#25 赤い瞳を持つ者 | 著/Ryuka |
「・・・ん、ここは・・・?」
気が付くと、ヒロキの座っている椅子にだけ灯りが灯されている何とも気味の悪い場所だった。
「しかも手足が拘束されてて全然身動きが取れないよ・・・」
さらにヒロキの座っている椅子には、金属の拘束具が備え付けられており、ヒロキはそれに捕えられているため、椅子から離れることが出来なかった。
「カッカッカッ、椅子から離れられんのも無理ないの」
「あなたはさっきぶつかった・・・!それにまさかあなたが・・・」
「そう、わしこそがDr.ホワイト本人じゃ」
ヒロキは、あの時偶然ぶつかった老人の正体がDr.ホワイトだったことに驚きを見せる。しかし、これは偶然では無く、Dr.ホワイトによって仕組まれた事だった。
「そうだ!この前はよくもアルトちゃんを洗脳してくれたね!僕はあなたを許さないっ!」
ヒロキはアルトを洗脳していた事を思い出し、Dr.ホワイトに怒りを露わにする。
「随分と強気な姿勢ですな、じゃがそう強気でいられるのもそれまでだがな」
すると、Dr.ホワイトが不気味な笑みを浮かべながら何かの準備を始め出した。
「一体僕に何をする気なんだっ!?」
「こういう事じゃ」
すると、Dr.ホワイトが用意した機械からヒロキに目掛け赤い光が照射される。
「うわっ!何この赤い光・・・!?」
思わず目を閉じようとしたヒロキだが、その前にヒロキの身に異変が起こり始めた。
「何・・・これ・・・?目の前が・・・真っ暗に・・・」
突如目の前が真っ暗になったと言いだすヒロキ、よく見るとヒロキの瞳がより赤くなっている。
「どう・・・なって・・・るの・・・」
言葉を最後まで言い切れずにうつむいてしまうヒロキ。
「ふむ、どうやら上手くいった様じゃな。この機械は“赤い瞳を持つ者”の真の人格を強制的に引き出させるというもの、これで奴はワシの強力な戦力になるじゃろう」
そう言うとDr.ホワイトは、機械から照射していた赤い光を止め、ヒロキの手足の拘束具を解放した。
やがてヒロキが顔を上げ、椅子から離れる。
「・・・どこの誰だかは知らんが、僕を呼び起こしてくれてありがとよ。これでもう“あの人格”に邪魔されずに済む」
赤い光を浴びた後のヒロキは、まるで別人の様に変わっていた。さらに赤みの増した瞳に、言動が悪くなっており、いつものヒロキの面影は無かった。
「おまえさんの為にワシがふさわしい機体を造っておいた、じゃからワシについてくるが良い」
「あぁ分かった、ついて行けばいいんだな」
Dr.ホワイトとヒロキはこの場から離れていった。
そして、格納庫らしき場所へと辿り着いたDr.ホワイトとヒロキは、ある機体の目の前で立ち止まった。
「おまえさんに乗ってもらう機体はこれじゃ!」
その機体は、全身が黒く、背部には羽根らしきものが装備された狼型ゾイドであった。
「このゾイドに乗る訳なのか」
「まぁな、あと折角だが、この近くにある村にでも試運転代わりに襲ってきてはどうかの?」
相変わらず不気味な笑みが絶える事の無いDr.ホワイト。いつものヒロキならこんな事は絶対に引き受けることはしない。しかし今の様子の違うヒロキは、対応も違っていた。
「そうだな、この機体の強さも確かめられるし、何よりこの僕の強さが民衆に知らしめることも出来る・・・」
「まさに一石二鳥じゃな」
「それじゃ今すぐ乗せてくれ」
そうヒロキが言うと、Dr.ホワイトはすぐに準備に取り掛かり、ヒロキは黒い狼型ゾイドへと乗り込んだ。
「準備完了じゃ!今すぐにでも発進出来るぞい!」
「分かった、発進する」
黒い狼型ゾイドは動き出し、開き出した格納庫の扉の先へ飛び出していった。
「カッカッカッ、流石は“赤い瞳を持つ者”じゃ、あいつの力で世界に災いをもたらすのじゃからな!」
一人高笑いを始めるDr.ホワイト。彼はヒロキが災いをもたらすとはどういうことなのだろうか。
「こりゃあ、あいつは同じ“赤い瞳の持つ者”のフィヨルよりも強力な存在かもしれん、カーッカッカッカッ!」
そして、Dr.ホワイトの思惑が現実のものへとなっていこうとしていた。
* * *
