているだろう」

「確かにそうだけどさ・・・、でも戦場へ赴くグラドの姿を見送る位ならいても悪くないでしょ」

グラドを見送る為に来たというミレン。しかしその姿は昨日と変わらず体の至る所に包帯が巻いてあるままだ。

「そういう事か、で大佐は今日のネオゼネバスとの交戦には参戦するのか?」

「いや、俺は今回の戦闘には参加しない。俺はミレンの怪我の具合を担当医師から聞くことになっている。それにレミュエルも別任務でこの戦闘には参加する事が出来ない」

「という事は、こっちも少数の部隊になる訳か」

リッドもレミュエルも今回のネオゼネバスとの戦闘には参加出来ない為、ほぼ必然的にグラドが部隊長の役回りとなる。

「あぁ、そういう事だ」

とはいっても、グラドの標的は小隊自体ではなく、その小隊の中にいるクリムゾンフューラーだけである。

「グラド!ちゃんと生きて帰って来てよね!約束だからっ!!」

ミレンは精一杯の声を張り上げてグラドに言った。ミレンの呼び掛けに応じるかの様にグラドはミレンの方へと振り向き、

「言われなくてもそうするつもりだ。ただそう言ってくれた礼を言っておこう」

ミレンはグラドの言葉に思わず顔を紅潮させるが、その事に全く気付いていないグラドはリッドとミレンの元から離れていった後、スレイブラプターに乗り込み、少数の帝国兵士が乗るゾイドと共にクリムゾンフューラーがいる荒野へ向け走り出す。

 

一方、グラド達が向かっている荒野には、クリムゾンフューラーを筆頭に、9機のラプトイエーガーで構成された小隊の姿があった。

「フィヨル様、何故あなたの様な方が我々と一緒におられるのですか?」

ネオゼネバス帝国兵士の一人が、クリムゾンフューラーのパイロット、フィヨルという人物に問い掛ける。

「私も知らない・・・、恐らくあのおじいさんの気まぐれだと思うわ・・・」

「あのおじいさんって、Dr.ホワイトのことか。あの人は変わり者だから、そういった考えも起こしそうだな」

フィヨルの言葉に納得の様子の兵士を尻目に、彼女は無表情のまま見ているだけだった。

「! この感じ!?何か来る・・・」

その時、フィヨルが向いた方向の遠くから、こちらへと何かが向かってきていた。その正体は10機ほどのゾイドの集団だった。

「あれは・・・、ガイロス帝国のゾイド!」

向かって来ていたゾイドの集団はガイロス帝国のゾイドの小隊だった。その先頭にはグラドのスレイブラプターがいた。

「あの先頭のゾイド、どう見てもラプトイエーガーを改良したものだ。一体何故ガイロスが我が軍のラプトイエーガーを・・・!?」

本来ネオゼネバス帝国の機体であるはずのラプトイエーガーが、改良されているとはいえ、何故ガイロス帝国が所有しているのか不思議がるネオゼネバス帝国の兵達。するとフィヨルのクリムゾンフューラーが一歩前へと前進する。

「あなた達は下がって・・・、ここは私一人でやる・・・」

「ですが・・・」

「私は別にあなた達を必要としていない・・・、狩られたくなかったら私に近付かないことね・・・」

「う・・・」

フィヨルのあまりにも冷酷な一言に、ネオゼネバス帝国兵が乗るラプトイエーガー達はクリムゾンフューラーから引きさがっていく。

 

一方、その向かい側にいるガイロス帝国勢も、グラドのスレイブラプターが一歩前へと前進した。

「クリムゾンフューラーは俺一人で相手する。お前達はクリムゾンフューラーの背後にいるラプトイエーガー達の殲滅に回れ!」

「了解!」

グラドの指示に合わせ、スレイブラプターから散開し、ラプトイエーガー達へと攻撃を仕掛けるガイロス帝国のセイバータイガー4体とヘルキャット5体。

 

* * *

 

「あなたは以前、私のクリムゾンフューラーに狩られた赤いゾイドに乗っていた人ね・・・」

「よく覚えてるようだな、だがあの時と一緒にされては困る」

対峙するスレイブラプターとクリムゾンフューラー。

「あなたも懲りない人・・・、また私に狩られにくるなんて」

「それは違うな、俺は貴様を倒しに来た、それだけだ」

「随分面白い冗談を言うのね、でも全然笑えない、今すぐバラバラにしてあげる」

クリムゾンフューラーは片方のバスタークローをスレイブラプターへと向け、そしてバスタークローを回転させ、スレイブラプターへと突撃する。すると間も無くして乾いた金属がぶつかり合う音が響いた。

