#5 傭兵の街 | 著/Ryuka |
僕はこの前ローダさんに貰った地図を元に、地図に書かれた目的地へ向かっていた。
「ちゃんと社長さんにも許可を貰ったし、行っても大丈夫だよね」
そうこうしてる内に段々と目的地が近づいてきた。
* * *
書かれた地図に示された目的地の場所、それは街だった。ユートシティ程近代的な造りでは無いが、大きさとしてはユートシティに負けない位の大きさだ。街のすぐ後ろには切り立った崖があるのも特徴的だった。
「うわ〜、大きい街だなぁ〜、ユートシティ以外にも大きな街ってあるんだねぇ〜」
僕はこれ程の大きな街はユートシティ以外で初めてだ。やっぱり世界は広いなぁ〜、と実感させられる。
すると街の入り口にゾイドが一体いる。ローダさんのゾイドかと思ったら違ってた。ローダさんのコマンドウルフACよりも大きく、色もカッパーカラーだった。
よく見ると正体はケーニッヒウルフMk-Uだった。そしてそのパイロットと思われる人から通信が入ってきた。
「ようこそヒロキさん。傭兵の街へ」
「あ、どうも・・・って何で僕の名前を知っているんですか!?」
モニターを見る限りあのケーニッヒウルフのパイロットはおじいさんの様だ。でも何で僕の名前を知っているのだろう?「あぁ、あなたの事はローダから聞いております。わしはこの街の街長をやってるギルフォートと申します。以後よろしゅう」
「こちらこそ宜しくお願いしますギルフォートさん」
「こんな所で話をするのも難なのでわしの家に招待しましょう」
「いや、あの、僕はローダさんに用があって来たんですが」
「ローダにですか、じゃが今あやつは仕事で街にはいないんじゃ。まぁ、昼にでもなれば帰って来るでしょう」
「そうですか、では折角なので招待させて頂きます」
僕は、ローダさんの帰りを待つ為にギルフォートさんと共に、ギルフォートさんの家へと向かった。
* * *
こうしてギルフォートさんの家に着き、家の中にて、差し出されたお茶を飲みつつ、ギルフォートさんの話を聞く事にした。
「君はあのZi-worksCorporationにてエースパイロットをやってるとわな」
「はい、確かにエースパイロットとしてZi-worksCorporationに所属しています」
「ふむ、恐らく君の乗っているゾイドもZi-worksCorporationにて作られたゾイドだろう」
「そうですね、社長が僕の為にって」
そうした次のギルフォートさんの言葉に僕は耳を疑った。
「じゃが君はこのゾイドの力を完全には引き出せておらん様じゃな」
「え・・・?」
ブレイジングウルフSAの力を完全に引き出せていないって、一体どういう事なのだろう。大抵は乗っている筈なのに、ギルフォートさんの言っている事が良く理解出来なかった。
「恐らく原因はゾイドでは無く、乗り手でもある君の問題じゃ」
「僕の・・・問題・・・」
「私からして君を見ると、確かにエースパイロットをやってるだけあって腕があるのは分かる。じゃがわしの言いたいのは腕の問題では無い」
「じゃあ一体僕にはどういう所に問題があるのでしょうか?」
「君自身の性格じゃな」
「僕の性格にですか?」
「さよう、君を見てると何においても押しが足りない気がするんじゃ、それがゾイドに乗ってる時においても同様な気がしてな」
「・・・・・」
この人、一目見ただけで僕のそういった面が分かるなんて、多分ただ者じゃない気がする。それともしかして力を引き出せないのってこの事なんじゃ・・・
「どうやら図星の様じゃな」
「そうみたいですね、自分でも気が付きませんでした」
「普通は誰にだって気付かないものじゃ、じゃがそれに気付き、改善していくのか放置しておくのかは全て君次第じゃ」
「ですね、自分の問題は人の手によってどうにかするのは決して容易ではありませんから」
「そうじゃな、ただ信頼出来る仲間達との協力によって、大きな一歩を踏み出せる事を忘れるでないぞ」
「はいっ!」
そうだ、僕にはイズキやライサーといった信頼し合える仲間達がいるじゃないか。僕は一人なんかじゃない、共に一歩を歩んでくれる仲間達が。