ここはDr.ホワイトの研究所から然程遠くない静かな村、今は夜遅いということで、村の住人はそれぞれの家で睡眠を取っており、村の中に人影はほとんどなかった。
そこにヒロキの乗る黒い狼型ゾイドが現れる。
「あんた、こんな時間に何の用だ?」
門番役のモルガキャノリーに乗る村人が黒い狼型ゾイドに向かって声を掛ける。
「フフッ・・・、別に用なんて無いさ」
「なら何の為・・・おわっ!」
すると何の前触れも無く、背中の翼に装備されているレーザーガンからモルガキャノリーに撃ち込む黒い狼型ゾイド。モルガキャノリーは今の一撃で大破してしまった。
「何というパワーだ・・・」
そして黒い狼型ゾイドは村に向け、無数のレーザーを放つ。レーザーは村のあちこちに被弾し、寝静まっていた村は、今や逃げ惑う村人達で大混乱に陥っていた。
「これだよ・・・、これこそが僕が求めていた力だ!そうだ、この力をもっと多くの人に知らしめる為にあちこちの村や街を片っ端に破壊していこうか・・・」
最早ヒロキの表情は狂気に満ちたものであった。
それに同調するかのように、村の一番高い建物の上に登っていた黒い狼型ゾイドが天に向け咆哮をする。
「しかし、今日はえらく遅くなってしもうたなぁ、シグ」
「そうだね、でもちゃんと結果は残せてるから気にする事はないよ」
「そうやな、しっかりお宝ゲットしたしな」
一方こちらは傭兵の街へと帰ろうとしていたシグのサクノが乗るヘビーライモス。サクノが乗る背中のハッチの中には発掘したであろうお宝が詰まっていた。
「ん?何やあれ?」
「どうしたのサクノちゃん?」
と、サクノが何か発見したようだ。
「もしかしてお宝でも見つけたの?」
「そうやない、ほらあそこ見てみぃ、何か燃えてる様に見えへんか?」
サクノが見つけたのは、遠くで何かが燃えてる様なもの、それもかなり大規模であった。
「確かにそうだね、・・・ってあの辺りって小さな村が無かったっけ?」
「確かに!行く時にウチ村あるの見たで!」
どうやら燃えているのは、村の様で、その村は2人がお宝発掘に向かう時に確認していた。実はその村は、ヒロキが乗る黒い狼型ゾイドによって襲撃された村であった。
「よし、早速行ってみよう。村の人達が心配だ」
シグは燃えさかる村へ向けヘビーライモスを方向転換させようとした。
「待つんやシグ!」
すると突然サクノがシグに止める様に指示する。シグは驚いた様子でサクノの指示通りヘビーライモスを止める。
「どうしたのさ、いきなり止めるなんて!?」
「あの村には行かん方がええかもしれない、はよこの場から離れた方がええ!」
サクノはこの場から引き返す様にシグに言う。
「何で!?村の人達を見殺しにするっていうの!?」
普段は温厚なシグも、今回ばかりは声を荒げてサクノに反論する。
「そうやない、何か嫌な予感がするんや。しかも、レーダーにはゾイドが1機しか確認されてへんし・・・」
珍しく弱気のサクノ、サクノの言うとおり、レーダーのモニターから村のある場所に映し出されるのはゾイド1機だけであった。
「1機だけ・・・、まさかとは思うけど・・・」
「あの例のバーサークフューラーかもしれん、ウチらが挑んでも返り討ちに遭うだけや!」
レーダーに映し出されているゾイドの正体を、フィヨルが乗るクリムゾンフューラーだと思い込むサクノとシグ。しかし本当の正体は、ヒロキが乗る黒い狼型ゾイドであることに、二人は気付いていない。
「何だかサクノちゃんらしくないけど、賢明な判断だね。まずは状況をDr.クロノスに伝えておかないと」
「じゃあ大急ぎで傭兵の街へ帰るでシグ!」
「そうだね!」
サクノとシグのヘビーライモスは傭兵の街へ向け全速力で走りだす。
* * *
翌日、Zi-worksCorporationでは、
「おそ〜い!いつになったら来るのよヒロキは〜!!」
イズキが大声をあげて叫ぶ、どうやらヒロキがZi-worksCorporationに姿を現さないことに叫んでいる様だ。
「確かにヒロキが仕事をサボる事なんてまずないしな」
イズキとは対照的に冷静に答えるライサー。
「そうなんだよ〜、ヒロキは真面目だからサボる事なんてするはずないのに」
ライサーやイズキが不思議がるのも無理もない、ヒロキは真面目で、これまで遅刻や無断欠勤をしたことが一度も無いほどであるからだ。