「私の攻撃を片手で受け止めた・・・?」

何と、クリムゾンフューラーの攻撃を片方の腕の爪で受け止めるスレイブラプター。

「言ったろ、あの時とは違うと」

グラドの表情は、前にフィヨルと戦った時と比べ、落ち着いている。

「だけど、バスタークローはもう一本あることを忘れないことね」

クリムゾンフューラーは、もう片方のバスタークローもスレイブラプターへと向け突き出す。

「忠告ありがとう、だが俺が気付いてないとでも思ったのか?」

そう言うと、スレイブラプターはバスタークローを抑えていた腕の力を緩め、素早く横へスライド移動する。

「え!?」

バスタークローを抑えていた物が無くなったことで、クリムゾンフューラーはバランスを崩し、転倒しそうになる。

「おのれ、よくも・・・」

すぐさま態勢を立て直すクリムゾンフューラー。しかしスレイブラプターは腕に装備しているハンドガンを連射し始める。

「くっ・・・!」

Eシールドを素早く展開させ、攻撃を防ぐクリムゾンフューラー。

Eシールドか、だがそれも想定の範囲内だ」

Eシールドで守られているのにも関わらず攻撃を続けるスレイブラプター。グラドは何か考えでもあるのだろうか。

すると、砲撃を止め、ブースターを使ってクリムゾンフューラーへと一気に近付き、爪を振りかざす。しかし当然の事ながら展開しているEシールドによって攻撃が阻まれる。

「私の機体にダメージを受けてないというのに、何故あなたはそんな余裕な表情が出来るの・・・?」

確かにフィヨルの言う通り、スレイブラプターの攻撃はEシールドで全て防がれ、クリムゾンフューラー自体にはダメージを受けてはいない。しかしグラドはそんな状況にも関わらず、焦りの様子を全く見せていなかった。

「いい加減うっとうしいわ、離れてっ!」

クリムゾンフューラーはEシールドを展開しながら前進し、目の前にいるスレイブラプターを弾き飛ばす。

「くっ・・・、だがこれも想定の範囲内」

すぐに態勢を立て直したスレイブラプターにクリムゾンフューラーが、バスタークローを前に回転しながら突き立て、突進してくる。

「大人しく食らいなさい!」

「誰が大人しく食らうかよ」

横に小ジャンプしてかわそうとするスレイブラプターだが、クリムゾンフューラーのバスタークローがスレイブラプターの肩の装甲をかすった。

「今のでもかすってたのか・・・、あともう少し反応が遅れていれば危なかったかもな」

間一髪回避できたとはいえ、スレイブラプターの左肩の装甲にはクリムゾンフューラーのバスタークローによるかすり傷が出来ていた。

「次は逃さない・・・」

「そうはいくか!」

スレイブラプターはクリムゾンフューラーが突撃する前に素早く振り向き、ハンドガンを連射する。これには思わずクリムゾンフューラーも立ち止まる。

「こざかしい真似を・・・」

「隙を見せたな!」

「何っ!?」

爆風の中からスレイブラプターがクリムゾンフューラーに目掛け爪を振り下ろす。しかしフィヨルは咄嗟の判断でEシールドを展開する。だがそのEシールドは、先程のスレイブラプターの猛攻で耐久力がかなり落ちていた。そう、グラドがEシールドを展開している状態のクリムゾンフューラーに執拗に攻撃を仕掛けていたのは、これが狙いだったのだ。

Eシールドを展開している状態で攻撃を続けていたのは、この事だったのね」

「確かにそうだ、だがそれだけじゃない」

するとスレイブラプターがブースターを噴射し始めた。するとEシールドのスレイブラプターの爪と接触している箇所が亀裂は入り始め、時間が経つ毎に亀裂がみるみる広がっていく。

「もう、Eシールドが持たない・・・!」

そしてとうとうクリムゾンフューラーを守っていたEシールドが崩壊し、Eシールドによって抑えられていたスレイブラプターの爪が、ブースターによる勢いも重なり、クリムゾンフューラーの右側のバスタークローを吹き飛ばし、右肩の装甲に爪痕を付けた。