「あ、そうじゃ。まだローダも帰って来てない様だし、街の研究所へ行ってみないか?」
「はい、勿論行かせて頂きます」
「なら話は早いな。それじゃゾイドに乗って行くぞい」
「え、街の中にあるのに何故ゾイドに乗って行くのですか?」
「まぁ、それには訳があるんじゃ」
「訳って・・・?」
「行ってからのお楽しみじゃ」
「何ですかそれ〜」
とりあえずギルフォートさんの言う通りゾイドに乗って、街の研究所へ向かう事にしたが・・・
* * *
街の研究所まで着くまでの間、何故か僕のブレイジングウルフにギルフォートさんまで乗っていた。
「ところで、何で一緒に乗っているんですかギルフォートさん」
「いや、それ程遠いところじゃないし、何より原油も高騰しとるから節約にって」
「そんな言い訳しないで下さい!単純に面倒なだけでしょ」
「確かに君の言っとる事は当たっておる。じゃが原油高騰は事実じゃろ?」
「た、確かに間違ってはいないですけど、それ地球上での問題ですよね」
「そうじゃったのか!?」
「・・・わざとですね」
「うん、わざとだ。お、そろそろ着いたようじゃな」
とコックピット内でコントをやっている内に、研究所に着いた様だ。
それにしてもギルフォートさん、こんな愉快なキャラだったなんて、さっきの時とはえらい違いだ。
「ギルフォートさん」
「何じゃ?」
「確か研究所って言いましたよね」
「あぁ、言ったな」
「研究所は研究所なんですが、ここって整備工場も併設されてるんですか!?」
「そういや君はここへ来たのは初めてじゃったな、そうここは研究所でありながら整備工場でもあるんじゃ」
確かによく見ると、ゾイドに乗った傭兵達が研究所に入っているのが分かる。整備工場だけならZi-worksCorporationにもあるが、研究所に整備工場があるってのは初めてだ。
するとギルフォートさんはブレイジングウルフから降りて、研究所へ入り、中にいる人らしき人を呼んだ。
「お〜い、Dr.クロノス、いるか〜」
「はいはい、いますよ。っとこれはギルフォートさん、それと隣の子は?」
「わしの孫じゃ」
「違いますって!僕はローダさんに用があって、ローダさんから受け取った地図を元にこの街へ来た者です」
「あはは、何だ、てっきり私は本当にギルフォートさんの孫かと思いましたよ」
と笑いながら答える研究所の人。まったく、ギルフォートさんときたら、とんだ恥さらしだよ。
「そういえばまだ名前を言って無かったね、私の名前はクロノス・リュンヘルト、この街の研究所兼整備工場の主任と整備士もやっている。
ただ今じゃ専ら研究者というよりも整備士としての仕事が多いんだけどね。因みにこの街の人からはDr.クロノスと呼ばれているんだ」
「僕も名前を言ってませんでしたね、僕の名前はヒロキ・バラート、ユートシティにあるZi-worksCorporationでエースパイロットとして所属しています。
クロノス博士、これからも宜しくお願いします」
「Dr.クロノスでいいよ、クロノス博士って、何か堅苦しいイメージで私には合わない気がするからさ。にしてもヒロキ君、随分といいゾイドに乗ってるね」
「ええ、このゾイドはZi-worksCorporationにて作られた機体で、社長が僕の為にって」
「ほう、となるとこの機体はヒロキ君専用の機体って事だね」
「そうなりますね、クロノス博士、いや、Dr.クロノスさん」
「さん付けもあまり・・・、まぁいいか。あ、そうだ、丁度中に助手がいるんだ、紹介するから中へ入ってきてくれ」
僕はDr.クロノスさんの言うとおり、研究所(いや整備工場と言っていいかな)に入っていった。勿論ブレイジングウルフも中へ入れてもらった。
「紹介するよ、彼が私の助手のジョシュア君だ」
「ただ今Dr.クロノスの紹介に上がりましたジョシュア・トリエスと申します。以後宜しく、ヒロキ君」
Dr.クロノスさんの研究所で助手をやっているジョシュアさん。歳はライサーと同い年だそうだ。何だかすぐ仲良くなれそうな気がした。
「こちらこそジョシュアさん」
「しかし、Zi-worksCorporation製のゾイドを生で見るのは初めてです。こんないいゾイドに乗ってるヒロキ君が羨ましいです」