「それに、さっきからヒロキくんに電話しているのですが、全然連絡が取れませんね。一体ヒロキくんに何があったのでしょうか?」
アルトはヒロキの携帯に何度か電話を掛けたのだが、全く連絡が取れない状況であった。
「もうこうなったらあたしがヒロキの家に行って様子見てくる!」
「お、おいイズキ!」
ライサーはイズキを呼び止めようとしたが、その前にイズキは早々に走り去ってしまった。
「・・・ったく落ち着きのない奴だぜ」
「ねぇ、ライサーさん、何か変だと思いませんか?」
「何か変って、何がだ?」
「ヒロキくんのことですよ」
アルトはライサーにヒロキについてこう言った。
「あぁ、確かにアルトの言うとおり、変だとは思うな。昨日のヒロキの様子を見てたらな」
「昨日のヒロキくん、何だか元気が無さそうな感じでしたし」
ライサーとアルトは、昨日からヒロキの様子が変だったことに気付いていた。
「私思うんです、もしかしたらヒロキくんが悪い事に巻き込まれてるかもしれない、出来ればこんな事になってなければいいのですが・・・」
「そうだな、俺もそう思っていたところさ」
しかし、アルトの願いもむなしく、ヒロキはDr.ホワイトに誘拐され、Dr.ホワイトの配下へとなってしまっていた。
その頃イズキは、ヒロキの家へと向かっていた。
「あたし達に連絡も寄こさずに来ないなんて、ヒロキのやつどうかしてるよ!」
その間イズキは不機嫌そうな表情でぶつぶつとヒロキに対し文句を言っていた。
「やっとヒロキの家だ、あたしがヒロキにガツンと言ってやらないとね!」
何故かガッツポーズをし、ヒロキの家へと向かおうとする。
「ん?家の前に何か落ちてる」
ふとイズキはヒロキの家の前に落ちてる物に気付き、それを拾い上げる。
「これって・・・、ヒロキの社員証だ、でもどうしてこんなところに・・・」
落ちていたのはヒロキのZi-worksCorporationの社員証であった。そしてイズキの顔は次第に青ざめていく。
「まさか・・・、ヒロキはサボってたんじゃなくて誰かにさらわれたんだ!」
ようやくイズキはヒロキが誘拐されていることを知る。
「と、とりあえずこの事をライサー達に伝えないと!」
大急ぎでZi-worksCorporationへと戻るイズキであった。
* * *
所変わって、傭兵の街の中にあるDr.クロノスの研究所。
「実はユキエ君に新しい機体を用意したんだ」
「そうですね、父の形見のグレートサーベルが大破してしまい乗る機体も無かったところでしたので、それで新しい機体というのは・・・?」
研究所の中では、Dr.クロノスとユキエが話し合っていた。ユキエは父の形見で愛機としていたグレートサーベルがネオゼネバス帝国の赤いジェノザウラーに破壊されてしまい、それからは自分の機体を一切持っていなかった。それを見たDr.クロノスがユキエの為にゾイドを提供してもらったのであった。
「この機体です」
「これは・・・、ストームソーダーではないですか!」
ユキエが見たのは、共和国が誇る最強クラスの飛行ゾイド、ストームソーダーであった。
「知り合いの共和国軍関係者から、軍で保有してる数は少ないなか、どうにか交渉して1機だけ提供してもらう事が出来たんだ」
しかし、Dr.クロノスの思いとは裏腹にユキエは戸惑いの表情を浮かべていた。
「でも私、飛行ゾイドには一度も乗った事は無いですよ!」
ユキエはこれまで一度も飛行ゾイドには乗った事が無く、ましてや飛行ゾイドの中でも扱いが難しいとされるストームソーダーを操る事など到底出来るはずもない、ユキエはそう思っていた。
しかし、Dr.クロノスから意外な言葉が出た。
「実はユキエ君は知らないかもしれないが、ユキエ君の父親のエンジさんは、かつてガイロス帝国で優秀な飛行ゾイド乗りだった、彼の乗るレドラーは空中戦においてはほぼ無敗と言われるほどの腕前だ、もしかしたら、エンジさんの娘である君もエンジさんと同じく飛行ゾイドを巧みに操れるのではないかと思ってこのゾイドを選んだのです」
「お父様は実は飛行ゾイド乗りだったなんて、今まで知りませんでした。Dr.クロノス、私にお父様のことを教えてくれてありがとうございます。私、ストームソーダーに乗ってみます!」
