#9 アルバー・ガーディアン | 著/Ryuka |
ある日の昼下がり、ローダは小高い丘の上から双眼鏡を使ってある町を見ていた。
「じいさんが言うには、あそこが”英雄”と呼ばれたゾイド乗りがいると言われている町だそうだが・・・」
ギルフォートに”英雄”と呼ばれたゾイド乗りに会って来てくれないかと言われたので、ローダはその事を引き受けてこの地までやって来たのだ。
ギルフォートの情報によると、その”英雄”と呼ばれたゾイド乗りの愛機は、緑色のキャノピーのグレートサーベル。言い方を変えればグレートサーベルカラーのセイバータイガーATにあたる。かつてギルフォートとコンビを組んでいた時期もあったそうだ。
「とりあえず本当かどうかは分からんが、あの町に行って”英雄”と呼ばれたゾイド乗りについて聞いてみるとするか」
ローダは近くに止めてあるコマンドウルフACに乗り込み、その町に向け走り出した。
* * *
街へと着いたローダは、町のゾイド駐機所にコマンドウルフACを止めてから降り、町の中へと入っていく。
入ってすぐに立ててある看板に目が入った、看板には『ようこそ、”英雄”がいる町、シーパータウンへ』と書いてあった。
(これだとわざわざ一から聞く必要はなさそうだな)
ローダはさらに町の中を進み、人が多く集まっている場所で、近くにいた一人の少女に聞いてみる事にした。
「すいません、ちょっといいですか?」
「はい?」
少女は突然の事に少し動揺した感じだった。
「この町に”英雄”と呼ばれたゾイド乗りがいると聞いたのですが」
「ええ、私のお父様の事ですね」
「は?ちょ、ちょっと待て!君のお父さんってまさか」
「私はユキエ、ユキエ=アルバーレン。”英雄”と言われたエンジお父様の娘です」
何とローダが話し掛けた少女は、”英雄”エンジ=アルバーレンの娘、ユキエ=アルバーレンだったのだ。あまりの突然の事で驚きを隠せないローダ
「色々話が急過ぎて分からなくなってきそうだぜ・・・」
「あの・・・、ここで立ち話をするのも難ですから、私の家で話を続きをするのは如何でしょうか?」
「あぁ、そうさせてもらおうかな。紹介が遅れたが、俺はローダ、ローダ=ガレス。しがない傭兵さ」
「そうですか、それでは私のあとについて来て下さい」
こうしてローダはユキエのあとについて行く事にした。
* * *
10分程歩いて目的地へ着いたユキエとローダ。
「こちらが私が住んでいる家です」
「これ・・・、家ってレベルじゃねぇだろ・・・」
目の前にある建物は、とても家とは思えない大きさ、屋敷と言った方がいいだろう。
「ユキエ、こんな大きな屋敷に住んでるのか?」
「はい、そうですわ。ここはアルバーレン家のお屋敷ですもの」
と、笑顔で答えるユキエ。ローダは小声で思わず「流石は”英雄”と呼ばれるだけはあるな」と呟いた。
「どうかしましたかローダさん?」
「いや、何でも無い」
すると目の前の扉から、一人の男が出てきた。
「これはユキエ様、お帰りなさいませ」
「ただいま、オリバーさん」
「ところでユキエ様、一緒にいるあちらのお方は?」
「彼はローダ=ガレスさん、傭兵をやっていらっしゃるそうよ」
「ローダ!?もしかして”最強の傭兵”と呼ばれているあの・・・」
ローダの名を聞いて驚くオリバーという名の男。
「一応そうですけどね」
「何故ローダ殿の様な人がこの様な場所に?」
「まぁ、ある人から”英雄”に会う様に頼まれたのさ」
「”英雄”・・・、エンジ様の事ですか、それについてですが私が話しましょう。ユキエ様、先にお部屋に御戻り下さい」
「分かりました。それではお先に失礼しますねローダさん」
ユキエは一足先に屋敷の中へ入っていった。
「それではローダ殿、こちらで話の続きを致しましょう」
「分かった」
ローダはオリバーと共に屋敷の中へ入っていった。
ローダは応接間らしき所で、先程の話の続きをする事にした。オリバー以外に3人の男も一緒にいた。
「実はエンジ様についてなのだが、ユキエ様が5歳の時に病死してしまったのだ」
「て事は、”英雄”がいると言うのももはや過去の話という訳だな」
”英雄”と呼ばれたエンジという男は既に病でこの世を去った人であった。その事にローダは特別驚く事は無かった。
「そういう事になるな。紹介が遅れましたが、私はオリバー、代々アルバーレン家に仕える”アルバー・ガーディアン”の一人であり、ガーディアンのリーダーでもあり、執事でもある。」
「私の名はエドアル。アルバー・ガーディアンの副リーダーを努めている他、この屋敷の警備隊長も兼任しています。よろしくローダ君」
「ボクはフェイラ。アルバー・ガーディアンに所属しています。普段はユキエ様の身の回りの世話をしています。宜しくお願いしますねローダさん」
「俺はダイキ。同じくアルバー・ガーディアンに所属している。普段は屋敷での力仕事をしている。よろしくな、ローダ」
「あぁ、皆さん宜しく(一度に全員紹介されても案外困るんだよな・・・)」
彼らは代々アルバーレン家に仕える”アルバー・ガーディアン”と呼ばれる人達であった。
アルバー・ガーディアンとは・・・先程の通り、代々アルバーレン家に仕えており、ガーディアンという意味通り、アルバーレン家の者を守護するのが主な役目である。<br>