「そんな事無いって〜、ところでジョシュアさんやDr.クロノスさんってゾイドに乗っているんですか?」
「あぁ、勿論乗っているさ、奥の方にあるブラキオスが私のゾイドだ」
「僕のはブラキオスの隣にあるダブルソーダだよ」
確かに研究所の奥の方にブラキオスとダブルソーダが格納されている。どちらも旧式で、最近ではあまり見掛けないゾイドだ。
そういやあの2機の他にももう一機いる様だが、見ようとした時にギルフォートさんがこんな事を口にした。
「ジョシュア君は、自分の愛機のダブルソーダで相手のゾイドに格闘技を仕掛ける事を出来るんじゃ」
「なっ、そ、それは言わないで下さいよギルフォートさん」
「ただ事実は事実だろ、ジョシュア君」
「Dr.クロノスまで〜」
ジョシュアさんは半泣きに近い顔をしていた。それよりジョシュアさんがゾイドで格闘技を出せるなんて意外だ。普通では考えられない様な事だ。しかもダブルソーダで。
と、その話題はその辺にして、何故二人はブラキオスやダブルソーダといった旧式のゾイドに乗っているのか、それとあのもう一機のゾイドについてDr.クロノスに聞いた。
「どうしてDr.クロノスさんは、旧式のゾイドであるブラキオスに乗っているのですか?」
「あぁ〜、それは私が懐古主義なとこがあってな、こういった旧式のゾイドが好きなんだ」
「へぇ〜、そうなんですかぁ〜」
「実を言うと私は、かつてガイロス帝国で科学者をやっていたんだ。このブラキオスは軍から離れる際に受け取ったものなんだ」
「じゃあDr.クロノスって、帝国軍の科学者だったんですか!?」
「そういう事だ、でもそれは数年前までの話だ」
「でもどうして軍を離れて、この様な場所で?」
「これ、あまり人様の過去を詮索するもんじゃないぞい」
ギルフォートさんが僕の話を制止した。そうだよね、あまり細かいとこまで聞くべきではないね。少し行き過ぎてしまったようだ。
「すみません、少し行き過ぎてしまいました」
「いいよ、誤らなくたって。でもその辺りはあまり聞かれたくはなかったな」
「すみません・・・」
「まぁ私はそれとして、ジョシュア君のダブルソーダは、元々彼が乗っていたもので、私に助手入りする時から乗っていたな」
「本当なのジョシュアさん?」
「ええ、本当です。Dr.クロノスの言うとおり、助手になる前からこのダブルソーダに乗っていました」
「と言う事は、ダブルソーダはジョシュアさんにとって、かけがえの無い相棒って事なんですね」
「そういう事なのかな・・・」
「ところで気になってたんですが、あの白いガンスナイパーって誰のなんですか?」
「えっと、それは・・・」
「俺のガンスナイパーだ」
突如後ろの方から聞き覚えのある声が、すかさず後ろへ振り向くと、そこにはローダさんがいた。
「よっ、ヒロキ。よくここまで来たな」
「ローダさんがくれた地図のお陰です」
「そりゃあ良かった。ってじいさん、何でここにいるんだ?」
「あの子をここへ案内させる為にじゃ」
「じいさん、ヒロキに変な事吹き込んでないだろうな?」
「わしは何も吹き込んでおらん、お前さんは人を何だと思ってるんだ」
「まぁ何も吹き込んでなければそれでいいが、それとDr.クロノス、俺のコマンドウルフの修理を頼む」
「見たとここれといって目立った外傷はないが、何かしたの?」
「ちょっと盗賊団を大人しくさせてな、一応念の為にってね。それに丁度盗賊団に襲われていたゾイド乗りの少女も助けた訳だし」
「ゾイド乗りの少女って?」
もしかしてイズキの事なんじゃないかと思ってローダさんに聞いてみた。
「その事は後で話す、それよりお前の練習相手になってくれそうな奴は・・・」
「やっと見つけたぜ!」すると突然入り口の方から一人の男が大声を上げて入ってきて、こちらへ向かってきた。
「おいローダ、俺とゾイドバトルしろ!」
「お、丁度いい時に来たな、リオン、こいつの相手してくれないか?」
「へ・・・?」
「え・・・?」
ローダさんは、僕と男の人と一緒にとある場所へと連れて行った。
* * *
連れて来られた場所は、この街の闘技場。僕はブレイジングウルフに乗り、闘技場の中にいた。