「よし、そうと決まれば場所を移動しましょう。ジョシュア君、すぐに君のグスタフにこのストームソーダーを積んでここから近くの平原へ出発する準備をしてください」
「はい、了解しました!」
ユキエはストームソーダーに乗り込む決意を決め、トレーラーにストームソーダーを乗せたジョシュアのグスタフは研究所を出発した。
ジョシュアが操るグスタフは、傭兵の街から少し離れた平原で停める。そして、トレーラーに乗せてあるストームソーダーにユキエが乗り込む。
「これよりストームソーダーのテスト飛行を開始する!ユキエ君準備は良いかな?」
「はい!上手く乗りこなせるかは分かりませんが頑張ります!」
「では発進してください!」
Dr.クロノスの発進の合図に合わせ、ユキエはストームソーダーを起動させる。ストームソーダーは折りたたんでいた翼を広げ、ゆっくりと垂直に上昇する。そしてある程度機体を上昇させた後、
「行きますよ!」
ユキエが操縦桿を前へ倒す。するとストームソーダーの姿勢が前傾し、腹部のブースターが点火し、そのまま勢いよく飛び出した。
「やった・・・、ちゃんと飛べた」
初めて飛行ゾイドに乗って上手く飛べた事に喜ぶユキエ。
「発進は上手くいったようですね、ではより飛行ゾイドの操縦に慣れるために旋回などの操縦を自分なりにしてみてください」
「わかりました。自分なりに操縦してみます」
そう言うとユキエは握っている操縦桿を左へ倒す。ストームソーダーも操縦桿の倒した方向へ合わせ旋回していく。
「今度は右へ旋回」
今度は操縦桿を右へ倒す。ストームソーダーも右へ旋回する。
「段々操縦のコツが掴めてきたわ、今度はこんな感じで」
やがてストームソーダーは左右に旋回だけで無く、上昇や下降、更にはきりもみや宙返りまでしていた。
「すごいですねユキエさん、あっという間にストームソーダーを乗りこなしてしまいましたね」
ユキエが瞬く間にストームソーダーを乗りこなしていることに驚くジョシュア。
「あぁ、流石は優秀な飛行ゾイド乗りの血を継いでるだけはある」
Dr.クロノスも飛行ゾイドを乗りこなしたユキエに絶賛していた。
「まだ飛行ゾイドには乗ったばかりなのに、もう私の思った通りに動いてくれてる・・・、本当に不思議なものね、操縦してる私が驚いてる位だもの」
自分が乗ったばかりの飛行ゾイドを思うがままに動かせていることに驚きを隠せないでいるユキエ。
「あっという間に乗りこなしたみたいだね。次は背部ブースターの作動テスト、その後に射撃テストを行う」
「わかりました」
「じゃあ頼みましたよユキエ君」
「はいっ!ブースターオンっ!」
ユキエはストームソーダーの背部ブースターを作動させる。その直後、ストームソーダーは物凄い勢いで飛び始める。
「うぐっ・・・!す、すごいGが掛かってる!」
当然急加速によって発生したGがコックピットにいるユキエに襲いかかる。
「でも・・・、この位のGに・・・耐えなきゃ・・・この機体は操れないわ・・・」
あまりのGの強さながらも、何とか意識を保ちながら操縦を続けるユキエ。同時にコックピットの中は激しい揺れに見舞われていた。
「これ以上ブースターを作動させながらの飛行は危険です!直ちにブースターを停止するようにしてください!」
「分かりました・・・」
Dr.クロノスの指示により、ユキエはストームソーダーのブースターを停止する。
「ふぅ〜・・・、高速飛行は結構体に負担が掛かりますね」
流石に大変だったのか、安堵のため息をするユキエ。
「次は射撃テストだが、ユキエ君は大丈夫かい?無理なら中止しますが・・・」
「その心配には及びません、私にはローダさんから学んだガッツがありますから!」
モニター越しのDr.クロノスにガッツポーズを見せるユキエ。
「確かにその様子だと心配なさそうだね、それじゃターゲットの出してくれ」
Dr.クロノスの合図の後、Dr.クロノスとジョシュアがいるグスタフの少し離れた場所にいくつかターゲットボードが出てきた。
「あの的を狙えばいいんですね」
ストームソーダーは的のある方向へ向かいながら多少下降し、翼のアイアンクローを折りたたみ、その中から出てきたパルスレーザーガンをターゲットボード目掛け撃つ。ストームソーダーの攻撃は確実にターゲットボードに命中させていた。