基本はアルバーレン家の者の護衛だが、時にはシーパータウンを守る為に戦いに赴く事もある。ガーディアン達は共通の紺色のセイバータイガー<br>
に搭乗している。かつては、”英雄”エンジと共に戦っていたという記録がある。
「私達ガーディアンでも、エンジ様にお仕えしていたのは私とエドアルだけなのだ」
「その時私はまだガーディアンに入って間もない頃でしたが、シーパータウンが襲撃された際のエンジ様はとても素晴らしいお方でした」
「一体どの辺りが素晴らしいお方なんだ?」
ローダがエドアルに質問する。その質問にはオリバーが答えた。
「エンジ様はこのシーパータウンが悪者に襲撃された時、冷静に的確な指示を出し、町の人達をいち早く避難させ、そして戦いにおいても、我々ガーディアンに指示を出しつつ、エンジ様も自ら戦い、悪者達を倒したという訳だ」
オリバーが言う限り、エンジはゾイド乗りの腕だけで無く、作戦指揮にも長けた人物であった様だ。
「へぇ〜、じゃあ残りの二人はその後に入ったガーディアンという事か」
ローダの質問にフェイラとダイキが答える。
「確かに俺は襲撃事件後に入ったガーディアンで、入って間も無くしてエンジ様が死んじまったけどな」
「ボクはエンジ様が亡くなった後に入ったガーディアンだから、エンジ様の事はあまり良く分からないんです。ただボクは、ユキエ様が7歳の時からお世話係りをしていました」
「そうなのか、フェイラは4人の中で一番若そうだが、歳はいくつなんだ?」
確かに他の3人に比べ、フェイラは一番若く見えた。その辺をローダは気にしていた。
「17歳です。ガーディアンになったのは13歳の時ですが、アルバーレン家には8歳の時から住み込んでました」
「大して俺と変わらないのか」
「それではエドアル、フェイラ、ダイキと共に席を外してくれないか?二人にもそう伝えておくれ」
「了解しましたリーダー、ダイキ、フェイラ、私達は席を外しましょう」
「分かったぜ」
「了解です」
エドアル、ダイキ、フェイラは部屋を後にする。そして部屋に残ったのは、オリバーとローダだけになった。
「実はユキエ様の事で、ローダ殿に話しておきたい事がありましたな」
「話とは一体?」
「私はエンジ様の時からガーディアンのリーダー、それに執事として努めてきましたが、ユキエ様はエンジ様と違って争い事が苦手で、あまりゾイドに乗りたがらないのです」
「で、ユキエはゾイドには乗れるのか?」
「はい、ですがユキエ様はゾイドに乗る事を頑なに拒んでしまっているのです」
「争い事が苦手・・・ですか」
「はい、これには私達ガーディアンですら手に負えない状況なのです」
ユキエはゾイドには乗れる、だけど争い事が苦手という事で乗りたがろうとしない。そんな状況にオリバーは頭を悩ませていたのだ。
「それでお願いなのですが、ユキエ様にゾイドに乗って頂ける様促してくれないか?」
ユキエにゾイドに乗ってもらえる様促す様ローダに頼むオリバー。これに対しローダは、
「いいぜ、ただしこちらにも話がある」
「その話とは?」
「ギルフォート・マクスウェルという方を知っていますか?」
「ええ、確か襲撃事件の時にエンジ様や私達に協力してくれた傭兵の事ですな。ですが何故その様な方の名を?」
「その人に頼まれてこの地にやってきたのさ(微妙にあのじいさんの言った事とは違うみたいだな)」
「そういう訳だったのですか、あの方とは襲撃事件の時に協力した以外にも、交流試合という事でエンジ様と一度戦ったのですが、ギルフォート殿はエンジ様と同じ位強かった、その戦い振りを見ていた私は思わず見入ってしまう程でした」
「そうですか、何はともあれ話をしてもらってありがとな、それじゃ約束通りさっきの事引き受けるぜ。で、ユキエの部屋はどこにあるんだ?」
「では案内しますので、私について来て下さい」
ローダはユキエの部屋へ向かう為、オリバーの後について行った。
* * *
オリバーに案内してもらい、ユキエの部屋の前に着いたローダ。
「では私はこれで、頼みましたぞローダ殿」
「分かってるって」
最後に念を押してその場から去るオリバー、ローダは少し困惑した表情だった。
「さて、入りますか」
ローダは、部屋の扉をノックし、ユキエが部屋にいるか確認する。
「ユキエさんいませんか〜」
すると中からユキエの声がしてきた。
「は〜い、今開けますからちょっと待って下さいね〜」
扉が開き、ローダとユキエは対面する。
「あ、ローダさん」
「よっ」
部屋の中にはユキエの他に、フェイラもいた。お世話係としてここにいるのだろうとローダは思った。
「お、フェイラもいたのか」
「はい、ボクはユキエ様のお世話係ですから」
と自分の役目を胸張って言うフェイラ。
「自身の役目を胸張って言えるのは良い事だぜ」
「あ、ありがとうございます、ローダさん」
ローダの言葉に顔を赤らめらがら嬉しそうな顔をしていた。
「それでローダさん、何故私の部屋に?」
何故ローダがここに来たのかを問いかけるユキエ。
「あぁ、そうだ。ちょっと話したい事があってな」
「何でしょう?」
「ユキエさ、ゾイドに乗れるのか?」
ローダはユキエに、一つ一つ質問をし始めた。