真正面には一緒に連れて来られた男の人が乗ってると思われる黒いカノンフォートがいた。
するとアナウンスからローダさんの声が聞こえてきた。
「これは練習試合だと言っても、手加減する必要は無い。但し、パイロットを殺さないというのが絶対条件だ」
「了解です」
「分かってるって」
「そういえばまだ君の名前聞いてなかったよね?」
「そうだったな、俺の名はリオン、リオン・フィードだ」
「僕の名前はヒロキ、ヒロキ・バラートです。宜しくお願いします」
「こちらこそ、でもバトルではお互い手加減ナシだぜ」
「勿論そのつもりです」
「それじゃ二人共、準備はいいか?」
「はいっ」
「いつでもOKだ」
「セットアップ、レディー、ファイトッ!!」
こうして僕とリオンさんのバトルが始まった。
すると始まって早々、リオンさんのカノンフォートが猛突進してきた。僕は何とかかわすが、カノンフォートは素早く振り向き、再びこちらへ向かってくる。
何とか動きを止めようと、キャノンを撃つが、カノンフォートは怯まず突進を続ける。思わず呆気を取られてしまい、回避動作が遅れ、カノンフォートの突進を受け、吹き飛ばされた。
「うわぁっ!」
「どうした?もう終わりか?」
「まだまだ!」
すかさず機体を起こし、一旦カノンフォートから距離を取り、ミサイルで牽制する。
「やるな、だがまだまだこれからだぜ」
僕は引き続きミサイルで牽制するが、カノンフォートはひたすら動き回りそれらをかわす。再びミサイルを撃とうとしたが、視界からカノンフォートが消えていた。
「あれ?どこに行ったんだ」
僕は周りを見渡す中、
「お前何処見てんだ?」
「ま、まさか・・・」
後ろを振り向くとすぐ近くまでカノンフォートが迫っていた。不覚にもブレイジングウルフの後ろに回り込まれていた。
「気付くのが遅すぎたな」
「かわすんだ、ブレイジングウルフ!」
僕は焦りを感じながらも、操縦レバーを思いっきり左に倒し、多少擦りながらも間一髪でかわし、すかさずカノンフォートに向けキャノンを撃つ。
「おわっ!」砲弾はカノンフォートにヒットし、カノンフォートが地に伏せる。
「今だっ!」
地に伏している時を狙い、ストームスラッシャーで攻撃しようとするが、
「詰めが甘いぜ!」
カノンフォートは素早く起き上がり、僕の攻撃をあともう少しのところでかわす。
「うそ!?そんな・・・、うわあぁっ!!」
突然強い衝撃が走り、勢い良く吹き飛ばされる。リオンさんは、ブレイジングウルフのさっきの攻撃で地面に着いた瞬間を狙って猛突進したんだ。
ブレイジングウルフはそのまま地面に叩き付けられ、機体を起こそうとするが・・・
「あれ、動かない。そんなぁ、システムフリーズだなんて・・・」
「勝負あったな、ヒロキ」
「ブレイジングウルフSA戦闘不能。ウィナー、リオン・フィード!」
僕の負けだ。全てにおいてリオンさんが僕よりも一枚上手だった。
リオンさんがカノンフォートから降りてきてブレイジングウルフの方へ近づいてく、僕もブレイジングウルフから降りてリオンさんのほうへ向かう。
「中々いい勝負だったぜ、また今度練習試合としてで無く、ちゃんとしたバトルでバトルしような」
「うんっ!今度は絶対に負けないんだから!」
「俺だって次も負けないさ!」
その後何故かお互い笑ったいた。僕にとっても、リオンさんにとっても良きライバルが出来たって事なのかな。
* * *
少し遡って、ヒロキとリオンがバトルをしている頃、ローダは闘技場の放送室で二人のバトルを観戦していた。
実はローダが街の闘技場を貸し切ってまでバトルをさせたのは、ヒロキのバトルスタイルの観察だった。
「相変わらずリオンはとにかく相手に突っ込む猪突猛進型のままだな。だがそれにしてもヒロキはそれをかわして、射撃武器で牽制だけとは、どこか積極性に欠けている感じがする」
「それに多少反応速度が遅いな、よくこんなのでエースパイロットが務まるなと感じる」
ローダはこのバトルを見て、ヒロキのバトルスタイルを大方把握した。
「リオンは傭兵の街の傭兵達の間の中では決して強くはないが、ヒロキは完全にリオンに振り回されている。恐らく自分のペースを掴み切れていないんだろう」