「固定ターゲットは完璧、今度は実践と同じように動いた敵を用意して・・・」
「その必要はないよ」
突如、あるゾイドがストームソーダーのテスト場所に現れた。
「あのジェノザウラー、ひょっとしたらフェイラ君か!?」
「フェイラちゃん」
「やっほ〜、何か面白そうだったので、思わず来て見ちゃった」
いつもの様に楽観的に答えるフェイラ。
「そうそう、最後のテストは対ゾイド戦なんだよね、代わりにボクが乗るジェノザウラーがユキエちゃんの相手になるよ」
「・・・仕方ないですね、いいでしょう。ただしほどほどにして下さいよ」
「分かってますって」
結局フェイラに押し切られる感じで許可を出したDr.クロノス。だけどDr.クロノスは心配そうな表情を浮かべていた。
「ユキエちゃん、このボクが相手になるよ!」
「フェイラちゃんが!?私がストームソーダーに乗って初めての実践相手がフェイラちゃんか、良い経験になりますね」
「それじゃ始めよう、ユキエちゃん」
「ええ、お互い頑張りましょうね」
フェイラとユキエがそう言葉を交わした直後、フェイラのジェノザウラーのパルスレーザーライフルをユキエのストームソーダーに向け数発撃つ。しかしストームソーダーは攻撃を上手くかわし、今度はストームソーダーがジェノザウラーに向けパルスレーザーガンを連射する。
「おっと、危ない危ない」
素早くその場を離れ、攻撃をかわすジェノザウラー。
「飛行ゾイドに乗ったばかりって聞いたけど、全然そんな感じがしないね」
「フェイラちゃんも相変わらず攻撃をかわすのが上手ですね」
彼女達はお互い話しながらも互いの機体に向け射撃を行うが、同じ様にお互いかわし続ける為、両者一向に攻撃が当たらない状態が続いていた。
「ボクのジェノザウラーは射撃以外にもこんな事が出来るんだよ」
そう言うと、ジェノザウラーの右腕の肘から先が射出され、ストームソーダー目掛け飛んでいく。
「そう簡単には当たりませんよ」
にこやかな表情でフェイラで言うユキエ。実際にストームソーダーは、射出されたジェノザウラーの右腕をきりもみしてかわしていた。
「あちゃ〜・・・、やっぱり飛行ゾイドにこの攻撃は中々当たらないかぁ〜」
攻撃をかわされているのにも関わらず、楽観的に言うフェイラ。その間射出されたジェノザウラーの右腕はしっかり元の位置に戻っていた。
「今度は私の番ですね、いきますよ〜!」
するとストームソーダーはジェノザウラーに目掛け急降下を始める。
「一体ユキエちゃんは何をするつもりなんだろう・・・」
ユキエの取った行動を理解出来ていないフェイラ。そしてストームソーダーがジェノザウラーの真上を飛び去っていく。
「ただ真上を飛んでいっただけ・・・うわっ!」
その直後に衝撃波らしきものがジェノザウラーに襲いかかる。
「な、何なのこれぇ!?」
これにはフェイラも驚きが隠せなかった。
「これはストームソーダーが急降下した時に発生した風圧で、ダメージは与えられないけど一時的に動きを封じる事が出来るの。飛行ゾイドならではのやり方よ」
ユキエはストームソーダーを急降下する際に発生する風圧をジェノザウラーに当てていた。これによって、ジェノザウラーが一時的に行動が取れなくなっていたのだ。
「よくもやってくれたな〜、ボクもお返しだ!」
動けるようになったジェノザウラーはストームソーダーに向けパルスレーザーライフルを撃つ。ストームソーダーはかわそうとするが、僅かに右翼をかすった。
「かすっただけですが、攻撃が当たってしまいましたね」
ストームソーダーはすぐに立て直し、ジェノザウラーの方へと向かって行こうとする。
「二人ともそこまでにして下さい。ストームソーダーのテストはこれで終了です!」
突然、Dr.クロノスから終了の合図が告げられた。
「え、もう終わり!?これから面白くなりそうだったのに〜!」
終了の合図に不満気な表情を浮かべるフェイラ。
「仕方無いよフェイラちゃん、今回は私のストームソーダーのテストとして戦っただけだから」
「それもそうだよね」
笑顔で答えるフェイラ。その様子にユキエもほっとしていた。その後二人はゾイドから降り、Dr.クロノスの元へ行った。