「一応は乗れますが、あまり乗る事はありません」
「そうか、じゃあ何故あまり乗ろうとはしないだ?」
「それは、私は戦う事が苦手だからです」
(この答えが出たな、いよいよ本題に入るとするか・・・)
「何故戦う事が苦手なんだ?」
ローダの質問にハッとするユキエ。その様子だとあまり聞かれたくない質問の様である。
「それは・・・、もう誰にも傷付いて欲しく無いんです。あの襲撃事件を目の当たりにしたから・・・」
ユキエがゾイドに乗って戦いたくない理由、それは幼い頃に起きた襲撃事件を目の当たりにし、それがトラウマになっていたからである。
「そういう事か、だが戦わずにしていられる程現状甘くは無い、人はいずれ戦い、傷付け合う時が来る」
「だけど私にはそれを受け入れる事が出来ないの・・・」
「君の気持ちも分からない訳では無い、だが大切な人やものを守る為に戦う者だっている。俺もかつてはそうだった・・・」
「そうだったって、それじゃ今は・・・」
ユキエはローダにそう問いかける。
「俺は守り切れなかった、大切な人が俺を庇って目の前で殺された。今でもその事は忘れてはいない、いや、忘れられんかもしれんな」
「ローダさんにそんな辛い過去があったんですか・・・」
その事を話していた時の悲しげなローダの顔を見て、こんなにも辛い思いをしてたんだとユキエは思った。
「だから、かつてアルバーレン家を守ってくれたエンジ父さんはもういない、これからはお前がアルバーレン家を守らなきゃいけない立場になる事だけは覚えておいた方がいい」
「・・・・・・」
「ユキエ様・・・」
ローダのその言葉に言葉を失うユキエに、それを心配そうに見るフェイラ。
「大切なものを守る為に戦うか、それとも今のままかはユキエの判断に任せる」
「ローダさん・・・」
「いや、悪いな。思い出させたく無い事聞いちゃって」
さっきまでの表情が嘘の様に明るく振る舞うローダ。
「いいえ、そんな事ありませんよ、あなたは私に勇気をくれました。それだけでも十分感謝してます」
「そうか、それはよかった」
笑顔で答えるローダ。この場にいたフェイラも安心そうな顔を浮かべた。
「それにしてもユキエの周りには、アルバー・ガーディアンっていう頼れる男達がいるから、きっと大丈夫だと思うぜ」
その言葉にフェイラが「あ・・・」と言ったが、ローダには聞こえなかった。
「うふふ、ローダさんその様じゃまだ知らないみたいね」
「え?何がだ?」
ローダは、ユキエの笑みの意味を全く理解出来なかった。
「フェイラくんって女の子みたいに見えないかしら?」
「確かに見えなくも無いが・・・、でも男なんだろ」
見る限り、フェイラは男の割には声が高いし、容姿も随分女みたいな感じだったが、それでもローダはフェイラの事を男だと思っていた。
「実わね、フェイラちゃん女の子みたいじゃなくて、本当に女の子なのよ」と笑顔で答えるユキエ。
「はぁ!?それ本当か、フェイラ!?」
ユキエの突然の爆弾発言に、驚いたローダは、思わず本人であるフェイラに聞いた。するとフェイラは、
「そうなんだ、ユキエ様の言う通り、ボクは本当は女の子なのさ。だけどこの喋り方は元々だったかな」
実はフェイラは女の子であったのだ。容姿はどこか女の子の感じなのだが、女の子とは思えない口調に、一人称が”ボク”という事で、周りから男の子と思われていた。
因みにガーディアン、及びアルバーレン家の関係者はみなフェイラが女の子である事は知っている。というかそもそもフェイラ自身、女の子である事を隠していた訳では無く、周りが男の子と誤解しているだけである。
「フェイラちゃん、女の子なのに一人称が”ボク”って言う少し変わった子なの」
「そんな言い方酷いですよユキエ様〜、因みにボクはユキエ様より一つ年上なんだよ、ってさっき言ったっけ?」
「あぁ・・・、そうなんだ・・・(世の中変わった人もいるもんだな)」
目の前に変わった人がいる事に複雑な感じのローダだった。
「ところでフェイラ、さっきと話し方がまるで違う様な気がするんだが」
「さっきのはちゃんとした所にいる時の話し方で、普段は大概この喋り方だよ」
「私にとっても、この話し方の方が気楽に話せて良いから」
「確かにいつまでも堅苦しい話し方だと疲れるしな」
「そうそう、いつまでも堅苦しく話してると、ボクの方も疲れてくるから、ユキエ様と二人っきりの時は、普段の話し方で接してるんだ。この事は他の人達には内緒ね、一応ボク、アルバー・ガーディアンの一員でもあるしね」
「分かってるって、他の奴らには言わねぇよ」
「よかった〜」
内緒にしてくれる事に、胸を撫で下ろすフェイラ。ローダは小声で「本当に言われたくねぇんだな」と言った。
そんな一時の平穏を切り裂く出来事が起こった。
「大変ですユキエ様、敵襲です!街の方に何者かが集団で襲撃しています!」
「何だと!?」
「これは大変な事態ですね・・・」
何とここシーパータウンが何者かが集団によって襲撃を受けている事を、屋敷の者が伝えた。
「今街の状況はどうなっている?」
「それが、今のとこ街にいるゾイド乗り達が食い止めてますが、いつまで持ちこたえられるかどうか・・・」
どうやら今は辛うじて食い止めてはいるものの、いつ突破されるか時間の問題であった。