「これでもうEシールドが使えない上、メインウエポンのバスタークローの1本を失った事で、攻撃力と防御力が低下したはずだ」

やがて弾き飛ばされた1本のバスタークローが地面へと深く突き刺さる。攻撃を受けたクリムゾンフューラーはその場に立ち尽くしている様に見えた。しかし、コックピットの中のフィヨルの様子は先程とは違うものとなっていた。

「また私が攻撃を受けるなんて、あのグレーの狼型ゾイド以来だわ・・・」

フィヨルは顔をうつむきながらぶつぶつと喋っていた。

「しかも今度は今回はあの時よりも傷が深い・・・」

「・・・絶対に許さない、絶対にあの機体を徹底的に潰す!」

クリムゾンフューラーは、いきなりスレイブラプターの方へ振り向くと、バスタークロー内に装備されているビームキャノンを乱射し始める。

「何!?」

咄嗟に攻撃を回避するスレイブラプター。

「突然攻め方が変わった・・・、一体あいつに何が・・・!?」

クリムゾンフューラーの攻撃の変化に戸惑いを見せるグラド。一方のフィヨルは、自分の機体を傷つけたグラドに激しい怒りに満ちていた。

「あなたは私によって徹底的に機体を潰して殺してあげるわ!」

先程までの冷静な無表情さとは打って変わり、怒りによって狂気に満ちた表情になっていた。しかもフィヨルの赤い瞳がさらに赤みが増しており、まるでクリムゾンフューラーと戦った際、窮地に陥った時のヒロキと同じような現象が起こっていた。

「もう私に何をしようが手遅れ・・・、あなたはもう私に倒される以外に方法はないのよ!」

そう言うと、ビームキャノンを乱射しながらスレイブラプターに突撃する。スレイブラプターは多少ダメージを受けながらも、ビームの雨を何とか掻い潜る。

「一層と攻撃が激しくなってきたな、まるでさっきとは別人だ」

グラドがそう言ってる間にも目の前にクリムゾンフューラーが現れ、回転したバスタークローを突き刺そうとする。

「私から逃れられるとでも思ってるの?」

狂気に満ちた表情で言うフィヨルは、とても10歳の少女とは思えない表情で、とてつもない恐怖を感じさせる。

「さっきよりも反応速度が上がってる・・・!怒りで手元が狂うどころか、むしろ手強くなっていやがるとは・・・、何て奴だあいつは!」

何とかバスタークローを手で受け止めても先程とは違い、スレイブラプターがクリムゾンフューラーに押されていた。

「あら?さっきの様に受け止めきれてないみたい。それもそう、今の私に止められるものなんて無いもの!」

「くっ・・・、何てパワーだ!スレイブラプターのパワーですらあの機体に完全に押し負けているとは・・・」

そしてクリムゾンフューラーは、抑えていたスレイブラプターを突き飛ばす。スレイブラプターはそのまま地面へと叩きつけられる。

「ぐはっ!」

「まだまだこんなもんで終わらないわ!」

倒れているスレイブラプター目掛け、勢いよくバスタークローを突き刺す。

「そう簡単に当てさせるか!」

素早く起き上がり、ブースターを使って間一髪で避けるスレイブラプター、クリムゾンフューラーのバスタークローは、先程までスレイブラプターのいた場所の地面に突き刺さっているのだが、

「甘いね、あなた・・・」

「何っ!?ぐあっ!!」

クリムゾンフューラーは、地面に突き刺さって使えないバスタークローの代わりに尻尾を勢いよく振り、スレイブラプターに当てる。またしてもスレイブラプターは吹っ飛び、地面へ叩きつけられる。

「さっきまでの威勢はどうしたのかしら、全然大した事ないのね・・・。少し面白くは無いけど、動けなくなるまで徹底的に攻撃してあげる」

狂気に満ちた表情のフィヨルがそう言うと、立ち上がろうとするスレイブラプターに容赦なくビームキャノンを連射する。するとスレイブラプターがいた場所は、たちまち爆風と砂埃に包まれる。