そして、ヒロキのブレイジングウルフSAが、リオンのカノンフォートに吹き飛ばされ、ブレイジングウルフSAがシステムフリーズし、勝負が決まった。
「・・・ある意味当然の結果かもしれんな」
ローダは、放送室を後にし、ヒロキ達の元へ向かっていった。
闘技場にいるヒロキとリオンの元に一人の男がやって来た。
「ローダさん!」
「ローダ!」
「二人ともご苦労さん、ゾイドの方はDr.クロノスに修理を頼んでおいた。じきに来るだろう」
「なぁローダ、聞きたかったが、一体このバトルはどういう意図があってやったんだ?」
「二人のバトルを観察する為さ」
「観察?何の為に?」
「二人の長所、短所、特に短所について観察をしていた」
「俺の短所ってどういうとこにあるんだか気になるな」
「僕も気になります」
「ヒロキについては後で話す、まずはリオン」
「何だ」
いかにも仏頂面した顔でローダに返事をする。
「お前は前からそうだったが、とにかく相手に突っ込むところは出来るだけ控えた方がいい、いずれ死ぬ羽目にもなるぞ」
「う・・・」
「それにカノンフォートには火器が付いてるんだし、それらを有効に使うべきだ」
「ったく、分かったよ。改善する様努力しますよ。それじゃ」
そう言い、闘技場を後にするリオン。闘技場にいるのはヒロキとローダだけとなった。
「それじゃここにいるのも難だし、違うとこで話の続きをしようか」
「あ、はい」
ローダは、ヒロキを連れて、近くの空き地まで歩いて行った。
「それじゃさっきの続きだ、なぁヒロキ、お前バトルの時何か遠慮してないか?」
「え?いや、遠慮なんて特にしていません」
「それにしたって、あの戦い方を見る限り、積極性がまるで感じられない。そのせいで、ブレイジングウルフSA本来の力を出し切れていない」
「え・・・(さっきのギルフォートさんと同じ様な事を言っている)」
「やっぱり、問題があるとしたら」
「僕の性格面に問題があるんじゃないのでしょうか」
「あぁそうだ、って何でその事を?」
「ギルフォートさんにも同じ様な事言われたんです。僕には押しが足りないって」
「確かにあのじいさんの言ってる事は間違いでは無いな」
「やっぱりそうですか・・・」
「ただお前のその心優しい性格は決して悪くは無い、だがそれがバトルにおいてもお前自身が気付かずに出てしまっているのかもしれない。
戦う事を恐れる一面があるせいで、ゾイド本来の力を出し切れない要因にもなっているのかもな」
「じゃあ僕は一体どうしたら・・・」
「積極的に自分から攻める事が必要だな、それと戦う事を恐れない事。俺達の様な傭兵は、戦う事を恐れていては、傭兵としてやっていけないからな」
「積極的に自分から攻める事、それに戦う事を恐れない事・・・」
「心配すんなって、お前はそれらを克服すればさらに強くなれるさ。だから俺がお前のその部分を克服させる為にも特訓してやるさ」
「本当ですか、ローダさん!?」
「あぁ、約束する。お前が強くならなきゃ誰がイズキを守るんだ?」
「イズキを僕が・・・守る?と言うより何でそんな事を?」
「今日のミッションの時に、偶然盗賊団に襲われていたイズキに遭遇して、俺が助けてやったんだ」
「じゃあさっき言ってたゾイド乗りの少女って」
「イズキの事だ」
ヒロキは、自分の見てない所でローダがイズキを助けていた事に驚いていた。多分自分だったら助けに来たとしてもどうする事も出来なかったのかもしれない。
それだけローダという人物がいかに凄い人物だとヒロキは改めて思っていた。
「イズキは外面的には強がっている様に見えるが、実は心の奥では誰かを必要としているのかもしれない、恐らく必要としている人物はヒロキ、お前の事だろうと俺は思う」
「イズキが・・・、僕を必要としている・・・」
「だからこそお前がイズキを守れる様に強くならなくてはならないんだ、お前には俺と同じ様な事を起こさせない為に」
ローダの表情が次第に悲しげになってきていた。
「同じ事を起こさせないって、ローダさんそれ一体どういう事ですか?」
「俺にもかつて大切に想っていた人がいた。イズキみたいな性格をした女の子だった、それと同時に当時の俺の憧れでもあった」