「こうしちゃいられねぇな!」
「ローダさん!」
急いでユキエの部屋を出ようとしたが、ユキエの声を聞いて立ち止まる。
「最後に言っておくが、この街を守る為に戦いに行くか行かないかは、ユキエ自身の判断次第だ!」
ユキエにこう言い残し、ローダは急いでこの場から相棒のいる駐機場に向かって走り去っていった。
「・・・・・・」
「ユキエ様・・・」
「ユキエ様!ここにいましたか」
「サブリーダー!」
エドアルの声と共に残りのガーディアン達も一緒に来た。非常事態の為、皆走って来たようだ。
「ユキエ様、早く安全な所へ!」
「ここいても危険だぜ!」
「・・・・・・」
ユキエを安全な場所へ避難させ様とするエドアルとダイキ、しかしユキエは沈黙したままだった、オリバーもユキエの方を見つつも、何も言おうとはしない。フェイラはユキエに何か言いたそうな顔をしていたが、言えなかった。
『だが大切な人やものを守る為に戦う者だっている』
(そうですよね、ローダさん。大切な人やものを守る為に、戦わなければならない時が来る。私は今までそれから逃げて来た、でもそれじゃいけないんだって、私がこの町を守らなくちゃいけなくなるのだから・・・)
「ユキエ様急いで下さい!」
必死に叫ぶエドアル、するとユキエは、
「・・・・・・私も戦います」
「ユキエ様、今何と?」ともう一度聞くダイキ。
「私も、この町を守る為に戦います!」
ガーディアン達に力強く断言するユキエ、それを聞いていたオリバーは軽く微笑んだ。
「戦うってユキエ様・・・、実践経験も少ないのにそれは無茶です!」
「そうだぜ、ここは俺達にまかしておけって!」
エドアルの言う通り、ユキエは実践経験が少ない。それでいていきなり戦いに赴く事はあまりにも無謀な事であった。だがユキエの信念は固かった。
「私は”英雄”と言われたエンジお父様の娘です。だからお父様と同じく私もこの町を守りたいのです!」
エドアルとダイキの制止も従おうとはしなかった。「私もお父様の様にこの町を守る為に戦う」と言わんばかりの顔だった。
「ですが・・・」
「サブリーダー、ユキエ様を行かせて上げてくれませんか?」
エドアルとダイキに対し、フェイラはユキエを止めようとはしなかった。ローダの話を全て聞いていたユキエを見ており、それに自身もその事を聞いていたからだ。すると今まで沈黙していたオリバーが口を開いた。
「・・・ユキエ様、よくぞ言いましたな、その言葉を私は待っていたのです」
「リーダー・・・」
「フェイラ君の言う通り、私達ガーディアンと共に戦いの場へ行きましょう」
「ですがオリバーリーダー、ユキエ様は――」
エドアルの目の前に手を出し、黙らせるオリバー。
「ただし、その決意が本当かどうか確かめたい、嘘ならば先程申し上げた事は二度と口にするでない」
「いえ、私の決意は本物です!」
「そうですか、もう後戻りは出来ません、ユキエ様にはその覚悟はありますかな?」
「はい!」
「分かりました。ではユキエ様、それにガーディアンの皆さん、出撃準備に取り掛かって下さい」
「「「了解!」」」
ガーディアン達は格納庫へと急いだ。
「オリバーさん、先程はありがとうございます」
「私はユキエ様の気持ちを聞いたまでです。お礼を言うならローダ殿と、後押ししてくれたフェイラ君にしてあげなさい」
「そうですよね、ローダさんとフェイラちゃんには感謝しています」
とにこやかに言うユキエ。
「そんな事より私達も行きますぞ、ガーディアンの皆さんが待っていますから」
「はいっ!」
ユキエとオリバーも急いで格納庫へと向かっていった。
* * *
その頃町の方では、町のゾイド乗りが乗るコマンドウルフとモルガキャノリー達が必死に食い止めていた。
「これ以上お前らの好きにさせるかー!」ゾイド乗り達と叫ぶが、その叫びも空しく次々と敵に倒されていく。
敵の正体は、この付近を縄張りとしている山賊で、山賊のリーダーが乗るダークホーンを筆頭に、ガイサック、ステルスバイパー、ヘルディガンナーと、60機程で構成されている。
それに対し、シーパータウンのゾイド乗りの数は、山賊の半分程しかおらず、既に3分の1程やられてしまっている。
「クソッ!敵の数が多過ぎる!」
そのゾイド乗りが乗るコマンドウルフは、目の前にいたガイサックを背中のビーム砲で倒す。
「よし、おわっ!」
すると突然現れたヘルディガンナーのビーム砲に当たり、コマンドウルフは倒れる。
「システムフリーズだと!?」
動けないコマンドウルフに、徐々に近付くヘルディガンナー。
「万事休すか・・・」
やられると悟ったその時、突如ヘルディガンナーが吹っ飛ばされた。そして目の前には銀色で赤いキャノピーのコマンドウルフACがいた。
「あんた、まさか・・・」
その正体はローダのコマンドウルフACだった。
「大丈夫か!?」
「あぁ、俺は何とも無いが、ゾイドの方がシステムフリーズしちまってな」
「そうか、なら気を付けてこの場から離れろよ」
「すまないな、ところであんた、あの”ローダ”って人か?」
「その通り、”ローダってのは俺の事さ」
「そうだったのか、ならあんたに一つ忠告しとくよ、敵の数がかなり多いから、囲まれない様に気をつけな」