「あなたは確かに強い・・・、でも私には及ばない、力の差は歴然だもの」

「まだだ・・・、まだ俺は倒れちゃいないぜ!」

爆風が吹き払われ、中からは立ち上がっているスレイブラプターの姿。だがしかし、その機体は先程のクリムゾンフューラーの攻撃によってボロボロになっていた。

「へぇ・・・、意外としぶといのね。でも今から私が楽にしてあげるから」

笑みを浮かべるフィヨル、しかしその笑みは殺気めいており、恐怖を感じさせるものであった。

そしてクリムゾンフューラーは、ビームキャノンを撃ち出す。スレイブラプターはブースターを使い、かわしつつ距離を取ろうとする。

「この状況じゃ接近戦は危険か、なら一旦距離を置いて・・・」

「フフッ、逃げてもムダ・・・」

しかし、クリムゾンフューラーに先回りされてしまった。クリムゾンフューラーは回転したバスタークローをスレイブラプターに突き刺す。

「くっ・・・!」

スレイブラプターは直前で横移動するが、間に合わずブースター1基をバスタークローで貫かれてしまう。グラドは貫かれたブースターをスレイブラプターからパージし、何とか距離を取る。

「今ので2基あるブースターの1基を失ったか・・・、この状態じゃ動き回るだけ無駄か・・・」

グラドはどうクリムゾンフューラーを対処するか考えていた。しかしその間もクリムゾンフューラーは攻撃態勢に入っており、いつ突撃されてもおかしくなかった。

「いや、待てよ、一つだけあいつに大ダメージを与える手段がある。だが、上手くいくかは分からんが、やるだけやってみるか」

「さっきからそこから動いていない様だけど、何か策でもあるのかしら?でも私には通用しない・・・」

「フン、そんな事やってみなきゃ分からんだろ、例え可能性が低かろうがやらないよりやる方がマシだからな!」

自分の機体がボロボロにも関わらず、何故か余裕そうな雰囲気を醸し出すグラド。これを見たフィヨルは突然態度を一変し始めた。

「どうして・・・、ねぇどうしてなの?もう勝てる見込みなんて無い癖にどうしてそこまで頑張れるの?どうして私にたてつくの?分からない・・・、私には分からない!それがどういう意味なのかも理解出来ない!そう、あれはまるであの時の・・・、グレーの狼型ゾイドに乗ってた人やそれを助けに人達みたいに・・・」

頭を抱え込み、訳がわからなさそうな感じで喋るフィヨル。暫くすると、頭を抱えていた手を操縦桿に戻し始めた。

「だから私は決めたの・・・、そういう人達は消しちゃえばいいんだって!みんなみんな、私の前からっ!私の手で狩って狩って狩り倒してやるんだからっ!!」

すると今度は狂いだしたかの様に叫び始めるフィヨル。彼女の瞳がより一層赤みが増している様にも見える。

「あいつ、正気じゃないな、狂ってやがる・・・」

フィヨルの様子からして、正気では無い事を感じているグラド。

「そうね・・・、最初ってことで、近くにいるあなたから私の手で葬ってみせるわ!光栄に思うことね!」

そうフィヨルが言うと、クリムゾンフューラーが猛ダッシュし、回転したバスタークローをスレイブラプター目掛け突っ込んでくる。

「・・・誰が光栄に思うかよ、そんな事!」

一方のスレイブラプターは、その場からハンドガンを連射し始める。と同時にグラドはあるボタンを押し、何かの機能を起動させていた。

「そんな攻撃程度じゃ、私は止めるなんて不可能なのよ!」

スレイブラプターの攻撃を受けながらも、もろともせず突っ込んでいくクリムゾンフューラー。そして、クリムゾンフューラーのバスタークローがスレイブラプターのコアの部分を捉え、貫通する。

「どう?これであなたも一たまりもないわね!」

「確かに、まともに食らえば俺の命は危なかったな」

「何で!?一体どうして生きてるの!?」

バスタークローの先には確かにコアを貫かれ、動かなくなったスレイブラプターの姿がある。しかしどうしてグラドが生きているのか理解出来ない様子のフィヨル。

「上見ろよ、上」

「まさか・・・!」

フィヨルは顔を上げると、そこにはスレイブラプターのコックピットが空を飛んでいた。

「バスタークローを喰らう直前にコックピットをスレイブラプター本体から射出しといたんだよ。あと少しでも遅れていればバスタークローの餌食になっていたがな」

実は、クリムゾンフューラーの攻撃を受ける直前にグラドは、コックピット兼脱出ポッドをスレイブラプター本体から射出し、本体を犠牲にする代わりに攻撃を逃れていたのだ。

「これ以上攻撃手段の無い俺は引き上げさせてもらおう。あと最後にとっておきなのを仕掛けさせておいた」

そう言うと、グラドの乗る脱出ポッドは、その場から離れていく。

「待てっ!逃げるな!」

グラドの後を追おうとするフィヨルのクリムゾンフューラー、だがスレイブラプターが思った以上に深く突き刺さっており、中々振り払えない。

「私としたことが、考えもせずに深く突き刺し過ぎてしまったようね!」

必死に振り払おうとするが、その時フィヨルの脳裏に先程のグラドの言葉が浮かびあがってきた。

“あと最後にとっておきなのを仕掛けさせておいた”