「二人共良い戦い振りだった。ユキエ君も初めて見た時に比べるとかなりゾイドの扱いも上手くなっていますよ」
「そうですか!?私はまだまだ未熟ですから・・・」
照れ隠そうとしてるが、顔は紅潮しているユキエ。
「そうそう、まだまだユキエちゃんは未熟者だからね」
ユキエを茶化すように言うフェイラ。
「もう〜!フェイラちゃんったら〜」
「あはは、ごめんね」
ふくれるユキエをよそに、笑いながら謝るフェイラ。
「でも、こんなやり取りも出来るのもフェイラちゃんのお陰かな」
「ユキエちゃん・・・、な、何言ってるんだよ、ボクにそんな言葉は似合わないよ〜」
慌てた様子で否定する様に答えるフェイラ。その様子をユキエは笑顔で見ていた。
「うふふ、確かにそうかもしれないわね」
そしてお互いが笑いだした。Dr.クロノスとジョシュアは二人を見て、
「本当にユキエさんとフェイラさんは仲がよろしいですね、Dr.クロノス」
「そうですね、だからこそ笑い合えるのかもしれません」
その時、ユキエのある物に異変が起こった。
「ユキエちゃん、メガネが!」
「嘘っ!?もしかしてブースター使った時に起こったGに耐えられなかったのかしら!?」
ユキエの掛けているメガネのレンズに亀裂が入った直後、レンズはバラバラに割れてしまった。原因は本人も自覚している通り、ストームソーダーのブースターを使用した際に起こる強烈なGにメガネのレンズが耐え切れなかったようだ。
「あわわ・・・、私どうしたら・・・」
メガネのレンズが割れた途端、急にパニックになるユキエ。
「い、今Dr.クロノス呼んでくるから!」
フェイラは急いでDr.クロノスの元へと行こうとする。
「あ、待ってフェイラちゃん!私も・・・」
ユキエもフェイラの後を追って行こうとするが・・・
「はうっ!」
直後に思いっきり転んでしまった。
「大丈夫ユキエちゃん!?」
フェイラはユキエの元へと引き返し、ユキエを心配そうに見る。
「うん、何とか大丈夫です・・・」
「だから言わんこっちゃないよ、ユキエちゃんメガネ無いといつもこうなんだから」
「ごめんね、フェイラちゃん」
すると何事と思い、Dr.クロノスとジョシュアがやって来た。
「ユキエさん大丈夫ですか!?」
「急に転びだしたから、一体何かあったのかい?」
心配そうな様子でユキエに問い掛けるDr.クロノスとジョシュア。
「いえ、大した事ないんです。だからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
とフェイラがユキエの事を心配しなくても大丈夫と二人に言った。
「フェイラちゃんの言うとおり、私は大丈夫ですから」
ユキエもフェイラと同じ様に二人に言った。
「そうですか、では私達は先に傭兵の街へ戻ってますね」
「ストームソーダーはグスタフに積んでおきますね」
そう言った後、Dr.クロノスとジョシュアはジョシュアのグスタフに乗り込み、傭兵の街へ向け出発していった。
「・・・あのねフェイラちゃん」
「どうしたの?」
ユキエの問い掛けに何気ない様子で答えるフェイラ。
「言いにくいんだけど、替えのメガネとか持ってたりする?」
「いや〜・・・、ボクメガネ掛けてないからメガネなんて持ってないよ」
「そうだよね・・・」
替えのメガネを持っていなかった事にしょんぼりするユキエ。
「あ、そういやコックピットの中にこれ置いておいたんだけど、ユキエちゃんに合うかなぁ・・・」
フェイラがジェノザウラーのコックピットから持って来ていたのは、ゴーグルであった。
「合うかは分からないけど、一応付けてみたいわ」
「うん、それじゃ渡すね」
フェイラはユキエに持っているゴーグルを渡した。そしてユキエは渡してもらったゴーグルを早速身につけてみた。
「どう、ユキエちゃん?」
「うん、バッチリだわ。メガネ掛けてる時と変わらない位周りがよく見えるし、頑丈そうな造りだから、ストームソーダーのブースターを使用しても耐えられそうだわ」
意外にもメガネを掛けている時と変わらないと言って喜んでる様子のユキエ。その様子にフェイラは不思議そうな表情を浮かべていた。
「もしかしてこのゴーグル、度が入ってるのかしら」