「ご忠告ありがとよ」
そのゾイド乗りの忠告を聞き、さらに奥へと進むローダ。
「敵の数がかなり多いか、確かにレーダーを見る限りでも60機近くはいそうだな」
レーダーに多く反応している箇所に向かうローダの前に、ガイサック、ステルスバイパー、ヘルディガンナーが立ち塞がった。
「随分手厚い歓迎じゃなぇか」
「お前、”最強の傭兵”と呼ばれてるローダだろ、機体見て分かったぜ」
「ここでお前を倒せば、この町ももらったも同然!」
「あんまし俺ら舐めてると痛い目あうぜぇ!」
それぞれの機体に乗る山賊達は余裕そうに笑って言った。思わずローダはため息をついた。
「ったく、ウゼぇ野郎共だ。むしろそっちが舐めてるんじゃねぇのか?」
目の前にいる山賊達にウザったい気持ちを持ってで話すローダ、すると山賊達は、
「あぁ?何だとコイツ?生意気だな」
「やっちまおうぜ」
「後で後悔しても知らねぇぜ!」
山賊達のゾイドがローダのコマンドウルフACに飛び掛かって来た。だがローダは慌てる様子は無い。
「後悔するのはどっちかな?さぁ、行くぜ相棒!」
ローダの声に反応するかの様に吠え、山賊達の攻撃を簡単にかわす。
「何!?かわされただと!?」
「あそこだ!」
「このガイサックのハサミでアイツの機体を挟んで真っ二つにしてやる!」
ガイサックがコマンドウルフACに接近する。
「くらいやがれっ!」
ガイサックは爪を振りかざすが、あっさりとかわすコマンドウルフAC
「その程度で俺に当てられるとでも思ったのか?」
コマンドウルフACはガイサックの方に、キャノンの砲身を向け、キャノンを放つ。
「ぐわぁぁぁ!!」
砲弾はガイサックにヒットし、機体の一部が砕けながら吹っ飛ぶ。
「く、クソッ!」
残ったステルスバイパーとヘルディガンナーは火器を連射させるが、コマンドウルフACがかわし続け、全く当たらない。
「なんて野郎だ、あれ程の連射をかわすなんて・・・」
既にステルスバイパーの目の前にはコマンドウルフACが右前足を立て飛び掛かっていた。反応が遅れたステルスバイパーはかわし切れずコマンドウルフACの爪を叩き込まれる。
「うわぁぁぁ!!」
瞬く間にガイサック、ステルスバイパーを倒したローダのコマンドウルフACに、ヘルディガンナーに乗る山賊の顔は、さっきまでの余裕に満ちた笑い顔が嘘の様に青ざめていた。
「つ、強すぎる・・・、俺達なんかが勝てる相手じゃねぇ・・・」
「さっきまであれ程大口叩いてた割りには大した事ねぇな」
それに対しローダは対称的に余裕の表情をしていた。
「チクショー、こうなったらもうヤケだ!」
ヤケクソになった山賊のヘルディガンナーは闇雲にビーム砲を連射し始めた。そして爆風と共に砂埃が巻き起こる。
「はぁ・・・、はぁ・・・、あれだけ撃てば流石のローダでもかわせまい」
「誰がかわせないって?」
「何ぃぃ!?」
コマンドウルフACはヘルディガンナーの背後にいた。実はヘルディガンナーが見境なく撃っていた時から既に後ろに回り込んでいたのだ。そしてコマンドウルフACはヘルディガンナーにキャノンを放つ。
「どわぁっ!」
背中のビーム砲が吹き飛び、バチバチと音を立てて動かなくなっていた。
「フン、お前らみたいな下等な奴らに負けるほど弱くはないぜ」
ボロボロになった3機を尻目にこの場を去っていった。
一方、先に戦闘が激しい区域に辿り着いたユキエとアルバー・ガーディアン。彼女らがそこで見たものは、ゾイド乗りと山賊が乗るゾイドの残骸がいたる所に存在していた。
「ひどい・・・」
「これは確かに酷いですな」
「見たところ、町のゾイド乗りが乗ってたコマンドウルフやモルガキャノリーの残骸の方が多いみたいです」
フェイラの言う通り、残骸の大半はコマンドウルフやモルガキャノリーのものだった。
「こりゃ結構な強敵かもしれんな」
「ユキエ様、我々もいますが、お気を付け下さい」
「分かっています」
するとユキエはそっと目を閉じ、周りの気配を感じ取ろうとする。ガーディアンの者達は、ユキエの乗るグリーンキャノピーのグレートサーベルを軸に周りを見ていた。と、その時ユキエが、
「何か来る!地面の下から」
ユキエが地中から何か来るのを感じ取った。
「何!?地中からだと!?」
「きっとボク達を油断させる為だよ」
「これはまた厄介ですね・・・」
「皆さん、すぐに戦闘態勢に入って下さい」
「「「「了解!」」」」
案の定ユキエの言った通り、ユキエ達の周りの地面からガイサック、ステルスバイパー、ヘルディガンナーが次々と出て来た。
「あっという間に囲まれてしまいましたね」
エドアルの言う通り、ユキエ達は四方八方敵に囲まれてしまっていた。
「ここはボク達みんな力を合わせて周りの敵を倒しましょう」
「フェイラの言う通りです」
「そうだな」
「あぁ!」
「そうですね」
皆が一丸となり攻めようとしたその時、どこからかビームが飛んで来て、それはダイキの乗るセイバータイガーの左後ろ足に当たり、体勢が崩れる。
「何!?一体どこから撃ちやがったんだ!?」
「大丈夫か、ダイキ!」
オリバーが声を掛ける。
「フリーズはしてねぇが、足がやられて動けねぇ」
さっきの攻撃で、左後ろ足が損傷し、動けなくなってしまっていた。