「まさかっ!あの機体に何か仕掛けが!」

慌ててバスタークローに突き刺さったスレイブラプターの方に振り向くフィヨル。しかしその時点で既に手遅れだった。

突如スレイブラプターから閃光を放ち始めたかと思えば、勢いよく爆発を起こしだした。グラドはただ攻撃を逃れたのでは無く、スレイブラプターの自爆装置を作動させ、置き土産をしていたのだ。この爆発にはクリムゾンフューラーも避けきれずまともに食らってしまう。

「きゃああああっ!!」

クリムゾンフューラーは爆発によって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるばかりか、頭部を中心とした装甲や武器も同時に破壊された。

「よくも・・・、よくも私をこんな目に遭わせるんだもの、次に会った時は確実に殺してやるわ!絶対に!絶対に!!」

動けなくなったクリムゾンフューラーの中で、悔しさで怒りと憎しみを露わにするフィヨルだった。

 

またしても自身の機体を失う形とはなったものの、宿敵であるクリムゾンフューラーに大打撃を与える事が出来たグラドは、飛行中のスレイブラプターから射出したコックピット兼脱出ポッドの中にいた。

「ガイロス帝国兵全員に伝える、これ以上の戦闘行為は無用と判断し、直ちに帰還する!」

『了解!』

グラドからの指示に従い、次々と帰還するガイロス帝国の面々、彼らとネオゼネバス帝国兵との戦闘は、ガイロス帝国側に軍配が上がった。接近戦や敏捷性ではガイロス帝国側のセイバータイガーやヘルキャットより優れ、最初は猛威を振るうも、低い耐久性から、ガイロス側のセイバータイガーと光学迷彩を使用したヘルキャットの連携攻撃により、駆動系を集中的に攻撃され、早々に戦闘を離脱するものが続出した為である。そして大将格であるフィヨルのクリムゾンフューラーが倒された事を受け、ネオゼネバス帝国側も帰還を余儀なくされた。

 

* * *

 

所変わってここはユートシティ、夕暮れ時ヒロキはいつもの様に一人で帰途についている最中だった。

「それにしても今日は、朝からずっと気味の悪い感じのせいで全然仕事が集中出来なかったなぁ・・・、しかし何で今日になってこんな事が起こるんだろう、何か悪い事が起きなきゃいいけど」

思わず苦笑いをして気を紛らわそうとするヒロキ。

「あともう少しで僕の家だな」

あと少しで自分の家に着く、丁度そんな時だった。

「わっ!」

「おっと!」

突然現れた老人とぶつかり、尻もちをつくヒロキ。

「いてて・・・、あの、すいません、大丈夫ですか?」

ヒロキはぶつかった老人の身を心配し、老人の元へと駆け寄る。

「あぁ、わしは大丈夫だ、心配いらんよ」

「そうですか、良かった〜・・・うっ!」

突如何者かによって気絶させられるヒロキ。すると老人がヒロキを気絶させた者に指示をする。

「よし、こやつをわしの研究所へと連れて行け」

「承知」

ヒロキを気絶させた者は、気絶したヒロキをその場から連れ去っていく。

「カッカッカッ、フィヨルと同じ“赤い瞳を持つ者”を連れ去る事に成功したわい、あとはあやつを“赤い瞳を持つ者”として覚醒させる必要があるだけじゃな。きっとフィヨルを超える強力で凶暴な存在へと変貌するじゃろう」

高笑いをする老人、実はこの老人の正体はDr.ホワイトであったのだ。そしてDr.ホワイトが言う“赤い瞳を持つ者”とは、一体何の事で、それがヒロキとフィヨルにどの様な関係があるのか。そしてヒロキは一体どうなってしまうのか・・・!

 

#24 完、#25へ続く