「だからかなぁ、ボクも一度だけそのゴーグル付けてみたんだけど、ぼやけて見えたからそれ以降使ってなかったんだ」
何故かフェイラが持っていたゴーグルには度が入っていた。だから視力の高いフェイラが付けるとぼやけて見えるのである。
「もしかして、度が入ってることに気付かずにこのゴーグル買ったの?」
「・・・うん、形がボク好みだったから」
どうやら度が入ってることに気付かずにこのゴーグルを買っていたようだ。
「でもでも、このゴーグルの使い道が見つかってよかったんじゃないかな」
「ごまかしたって駄目ですよ」
「はい・・・」
その後、家に帰るまではフェイラから貰ったゴーグルを付けたままで、家に帰ってからいつも掛けているメガネのスペアを掛けた。以後ユキエは、ストームソーダーに搭乗する際は、そのゴーグルを付ける事にした。
* * *
時は少し戻り、Zi-worksCorporationへと戻ったイズキは真っ先に社長室へと向かった。
「社長!これを見てください!」
イズキの慌て様に少し驚くゴルザ。
「どうしたんだそんなに慌てて、ん?それはヒロキ君の社員証!イズキよ、それをどこで拾ったのだ!?」
「ヒロキの家の前に落ちてたの・・・」
イズキの様子を見てなのか、ライサーとアルトも後から社長室に駆けつけてきた。
「何だかイズキちゃん慌てて社長室に入って行ったから、何かあったのでしょうか?」
「もしかしてヒロキがいなくなった手掛かりでも掴んだのか?」
「うん・・・、確かに掴んだには掴んだ、だけど・・・」
イズキの表情は暗かった、これを見たライサーは悪い事が起こったのだと察知した。
「まさか、ヒロキは・・・」
「そのまさかだ、恐らくヒロキ君は何者かに誘拐されたようだ」
ゴルザからヒロキが誘拐されたのではないかと、イズキ達に告げた。するとアルトが思い出すかの様に言った。
「もしかしたら私、ヒロキくんを誘拐した人物に心当たりがあるかもしれません」
「何だと!?その者とは一体・・・!?」
アルトがヒロキを誘拐した心当たりのある人物はあの人しかいなかった。
「断言は出来ませんが、おじい様がこの件に関わっている可能性は高いと思います」
「Dr.ホワイトか、十分に考えられるな」
紛れも無くそれはDr.ホワイトのことであった。ライサーもアルトの言う事には納得の様子だった。
「しかし、仮にDr.ホワイトだとしても何故Dr.ホワイトはヒロキ君を何の目的で誘拐したのだろうか?」
「私にも分かりません、おじい様の企みには謎が多いですから・・・」
アルトもDr.ホワイトが何を企んでいるかは知らない様である。
「よし、今から俺一人でヒロキを探してきます」
ライサーがヒロキを一人で探すと切り出した。
「しかしライサー君、君にはこの街に留まってもらうという・・・」
「確かにそうですが、今回ばかりは行かせてください社長!」
いつに無く真剣な表情で話すライサー。
「ちょっと待ってよ!なんでライサーが勝手に決めんのさ、あたしも行くよ!」
これにはイズキも納得いかない様子だ。
「ダメだ、イズキはここにいてくれ。もし俺がヒロキを見つけられなかったら、イズキとアルトの二人でヒロキを探してくれ」
「どうしてさ!?」
「どうしてもさ」
納得のいかないイズキは、苛立ちから思わずライサーに殴りかかろうとするが、すぐにアルトがイズキを止めに入った。
「何で止めるんだよアルト!」
「ライサーさんの言う通りにさせてあげて、きっとライサーさんも考えがあってあの様に言ってると思うから」
「ライサー・・・」
悔しさをにじみながら、殴りかかろうとしていた手を下ろすイズキ。
「わかった、特別に許可しよう。ただし、無用な戦闘だけは避ける様に」
「了解!」
ライサーはすぐさま社長室を後にし、格納庫へと向かう。
「大丈夫だよイズキちゃん、ライサーさんがヒロキくんを連れ戻してくれるから。今はライサーさんを信じましょう」
「あたしもそう思っていたいよ、だけどそうすぐにヒロキが戻ってくるのだろうか・・・」
そんな不安が頭から中々頭から離れないイズキであった。
一方、ヒロキは黒い狼型ゾイドを駆り、村や街、さらにはヘリック共和国、ガイロス帝国の基地と、彼の視線の入った物は片っ端に破壊していった。