「憧れの人・・・?」
「その当時の俺よりもゾイドの扱いが上手くてな、今の俺がいるのはあいつのお陰でもあるんだ」
「じゃあその人は今何処で何をしているんですか?」
「・・・殺されたよ、俺の目の前で」
「え?ど、どうしてローダさんの目の前で殺されたりしたんですか!?」
「動けない俺を庇って敵の攻撃を受けて殺されたんだ。俺はその時思った、もうこれ以上彼女の様な犠牲者を出さない為にも強くならなきゃって」
ローダがこうして”最強の傭兵”と呼ばれる背景には、昔大切に想っていた人が、自分の目の前で自分を庇って死んだ悲惨な出来事があってからこそ、今のローダがいる。
ただローダはヒロキに自分と同じ運命を歩ませない為にも、彼を強くなってもらいたかったのだ。
「ローダさんにそんな辛い過去があったなんて、僕は何て言ったらいいんだって・・・」
ヒロキはローダの辛い過去を聞いて思わず涙ぐんでしまっていた。
「何お前が泣いてんだよ」
「だってぇ・・・」
「俺だって今でもその事を思うだけで悲しいさ。さぁいつまでも泣いてないでDr.クロノスのとこに行くぞ」
「あ、うん・・・」
ヒロキは涙を拭い取り、ローダと共にDr.クロノスの研究所まで向かった。
* * *
空もすっかりオレンジ色の夕日に染まる頃、Dr.クロノスさんの研究所に着いた僕とローダさん、研究所にはDr.クロノスさん、ジョシュアさん、ギルフォートさんの他に、修理された僕のブレイジングウルフもあった。
「おかえり二人共、ゾイドの方は二機共修理は完了しているからいつでも乗れるよ」
「ありがとうございますDr.クロノスさん」
「サンキュ〜、いつも助かるぜ」
「礼には及びませんよ、それとヒロキ君。お代は一切いらないから安心してくれ」
「いや、でも何か悪いですし」
Dr.クロノスさんにタダと言われても悪い気がしたので、ポケットから財布を取り出してお金を出そうとしたが
「Dr.クロノスがタダって言ってるんだから、出す必要は無いぞ。それに元々傭兵達の為にって、Dr.クロノスがタダで修理や整備を行っているんだ」
「そうだったんですか」
「人のご好意を無駄にするものではないぞ、ほれ何ならわしが貰っといてやろうか?」
「あげません」
「何じゃ・・・、ケチ」
「ったく、何考えてんだじいさんは」
「ははは・・・」
危うくギルフォートさんにお金を取られそうにはなるとこだったよ、ところでリオンさんの姿が見えないなぁ、何処行ったんだろ?
「そういやリオンさんは?」
「あぁ、リオンさんなら先程ゾイドを取りに来て、帰って行きました」
「そうですか、帰っちゃったんですね。最後に何か一言言いたかったのになぁ」
「別にこれで最後って訳じゃじゃねぇんだし、また会えるだろ」
「そういえばそうでしたね」
「笑うとこじゃねぇだろうに、まぁ、また来いよな。その時は俺がお前を特訓してやるからさ」
「はいっ!その時は宜しくお願いしますローダさん。それでは皆さん、また今度来ます」
「いつでも待ってるよ、ヒロキ君」
「ヒロキさん、また今度お会いしましょう〜」
「またこの街へ来るの待ってるぞい」
僕はブレイジングウルフへ乗り、ローダさん達のいる傭兵の街を後にし、イズキ達のいるユートシティに向かってブレイジングウルフを走らせた。
その頃、街の入り口にて走り去るブレイジングウルフの姿を見ていたローダ。
「あの子、お前さんが見込んでいただけの事はあるな」
「何だじいさん、いたのか」
ローダの後ろにはいつの間にかギルフォートがいた。
「あの子ならきっとお前さんを凌ぐほどの強さを持つに違いない、わしはそんな気がする」
「俺も薄々そう思ってたとこだ、あいつなら欠点を克服すれば、きっと俺をも超える事が出来る筈だ」
(あいつには絶対に俺と同じ悲惨な運命を歩ませるものか、その為にも)
そう心に誓うローダであった。
「ローダさんの特訓を受けて僕は絶対強くなってみせる!よ〜し、ユートシティへ向かって走れ、ブレイジングウルフ!」
ブレイジングウルフはヒロキの言葉に答えるかの様に力強く吠えた。
目の前にはユートシティが見えてきていた。
#5 完、#6へ続く