「おやおや、随分みっともないですね〜」
「何だと!」
何と輪の外には山賊達の親玉が乗るダークホーンが現れた。
「じゃあさっき、ダイキに攻撃したのは?」
エドアルがその親玉にさっきの事を聞く。
「そうです、さっきの攻撃はこの俺がしました」
「やっぱりそうか!」
さっきのビームは、ダークホーンに装備されているビーム砲だった。
「お喋りは終わりです。それでは皆のもの、やってしまいなさい」
『オ―――ッ!!』
ユキエ達を囲んでたゾイド達が襲い掛かってくる。
「来ますわ!私はミサイルで援護します」
「分かりました、ユキエ様」
ダイキ以外のガーディアンのセイバータイガー達が、主砲の2連装ビーム砲の等で迫り来る敵達を蹴散らし、動けないダイキのセイバータイガーは2連装ビーム砲と、ユキエのグレートサーベルの8連装ミサイルポッドでガーディアンを援護する。
「動けなくたって、これ位なら出来るぜ」
全員が力を合わせて攻撃した甲斐あって、周りを囲んでいた敵を全て倒した。
「残るはあのダークホーンだけですねリーダー」
「ボク達だけで勝てるんだろうか・・・」
「仕方が無いだろう、ここにいるのは私達だけだ」
「・・・そうですよねリーダー」
フェイラが不安になるのも無理もなかった、相手はダークホーン1体だけといっても、さっきのダイキのセイバータイガーを一撃で動けなくしている程のパワーを持っている。故に数では勝るユキエとガーディアンでも確信的な勝機はどこにもなかった。
「オリバーさんの言う通りですよフェイラちゃん。ローダさんもきっと別な所で戦ってるに違いないわ」
「そうですよフェイラさん、ここに私達だけで何とか倒しましょう」
「そう・・・ですよね、サブリーダーやユキエ様の言う通りだよね。あのダークホーンはボク達が倒してみせる!」
「はたしてそれは出来ますかな」
不敵な笑みをこぼす親玉。数で圧倒的に不利な状況なはずだが、全くそれを感じさせない。
「それでは作戦を言おう、まず私とエドアルは接近戦を仕掛ける。ユキエ様と動けないダイキは援護射撃をする。フェイラはユキエ様と反対側の位置で援護射撃をしてくれ、作戦は以上だ」
オリバーの言う作戦は、オリバーとエドアルが両サイドから接近戦で攻撃する。ユキエ、ダイキ、フェイラがオリバーとエドアルを援護する為の射撃要因である。
「「「「了解!」」」」
そう言ったと同時にオリバーとエドアルがダークホーンに向かって、フェイラが2人よりも大回りに走り出した。
「ほう、一体何を仕掛けるつもりなんでしょうね〜」
ダークホーンの機動力ではセイバータイガーの機動力には勝てない、すぐさま配置に付く3人の機体。
「行くぞ!」
「行きます!」
オリバーとエドアルのセイバータイガーがダークホーンに向かって走り出す。と同時にユキエ、フェイラ、ダイキはダークホーン目掛け砲撃を開始する。
「くっ・・・」
3機の砲撃を受けてその場から動けないダークホーン。
「今だっ!」
その隙を突いて、オリバーとエドアルのセイバータイガーが同時に飛び掛かる。だがしかし、
「こざかしい奴らめ!」
ダークホーンは、ビームガトリングでエドアル機を攻撃し、もう一方のオリバー機をクラッシャーホーンで突き飛ばした。2機共地面に叩き付けられた。
「システムフリーズとは参りましたね・・・」
「ぐぬぅ、ここまでとは・・・」
動けなくなったオリバー機とエドアル機。そんな2機はよそに、ダークホーンは次なる標的を狙う。
「あの2人があんな簡単にやられるとは・・・」
「リーダーとサブリーダーは、ガーディアンの中でも腕利きのゾイド乗りだったのに」
「そこのあんた、動けない分際で俺に攻撃してくるとは鬱陶しい奴だ!」
ダークホーンは、動けないダイキ機をビームガトリングで容赦無く攻撃していく。
「ぐわぁぁぁ!!」
「やめろ――!!」
フェイラ機が2連装ビーム砲を撃ちながら接近し、飛び掛かるが、
「貴様程度でこの俺に勝てるとでも思ったか!」
ダイキ機の攻撃を止め、フェイラ機にクラッシャーホーンを思いっ切り喰らわせ、突き飛ばす。フェイラ機は宙に浮きあがった後勢いよく地面へと叩き付ける。
「ユキエ・・・様・・・」
フェイラは叩きつけられた衝撃で気を失ってしまった。
「残りはあなただけです。もう一緒にいた仲間達はもうこの様ですよ」
あっという間にガーディアンのセイバータイガー達を倒し、残ったのはユキエのグレートサーベルだけであった。
「そんな・・・、みんな・・・」
「さあて、どの様にして痛ぶってあげましょうか」
不気味な笑みを浮かべる親玉、ユキエは泣きそうな程不安な表情だった。
「ど、どうしましょう・・・、このままでは・・・」
「そうだ、こうしてあげましょう」
そう言った親玉は、グレートサーベル目掛け走り出した。
「あ、あぁ・・・」
ユキエの恐怖のあまりその場から動けなくなってしまっていた。
「あなたもこれで終わりです」
ダークホーンはグレートサーベルを突き飛ばす為、頭を低くする。ユキエはもうダメだと思ったその時。突然ダークホーンとグレートサーベルの間で爆風が巻き起こり、ダークホーンの動きが止まる。
「な、何だ一体!?」
ダークホーンに乗る親玉は突然の出来事に驚いた様子だった。
「待たせたな!」