彼の乗る黒い狼型ゾイドを食い止めようと立ち向かった街や村の警護隊や、ヘリック・ガイロスのゾイド達は、黒い狼型ゾイドの前に成す術も無く破壊されていくばかりであった。
「どいつもこいつも僕に立ち向かってくる奴は雑魚ばかり、まぁそれだけ僕が強いってことなんだろうけどさ」
黒い狼型ゾイドは、次の破壊対象を求め、低空を滑空して移動していた。
* * *
その夜、ライサーは自身の愛機であるライジングブリットに乗り、ヒロキの捜索をしていた。
「・・・とは言ったものの、あてがある訳じゃないしな・・・」
思わず溜息をつくライサー。すると直後に何かを発見する。
「これは・・・、恐らく軍事基地だな。しかし・・・」
ライサーが見つけたのは、軍事基地らしき施設。だが既に何者かによって破壊され、基地は廃墟同然であった。
「どこの軍の基地かはわからんが、一体誰がこんな事を・・・?」
「あれ?全部破壊し尽くしたと思ったらまだ残ってるのがいたとはね」
「誰だ!?」
突然掛けられた言葉に上を向くライサー。すると廃墟となった基地の上に翼の生えた黒い狼型ゾイドがいた。
「だけどよく見るとこの基地にいたゾイドでは無さそうだ、でも僕が破壊するに変わらないは無いけど」
クスクスと笑いながら言う黒い狼型ゾイドに乗る少年。ライサーはそのゾイドと乗っている少年の声を聞いてハッとする。
「あのゾイドはブレイジングウルフ、しかし見た事の無い形態だ。それに乗っているパイロットはまさかヒロキなのか!?」
(信じたくはないが、本当にあのブレイジングウルフのパイロットがヒロキだったら何故こんな事を?ヒロキはこんな事を平然とやる様な奴じゃないはずだ!)
すると何故か少年の姿がライジングブリットのモニターに映し出された。それを見たライサーは少年の正体を確信した。
「間違いない、モニターに映っているのはヒロキ本人だ、だがやけに瞳が赤くなっている気がするな」
モニターのヒロキの姿を見て、彼の瞳の変化に気付くライサー。
「俺はお前を探していた、一緒にユートシティへ帰ろう、イズキ達が心配しているからな」
ヒロキを一緒にユートシティへ帰ろうと促すライサー、しかしヒロキの答えはライサーの思っていたのとは違うものだった。
「・・・何であなたと一緒に帰らなければいけないんだ?それに僕はどこに帰るというのさ?ましてあなたやイズキとか言う人は僕は知らないね」
何とヒロキはライサーやイズキの事を知らないと言いだしたのだ。
「やはり今のヒロキは正気じゃないな、どうやらヒロキを連れ戻すにはあの機体を倒す必要がありそうだな」
そう言うとライサーは黒いブレイジングウルフに向け、ライジングブリットのバスターブレードの基部に内蔵されているバスターレーザーを放つ。
「やったか・・・?」
しかし、爆風の中から黒いブレイジングウルフがライジングブリット目掛け飛び込んでくる。
「バッカじゃないの、その程度で僕がやられる訳ないじゃん」
不気味な程余裕な表情を浮かべるヒロキ。そして黒いブレイジングウルフは翼のレーザーガンをライジングブリットに撃ち込む。
「そうはいくかっ!」
ライジングブリットはバスターブレードを展開し、Eシールドを張り攻撃に備える。だがヒロキはニヤッとする。
「何っ!?」
何と黒いブレイジングウルフから放たれたレーザーがEシールドをすり抜け、ライジングブリットに直接当たった。
「バカなっ!?Eシールドをすり抜けただと!?」
この攻撃にはライサーも激しく動揺する。ライジングブリットは今の攻撃で前両足を損傷し、同時にEシールドも解除された。すると直後に飛び込んできた黒いブレイジングウルフの爪による攻撃をまともに食らってしまった。
「ぐああああっ!!!」
今の攻撃でバスターブレードが吹き飛び、ライジングブリット本体も中破してしまった。そして黒いブレイジングウルフが地面へ着地すると同時に、ライジングブリットは破壊された部分を上にするように倒れていった。
「何だ、見掛けの割には大した事のない奴だったな」
そう言ってこの場から飛び去っていくヒロキの乗る黒いブレイジングウルフ。そして倒れたライジングブリットの中のライサーは気絶していたのであった。
#25 完、#26へ続く