「その声は、ローダさん!来てくれたんですね」
爆風が消え、グレートサーベルの目の前に現れたのは銀色で赤いキャノピーのコマンドウルフAC、まさしくローダであった。
「当たり前さ、それにユキエもちゃんと戦いに参加してるじゃねぇか」
「ローダさんのお陰です」
ローダの登場で、ユキエは希望に満ちた顔へと変化していた。
「しっかし、ここまで来るのに少し手こずったぜ。まぁゾイド乗り達の援護もあってここまで来れた訳だ」
「ローダさん気を付けて下さい、敵はあのダークホーンだけですが、ガーディアンの皆さんを倒してしまう程の強さがありますの」
ローダは周りを見渡し、倒れている4機の紺色のセイバータイガーを確認した。
「確かに強そうなのは確かだな、だが負けられなぇな」
「何ゴチャゴチャ喋ってんだよ!」
すぐさまダークホーンがクラッシャーホーンで突き上げようとするが、ローダはこれをかわす。
「なぁ、お前俺の事知ってっか?」
ローダはいきなり自分の事知ってるのかと親玉に聞き出す。
「あぁ、知ってるよ。あんたローダだろ」
どうやらローダの名前は知っている様だ。
「何だ知ってるのか、まぁそんな事どうでもいいけどな」
「だったら聞くんじゃねぇ!」
ダークホーンはコマンドウルフACに向けビームガトリングを連射する。コマンドウルフACは走りながら何とかかわし続ける。
「こりゃかわすのも精一杯だぜ。よし、真正面に着いたぜ」
よく見るとダークホーンの真正面にコマンドウルフACがいた。
「ローダさん、一体何を考えてるの・・・?」
「一体何の真似だ?」
「こういう事さ」
するとあろう事かダークホーン目掛け真っ直ぐ走り出した。
「そういう事か」
ダークホーンもコマンドウルフACに向かって真っすぐ走りだした。
「ユキエ!」
何やらローダはユキエに合図を送った。
「う、うん。分かったわ」
ユキエはローダの合図を見るなり、グレートサーベルの8連装ミサイルポッドからミサイルを発射する。そのミサイルは的確にダークホーンの手前の地面に着弾させた。またしても爆風によって動きを止められるダークホーン。
「クソ、またかよ!」
「隙丸出しだぜ」
「何ぃ!?」
爆風の中からコマンドウルフACが飛び出し、爪攻撃によってビームガトリングを跳ね飛ばす。そして、地面に着地したコマンドウルフは素早く振り返り、2連装ロングレンジキャノンでダークホーンの左前足を打ち抜いた。
そしてゆっくりと崩れる様にして倒れるダークホーン。
「サンキュー、ユキエ」
「いえ、私はただローダさんの合図を見ただけです」
「それもそうだが、あそこまで正確に狙えるなんて凄いじゃん、とてもあまりゾイドに乗らない人とは思えないぜ」
「そんな、それ程でも無いですよ・・・」
ローダに自分の射撃能力が褒められ、顔を紅潮させ照れるユキエ。
「さてと、あんた何でこの町を襲撃した?」
ローダは親玉にシーパータウンを襲った理由を聞いた。
「ある方にこの町を襲う様に言われたんだよ」
「誰に?」
「さぁな、誰かまでは俺にも分かんねぇよ」
山賊の親玉が言う限り、”ある方”という人が町を襲う様に指示していたのだが、その”ある方”の正体は指示を受けた親玉ですら知らなかったのだ。
「聞く事はそれだけか?無いなら引き上げさせてもらうぜ」
「それだけだ、情報提供ありがとな」
「フン・・・」
親玉を始めとする山賊達はこの町から去っていった。
(”ある方”か、そいつは一体何者なんだ・・・)
「ローダさん、一旦私達と屋敷の方へ戻りましょう」
「そうさせてもらうか」
ユキエとローダ、そしてガーディアンは、アルバーレン家の屋敷へと戻った。
「お爺様は山賊にあんな事をさせて一体何をするつもりなのかしら・・・」
そう呟く少女は、町から少し離れた崖の上で、愛機であろう恐竜型ゾイドと共に先程の戦いを眺めていた。
* * *
屋敷へと戻ったローダ達は、一旦休息した後、ローダは町から出る準備をしていた。
「行ってしまうのですね」
とオリバーが尋ねる。
「そうだな、いつまでもこの町にいる訳にいかないし、何より暇じゃねぇからな」
「またいつでも来いよな」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
「ローダ様ならいつでも大歓迎ですよ。ところでユキエ様の姿が見えませんが・・・」
「それにフェイラもいないぜ、どこいったんだ?」
エドアルやダイキの言う通り、ユキエとフェイラの姿が見えなかった。
「別れるのが嫌で自分の部屋にこもってるとか?」
「多分そうだと思いますね」
「にしてもいつ会えるか分からないっていうのに会いに来ないなんて損な奴らだな」
ダイキの言う事には一理ある、ローダはまたいつここに来れるのか分からないからだ。
「ふふ・・・」
「急に笑ってどうしたんですかリーダー?」
笑顔のオリバーに不思議そうな顔で見るエドアル。
「いや、何でも無いさ」
「なら良いですけど」
相変わらず不思議そうな顔でオリバーを見るエドアルだった。
(あの子達、本当にローダ殿について行く気の様だな)
時は少し遡り、ユキエとフェイラがオリバーと話している時だった。
「私もローダさんと行動を共にしたいのです」
「ボクもユキエ様と同じ考えです」
2人はローダと一緒に行動したいと言い出した。
「ですが2人共、何の為にローダ殿について行きたいのだ?」
「ローダさんの戦いぶりを見て思ったのです。このままじゃいけない、もっと強くならなくちゃいけないって思ったのです」
「ボクもゾイドの戦闘において、いつもガーディアンの足を引っ張ってばかりなので、強くなりたいと思ったのです」
二人は今のままでは確実に足手まといになると思い、戦闘経験豊富なローダと一緒に行動して強くなりたいと思っていたのだ。勿論2人は真剣な気持ちだ、その真剣な眼差しを見てオリバーは2人の真剣さ理解した。
「あなた方の気持ちはよく理解しました。私はこれ以上止めませんが、後はローダ殿次第です」
「わかりました、ありがとうございますオリバーさん」
「ありがとうございますリーダー、ボク頑張ってきます」
「二人共頑張りなされ」
嬉しそうな顔で去って行く二人を笑顔で見守るオリバー。
「エンジ様、ユキエ様もすっかり立派になられましたな。流石あなた様の娘です」
オリバーは、亡きユキエの父エンジに感謝していた。
「さて、私はローダ殿のいる部屋へと向かいましょうか」
こうしてオリバーはローダのいる部屋へと向かった。
「それではみなさん、この辺で」
「またな〜、ローダ」
「さようなら、ローダ様」
「また会いましょう、ローダ殿」
ガーディアン3人に見送られ、屋敷を後にするローダ。やはりユキエとフェイラはこの場に姿を見せなかった。
「大変です!ユキエ様とフェイラさんが屋敷から出ていった様です」
使用人の一人がガーディアン達の元へユキエとフェイラが屋敷を出て行った事を知らせる為駆けつけて来た。
「何だって!?」
「今すぐ探さないと!」
「その必要は無い」
慌てるエドアルとダイキを制止するオリバー。
「必要は無いって、屋敷を出て行かれたのですよ」
「心配するな、彼女達は強くなる為に旅に行かれただけです」
「それこそ危険じゃねぇのかリーダー!」
「いえ、彼女達だけで行くのではありません、とても頼りになる人と共に行くのですから」
「それってもしかして・・・」
「ローダ様の事・・・?」
コマンドウルフACがある町の入口に来た時、目の前に見覚えのある少女が立っていた。
「ユキエ、どうしてこんな所にいるんだ?」
「実はローダさんにお願いがあるの」
「何だい?」
急に改まって一体どうしたのだろうとローダ思った。
「私を、ローダさんと一緒に行動させてもらいませんか?」
「え・・・?」
告白じみた言葉に、思わず言葉を失うローダ。
「私強くなりたいんです。このままじゃいけないって思ったんです。ローダさんに迷惑を掛けてしまうのは承知の上です」
「・・・・・・」
「どうしても・・・ダメですか?」
上目遣いでローダに頼み込むユキエ。するとローダは、
「ダメ」
「え・・・」
今のローダの言葉でユキエは諦めかけてた。だが、
「・・・とでも言うと思ったか?勿論いいに決まってるじゃん、断る理由も無いしな」
その言葉を聞いたユキエは、喜びのあまり、思わず涙を流した。
「もう・・・、紛らわしい事言わないで下さいよ〜」
泣きながらローダの胸をポカポカと叩くユキエ。
「悪い悪い、軽い冗談のつもりだったが、泣くとは思わなかったから」
「本当ですよ、でもありがとうございます」
すっかり泣き止み、一緒に行動させてもらえる事に感謝しているユキエ。
「それと、私の他にももう一人いるんです」
「もう一人って、まさか・・・」
ローダは大体見当はついていた。屋敷でガーディアンに見送られた時に一人いなかった事を覚えていた。
「実はボクも一緒に連れてって欲しいんだ」
建物の影から現れたのはフェイラだった。昨日着ていたガーディアンの制服では無く、私服姿だった。
「やっぱりフェイラだったか、お前ガーディアンの方は大丈夫なのか?」
ガーディアンの事で心配するローダ、だがその心配を吹き払った。
「ボク、事実上ガーディアンから抜けた事になったんだ」
と半ば笑顔で答えるフェイラ。
「そんなテンションで言う問題かよ・・・、心配して損したぜ」
「えへへ・・・」
フェイラのノリにはついて行けないなとローダは思った。
「そういやローダさん、さっきユキエ様泣かしてたでしょ〜」
からかい混じりでローダに言うフェイラ。
「あ、あれはちょっとした誤解でな・・・」
さっきの事を聞かれ、慌てて否定するローダ、実はフェイラは建物の影からさっきの出来事を見ていたのだ。
「フェイラちゃん、もうユキエ様じゃなくて、ユキエちゃんで良いのよ。もう主とガーディアンの関係じゃなくて、一人の友達としての関係として接していきましょう」
「うん、そうだねユキエ様・・・じゃなかったユキエちゃん」
「ええ」
ユキエとフェイラの関係は、主とガーディアンでは無く、ごく普通の友達としていこうと2人で決めたのであった。
「よし、それじゃ行くぞ、二人共」
「「はい」」
ローダの呼び声に、笑顔で応え、ローダの後について行く。
(ガーディアンの皆さん、私強くなる様頑張ってきます)と心に誓ったユキエだった。
そしてローダが乗ったコマンドウルフACと、ユキエとフェイラが乗ったグレートサーベルは、シーパータウンを後にした。
#9 完、#10へ続く